ラ・ピュセル生存記録 ―異伝 After of 『魔法少女育成計画2-o-H』   作:神谷萌

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第04話

 つばめの姐さん、片腕ない割には器用にチキン食べてるな……骨なしチキンをメインに片手で食べやすいものにしてあるのも確かだけど。

 賑やかしにテレビを()けてある。液晶テレビだけど、アナログチューナーが入っているからかなり旧いものだろう。まぁ、基本的にこの部屋にある家具家電は中古品だ。

 週末昼過ぎのバラエティ番組……か……────

「そう言えばさ」

 あたしは、ふと思いついて問いかける。

「岸辺、かなり身長高かったよな?」

 ここに到着した時、華乃さんが目線を合わせるのにあたしが見上げなきゃならないぐらい高いけど、ラ・ピュセルも同じくらい高い。

「高い。169cm。突起物含まず」

「突起物って……言い方考えてください」

 つばめの姐さんが答えると、岸辺は左手で触覚? ツノ? なんかそんなものの根本を押さえながら抗議した。

「和田ア◯子には届かないぐらいか」

「例えに悪意を感じるんだけど」

 あたしが言うと、今度は岸辺があたしの方を向いて、苦い顔をしながら抗議の声を上げてきた。

「まぁ、高2男子だとそんなもんか」

「そうそう」

 あたしが納得しかけて、岸辺が同意の声を出すんだけど、なんかその顔が妙に引き攣って見える。

「そうちゃん? 不誠実な答えは良くないよ?」

「え?」

 小雪が、こいつこんな顔するんだ、って感じで呆れたように言った。あたしは思わず聞き返す。

「いやあの」

「だからね、この姿で固定されたの、中2のときだから」

 岸辺が慌ててなんか言い訳しようとしたけど、それを遮って、呆れた様子のまんまの小雪がそう言った。

「……そん時の身長は?」

「だから、169cm」

「そっちじゃねーよ」

「…………165cm」

「そうちゃん?」

「163cmデス」

 何処まで悪あがきしてんだよ。

「……なるほどな」

「解ったような顔するなぁ! ()()()()だってちゃんと高校生になってれば、もっとなぁ!」

 あたしが多分少し意地悪そうにニヤついちゃいながら言うと、岸辺がムキになって声を上げてきた。

「そうかなぁ」

「そうだよ!」

 小雪ってこんなねちっこいやつだったっけ?

「日本人男性の平均身長って171cm程度らしいよ?」

「でもボクはサッカーだってやってたし」

「日本人のサッカー選手で身長170cm未満って珍しくないぞ」

 小雪に反論する岸辺に、つばめの姐さんが脇からツッコミを入れた。

 ってか、小雪も岸辺もなんでそこでこだわるんだ? …………あ、もしかして。

「華乃さん、身長いくつ?」

「172」

 やっぱりそういうことか。

「な、なるほど、男のままで華乃さんより低いと格好つかないと」

「うるさいよ」

「それに、169と172なら外で歩いてる分にはだいたい同じだしなぁ」

「しつこいよ」

 魔法()()って言うにはだいぶ身長高いと思ってたけど、なるほどこいつの身長コンプレックスが反映されてるのか。

「気にしないのに」

「華乃、今それは優しさじゃないからな?」

 華乃さんがフォローするけど、そこへ、なんか妙に可笑しそうにしてる姐さんがそう言った。

「よかったじゃん。女になって身長盛れたぞ」

 あたしも妙に可笑しくなって、そんなことを言ってた。

「盛れたとか言うなよ」

 お、岸辺不機嫌そう。

「ついでにおっぱいも盛れたな」

 ブラウス越しにも解るそのデカい膨らみを見て、つい言ってた。

 そうしたら、

「朱里ちゃん?」

 と、小雪がなんか半オクターブ低い声を出した。

「小雪?」

 あたしはこの場にいるメンツを見回した。

「……ミクセリクサー、身長は?」

「147cmですっ!」

「ブラ着けてる?」

「はい! 先生に選んでもらいました!」

「サイズは?」

「65のCです!」

「ブフッ」

「ちょっと! 朱里ちゃん!!」

 理解したあたしが思わず吹き出したら、小雪が抗議の声を上げてきた。

「っていうか、朱里ちゃん、それ平気なのか?」

 どこか心配したように、つばめの姐さんが聞いてきた。

 平気? はて……

「あ」

 あたしはそこで、自分の今の状態を思い出した。

「あー、忘れてました」

 照れ隠しにヘラヘラ笑いながらそんなことを言ったら、姐さんと華乃さんがどこか仰け反ったような、引いたような姿勢と表情になった。

「順応力化け物は颯太1人ぐらいだと思ってたんだがな」

 姐さんがそう言ったかと思うと、

「つばめはあんまり人のこと言えないと思うけど」

 とか、華乃さんが視線を姐さんに向けて言った。

「オレはほら……生きてるのが最優先だからよ」

「誰だってそうですよ」

 あたしは言う。

 まぁそりゃー、自慢の胸が片っぽ()くなったのはキツい。

 それでも、死ぬよりゃマシだ。

 ……シャッフリンやグリムハートに襲撃される前なら「こんな身体にされるなら死んだ方がマシだ」って言ってたかも知れない。でも、ここで我に返ってからは、ミクセリクサーが数秒遅れてたら。そんなことを考えてしまって、自分が(せい)に執着してることを思い知らされた。

 しかも片腕失くしてるつばめの姐さんに比べたら、おっぱい片方無いぐらいで生きてくのには困らない。人目が気になるってんなら、スポブラの下にタオルでも丸めて詰め込んどきゃいい。

 誰の言葉だったっけ、「生きてるだけで丸儲け」。よく言ったもんだ。

「麻婆豆腐がトラウマになるかもな」

「は?」

 あたしが呟いたら、岸辺が怪訝そうに訊き返してきた。

「っていうか」

 あたしはため息まじりに言う。

 手元は、食べ終えたチキンの包装を片付ける段階に入ってる。

「こん中で一番、身体のことで大変なことになってんのは岸辺だろ? 辛いとかねーの?」

「ほとんど」

「“全然” の間違い」

 岸辺が即答しやがった上に、華乃さんの追撃まで加わった。

「結局、事故の直後に苦しんでたのも、『これからどうしよう』と『身体が思うように動かない』で、今にして思うとラ・ピュセルの身体のままになっちゃったのは最初から全然気にしてなかったしね」

「ちょっとは気にしてたよ!」

「ちょっとかよ!」

 小雪が皮肉っぽく言って、岸辺が反論して、それにあたしがツッコんだ。

「だいたい今だって、 …………」

 …………ピンクのサマーカーディガンに、ターコイズブルーのブラウス、オレンジのリボンタイ……スカートじゃないけど、裾のほとんどないマイクロミニのショートパンツとサイハイソックスはどう見たって女物だ。

「どう見ても服のコーデ楽しんでるよな? そうちゃん?」

「そりゃ、見た目は気にするし……」

「そうじゃねーよ。普通男装とかじゃねーのかよ」

「あんまり考えたことなかったな」

 あたしはガクッと脱力する。

「そういや、オレこいつが男の服装してたとこ見たことないな」

 姐さんが言う。

「入らなくなっちゃったんですよ。あの頃の服は!」

「ん?」

 今度は、あたしが怪訝そうな声を出す。

「身長6cmぐらいだろ? どれもこれも入らなくなるってことは……」

「朱里ちゃん」

 え? なんで小雪がそんな低い声出すの?

「丈だけならそうだよ! でも胸とかお尻とかぱっつんぱっつんになっちゃったんだよ!」

 あー、まぁ、それもそうか。

 その上ついでに小雪にダメージ入るわなこれ。

「アウターキャミソで出歩くまで1ヶ月かかってない」

「そうだ、そうだ、そもそも “室田つばめ” で会った時にはこいつ、ナチュラルに女物着てた」

 華乃さんがニュートラルな表情で言うと、姐さんは可笑しそうに笑いながら追加する。

「むしろその身体つきで、深夜にTシャツにジャージのズボンでコンビニとか行ってる方が問題だと思う」

「ブッ」

 小雪が困ったような顔でそう言ったら、つばめの姐さんが口元を押さえて吹き出した。

「ただしスカートだけは今も履かない」

「スースーして慣れないんだ」

 華乃さんの言葉にそう言い返すけど、今の格好からして女物にはまったく抵抗ないのは言わなくても解る。

「岸辺」

「何?」

「先に謝っとくな?」

「ってまた?」

 訊き返してきた岸辺に頷いてから、あたしはお腹抱えて身体を前に傾かせる。

「クククク……フハ、アハハハハ……(わり)ぃ、でも、アハハハハハ……」

「ちなみに、服選びは概ね私より時間かかる」

「華乃が短すぎるんだよ!」

「ちょ……やめ、クククフフハハハハハ……」

「よく『これ可愛いよな?』って聞いてくる」

「だめ……っひゃ、息、息止まる……ッ、ひーっ、ヒヒヒヒッ」

「な、おもろいだろこいつら見てると」

 姐さんも愉快そうに笑いながら、あたしに同意を求めてくる。

「はい……はひ、わ、わかります……フフフハハハハ……」

 そう言えばさっき小雪が言ってたな……

「そんで、深夜のコンビニ行きは芋ジャーかよ」

「いいんだよ、普通の犯罪者程度にどうこうされはしないし、本気で動くなら変身かけるから」

「そういう問題じゃねー……ヒャヒャヒャヒャヒャ……」

 ひとしきり笑った後、あたしはあることを思い出した。

「そう言えば、ミクセリクサー」

「はい、なんでしょうかインフェルノ様」

「お前が普段着てる服って……」

「はい! 先生に選んでもらってます! 可愛くて動きやすいのを選んでくださいます!」

 なんの屈託もない天真爛漫そうな笑顔で答えてくる。

「下着もなんだよな?」

「はい!」

「ちょ、ミクセリクサー!」

 岸辺が慌てた声を出すが、もう遅い。

「ブッ……ククククク、こ……こ、こんな、こんな一見、小学生ぐらいの()連れて女物の下着売り場って……」

「だ、男子高校生だったら不審者扱い間違いないだろ?」

「元の姿ならしてませんよ!」

 姐さんが、自分も表情でニヤけながら息苦しそうな様子で訊いてくる。岸辺が反射的に抗議の声を上げるけど、 …………駄目だ。あたしには絵ヅラが浮かんできて腹筋に来る。

「はひ、……ヒヒヒフフフゥハハハハハハッ」

 あたしも止まんない。だめ。腹筋()る。

「朱里ちゃん、そうちゃんの魔法少女衣装見たことないんだっけ?」

 小雪が訊いてくる。

「はーっ……はーっ……えっと、いや、見たことはあるはずだけど……」

 ミクセリクサーのスマホに写真が入ってた。岸辺と小雪、華乃さんは確認してある。

「ハイレグなの気づかなかった?」

「ブッ」

 小雪……っ、なんか岸辺に恨みでもあんのか……っ?

「ちょ、ミクセリクサー、もっかい確認させてくれ」

「はい!」

「見せないで!!」

 岸辺が止めるが、もう遅い。

 だって、ロック画面こいつなんだもん。ミクセリクサーのスマホ。

「まぢだ」

 白いロングブラウスがスカートに見えるのと、胴当てと脇楯のせいで、スマホの小さい画面じゃ一見印象に残りにくいけど……ハイレグってほどじゃないが、セミハイレグ程度の水着がチラ見えしてるようにしか見えん。

「クッハハハハハハ……」

「朱里ちゃんに……プリンセス・インフェルノにそこまで笑われる筋合いないんだけど」

「はっ!?」

 笑い転げかけたあたしに、ムッとした様子の岸辺がそう言ってきて、あたしは我に返る。

「ミクセリクサー!? こいつにあたしの写真!?」

「はい、インフェルノ様達の画像は一通り先生にもお送りしてあります!」

 あたしの問いかけに、ミクセリクサーはなんの呵責もなくはっきり答える。

 はっと視線を向けると、岸辺が自分のスマホを操作してるのが見えた。

「依頼元の外交部に送ったの除くと、ボクと華乃しかまだ見てないんだけど、小雪やつばめさんにも見せていいかなぁ?」

「ちょ」

 プリンセス・インフェルノの衣装を恥ずかしいと思ったことはないが、岸辺の衣装弄った今この直後だと絶対にネタにされる!!

「やめろぉ!」

 





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『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』

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