ラ・ピュセル生存記録 ―異伝 After of 『魔法少女育成計画2-o-H』   作:神谷萌

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第05話

「おい、颯太よ」

 見ていた岸辺のスマホを小雪に渡しつつ、つばめの姐さんが岸辺を睨む。

 ……レディース上がりなんだっけか。去年まで陸上に精を出してたあたしにとって、道を外した不良連中なんてただ親や学校に従いたくない、それがカッコいいと思い込んでる大したことのないやつだと思っていたけど、つばめの姐さんのそれはそうやって馬鹿にしてたあたしの方がみっともないぐらいに思える気迫がある。

「ついさっきも言ったばかりのこと忘れたか?」

「え?」

「“事実じゃない” のと “気にしてない” は意味がぜんぜん違うぞ」

「それは、どういう……」

 そこまで言われてもよく解ってない岸辺に、姐さんは、ブラを着ける時の仕種をした。

「あ…………」

 それで、岸辺もようやく気づいたらしい。

「もう、変なところで男の子のままなんだから」

 小雪まで呆れたように言う。言いながら、スマホを岸辺に返した。

「ごめん、朱里ちゃん」

「いや謝るなよ。お前だって散々弄られてんだから」

「それは、そうだけど……」

 あたしは苦笑する。今のラ・ピュセル(こいつ)見てると、気にしてる方が馬鹿らしく思えてくるんだよな。

「でも」

 場が湿りかけたところで、華乃さんが割って入ってきた。

「これ、どっちかって言うとトップスよりボトムの話じゃない?」

「え?」

 岸辺が声を出して、あたしや小雪とともに華乃さんを見る。

「トップスは(リップル)も大差ない」

「まぁ、言われてみれば」

 自分のスマホの画面を見ながら、岸辺が返す。

「でも、そのボトムは颯太(ラ・ピュセル)のことを言える程じゃない」

「まぁ、たしかにリップルはいちおうはスカートだけど……」

 岸辺はなんかどっちつかずみたいな反応なんだけど ────

「姐さん、脂汗かきながら笑うの我慢されてもあたしは嬉しくないです」

「んゔっ……」

「あと小雪、こっち見ろ」

 小雪はあたしと反対側を向いて、背中を丸めてる。震えているように見える。

 あーそりゃあ最初の頃はちょっと抵抗ありましたよ。ピュア・エレメンツのメンバーはみんな露出度高めだから麻痺してたけど、ここにいる4人だと華乃さんが露出多い範疇で、特に小雪(スノーホワイト)はセーラー服っぽくておとなしいし、つばめの姐さんは……────

「あれ?」

 あたしは怪訝に思った。

「あたし、姐さん(トップスピード)の変身中っぽいの見たことないんですが」

「え?」

 今度は姐さんの方が眉を(ひそ)める。

「お前さん拾いに行った時に変身してたけど」

「えーと……どこにいました?」

「オレのクルマの運転席」

「あー……あのときは朦朧としてて、運転席はよく見えてなかったです」

「そもそも、トップスピードの姿だと、後席からは見えないんじゃ?」

 岸辺も言ってきた。まぁほとんど座席に隠れるからな。後頭部と肩のあたりしか見えないだろ。

「っていうか、ミクセリクサーはオレ(トップスピード)の写真持ってないんだっけ?」

「いえ! みなさんの写真は全部この中に入ってるはずですが!」

 姐さんの言葉に返事しながら、ミクセリクサーはスマホのロックを外して、ファイルを開き始める。

「はい、これです」

 そう言って、あたしに見せてきた。

「え!? これ、姐さんだったの!?」

「はい! トップスピード様です!」

 それは、黒いドレスにトンガリ帽子被って、箒にまたがる、太いみつあみ2本のちっさい女の子。いや、今までも見ることは見ていた。多分魔法少女の誰かの写真だろうなとは思ってたんだけど…………

「もしかして、今まで気づいてなかった……とか?」

 引き攣った表情の岸辺の問いに、あたしは頷く。

 この姿、つばめの姐さんの言動と性格と変身してない時の姿と ──── とにかくリンクしねーし、 “トップスピード” って言う名前ともリンクしない。

「姐さん」

「……なんだよ」

「可愛いっすね」

「どう反応すりゃいい?」

「喜んでいいんじゃないですか?」

 口元を引き攣らせている姐さんに、岸辺が苦笑しながらそう答えた。

 まぁさっきのこいつの言葉の意味も解った。なるほどこれじゃ座席にほとんど隠れて後ろからは見えないわな。

「今どきこういう魔法少女ってありなんだな」

「“今どき” とかヒトが古臭いみたいに言うな。オレはまだ22だ」

「まぁ、魔法少女って言うよりは古典的魔女っ子スタイルなんだよね」

「古典言うな」

「なるほど、トップスピード様はマジカル・ガールと言うよりクラシカルウィッチだと」

「お前も変なラベルを貼るんじゃねぇ!」

 最初に言ったあたしが言うのもなんだけど、鈍感ノンデリ師匠に天然弟子か、この2人。ある意味悪質だな。

「まぁネタを抜きにしても、岸辺は魔法少女っていうより女騎士って感じだし、華乃さんは忍者だし、一番魔法少女らしいのは小雪か」

「まぁ、セーラー服オマージュも結構旧いんだけどね」

「そうちゃん?」

 岸辺って、小学校の頃とは変わってるのは当たり前としても、ここまでノンデリになるもんか? しかもナチュラルに小雪弄れるのも変だ……──── あー、そうか。根にオタク気質の部分があるから、薀蓄が自然に口から出てくるんだ。ついでに小雪とは付き合い古くても今のカノジョじゃないから配慮が薄れる。

「…………うん、まぁ……」

 つばめの姐さんが、なんか含みのある呟きをした。

「姐さん、どうしました?」

 あたしが訊く。

「いや……小雪ちゃん(スノーホワイト)の衣装って、セーラー服だけじゃなくて、なんか腕章みたいなのつけてるだろ?」

「ああ、はい」

 岸辺が反応した。

「なんつーか、魔法少女っていうか、涼宮ハ◯ヒみたいに見えるんだよな」

「ブッ」

 あたしと岸辺が同時に吹き出した。

「ちょっと!」

「悪い、小雪、これは防御不可能だ」

 岸辺が必死に笑い声を殺しながら言う。

「…………ダメだ悪い、クハッ、ハハ、アハハハハハ……」

 あたしは決壊した。腹を抱えて転げる。

「腕章……団長腕章……ッ……ッッッ」

 華乃さんも、床に手をついて下を向いて震えている。

「アハハハッ、でも確かに、こいつふんわりしてるように見えて結構、自分の思い通りにならないと気がすまない所あるんだよな、ククッ、確かにハ◯ヒと被る被る。アハハハハハ……」

 あたしは片手で腹抱えたまま起き上がりつつ、笑いながら言った。ダメだ笑いがとまんねー。

「あー、朱里ちゃん、朱里ちゃん」

「なんだよ岸辺」

 お互い笑いが止まらないまま、岸辺があたしに声をかけてくる。

「ちょっと耳貸して」

「何、何?」

 岸辺があたしに耳打ちしてくる。

「ブッ……アハハハハハハ! ヒー、ヒーッ!!」

 あたしはまたお腹抱えて転がった。

「ちょっとそうちゃん、何言ったの!?」

「いや別に、なんで今ボクが華乃と付き合ってるのかって話」

「え?」

 小雪は狐につままれたような顔してる。

 岸辺はこう言ってきた。

「小雪が、自分が変わりたいからって理由で、ボクフラれたわけ」

 なんか、魔法少女同士の付き合いがあるとは言っても、岸辺に今別のカノジョがいて、それでいて小雪とも一緒に行動してるとか、なんか魚の小骨が喉につっかえたような感覚だったんだけど、いまので納得がいった。

 まぁ身体からして女になっちゃったわけだし、理由は他にも色々あるんだろうけど、そう言う体裁を整えようとするところが小雪らしい。

「はー……つまり、スノーホワイト様は団長系魔法少女ということですね!」

「やめて! ラベリングやめて!」

 小雪が悲鳴みたいな声を出す。あたし達はまたお腹抱えてのたうち回った。つばめの姐さんも仰向けになって震えてる。

 しかしなんだこのものすごい濃いメンツ。元男、そのカノジョ、元ヤン魔女っ子、隠れ団長系。生来の属性が一番ヘンなはずのミクセリクサーが “天然系魔法少女” 程度と霞んで見えるのがひでぇ。

 あれ? でもミクセリクサーは人造魔法少女で、それで天然系って……

「アハハハハハ……」

「?」

 他の4人が収まりかけたところで、あたしはもう一度高い笑い声を出してしまった。

 

 あー、やっと収まってきた。

「もう、みんな酷いよ」

「その前にあたしの衣装で笑ってたの誰だ」

「ボクのことも弄ってたしね」

 被害者ヅラしてる小雪に、あたしと岸辺でツープラトンツッコミを入れる。

「インフェルノ様、先生と息があってます!」

「はぁ?」

 あたしがそう言った直後、なんか室温が5℃程下がった気がした。

 華乃さん、すっげー眼光。

「?」

 だけどこの中でミクセリクサーにはこれが効かないから困る。天然は無敵だな……

「そ、そういえば、こいつってすっごい強いじゃん?」

 あたしは話題を逸らそうと、愛想笑いを浮かべながら切り出す。

「そうですか?」

 本人はキョトン、としている。

「いやいやいや、あのわらわら湧いてくるシャッフリン相手に時間稼ぎができる時点でスゲーから。お前」

 それに対応できる魔法持ちだからだけど、こいつ本人も、ジョーカーシャッフリンをタックルで吹っ飛ばすとか、あたし抱えて包囲してくるシャッフリンの間すり抜けてくるとか、あのフリフリの衣装からは想像つかないくらい強いしな。

「でもわたし、先生とリップル様には勝ったことがありません」

「え、マジで?」

 何、そんなに強いの岸辺。

「はい、お2人で組んでる時にはですが!」

 なるほどラ・ピュセルとリップルで組んでるときか……いや待て。

「お前、トランプ兵53体出せるだろ!?」

「はい!」

「それで勝てないの!?」

「はい! すごい必殺技がありますので!」

「どんな!?」

 あ。つばめの姐さんとハモった。

「リップル様が先生を投げてきます!」

「は?」

 またハモった。でもそりゃそうなるわな。

「ラ・ピュセルの剣……ってことか? 確かにあれをリップルが投げるとかチートに近いからな……」

 姐さんが考え込むように言う。

 ラ・ピュセルの魔法は “剣の大きさを自由に変えられるよ”。

 リップルの魔法は “手裏剣を投げれば百発百中だよ”。

 ちなみにリップルの魔法は別に手裏剣以外を投げてもいいらしい。だからラ・ピュセルと組ませると、ラ・ピュセルの剣を小さくしてリップルが投げて、命中直前、あるいは命中後にデカくするとかいう、ちょっとエグいことができる。

 とまぁ、姐さんはそれを考えたわけだが、

「いいえ、先生を投げるんです!」

 と、ミクセリクサーは言う。

「…………華乃」

 姐さんが問い質すように言うと、華乃さんは目を逸らす。

「…………颯太」

 岸辺もやっぱり目を逸らす。

「やったんだな!?」

「そんなこともあったかも知れない」

 華乃さんが目を逸したまま言う。

「いやまぁ確かに盲点だわな。投げるって言えば普通は物体だと思うからな。武装した人間投げるとか完全に初見殺しだな……」

 姐さんが頭の前側を掻くようにしながら言った。

「人間じゃなくて魔法少女」

「うるせーよ」

「そういう問題じゃねーよ」

 岸辺のスッとぼけた訂正に、今度は姐さんとあたしでツープラトンツッコミを入れてしまった。

 





ミクセリクサー普段着/すっぴん朱里イメージ(pixiv)
https://www.pixiv.net/artworks/144713714

本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』

具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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