とある科学の現実改竄 作:バーニングミニラ
非常に面倒臭い、神代夜鷹の脳内はただその一言で埋め尽くされていた。
今日は七月十九日、幾許かの不安を抱えながらも明日から始まる夏休みは今まで散々な人生を送ってきた神代にとって期待すべきイベントの始まりである。
それもあって無駄に上がったボルテージに身を任せてファミレスで無駄食いをしていたのだが、それが良くなかった。
冷静に考えれば今日この日にファミレスで食事をするなど、地雷である可能性は予め分かっていた筈なのに……。
「だからそれじゃあ私の気が済まないっていうか……」
残念ながら神代が今いるファミレスにはカウンター席など存在せず、ファミレス席の向かい側には一人の少女が座っている。
少女が身に纏うのはここ近辺では有名なお嬢様学校である常盤台中学のものであり、茶髪の少女自身も何処か勝気そうな顔立ちながらも間違いなく容姿端麗で美少女と言うべきカテゴリーに属していた。
何故か一人で
かといって完全な他人という訳でもないので、いたいけな
「ただ居合わせただけの俺に礼なんて必要ない。実験を止める為に奔走したのはお前で、命懸けで戦ったのはアイツだ」
「でもアンタだってあの子の事を助けてくれたじゃない?」
「第一位にビビり散らかして、みっともなく逃げ回ってたの間違いだろ?だけど上条は違う。もし礼を尽くしたいんだとしたら上条を相手にやってくれ」
しかし神代の進言にも常盤台の少女こと御坂美琴は何やらブツクサ言って素直に従う様子はない。
上条とは神代のクラスメイトの一人であり、この二人の馴れ初めというか腐れ縁のようなものは「識」っていた。
一方で神代にとって御坂は他人ではなくとも良くて顔見知り程度の関係。
そんな相手に人間関係のアドバイスなんてらしくないと思いながらも、ここに居座られるよりはマシだと神代は言葉を続けた。
「お前が上条の事をどう思ってるかは知らないが、良くも悪くも知っての通りアイツはお節介な性格だ。だから自覚があるかどうかは知らんが、クラスの女子でもアイツを狙ってる奴は多い」
「ア、アイツがモテるからって私に何の関係があるのよ!」
「別に後悔するなってだけの話だ。自分の力を受け止められる相手としてガキがジャレ付くのは勝手だが、アイツにはアイツの人生や生活がある。今はまだそれで良いかもしれないが何時までもその関係を望んでるようじゃ、いずれお前の存在はアイツの邪魔になるだけって事くらいは頭の良いお嬢様なら分かるだろ?」
何か思う所があるのか神代の言葉に御坂は押し黙る。
別に年下の女の子を言葉責めするようなサディスティックな性癖を持ってる訳でもない。
とにかく御坂とこれ以上関わるのは御免だと神代は残った料理を急いで掻き込んで席を立つ。
そのあからさまな態度に御坂は少し表情を曇らせたようにも見えたが知った事では無かった。
別に御坂のことを極端に嫌っているという訳ではなく、ただ自分の平穏な生活を守る為にはここ学園都市の頂点に君臨する
ただでさえ神代は学園都市の上層部から目を付けられているのだから……。
今年の初めに至るまで神代夜鷹という少年の人生は地獄の底にあった。
「置き去り」として実の両親に学園都市へ捨てられて以降は
それでも人の形を保っているだけマシな部類なのかもしれないが、いずれにせよ何時死んでもおかしくない劣悪な環境にあった事は間違いない。
最悪な事実として恐怖と痛みに身を寄せ合って耐え続けて来た仲間達は次々と廃棄処分となり、神代自身もまた過酷な実験の果てに自分の命が消えゆく瞬間を確かに感じ取っていた。
しかしその時ある異変が起きたのだ。
まるで失われつつある生命を補うように謎の力が神代の身体に流れ込むと同時に、それまで発現の予兆すらなかった能力が突如として覚醒。
絶望と憎悪に駆り立てられた激情に身を任せるままに、神代は自分達の人生を弄んだ
神代の暴走はそれに留まらず更に学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーの居城たる窓のないビルを急襲したのだが、現在この一連の騒動は学園都市の上層部によって厳重に隠蔽された状態にあった。
そして一連のテロ行為の首謀者である神代の処遇。
それは意外な事に無罪放免に留まらず、何とアレイスター自らが
勿論そんな都合が良い話がある筈がない。
しかし神代は戦わずして仇と言うべき存在の甘言に従う事を決めた。
神代一人なら特攻も吝かでは無かったものの、まだ一人だけ同じ地獄を生き抜いた
未知数の力を持つ敵を前にして、敗北を喫すれば抹殺か運が良く生き残っても学園都市の暗部堕ちは免れない。
仮に勝利を収めたとしても
こうして今の神代は『
そして言うまでもなくこの日常を続ける為には学園都市の上層部に逆らわない事が大前提だ。
にも拘らず凡そ一ヶ月前のこと本当に偶然とはいえ神代は学園都市が進める
我ながら軽はずみだったと後悔しつつも、この件に関して言えば必ずしも致命的な失態にならない事を神代は理解していた。
学園都市がどんな場所であるか知っていれば、今の平穏が絶対のもので無い事は分かりきっている事だ。
だからもしもの時に備えて能力とは別に神代が隠し持つ学園都市へのカウンター。
それは死に掛けて能力に目覚めると同時に流れ込んできた自分のものでは無い記憶。
その記憶は酷く断片的なものであったが、まるで漫画やライトノベルを読んだりアニメを見たかのように流れ込んだ知識はこの世界の有り様を示すものだった。
確認出来た範囲であるがその知識は概ね正しく、それはこれから先に起こる未来にまで及んでいる。
それによれば
実際に一ヶ月近く経った今も特に学園都市側から干渉してくる気配は無いので、ひとまずはセーフと言った所だろう。
とはいえ軽率だった事は間違い無いので、出来る事なら御坂美琴といった物語の表舞台に立つような人間と出来る限り関わりたく無いというのが嘘偽りない本音である。
(まぁそこまで甘くはいかないんだろうけどな)
そのまま寮へと戻った神代であったが、自分の部屋の隣の表札を見て内心で溜息を吐いた。
そこに記されたのは上条の文字。
今際の際に得た知識が正しければ学園都市は上条当麻の為に作られたようなものであり、極論を言えば全ての元凶とも言うべき人間だ。
そんな上条と同じクラスで寮まで隣の部屋となると神代もまたアレイスターのプランに組み込まれたと考えるのが筋だろう。
かといって上条に憎しみを向けるのは筋違いだという程度の理性はまだ働いており、今までの付き合いで上条に対して悪感情を抱いている訳でもない。
それなら下手に上層部を刺激しない範囲で上条に動いて貰おうと、時期はズレてしまったがこれもまた神代の中にある知識通りに
ただ今更クラスメイトを利用したくらいで咎める良心はないとはいえ、きっと上条が死ぬことになれば事態は収拾がつかなくなる。
そんな状況で神代は自分がどう動くべきか、未だ図りかねていた。
そして迎えた夏休み初日の7月20日。
上条が学園都市の能力とは異なる異能と出会う事になるこの日に、神代もまた否応なしに非日常への扉を開ける事にならのだった。
科学と魔術が交差するとき、物語は始まる。