「あれはいつだっけ……宇宙船が墜落してきた日だっけ?」
全員の視線がはるの方へ集まる。ムネツグは何も言わずに、ただこくりと頷いた。
「あれが墜ちてきて……何時間か経ったあとのことかな?私が職場から帰ってる途中で……」
―※―※―※―※―
あの日は雨が降っていた。隕石がどうのこうのってニュースのせいで職場も街もなんだか忙しなくて、正直早く帰りたかったのに、雨に足が取られてしまった。
「はぁ、雨……」
ザーザー降りの雨。ふと周りを見ると、ちょうど雨宿りの出来そうな河川敷に、青いレジャーシートが盛り上がっていた。もしかしたら猫が雨に打たれているんじゃないかと好奇心に負けてしまって、陸橋の下にあるそれに近付いて、中を覗いてしまった。
「!!」
「うぎゃ!」
(最悪だ、ホームレスだったか!)
今考えてみれば当たり前かもしれないが、もう暗かったのでよく見えていなかったのかもしれない。レジャーシートに身をくるんでいたのは猫ではなく、ホームレスだった。そっと逃げようとしたとき、その中から声がした。本当に運が悪い、そう思ってしまった。
「待て」
「はい……?」
ゆっくりモゾモゾと出てきたのは先程のホームレスだが、その容姿は想像していたよりも大きく異なっていた。まず、その姿は人間のそれじゃない。
「バ…………」
なにか叫ぼうとした時、それに肩を掴まれた。濡れている。冷たさを布越しに感じて、ゾワッとした。振りほどこうにも体が動かないので、ただその姿をじっと見るしかなかった。
「家がない」
「……へ?」
よく聞き取れずに、もう一度聞いた。
「家がない」
「ごめん、もう1回」
「家がない」
……やっぱりただのホームレス怪人かもしれない。
「はぁ…………」
体の力が一気に抜けて、ビニール傘も手放してその場でヘナヘナと崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「あーあーあー、んっ、んんー」
ホームレスの男は怪訝そうにこちらを見ている。頭の整理がつかない。とりあえず咳払いしながら考えを整理。
「えーと、んー、んーと、あー…………」
まとまってきたところで、ひとつひとつ、冷静に落ち着いて聞こう。
「よし!じゃあ……質問!質問いい?」
「……?ああ、構わないが……」
目の前の大男が少し怯み、僅かではあるが距離が離れた。咳払いをして、まず頭に浮かんだ疑問を1つ。
「んっと、自己紹介って大事じゃない?1つ目、あなたの名前は?」
「名前……ケルウェイル・アルタ・ライジェ……」
「長っ。よく分からないしムネツグで」
「誰の名前だ……」
眉をひそめる男に、傘をそっと差し出す。
「今日は
彼の正体や、目的などを知ったのはその後だった。
ちなみに、『ムネツグ』が元カレの名前であることは言わなかった。
―※―※―※―※―
「はい、回想終わり」
「ほうほう……」
はるがパン!と手を叩く。ふ〜ん、とさやのは相槌を打って、お茶を一口。
「そうだったんですね……元カレ……」
さやのに続いてお茶を飲もうとしていたなおの手が、コップを持ったまま止まる。
「……元カレ?」
「初耳だが」
カクカクとした動きでムネツグを見ると、呆れ顔ではるの方を見ている。
「えーっ!はるさん、彼氏とかいたんですか!?」
「そりゃいるわい!……ま、もう独りだけどね。しくしく」
まざるに軽くデコピンして、何か嫌なことでも思い出したのかため息をつく。
「はる、じゃあこの姿は誰のものだ?……お前が俺に見せた写真の男の話だ。この姿になれと言っただろ」
「あ、あれ?あれはね〜妹の元カレ〜」
「……町中で間違われでもしたらどうするんだ」
「大丈夫だって〜へへへへ」
まざるの発言を皮切りに、皆次々に質問しだす。
「元カレの方のムネツグさんってどんな人だったんですか?」
「あっそれ私も知りたいです!あと、なんで別れたんですか?」
「イケメンだったんですかあ?」
「…………」
尚も次々に問いが投げ込まれていく。いよいよはるも耐えかねて、席を立ったかと思えば、奥の方から缶ビールを持ってきた。
「えぇい、この際洗いざらい話してやるっ!1回しか言わないから耳かっぽじって聞くこと!」
ドン!と缶ビールを机の上に置く。その後、プシュッと、それが開き軽快な音が鳴る。
「プハーッ……いいわ、聞かせてあげましょう……」
先程と比べて明らかに肌の赤くなったはるが全員の顔を見渡して、缶の中身を飲み干した。
「あれは高校2年生の夏……」
「あ、また回想入った……」
――――――――――
「さやのちゃんおはよー」
「まざるちゃん、おはよう。そういえば、学校で話すの初めてじゃない?」
「あれ?あ、確かに!」
廊下でばったり出くわした2人。さやのはさりげなく、まざるを壁際の方まで誘導する。
「そういえば今日の放課後、先輩と特訓があるんだっけ」
「そうそう!さやのちゃんも来る?」
「行く。絶対に」
やや食い気味の返事に一瞬表情が固まってしまったが、まざるは笑顔で返事。今日はなおとの特訓がある。
「あ、もうすぐチャイム鳴っちゃう!じゃあまた放課後で!」
「じゃあね〜」
「校門に集合って伝えるの忘れてた……」
チャイムが鳴る。どんどん時が過ぎていく。気付けば約束の時間、放課後だ。さやのと合流しようかと、カバンを持ち上げたまざるだったが、あと一歩で教室を出るという時に、誰かに呼び止められた。
「あの、苺園さん。ちょっといい?」
「あっ、佐藤さん!どうかしたの?」
クラス委員長・佐藤みかんだ。ほのかにシトラスの香りを纏わせた彼女がゆっくりとまざるの手を取る。
「苺園さんは、りんごと梨どっちが好き?」
「へ?」
「あっ、ごめん。ただちょっとだけ知りたくて。ほら、形よく似てるじゃない?でも、味もそうだけど特に食感は違うでしょ?皆どっちが好きなのかなって……」
悩ましい。まざるは少し考えて、結論を出した。
「りんご!佐藤さんは?」
「りんご……。でも、たまに梨も食べたくなるときがあるんだよね……」
ふとドアの方を見ると、さやのがドア越しにこちらを覗いていた。まざるはあわわ!と慌てた表情で佐藤に手を振り、急ぎ足で教室を出た。
「何話してたの?」
「うーん、りんごと梨どっちが好きかなって話?」
「ふーん……。私は梨かなあ」
――――――――――
「《ジャムサーベル》!」
「手加減しないわよ!」
集合した3人はどこか人目につかない場所……人のいない大きな公園へと向かった。公園といっても遊具なんてないし、ただの広場のような場所だ。
彼女らが小学生くらいの頃はよく小学生が遊んでいた記憶があるのだが、最近はそうでもないようだ。ゲームやインターネットが普及していったせいか、利用者が減ってしまったようだ。
そんな中、お互いを睨む魔法少女2人。自身の能力で出した剣を構えている。
「たあっ!」
手のひらから伸びるブレードを振り上げるジャム。ソードはそれを1つのステップだけで難なくかわし、彼女の持つ剣が煌めく。
「やばっ……」
「隙ありね」
鋭い突き。ジャムは何とか切っ先を自らの剣で受け止めたが、刀身にヒビが入ったかと思えば崩壊、パラパラとガラスのようにエネルギーが崩れ落ちていく。
その瞬間、ソードが剣を捨て急接近。ジャムの眼前に拳を突き出すと、ジャムの姿勢がガタッと崩れた。
「うぅ〜……パンチはずるいよぉ」
「え〜。でも確かに、不意打ちすぎたかもしれないわね」
そう言った直後、ソードの脳内にアイデアが浮かんだ。彼女は嬉々とした表情で、人差し指を立てジャムに話す。
「ジャム。サーベルと同じ要領で、電気のグローブとか作れないかしら?」
「グローブですか……やってみます!」
大きな深呼吸の後に、グググと両腕に力を込めるジャム。
バチバチッ……バチッ!
拳の周りに電気が発生したかと思えば、すぐに放電、エネルギーは周囲へ霧散してしまった。
「あっ……」
「うーん……?」
悩める2人。沈黙が続いていたが、それは1人の声で破られる。振り向くと、そこにはペットボトルを持ちながらこちらへ走るさやのの姿があった。
「2人ともっ!大変大変!」
「へ?」
「ちょっと、さっき、2人へ飲み物買ってた帰りで、えと、とにかく、この間の怪人みたいなの出てきた!向こう!」
「ええーっ!?」
押し付けられるように1本ずつお茶の入ったペットボトルを手渡され、2人は指さした方向へ向かうさやのを追いかける。
街の方へと続く階段を下り、しばらく彼女を追いかけると、ダラダラと肩から血を流しながら、壁にもたれかかっている少女の姿が見えた。
「……ッ!」
その姿に気付いて、ジャムは急いでその少女の方へと駆け寄った。あの顔、橙色の髪、ジャムは彼女のことを知っている。
「佐藤さん……!」
目を見開くジャムの頬に、冷や汗が一粒垂れた。
お読み頂きいつもありがとうございます。
特に前書きをあまり書けなかったからというわけでもないのですが、少し前の話でまざるちゃんについてちょっと話したので、今回はなおの話でもしてみます。
なおは3番目にキャラ設定を固めたキャラです。1人目はもちろんまざるちゃんなのですが、2人目が誰かは……また今度。
イメージカラーを何色にするか少し悩んだ記憶があります。でも、剣を使う魔法少女っていうのはかなり初期の方に決まりましたね。
ちなみに、好きな食べ物はこんにゃくです。