「うう、うぅ……」
小さな呻き声を発する佐藤に、ジャムが寄りかかる。
「だ、大丈夫?」
「う……血が……」
止血出来るもの、何か無いだろうか。制服ならなんとかなるかもしれないが変身を解くわけにもいかないし、ハンカチもタオルもないと、ジャムが焦ってバタバタしていると、さやのがポケットからハンカチを取り出す。
ソードがお茶で傷口を洗い流し、ハンカチをそこへ押し付ける。
「ジャム、この傷痕……」
「うん、多分肉片だ」
3人のスマホが同時に鳴った。ジャムの
「うん…………」
瞬間、ソードの体がぴくりと動く。何かを感じ取ったか、剣を構えて。ジャムとさやのがそれを見ていると、ギュン!とそれを振り抜いた。
「えっ!?」
「フン、やるならもっと上手く足音を殺すことね!」
勢いよく振り抜かれた刀身は黒い影を捉えており、人型のそれは大きく吹っ飛ぶ。
「あーあ、一裂きできればそれで良かったのに……」
右手にナイフを携えた怪人はパッパッと体を叩いて、流暢に話す。
「まさかっ……!」
ビビっと電撃が走ったような感覚。ジャムの目の色が変わった。
「さやのちゃんっ、佐藤さんを連れて逃げてっ!」
「っ分かった!」
「ソード!」
「速攻!」
合図で弾丸のようにソードが怪人へ迫る。怪人はその剣を、腕の小さなナイフでいとも容易く受け止めた。彼女の高速の連撃を弾き、怪人が反撃しようとした瞬間、ソードの背後からジャムが飛び出した。
「《ジャムサーベル》……」
今までの何より速く、ソードの太刀筋をも凌駕するスピードで放たれた電撃剣。ビリビリ、バチバチと音を立てながら、スパッとナイフを切り落とした。
「あ……?」
油断していた……と、怪人は汗を流しながら、ポカンと口を開いて切り落とされた刀身を見ている。その口角が上がると同時に、彼は何やら話し始めた。
「はぁ。まだ喋ってる途中だったってのに……。……ただ一裂きできりゃあそれで良かったってのに、余計な手間が増えちった。まぁいいや。とりあえず邪魔だから死んでくれよっ!」
タッと地面がなったかと思えば、黒い影が瞬時に移動する。目まぐるしく動いたそれをなかなか目で捉えきれない。
「ジャム!後ろ!」
「もらった!」
次に黒い影が姿を現したのはジャムの背後。ちぎれたナイフの先を彼女の首筋へ向けて、口を大きく開け高らかに叫んだ。
ソードも走り出すが、これでは間に合わないと歯噛み。ソードの声に振り向いたジャム。受け止めるにはもう余裕が無い。
「やぁっ!!」
咄嗟の判断。両手に力を込めて、がむしゃらに放電した。手から放たれた電撃はドーム状に拡がり、麻痺してしまった怪人がその場で崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
ジャムが怪人を睨む。能力の使いすぎか、息切れしてしまっている。
「クソッ……なんだお前ら……同類じゃあ、ねえのかよ……」
「当たり前でしょ……私たちは……負けるわけにはいかないから……」
「ハハッ……認めたくないけどさ、俺の負けだ」
先程までの笑みはどこへ行ってしまったのか、ぐったりとして俯いた怪人。その余裕そうな語り口調がやや鼻につくが、もう戦う意思は無いようだ。
ジャムが歩幅一歩ぶん距離を詰める。
「じゃあ……」
右手をそっと伸ばす。その瞬間、怪人の口元がニヤリと動いた。
ジャムの背後。地面から生えた黒く細い何かが鋭利な形となって、ジャムの背へ迫る。
「……そんなことだろうと思ってたけどさ」
凶刃をバシッと弾いて、哀れみの目を向けた。チイッと舌打ちが聞こえると、ジャムは攻撃を回避するためすぐにその場から離れる。
「ジャム。冷静にいきましょう」
「はい。冷静に……!」
「こちらが有利とはいえ、何をしてくるか分からない相手よ。油断禁物ね……って、ちょ!」
ジャムは返事もせずに駆け出した。怪人が胸を広げると、オーラで生成されたいくつもの黒いナイフが周囲に展開され、彼女へ切っ先を向ける。
「ヒャハハァ!」
笑い声と共に射出されたナイフ。その数およそ10本程度か。ジャムはバリアを展開しその小さな刃を受け止める。
だが、前方に展開したバリアでは後方は守れない。その弱点に気付かれたか、黒い影は高速で彼女の後ろへ回り込んでいた。
「ふんっ!!」
火事場の馬鹿力か、超高速で反応したジャム。展開していたバリアを球状に変形させ、なんとか右手の刃を受け止めたが、変形により強度が落ちてしまったのか、今にも割れてしまいそうだ。
「まずはお前から倒すっ!」
「言っておくけど、私がいる以上そんなの無理よ!」
隙だらけの背中へ切りかかるソードだったが、怪人の生成したナイフが盾のように彼女の剣を受け止め、刃が本体に通らない。
「ハハハッ!バカがっ!」
「バカはあんたの方でしょう……が!」
剣とナイフの鍔迫り合い。ソードは剣を持つ右手をパッと開き、その場で剣を放棄。フリーになった右手に大きく力を込めて、横から怪人の首根っこを掴み……
ドーンッ!!
アスファルトが少し凹んでしまうほどの力で、その場に思い切り叩きつけた。
「掴んでれば動けないでしょ……!ジャム!」
「はいっ!」
右の手のひらから生成された、電撃を纏いし剣。フーッと一息ついて、それを構えた。
「おいおい待て待て!なぁ見逃してくれっ……!」
「《ジャムサーベル・ディフューズ》」
ビッと電流が走るような軽い音が鳴る。怪人を包み込んでいた黒い外套が、電撃と共に光の粒となって弾けた。
「怪人か……」
「これで2体目……まだ慣れそうにないわね。明確な意思と知能がある分、なんだか戦いづらいわ」
「はい……でも、今回は倒せて良かったです」
怪人を倒した2人は軽く話を交えながら、意識を失い倒れている男子生徒の方へと向かった。
「うちの制服ね……」
「江崎くんもそうだったけど、どうして怪人なんかに……」
意識が戻ってきたのか、パチと目を開けた男子生徒。2人の姿に寝ぼけ眼が開かれて、驚いた様子で声を上げた。
「へゃっ!ひぃっ!な、なんですか……?」
気弱そうな男。立ち上がろうとするもその場で尻もちをついて痛そうな様子だ。
「いったた……」
「ん……あ!あなた、えーと……夢野くん!そう、夢野くんじゃない!」
「え?あ、え?なんで名前知って――」
「――コホン」
困惑を隠せない夢野。ソードは恥ずかしそうな顔をして、何事も無かったかのように咳払いして、彼へと問いかけた。
「あなた、自分がさっきまで何やってたかわかってる?」
「え?いや、何も……気付いたらここにいて……ってあれ、ここどこだろう……?」
「はぁ。意識がなかったってことね。じゃ、記憶に残ってる出来事とかはある?」
「えーっと……」
指をパタパタと動かして、未だやや朧気な記憶を辿り始める。1本2本3本……と指を折りたたんでは、再び展開するという動作を繰り返している。
「あ!あなたたちみたいな人に何か渡されました!」
「私たち……?もう少し詳しく聞けるかしら」
「あ、はい。髪型とか、顔とかは全然覚えてなくて……服もどうだったか……でも、あなたたちみたいな衣装を着た女の人に黒い何かを渡されて……それで、気付いたらここに」
考え込むソードとジャム。夢野は「ごめんなさい!」と慌てて言っているが、ソードは気にも留めない様子で。
「この事件……魔法少女が絡んでいる。私たちとは別の。もしかしたらあのグラビティかもしれないし、そうじゃないかもしれない。……面倒なことになりそうね」
「あ、あのぅ。もう帰ってもいいですか……?」
「あ。……うん、気をつけて」
肩からかけていたカバンを抱いて、怯えた目で2人を見つめている。なんだか申し訳なくなってきて、ソードは静かに頷いた。
「それにしても腹が立ちます。自分は何もせずに、罪のない誰かを無理矢理怪人にして……!」
「ええ……」
拳を握るジャム。2人が変身を解くと、奥の方からさやのがこちらへ走ってくるのが見える。また何かあったのかと、2人は眉を細めるが、彼女の笑顔を見て頬が緩んだ。
「2人とも!お疲れ様でした!」
「ありがとう。砥川さんもお疲れ様」
お読み頂きありがとうございます。犯人は悪の魔法少女かそれとも……!?