「それにしても面倒ですねぇ。魔法少女が肉片を植え付けて……怪人に悪ささせるなんて。正々堂々やれってんだ!って感じです」
「目的も分からないし、様子見しかないのかな……でも……」
とりあえず事務所に寄ろう。3人は並んで歩きながら、今日の出来事をできる限りまとめていく。
「私と同じ3年生の夢野くん……わざとか、たまたまかは分からないけど、彼を標的に選んだ魔法少女は彼に何らかの方法で肉片を植え付けて……」
「しかも、怪人になった前後の記憶が無かったんですよね?」
「ええ。怪人になってる時、意識も無さそうだったわ。……まぁ、私たちに嘘をついている可能性もあるけど」
それはあんまり考えたくないと、なおはため息をつく。その瞬間、レジ袋を両手に提げているムネツグと目が合った。
「あ」
「……何かあったのか。とりあえず帰るぞ」
ちょうど二人の間には事務所が。ムネツグの後を追って、なおたちは入っていく。
「あ、おかえり〜。豆腐と胃薬、ちゃんと買ってきた?ってあれ、みんな一緒じゃん。お菓子買ってあげた?」
「いや、さっき偶然会っただけだ」
ムネツグはレジ袋を机に置いて、豆腐と胃薬を取り出し、はるに見せて机に置く。他のものも一つ一つ置いて、置き終わると額の汗を腕で拭った。首をポキッと鳴らして、使い終わったレジ袋を丁寧にしまう。何もかも終わった、と彼がソファに座った瞬間、なおが口を開いた。
「えっと、いいですか?今日の出来事、いろいろと知らせたくて」
「ああ。じゃあ、まずは特訓の話から聞かせてもらおうか」
じーっと、視線をゆっくりとまざるの方へ向ける。
「特訓の方は……正直上手くいきませんでした。というか、上手くいくまで特訓ができなかったというか」
「ふむ。何かに妨害されたのか?」
「直接されたわけではないんですが、怪人騒ぎに巻き込まれてしまって。単刀直入に言うと、私たち以外の魔法少女が怪人を使って悪事を働いています」
「……!詳しく、聞いてもいいか」
ムネツグは驚いたような表情を見せ、姿勢がやや前のめりになる。なおが続けて語ると、ムネツグはしばらく黙り込んだ。
「…………」
「……。3人とも。今日はもう遅い、帰ってくれても構わない」
特に結論は出てこなかった。まだ何か考えているのかなど、なおには知る由もなかったが、これといって追及する必要も無い。
カバンを背負うと、軽く手を振って事務所を出た。
「さやのちゃんも帰る?」
「うーん。私はもう少し居ようかな」
「そっか!じゃさやのちゃん、また明日ね」
「んー」
――――――――――
「3年6組
休み時間。なおとさやのは6組の教室を覗き込み、昨日見た彼の姿を探す。6組は何故かうるさい生徒ややけに存在感のある生徒が集まるっているため、なかなか集中して探せなかったが、幸いにも休み時間が終わるまでにはその姿を捕捉出来た。机に突っ伏して寝ている。あるいは、寝たフリか。
なおとさやのはお互いを見つめ合っては、また放課後に、とアイコンタクト。スマートフォンを確認すると、もうチャイムが鳴りそうだった。2人はすぐに解散して、自身の教室の方へと向かった。
「……?」
窓の向こうから視線を感じる。夢野はおもむろに体を起こして窓を見てみるが、そこには誰もいない。不思議な感情のまま、夢野は再び伏せた。
――――――――――
放課後。なおとさやの、そしてまざるは夢野の後をつけて、物陰に隠れつつその動向を見ている。
「ねえ、やっぱり3人は多いんじゃないかしら」
「え、そうですか?」
「まざるちゃん、ちょっと外の方で待っててよ」
ガーン!とショックを受けたような顔。まざるは渋々その場を離れて、夢野とすれ違わないように迂回しながら校門へと向かい始めた。
「気をつけて……」
「しかし彼、見れば見るほど挙動不審ね……」
尾行開始からあまり時間も経っていないというのに、なおのメモ帳には彼の行動についてずらりと項目が並んでいる。
―――――
・キョロキョロ見回す ・・・36
・何も無い場所で躓く ・・・ 2
・スマホを確認する ・・・ 9
・ぼーっとする ・・・ 1
―――――
「ほんとになんか、失礼ですけど、奇妙な生態というか……」
「……ちょっと話しかけてくるわ。そこで待ってて」
タタタと夢野の方へ走って、スマートフォンを覗いてみる。特にメッセージアプリが開いていたわけでもなく、やや桃色がかったロック画面が表示されているだけ。
「夢野くん、ちょっといいかしら」
「うわあっ!」
夢野は急いでスマートフォンを両手で抱えて、覗き込むなおと視線を合わせる。
「な、なんですか?枠島さん……」
「いや……大したことはないんだけど。最近怪人騒ぎよく聞くわよね。夢野くんも気をつけてね、って」
「あ…………はい」
なおは大きく深呼吸して、続けて何か言おうと口を開くが、もうそこに夢野の姿はなかった。
「あらっ?」
「逃げられましたね……なんと逃げ足の速いこと」
「う……」
――――――――――
「な〜んか上手くいきませんね〜」
「ええ、ほんと」
飯島探偵事務所。2人は冷蔵庫から勝手に缶ジュースを取り出し、これまた勝手に飲んでいた。
「そうだ先輩、後で勉強教えてくださいよお」
「はいはい。……あれ?今日はまざるちゃん来てないのね」
「ああ、何か約束があるとかで――」
すると、さやのの動きがピタリと静止する。なおが首を傾げると、さやのは驚いたような、どこか怯えているような表情になった。
「わ、私……お父さんと約束あったの思い出しちゃいました。あぁ急がないと!」
「ええっ、ちょ!」
飲みかけの缶ジュースを置いたまま、カバンを手に取り急いでドアを開けどこかへ走り去る。
「勉強は……いいのかな」
30分経過。買い物中だろうか、今日はムネツグもはるもいないため事務所内にはなお1人。復習でもしておこうかと教科書とノートをめくっているが、そろそろ飽きが来たのかぼーっとし始めた。
(そろそろ帰ろうかしら……)
教科書とノートを閉じて、壁のフックに引っかけていた事務所の鍵を取る。散らかしていた勉強道具をカバンの中に入れて部屋の電気を消す。
「まざるちゃん、砥川さんにムネツグさんにはるさん、皆いないなんて珍しい日もあるのね……まぁ、砥川さんはちょっとだけいたけど」
なんて呟きながら、ドアの鍵を閉めた。コンコンと音を立てながら階段を下ると、足元がやけに暗い。
(あぁ、もうそんな時間なのね……)
――違う、これは影!それも巨大な!
ハッとした表情で前を向くと、カバンを投げ捨てては前に飛び込みながら変身。金色の粒子を纏った少女が、黒い影を斬りつけながらその背後へと回り込む。
「吐いちゃうかと思ったわ……!」
両腕から包丁のような凶器を生やした怪人は右腕を振り上げながらソードへと迫る。肘にあるリングのような形状。おそらくあれは……
「ハサミか――!」
振り下ろされた刃をひらりとかわすと、それは歩道のアスファルトを砕き、轟音を響かせる。
「あなたたちって本当にどこであろうとお構いなしね……!」
「文句でも……あんのかよっ!!」
怪人は地面にめり込んだ刃をおもむろに引っこ抜くと、剣を構え飛び込んでくるソードを迎撃するように両腕を体の前で交差させ防御の姿勢。
ガキィン!
「ハッ!」
怪人は鋭い歯を見せニヤケ面。ソードの剣を弾くと、先日に発生したナイフの怪人を彷彿とさせるスピードで仰け反る彼女の背後へ移動。
「しまっ――」
ビュンッ!
薙ぎ払うように、怪人の左手がソードを捉え切り裂く。彼女の体は突風の如く車道へと吹き飛ばされて、ゴロゴロとアスファルトの上を転がる。
「見た目によらず結構速いじゃない……」
仰向けになり、咳き込みながらも余裕気に笑みを見せるソード。そんな彼女に向かって、怪人は黒い影を残しながら歩く。
「……今話題の魔法少女ってやつ?」
首を刈るつもりか。怪人は冷酷に、右手を振り上げる。
ソードはもちろん回避するつもりだったが、様子がおかしい。その敵を振り下ろすどころか、怪人は微動だにしない。
「たっ……」
ソードはなんとか体勢を立て直して、怪人から距離を置く。睨みつけ剣を構えながら、1歩1歩、じりじりと。
「たたたたっ、たすけてくださいぃ」
怪人の口から発せられた言葉に、思わずソードは耳を疑った。先程とは打って変わって、気弱そうな声色。ソードの脳内に何かがよぎる。この声はきっと……
「たすけ――ひぁっ!」
ガクッと首が動いて、怪人はブルッと首を左右に振る。
「……あぁ?何見てんだよ?鳩が豆鉄砲食らったような顔して……」
「いや、なんでもないわ。ただ、鳩が誰にも脅かされることなく、安心して豆を食べられる世界がいいなとか、思っただけよ」
今回もお読み頂きありがとうございます。またも怪人にされてしまった哀れな夢野くんです。ソードはどう解決するのでしょうか!?