「……というわけで、私は今からあなたを倒す!」
「やれるものならやってみろッてんだ!」
怪人が一歩踏み出すと、ソードを惑わすかのような動きで、猛スピードで彼女の周りを駆ける。
「ここぉっ!」
ソードは大きく跳び上がってその剣を振り下ろす。0.数秒後、剣筋は突如として現れた黒い影を捉えた。
「ぐはあっ!?」
再び高速で移動する影。ソードと距離を取ったかと思えば、次は真っ直ぐに彼女へ向かって猛突進。
「こンのおぉぉぉっ!」
眼前に刃が迫る。ソードはふぅ、と一息つくと、冷静に剣を一振り。
「フンッ!」
ガキィンッ!
たった一振りで、突進の勢いは打ち砕かれ、怪人の姿勢も大きく崩れてしまった。
「なっ……!」
「パワーは申し分ないわね。でも何か物足りないわ」
間髪入れずに冷静に、丁寧に、真っ直ぐに。筆で文字を書くような美しい太刀筋で怪人を斬りつけていく。見事にクリーンヒットした斬撃が、怪人のスタミナと機動力を奪っていく。
「クソッ、なんだ、お前っ!」
「たぁっ!」
何とか反撃しようと腕を振り回すが、ソードの強烈な回し蹴りが炸裂。鋭い刃先など見る影もなく、ポキッと刃が折れてしまう。
「グッ……!?も、もう逃げるしかっ!」
驚きよろめく怪人。怯えたような表情で慌てながら背を向け逃げようとするが、そうは問屋が卸さない。ソードは動く素振りは見せずに、ただ立ち止まって剣にオーラを纏わせる。
(きっとただの斬撃ならかわされる。だから……)
剣の纏う黄色のオーラは徐々に切っ先へと集まっていき、キラキラとその輝きを強めていく。
「逃がさない――。《ソードドラグーン》!」
オーラは太い光線へと姿を変え、怪人の背を捉えた切っ先から高速で射出される。閃光はささやかな細い音と共に空を切り、ついに怪人の体をぶち抜いた。
「夢野くん……あなたも何かと大変ね」
怪人の纏う黒の外套は光の粒となり、その中から横たわる夢野が現れた。
――――――――――
「ん…………」
朝目覚めた時と同じように、眠そうな顔でまぶたを開ける。目ヤニなどついていないだろうか、手をそっとまつ毛の方へ近付けようとするが……。
手が動かない。何かがおかしい。縛られている?
「お目覚めかしら」
ソファの上に佇むなおが、座った姿勢の夢野を見下ろしながらそう言った。
「わ、枠島さん!?」
「そう。聞きたいことがたくさんあるから、気絶しているあなたをここまで連れてきたの」
「えぇ〜っ……!」
夢野はキョロキョロと辺りを見回すが、分かったことといえば誰かの住処なのだろうということだけ。なおの家と解釈するのが自然だろう。
「それで――自分が何してたか、分かる?」
「えっ……。すみません、記憶が曖昧で……」
「そう。まぁ仕方ないわよね。あなた、怪人になって暴れてたのよ。しかもこの真ん前で」
「……ッ!」
悔しそうな、悲しげな声にならない声。またか……。と言わんばかりに、複雑な表情で俯いて。
「魔法少女について、何か情報は覚えてる?」
「えっ……?」
何故それを、と口にしようとした瞬間、なおの姿が光に包まれ変化する。驚きのあまり、夢野は叫びながら大きく跳ねた。
「うわぁっ!」
「また何かされたんでしょ?あの
一歩ずつ夢野の方へ近付いていく。縛られたままの彼は何も出来ずに、ただ怯えたような声を小さく出してゆっくりと仰け反るだけ。
「覚えていること全部教えて。魔法少女はどんな見た目だった?」
「あ、青ですっ。青色……も、もしかしたら水色だったかもしれない!です……知らない人からメッセージが来て……指定された場所に行ったらあの魔法少女がいて……。えっと、また黒い何かをグッと押しつけられて、気付いたらここに……。あの、えっと……すみません」
「ふーむ……」
「あっあっ!えっと、ありがとうございますっ!!」
――やりづらい。
必死に話す夢野からスッと目を逸らしながら、彼の言っていた内容を頭の中でまとめる。
青色の魔法少女が夢野を呼び出し、『肉片』を植え付け怪人化させ、暴れさせる。
……しかし、目的が分からない。好き勝手暴れさせているだけか?ソードがグルグルとその場で回っていると、ガチャリと扉が開き、はるとムネツグが顔を覗かせた。
2人は目の前の光景に思わず眉をひそめて、お互いの顔を見た。
「えぇ……何これ?」
「分からん」
ヒソヒソとした話し声が聞こえて、ソードは初めて二人の存在に気付く。するとカーッと茹でダコのように顔が赤くなって、ばたり、とソファに顔をうずめた。
「まさかあのなおちゃんが緊縛とは……」
「あぁ。……しかし、これはお前の想像しているようなものじゃないんじゃないか?」
「ち、違うんですこれはーーッ!」
モゴモゴとソファから叫び声。2人はため息をついて、うずくまる彼女の元へ向かった。
「さてさて、2人きりで何やってたのかな?」
「ちがーうっ!!」
――――――――――
「へぇ。この子が怪人ねぇ」
「はい……」
変身を解いたなお。モジモジしながら答える。
「まぁ夢野くんも、お茶飲みなよ」
「あ、はい。いただきます……」
涙目の夢野もなおと向かい合うように座って、言われるがまま注がれたお茶を飲む。
「大体の事情は分かったわ。そうねぇ……今から2人を呼ぶわけにもいかないし、夢野くんは今日1日ここに軟禁ってことになるわね」
「え」
飲んでいたお茶が、電気ケトルのように夢野の口からダバーと流れ落ちる。お茶は奇跡的に彼が持っていたコップに全て入って、事なきを得た。慌ててそれをもう一度飲むと、飲み干したあとに聞き返す。
「な、軟禁……?」
「えぇ。私たちとしては、そういうことはしたくないんだけど。あなたがまた怪人になったりでもしたら皆困っちゃうから」
「そんなぁ!」
……数時間後。少しとはいえ元気を取り戻した夢野は、事務所にあったテレビゲームを黙々とプレイしていた。
「いや〜、レベル上げは誰かにやらせるのが一番いいね」
「…………」
結局なおも今晩は泊まることになり、ピカピカと変わっていくテレビの画面を静かに見ていた。
「枠島さん」
「……何?」
「僕が怪人になったとき……何か、どこかの写真を魔法少女に見せられたのを思い出しました」
「どこかって……どこ?」
沈黙が続き、カチカチとボタンの音だけが部屋に響く。
「そう……」
なんて言いながら、なおは今日の出来事を思い返してみた。階段を降りると怪人に遭遇してそのまま……
――あれ?
どこか引っかかるところがあったのか、顎に手を当て考え込む。
(どうして怪人はあの路地に……。ここを抜けた先に何かがあるの?それとも――)
「バレてる……?」
その声に、不安そうに夢野が振り向くと、なおはその場で立ち上がる。考えうる限り最悪の可能性だ。彼女がドアの方を向くと、心の声が漏れたのか、ボソッと呟いた。
「彼女の狙いは、私たち…………?」
――――――――――
同時刻。少女が1人寂しさを漂わせては、どこかの屋上で佇んでいた。
「夢野くん、返信無いなあ。もしかしたら、もう倒しちゃったかな?それとも死んじゃった?あの人のことだから死んではないかな?う〜ん、じゃあ捕まっちゃったかな?余計なこと喋ってなければいいんだけどなあ」
先程までの儚げな表情はどこへやら、ニヤケ面の少女は夜空を見上げて小さく笑った。
お読み頂きありがとうございます。14話でした。
そろそろ2章も折り返しです。今後とも応援よろしくお願いします。