「あ、なお先輩!」
1日経って、学校終わりにまざるが事務所を訪れる。
「今日なかなか姿見ないから学校お休みかと思ってました〜」
「休んだは休んだわよ。で、今日まざるちゃんを呼んだのはこれのこと」
奥の方に行ったなおが、夢野の手首を掴んで玄関の方へ彼を持ってくる。
「わわっ!」
「え?確か……夢野、先輩?」
「ああっ初めまして!ゆ、夢野早苗って言いますっ」
「え?あ、はい、こちらこそ初めまして」
まざるは状況が掴めないまま、とりあえず夢野に頭を下げて、困惑を隠せないままソファにカバンを置いた。
「え、えーと……」
「ま、驚くのも無理ないわね。順を追って説明すると、怪人になってここの前に来た夢野くんを」
「ふむふむ」
「私が倒して捕まえてきて、監視してたってわけ」
「なるほど〜。……さやのちゃんにも連絡したんですか?」
「もちろん。でも、中々返事が来なくて。そもそもメッセージすら見てるか分からないし……大丈夫かしらね」
何か思い出したようにまざるが一度置いたカバンを漁ると、中から何か透明な袋を出してきた。ビニールが光を反射して中身はよく見えない。
「2人とも、パン食べますか?」
「パン?」
「はい!お昼に買ったんですけど、買いすぎちゃって食べきれなくて」
まざるが言うには、どうやら中身はクリームパンとジャムパン。夢野が戸惑っていると、なおが一つ手に取って、彼に投げ渡した。ラベルには『クリームパン』と書かれている。
「食べなよ。小腹空いたでしょ」
「あぁ、僕はいつ帰れるのかな……」
包装を開けて、夢野はもちもちとしたパンを頬張り、その甘さに気付けば涙を流していた。
「…………」
なおは気まずそうな顔で黙り込む。そんな沈黙を破るように、どこからか着信音が鳴った。
「あ、私じゃないです」
「なら私ね……あ、砥川さんからだわ」
電話に出ると、いきなりさやのの声が耳へ飛び込んできた。必死そうな声でなおの名前を呼ぶ。
『先輩!今、海浜公園の方に友達と来てたんですけど……ちょっとヤバいんです!多分、魔法少女が……』
「分かった、すぐ向かうわ!駅で待ってて!」
『はいっ!』
「まざるちゃん!」
電話を切ると、まざるの名を呼びながら急いで支度を始める。まざるも二つ返事で彼女に続くと、夢野を室内へ取り残したまま扉を開けた。
「夢野くん、私たちが帰ってくるまで絶対に外に出ないで!あと何かあったら連絡すること!いい!?」
「はっ、はいい!!」
バァン!と勢いよく扉が閉められ、夢野を1人残したまま、事務所は静寂に包まれた。
――――――――――
「さやのちゃんですか?」
「ええ、海浜公園の方」
「ちょっと遠いですね……」
電車に乗る時間すら惜しい。屋上をピョンピョンと跳び移りながら目的地へと急ぐ2人。
「魔法少女……」
「砥川さん、無事だといいけど……」
嫌な予感がする、と顔を強ばらせながらソードは考えを巡らせる。そうこうしているうちに、海浜公園が見えてきた。集合場所はその手前にある駅。
2人は着地と同時に物陰で変身を解き、さやのの待つ駅へと走る。
「あっ、さやのちゃ〜ん!」
「あっち!あっちの方に!」
焦りと恐怖からか、必死に訴えながら指をさした方向へ駆け出す。何が起きているのか検討もつかない。とりあえず現場へ向かおうと、彼女の後を追いかける。
「さやのちゃん!魔法少女が出たって!?」
「ううん、私も姿を見たわけじゃないんだけど……そうとしか思えなくて。とりあえず2人には見てほしいものがあって」
驚くほど静かな公園に3人分の足音が響く。さやのにナビゲーションされ、着いたのは海に面した広いスペースだった。『こっちこっち』とさやのが指さしたのはアーチ状の通路がある方向。そちらへまざるが1歩進んでみると、何故だか分からないが、寒気がした。
「まざるちゃん?」
「え、いや、なんでもないですよ」
「うっ……」
通路の中。どこからか異臭がする。嗅いだことの無い生臭さ。進めば進むほどにそれが強くなっていく。ここを抜けた先に何かがあると、まざるは拳を握る。
「こっち……です」
通路を抜けると、さやのは目に手を被せながら横を向いた。
「あぁ……!!」
赤。青みがかったコンクリートの壁に、べったりと赤い塗料のようなものが見える。それの正体に気付くのは簡単だった。それが塗りつけられた壁のすぐそばに、スーツを着た男性がぐったりと倒れていたからだ。
「大丈夫ですかっ!?」
眠っているような表情の男性になおが接近して、返事をするように声をかけてみるが反応は無い。必死の形相の彼女に、後ろからさやのが声をかける。
「……もう、ダメみたいなんです」
「う……」
受け入れられないと、涙目でさやのを見るが、彼女は真顔で、悲しげに首を横に振る。
まざるはと言うと、目の前の残酷すぎる光景に圧倒されてしまって、腰を抜かしてその場に座り込んでいる。
「無数の切り傷……。怪人、それとも、青の魔法少女?なんて惨いことを……さやのちゃん、救急は――」
「呼びました。そろそろ、来ると思います」
話す2人の傍。目の前の光景に耐えかねたのか、まざるの目から涙がこぼれる。
「まざるちゃん……」
なおは丸まった背中を撫でながら、慰めるように話しかける。
「絶対に見つけましょう。それで、絶対に倒す。こんな惨いこと、繰り返させるわけにはいかないわ」
「うぅ〜っ、なお先輩ぃ……」
まざるはなおに抱きつき、更に涙を流す。なおはただ黙って、その体を受け止めた。
「…………っ!」
2人を見るさやのの体が、ワナワナと小さく震え出す。
「ブハッ!」
――あっ、もうダメだ。
2人の様子があまりにおかしくて、ついに堪えきれずに噴き出してしまった。
「アッハハハハ!」
「と……砥川、さん?」
高らかに笑うさやの。まざるもなおも、ポカンとした表情で彼女を見た。
「いや〜、なんて言うのかな?絶対に見つけようとか、言ってたけど……アハッ!」
光の粒が集まってきて、さやのの足元が青色をしたそれを纏う。
「いるのに!いや、いるじゃんっ、ここにさッ!」
足元を包んでいたそれは首元にまで伸び、全身を包んだかと思うと、激しい光とともに弾ける。
「ほ〜んと、面白おっかし!もう少し遊ぼうと思ったけどやっぱ無理!どれもこれも夢野くんが失敗しちゃったせいかな?後でおしおきね」
特徴的だった水色のツインテールは更に伸び、全体的なシャープな印象を与える衣装。右手には小さなナイフを構えて、ニヤついた目を2人へ向けた。
「断裁の剣。オトギカット」
「そう。そういうこと、ね」
同じように、足元から首筋にかけて光の粒を纏うまざるとなお。流していた涙の粒も光とともに吹き飛ばして、2人の魔法少女が青の魔法少女――オトギカットを睨みつける。
「もう、私たちが名乗る必要も無いでしょう?」
「はいはい、じゃあ死んでねー」
余裕そうにそう言うと、右手を勢いよく振り上げ、手に持つナイフの刃が空を切った。
直後。激しい痛みがジャムの右腕を襲う。
「うあっ……!」
「ジャム!?」
「どう?痛い?痛いよね?」
何が起きたか理解が追いつかないまま、目の前の少女の狂気が加速していく。自身の恐怖や悲しみが、怒りに変わっていくのを実感する。
「痛いけど……負けないから!」
「わーお、めんどくさ」
魔法少女vs魔法少女。光と光が、力と力がぶつかり合う戦いが今、勃発する。
お読み頂きありがとうございます。青の魔法少女の正体、それは……って、ちょっと分かりやすすぎましたかね?是非感想で教えてください。
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