轟音が鳴り響いたかと思えば、今度は真逆に物音一つない静寂の世界が辺りに広がった。地面のタイルは所々に煤が付いていて、やや焦げ臭い。
「はぁ……はぁ……」
仰向けに倒れている、制服を着た女子高生。かたやその姿を黙って見ている魔法少女2人。片方は息を切らして、もう片方は体中ボロボロだ。
「ハハ……私たちの勝ちよ」
「…………うっ」
右手にズキッとした感覚。見てみると、エネルギーを集中させすぎたためか、腕は黒焦げになっていた。
「ちょっと、黒焦げじゃない」
「あ、あっはは……」
しばらくして、気絶していたさやのが口を開いた。
「おしゃべりは……終わり、かな?」
「「!!」」
「もう……動けないよ」
警戒する2人。さやのはそのまま続ける。
「……まさか、あれをものに出来るなんて。思いも……しなかったよ」
「私――さやのちゃんになんて声かければいいか分からないよ」
「はは…………」
直後、彼女の体から光の粒が溢れ出た。解放された光の粒はポロポロと動くが、やがて2人の方へ吸い寄せられていく。
「……!」
「ざっと7つくらいかな……。どっちが多く貰えるかな」
冗談交じりで話すさやの。光の粒を吸収した2人が変身を解除した瞬間。自分たちの来た方向から何か大きな物音が聞こえた。ただの足音などではない。これは――
「――まさか!」
重く鈍い音を立てながら何かが着地する。人型の黒い影。恐る恐る顔を上げると、少し離れた段差の上には紫色の魔法少女。
「グラビティ……!」
「よお。何してんだよ!こんなとこッ、で!」
手に携えた紫色の弾を放つ。ジャムは咄嗟にバリアを展開し、それを完璧に防ぐ。
「マッジで気に食わない。しかも…………」
何か言いかけて、2人の方へ飛んできた。周囲をぐるりと見回したあと、続けた。
「おい。なんだ?これ。お前らがやったのか?」
「……ええ。派手にやったわ」
「ハッ、そこに居ンのは?」
グラビティはさやのに鋭い目線を飛ばす。
「青の魔法少女……聞いたことは?」
「ふぅん、それがこいつってわけか」
「あなた、何しに来たの!?」
ジャムが怒ったような口調でそう言うと、グラビティは首をグイッと彼女の方へ向ける。
「やけにうるさいみたいだから、もしかしたらまたアンタに会って、ボコボコにして跪かせられるんじゃないかと思ってさ」
「……ッ!」
戦闘態勢をとるジャムとソードだが、体に力が入らないようで、足が若干震えている。
「しっかしさぁ〜、なんか興醒めだ。今日はこれだけで済ませてやる……よ!」
瞬時に右手にエネルギーを集中させたグラビティ。小型だが高威力の光弾を投げ放ち、ピョンピョンと飛び跳ねてはどこかへ消えていく。一方ジャムはというと、もうバリアを貼る力すらも残っていなかった。
「危ないっ!」
焦る彼女をソードが突き飛ばす。紫の光弾は何にも衝突せずに、空を切ってはどこかへ飛び去っていく。
「ソード……ありがとう」
「いいのよ。これくらい」
ジャムと、彼女に覆い被さるような姿勢をしているソードの目が合う。なんだか急に照れくさくなって、ソードはぷいっとそっぽを向いた。
――――――――――
「金陽さん聞いた?この間、魔法少女同士が戦ってたんだって」
「あ……。海浜公園の方だよね。なんか、救急で運ばれた人もいたって……」
「ええっ、そうなんだ……。なんか、怖いね」
夕方、通学路で。かわるとうみが横に並んで世間話。魔法少女というただの噂は、巷ではもはや確信に近くなっていた。
「ね、聞くかどうか迷ってたんだけど……金陽さん、その怪我、どうしたの?」
うみの膝にはグルグルと包帯が巻かれている。
「え、えっと……体育の時間にこけちゃって」
「大丈夫?痛くなかった?」
「うん……」
嘘である。足を引っ掛けられたせいで転んでしまったし、今もズキズキとした痛みがある。かわるを心配させまいと、本当のことは言わなかった。
「あ、お姉ちゃん!」
「えっ、あっ、かわる!?」
何を話そうか、少し気まずい空気だな、なんて思う2人。たまたま前方を歩いていた姉のことに気付いたかわるが目を輝かせた。歩くスピードを上げたかわるに、うみはなんとか追いつこうと。
「お姉ちゃんも今帰り?」
「うん、そういえば下校中には初めて会うね、私たち……。あ、横にいるのはお友達?」
「そう、金陽さん」
「あっ、はじめまして」
少し姿勢を落として話すまざる。うみも覚束無い会釈をして、そわそわとしている。
「じゃあ私、ちょっと寄り道して帰るから。かわるも金陽さんも色々と気を付けてね!」
少し話したあと、まざるはタッタッタッと軽い足取りでどこかへ歩いていく。どこへ行くのだろうか、そう見ているうちに姿を見失った。
「苺園さんのお姉ちゃん、優しそうだね」
「うん、優しいよ。ちょっとドジだけど……」
「金陽さん、魔法少女って……どう思う?」
「……難しい、かも」
「私はちょっと憧れるなぁ。お姉ちゃんとか助けてあげたりして。悪いやつらもやっつけて世界平和だよ!」
なんて言っているうちに、お別れの時間だ。小さく手を振るうみの中で、かわるの言葉が響く。
(魔法少女、か…………)
ぎゅっと、拳を握る。風に吹かれて、少女の髪がさらりと揺れた。
――――――――――
「ねぇ、砥川さやのさんっているかしら」
同日の昼休みのことだった。まざるを横に連れたなおが、1年生の教室があるフロアをカツカツと歩いている。彼女のいるクラスを突き止め、扉を開けてそう言った。
「え?砥川?まぁいますけど……。おーい!砥川〜」
「はいは〜い!」
奥から聞こえたのは威勢のいい返事。2人の前に姿を見せた少女は、彼女とは似ても似つかない容姿をしていた。
「……?」
「え?」
温厚そうな顔立ち、穏やかな目付きに可愛らしいオレンジのお下げ。怪訝そうに2人の顔を覗き込む彼女を前にして、2人は困惑して言葉を詰まらせた。
「んんっ……」
一旦仕切り直しと言わんばかりになおが咳払い。数秒気まずい空気が流れて、彼女が口を開く。
「えっと、ごめんなさい、人違いだったみたい」
「えぇっ?」
「同姓同名かしら。こう、水色の髪をした、クルッとしたツインテールの……」
ジェスチャーで髪型を表してみると、お下げの少女は何か思い出したような表情。
「あっ、もしかして
「……!そう、そうかも。知り合い?クラスは分かる?」
「えっと、クラスは同じなんですけど、ここ最近休んでいて。何か伝言ですか?」
冷や汗がたらりと垂れた。なおは口を開いて何か言いかけるが、声も言葉も出なかった。口を閉ざして俯いて、再びお下げの少女に向き直っては、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとう、砥川さん」
「いえいえ」
先程と変わらぬ歩調で再び歩く。まざるからメガネ越しに見えるなおの瞳が、どこか悲しそうに揺れた。
「砥川さん――いや、切木さん、か。結局、私たちは最後まで騙されてたわね」
「なんか……なんでこんなことになっちゃったんだろうって。そう思います」
お読み頂きありがとうございます。さやのちゃん、なんて恐ろしい子なのでしょう。次回をお楽しみに!