あの激闘から数日が経った。夏が近付いてきて、気温も日に日に上昇してきている。そんな中、まざるは平和に変わらぬ日常を過ごして、甘いものを食べて、雑誌を読んで、ゲームして動画を見て、時折魔法少女として活躍して、肉片を集めて。もはやいつもの日常に魔法少女が含まれているが、これといって変わったこともない。
そして、またいつもと変わらない素晴らしい朝がやってくる。今日は学校だ。朝ご飯を食べたまざるは制服に着替えカバンを背負う。
「行ってきまーす!」
家族に見送られて家を出る。今日の風は、なんだか一段と心地よかった。
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――今日も今日とて最悪だ。教室の机の中が粘ついている。これはノリだ。糊。
登校して早々、うみは最悪な気分だった。一体誰がやったのかは知らないが。教室備え付けのティッシュを何枚か取り、粘つくそれらを拭き取っていく。
(こんなしょうもないこと……あいつらしかしないだろうな)
チラッと横を見ると、自身をいじめている女子生徒の集団がクスクスと笑っている。
(本当に、あたしって何なんだろ)
――放課後は、ほとんど毎日苺園さんと帰るようになった。なんでもない話をするだけで楽しい。
「でね、先生が言ったんだよ。風邪対策には手洗いうがい森鴎外って。何言ってんだかねー」
「……」
「それでさ、この空気どうするのって感じでさ。まぁ、その瞬間にチャイム鳴ったから何とかなったんだけどね」
「あははっ!」
――彼女と喋って、笑っている瞬間が一番楽しい。私が笑って、あの子が笑う。あの子が笑って、私が笑う。帰り道の距離がもっと長くならないかな、なんて思ってしまうほど。
「……あっ!」
「んん?」
分かれ道。いつもならばここで2人は別れることになる。苺園さんの家までついて行ってもいい?なんて言おうとしたが、結局勇気が出ずに、口をつぐむ。かわるは不思議そうな顔でうみの顔を覗き見るが、結局手を振って行ってしまった。
「う〜ん……」
切なげな表情。うみは振り返らない彼女に手を小さく振って、億劫そうに家へと向かう。強い光を放つ太陽が、ゆっくりと雲に隠れた。
――――――――――
打って変わって、次の日は雨だった。傘が雨水を弾く音がうっとうしい。
「うみちゃん!お・は・よっ!」
べちゃっ!突如肩に衝撃。妙な音と感触、どうやら雨水を纏った手で叩かれたようだ。
「もう、挨拶してあげてるのに……じゃあね?」
彼女を追い越した茶髪の女子生徒が、ニヤケ面で振り返る。
――ああ、イライラする。
「〜〜っ!!」
うみは教室に着いて席へ向かった。彼女は仕掛けられていたイタズラに全く気付かず、椅子に座ってしまう。水だ。少量の雨水が椅子に張られていた。肩だけでなく、スカートにもひんやりとした感覚。
「おはよう、金陽さん。雨は嫌ですよね……」
金髪の女子生徒が白々しくうみに話しかけている。普段の行いから、これも彼女が仕掛けたイタズラであることは明白だ。
「…………」
――落ち着け、落ち着け私。ここで怒っちゃダメだ。
上がった心拍数を抑えて、ぐっと拳を握って堪える。ふと顔を上げると、ニヤつく彼女の顔。瞳。それを見てクスクスと笑っている取り巻きたち。
「ああ――」
「……?」
「やっぱ無理だわぁ!」
うみが突如として放った、強烈な右フック。金髪の少女はよろめき、ただただ現状に困惑している。
「な、ななな殴って……」
「ああァァァァッッ!!」
雄叫びと共にうみの周辺にあった机や椅子がふよふよと浮かび上がる。異様すぎるその光景にクラス中が目を奪われる。紫色のオーラが放出されて、浮かび上がった机が一斉に音を立てて落ちた。
「な、ななな何なのよこれ……」
「本当にごちゃごちゃよく喋る」
誰のものか分からない消しゴムが、見せしめのように目の前で粉々に砕かれる。
「最初からこうしてればよかったんだ、あたしが!!」
うみの姿が変貌する。と同時に、紫色のオーラが周囲に放たれる。ずっしりとした感覚。まるで辺りの重力が一気に強まったような。その場にいた誰もが座り込んだ。立てないのだ。
「ひ、ひあぁ……」
金髪の生徒はすっかり気絶している。その光景はまさに地獄であった。茶髪の生徒は怯えた目でうみ――オトギグラビティの姿を見る。
「ホント、ムカつくんだよ……!」
窓をガラリと開けて、紫色の閃光が飛び出した。ピシャーンと、雷が鋭い音を立てて落ちる。
静寂に支配された教室。しばらくして、どこかから轟音が響いた。
――――――――――
「あああああっ、イライラする、イライラする――!」
右手に生成した紫の玉がどんどん大きくなっていき、どこに当たるかなんて考えないままそれを投げる。
これを解消するにはどうすれば。どうすればどうすれば。
「――!」
ハッと思い出したのは、桃色の魔法少女。猛攻を尽くそのバリアで受け止めた厄介な魔法少女。グラビティはそれを排除したくてたまらなくなった。
「あいつを倒して、もっと強くなって……あたしは……あたしは……!あああああっ!!」
靴の裏。紫色のオーラが力強く噴出され、ジェット機のように紫電が空を駆ける。
様々な場所でエネルギー弾が爆裂していく。グラビティの感情に呼応するように、どんどん雨の勢いも強くなってきて、雷もあちらこちらに落ち始めている。
そんな中、家のドアを静かに開ける者1人。薄紅色の髪は風に吹かれ、その風に乗って来た雨粒が付着する。
「嵐……?」
まざるの瞳に映るは暗い曇り空。黒雲を裂くように走る一筋の光が、とても眩しく見えた。
「行かないと……!」
何故だか、身体の奥底から使命感のようなものが湧き出てくる。首をぶるっと左右に振ると、扉をガッと開けた。
「とおっ!」
紫色の光を追いかけるように、桃色の光も空を駆ける。雨が止む気配は、ない。
――――――――――
「待ってよ!」
「あぁ……?」
ぐんぐんと速度を上げて次々に屋上を転々と移動するジャム。彼女の声に反応して、飛行する魔法少女は後ろを振り返った。不機嫌そうな顔をしていたが、彼女の顔を見るなり歪んだ笑みを見せる。
「ヘッ、ハハハッ……会いたかったぜ、ピンクちゃん!」
「オトギジャムだよ……グラビティ!」
どこかの広い公園に着地した2人。強烈な視線を交わすと、同時に右手にオーラを纏った。一方は紫色のエネルギー。もう一方は桃色の電流。
「死ねぇっ!」
放たれた打撃を、がっしりと手のひらで受け止めるジャム。その目はしっかりとグラビティの姿を捉えている。顔が歪み、汗が垂れる。彼女も手にオーラを纏っているとはいえ、力比べではどうしても劣ってしまうのだ。
「何があったのかは知らないけど、私があなたをここで止める!」
「この力はやっと掴んだあたしの力……!お前なんかに止められるわけ……ないだろっ!」
なんとか拳を振りほどいたジャム。間髪入れずにグラビティはエネルギー弾を投擲する。
ジャムはバリアでそれを消滅。もはや何回も見た光景だ。反撃の手立てを考えていると、空中から声が聞こえる。
「あたしもバカじゃない!対策くらいわかってるっつの!」
――しまった。本命はこっちだ!
先程の攻撃は目くらまし。いつの間にか跳び上がっていたグラビティは蹴りの姿勢。禍々しいエネルギーを纏った足が、眼前に迫る。
「ぐうぅっ!」
展開していたバリアの向きを変えて、蹴りを受け止めようと試みるが、流石に防ぐことはできず、パリンとガラスのような音を立てて割れる。爆発音が轟き、ジャムは後方へ吹き飛ばされた。
「やっぱアンタ1人じゃただのザコ!ザコザコザコザコ!!」
ギューンと音を立てて彼女へ急接近。右手にエネルギー弾を握りしめ、勢いをつけパンチの姿勢。
「ッ!!」
当たればまずい。間一髪のところで避けると、彼女の握っていたものが爆裂し、その爆風で再びジャムは地を転がる。
「嬲るのは趣味じゃないからさ……さっさと死ねよ……」
哀れみか、蔑みか。グラビティは鋭い目つきで、雨に打たれる彼女を見る。
「……ないから」
「……あ?」
「負けないから!!」
バチバチと、電気の音。
「私は……あなたなんかに、負けないから!!」
雷鳴が轟く。白い光が2人の視界を奪った直後、ジャムの両腕に電流が走る。バチリバチリとそれを纏い、両腕を前方で構えた。
「こういうの、なんて言うんだっけ……第2回……じゃない、えっと……そう!――『第2ラウンド』だよ!」
今回もお読み頂きありがとうございます
……投稿前には文章を見て誤字を直していく工程を1回挟むのですが、この回は誤字脱字やよく分からない文章がかなり多くて頭が痛くなりました。多分、書いてる頃の私はかなり疲れていたんだと思います。
もし誤字脱字があればぜひ教えてください。励みになります!