「何これ……どうなってるわけ?」
目の前にいるのはまざるを抱いている学生。背丈からして中学生だろうか。見覚えのない制服だなどと情報を整理しながら、なおは呟いた。
隣にいたムネツグも混乱しているようで、冷や汗をかきながら目の前の光景を同じく見ている。
「お前ら……仲間だろ……」
目の前の少女が、確かにそう言った。こちらに気付いて、振り向いてそう言った。
「こいつを――」
声を聞いて、その主――彼女がグラビティであることに気付く。言葉の続きが聞けないまま、彼女は後方へ倒れ込んだ。
――――――――――
同時刻、とある山で。嵐の中雷に紛れて墜落した一つの宇宙船の扉が開いた。機械的なそれがウィーン……と音を鳴らすと、中から1人、男が現れた。
「ふーん……。地球って、思ったよりも重力きついんだね」
自身の乗ってきた船を見ながら。土が凹みめり込んでいる。草木の少ない場所に墜ちたため、奇跡的に火事などにはなっていなかった。
「ウォルオル……それに、ケルウェイル。次こそ完璧に消してあげるよ。この宇宙からね……」
ニヒルな笑顔を見せて、船に背を向ける。木々のざわめき、鳥のさえずりに心躍らせながら、ぬかるむ大地を静かに歩き始めた。
――――――――――
「あ、えっと……あの……枠島さん!起きました!」
――目が覚めて聞こえたのは、男の声だった。声はオドオドとしていて少しイラッとする。
「ありがとう、夢野くん……」
――メガネをかけた女が、こちらを見ている。
手を拘束され、地面に座りこんでいるうみの意識はまだやや朦朧としているが、それが先程自身が声をかけた女だということは理解できた。
「さて、私から話してもいいかしら?」
沈黙。肯定のサインと捉えたか、なおは話し始めた。
「まずは、そうね……。まざるちゃんの目がまだ覚めてないから、少し量が多いとは思うけど……」
早く話せ、と言わんばかりにうみは彼女を睨みつける。なおはメガネをクイッと上げる。
「まず1つ目、あの公園で何があったの?」
「…………力の奪い合いだ。見りゃわかるだろ」
弱っていてもその口の悪さは変わらないのか。そう言いたくなるがなおは何とか堪えて、質問を続ける。
「何がどうなってそうなったって言うのよ……」
「ハッ!あのジャムをボコボコにしてやりたかったからに決まってんだろうが」
「……そう……そうね」
「私にジャムを託した理由は?」
先程まで反抗的な態度を見せたうみは急に黙ってそっぽを向く。
「ま、いいわ。ただ私の好奇心ってだけだもの。……で、次は――」
そう言おうとした瞬間、うみが口を挟んだ。なおはムッとした表情に一瞬だけなった。
「お前ばっかり質問するのは不公平。あたしにもいろいろ聞かせろよ」
「……何が聞きたいの?悪いけど、教えられないことは教えられないわよ」
「お前たちはどうして戦う」
「……は?」
思いがけない質問に、思わずそう聞き返した。
「だから、何のために戦うかって聞いてんだよ」
――そんなこと、あまり深くは考えていなかった。でも、どうして戦うか、なんてことはきちんと言える。
「仲間のためよ。ムネツグさんが自分の仲間とともに帰れるように、肉片……この力を集めているの」
「そうか…………」
それを聞くと、再びうみは寝転がる。目をつぶっているところからして、もう一度眠るつもりだろうか。
「あ――」
先程しようとした質問がまだ出来ていない。なおは引き留めようとしたが、優しく目を瞑るその顔を見て、ピタリと口をつぐんだ。
「枠島さん、よかったんですか?」
「ええ。今はゆっくり眠らせてあげようかな、って」
「出前でも取ります?」
「賛成。中華の気分」
――――――――――
「うみちゃん!それ私のアイス!」
「あぁ?知らねえよ、名前でも書いてろや!」
「そんなぁ!」
その日の晩のこと。騒がしい声が事務所内に響く。朝の激闘をもう一度繰り広げるのではないかと、なおはヒヤヒヤしながらそれを見ていた。
1、2時間前のことだ。2人の目が覚めたのはほとんど同時刻だった。互いの瞳を見て、そっぽを向く者、照れながら目線をずらす者。
「金陽さん。……ううん、うみちゃん。私、うみちゃんの言ってたこと、少し分かる気がするんだ」
「…………」
「私も、どうしようも無くなって、とても落ち込んじゃった時があって。その時ね、絶対的な力が欲しいって思ったから」
俯きながら話している彼女の脳裏に、かつて戦ったクラスメイト――江崎の顔と声、そして銃の怪人のシルエットがよぎる。
「あたしさ。……とにかく力が欲しくて。せっかく手に入れた力を、誰にも奪われたくなかった。だから、いろんなやつらを倒してきた。悪いやつも良いやつも、いろいろひっくるめて」
「うん…………そっかぁ。なら、さ……」
ゆっくりと、そっと優しくうみの手を包み込む。
「私と……私たちと、一緒に戦ってくれないかな。私たちは……強くはないかもしれないけど、うみちゃんを守れるくらいの力はあると思うんだ」
そして今に至る。ドタドタとうみを追いかけ回していたまざるが、今度はグルグルと目を回してバタンと仰向けに倒れた。
「きゅう〜」
「コラッ、喧嘩しないの……!」
「ちぇっ」
前までの緊迫していた雰囲気が嘘のように、妙に団欒としていた。
「しかしまぁ……またとんでもないのが仲間になったわね。ね?夢野くん」
「は、はぁ……」
オトギグラビティ改め、金陽 うみ。中学2年生で性格は少しわがまま、まざるの妹と仲がいい。好きな食べ物はビーフシチューで趣味はゲーム。
――ただの生意気な中学生って感じよね。
目を細めて2人の姿を見ていると、横にいたムネツグの方に視線が無意識に動く。なんらかの予感が的中したのか彼は立ち上がって、自身の方へ全員を集めた。
「皆、少し聞いてくれ」
「グラビティ――うみには馴染みのない話かもしれないが……」
うみと目が合って、彼女の名を呼び直す。そして、続けた。
「俺たちの肉片集めはもう終わりかもしれない」
「……?」
「えーっと、どういうことですか?」
よく分からない、と首を傾げながら、まざるが手を挙げて聞いた。
「オトギソード、ジャム、カット……それにグラビティ。きっと魔法少女は増え続けている。つまり……これからは魔法少女と戦うことになっていくだろう」
「ハッ!誰であろうとあたしが全員叩き潰すだけ!」
自信満々に両拳をぶつけるうみ。ムネツグはこくりと頷いて、自身の右手を指さす。
「今まで集めた肉片はソードが12、ジャムが11。そしてグラビティが15……俺の持つ1つを合わせて合計39。残り61。もうほとんど他の魔法少女のもとへ行ったと俺は考えている」
「そう……ですね。私も概ね同感です」
「戦いたくないなぁ……」
「ビビってんのか?」
「いや、そうじゃないけど……カットと戦ったときみたいに、殺すとか殺されるのとか、やだなって」
「お人好しだねぇ……全く!」
腕を組んだうみがソファの上へ立つ。腰に手を当てて、誇らしげに高らかに叫ぶ。
「全部あたしに任せろって!あと腹が減ったから何か食わせろ!」
「うみちゃん、行儀が悪いわよ?」
「うっ……」
ペシッとはるのチョップを受け、沈むようにソファに寝転がる。
「な、なんか……びっくりです。あの人が仲間になるなんて」
「まぁ、私は彼女よりもあなたがここに来るようになったのが一番の驚きだったけど?」
「そ、そうですか?……なんだか、ここは落ち着くっていうか……」
恥ずかしそうに語る夢野に、なおがそっと笑いかけた。
(初めは3人だけだったここも、随分と賑やかになったわね……)
なおの脳裏にふと、少し前の光景が思い浮かんだ。3人でテーブルを囲んで、適当なお菓子を食べている。あれからまた3人増えて、同じようにまたお菓子を食べている。
(人数が増えてもすることは同じ、ね……)
舌が砂糖の甘さに触れる。それが何故だかいつもより甘く感じて、なおは静かに微笑んだ。
お読み頂きありがとうございます!第2章完結です!
でも物語はまだまだ終わりません。次の更新日からは第3章開幕です!新しい魔法少女に新しい敵!乞うご期待!