「あいさちゃん!おはよ!」
「…………」
なおがまざるの姿をじっと見ている。
「あいさちゃん!おはよ!」
「…………」
なおがそう叫ぶまざるの姿をじーっと見ている。
「あいさちゃん!おはよ!」
「…………」
事務所の壁に向かって叫ぶまざるをじーっと見ていた。
「おい早苗!あのバカは何をやってんだ?」
「えっ僕!?さ、さぁ……何でしょう、挨拶の練習?」
「あぁ……?なお!何してんだ?」
「さぁ?挨拶の練習みたいよ。明日学校でまた勧誘してみたいんだって」
3人は並びながらまざるの姿をじっと見た。疲れてきたのか、恥ずかしくなってきたのか、まざるはふぅ、と息をついてそれをやめた。
「きっと大丈夫!恥ずかしがってるだけだって。もっと仲良くなれば、心も開いてくれるよ!」
「ケッ、そんなもんかねぇ」
「まぁ、それにしても相手のことをもっと知らないとね。カットの時みたいになったら困るし」
コンビニで買ってきたスルメをちゅうちゅう食べ始めると同時に、なおが静かになる。まざるも水を飲み始めて、静寂が訪れた。
――――――――――
「あいさちゃん!おはよ!」
本番!教室に入って早々、まざるはあいさの席へ行って彼女へ挨拶。
「あ、……うん、おはよう」
「…………」
「…………」
空気が、凍りついた。今思えば、挨拶を練習したとて会話が盛り上がるわけでもないのだ。
「うどんといえば……天ぷらだよね!」
「あ…………私は、お寿司も、好きかな」
次に話したのは授業中。過去のものと比べて会話が少し盛り上がったような気がして、まざるは少し嬉しかった。
「お寿司……いなりとか!」
「うん…………いなり…………」
「私もいなり好き。甘いのがいいよね」
「うん……」
――そういえばいなりは最近なかなか食べていない。
まざるは頭にいなり寿司を浮かべてみた。無性にお腹が空いてきて、腹がぐぅと音を立てた。
「あぅ……」
「……」
「そうだ!ね、あいさちゃん……」
「……?」
本題を思い出し、手をぽんと叩くまざる。あいさは首を傾げた。
「昨日のこと、もう1回考えてくれない?」
「うーん……」
前髪越しに、あいさの瞳が揺らいだ。
「むぬぬぬ……」
じーっとその目を見るまざる。あいさは彼女から瞳を一切逸らさずに答えを出した。
「ごめんなさいっ……えと、私、い、苺園さんと違う目的で戦ってるから……やっぱり、あ、あなたとは一緒に戦えない……」
「そっ、か……」
瞳揺らげど、意志は揺らがずか。
――いや、待って。今なんて言った?
「……あいさちゃん、今――」
その瞬間、耳から聞こえた音にハッとした。授業の終わりを知らせるチャイムでまざるの言葉は遮られる。椅子の動く音が鳴り響く。聞くタイミングを逃してしまった。
(さっき、確かに違う目的って……。うみちゃんみたいに力を集めて強くなるため?それとも誰かのため?何か別の……うう、後で相談だなぁ……)
――――――――――
「ってことがあったんだけど」
「へぇ」
何か考えているなお。その横でプルプルとうみが震えている。
「怪しすぎるだろ!」
「え、でも……」
「大体お前はお人好しすぎんだ!かわるも言ってたぞ、お前は人を信じすぎるって!」
「えっ、ちょ!なんでそこでかわるが出てくるの!」
「あーも、うだうだ口論してないで。冷静に話しましょうよ。……とはいえ、本人から聞いてみないと分からないことだらけね。うみちゃんのような動機でなければ、きっと何らかの組織や人物がバックにいる。それで、バックの奴らは肉片を集めて何かを企んでいる、ってのが私の予想ね」
「ふ〜ん。なるほど一理ある」
「えっ、うみちゃんは理解できたの!?」
「あのなぁ……」
1回で理解できなかったまざるのために、なおがペンと紙を用意してわかりやすく図にしながら説明。頷くまざるを見る限り、今度は理解できたようだ。
「ふむふむ、なるほど〜」
「っていうわけよ。そうなると、彼女の勧誘はいよいよ無理ってことね。さて、どうしたものか……対立して戦闘になる、なんて避けたいところだけど……」
これ以上は考えても仕方ないか、となおが伸びをすると、夢野が奥から飛び出してきて、3人にスマートフォンの画面を見せる。
「で、出ましたっ!ユウナンの方にっ肉片が!」
「っしゃあ!行くぞ!」
「そういえば、3人で行くのは初めてだね!」
期待と希望を握りしめて、3人は意気揚々と飛び出した。
――――――――――
「見つけた!」
都会にある複合施設ユウナンとその周辺、3人は黒い影を捉えた。低いビルの屋上から跳び降りながら、名乗りを上げる。
「痺れる春の嵐!オトギジャム!」
「誠実なる剣!オトギソード!」
「なっ……これあたしもやんのか!?あ〜〜〜、もう!」
少々ノリの悪い少女が1名。結局その場の空気に負けて、遅れて名乗りを上げる。
「破壊の紫電!オトギグラビティ!……ッハァ!」
前言撤回、かなりノリノリだ。スタイリッシュに着地した彼女らは、街に出没した肉片の姿を見る。
「…………?」
が、様子がおかしい。引っこ抜いたのであろう道路標識をグイグイと曲げたり、持ち上げたりしている。それはまさに、遊んでいるような。それに、今になって見てみると今まで見てきたものの姿と特徴が異なる。個体差はあれど、今までのものはあそこまで筋肉質のようには見えなかったし、何より今回の個体は体色がやや青い。
「よく分からないけど、とりあえず倒そっ!」
ジャムが先陣を切って、拳に電気を纏いながら突撃。放たれた打撃と、相手の振るった道路標識がぶつかる。
「あぎゃ!?」
予想外の反撃。しかも、それが思ったよりも重かったらしく、標識はへこんでしまったが、ジャムを後方へ突き飛ばすことには成功した。
「ジャム、大丈夫!?」
「う、うん。余裕ですっ……」
受け身をとって、睨みつける。変な行動をしているが、パワーは今までのよりも強いかもしれない。ジャムはぐっと体に力を込めた。
と、その時だった。風を切る音とともに空から誰かが降りてきて、車両用信号機の上に真っ直ぐと立つ。朱いオーラを纏う大男。彼は彼女ら、そして青黒い影を見下ろしながら言う。
「よぉ、魔法少女ども!この俺様が作った分身はどうだ!重く、硬くしなやかで強いだろう!まぁ、少々好奇心が強すぎるがな!ガハハッ!」
豪快な口調。大袈裟に笑う。男は首と肩をグリグリと回して、パキパキと音を鳴らした。
「我が名はベイス!そしてこれは……貴様らへの宣戦布告だァッ!!」
高く跳んだかと思うと、着地をすると同時に両腕で地面を叩きつける。アスファルトの砕ける音が鳴り響き地面が揺れる。衝撃波が放たれて、魔法少女たちが仰け反った。
「何……なの……!?」
「もしかして……あれがあいさちゃん――アッシュの!」
「なんちゅー筋肉ダルマだっ!?」
土煙が散る。へこむ地面に立っているのはベイス。腕を組んで、余裕げにジャムたちの方を見ている。
「宣戦布告って……一体どういうこと!?」
「そのままの意味だ!俺たちは貴様らの野望を打ち砕きにきたっ!」
「何を言ってるか分からないけど、この世界をめちゃくちゃにするのは許さないからっ!」
「フッ、どの口が言う!ええいこのままでは埒が明かん!こちらから行かせてもらうぞ!」
キューンと音を立てて、朱いエネルギーが右手へ集まる。
何かが、来る!そう確信したジャム。精神を研ぎ澄まし、両目でベイスを捉える。
「ハァァァァァァッ!!」
右手を前に突き出し、目にも止まらぬスピードで猛進するベイス。しかし、ジャムも彼の姿を捉えた。スレスレのところでバリアを展開。
「貴様只者では無いなッ!」
突き破られながらも、両腕で打撃はしっかりガード。痛いが、ここは我慢するしかないと、歯を食いしばる。電磁バリアの影響でベイスの動きが少し鈍ったのを確認すると、仲間たちの方にアイコンタクト。状況を判断し瞬時に動いた2人が彼を囲んだ。
「ふんっ!《グラビティ・ウェイト》!」
「《ストレート・ソード》ッ!」
グラビティの能力で、放った重いエネルギー球から鎖が伸びベイスの足首に巻き付く。ただでさえ鈍っていた動作がさらに鈍化し、身動きが取りづらくなったところにソードが渾身の一撃を叩き込んだ。
「フハハハハハ!面白い!」
ベイスは笑い声とともに強烈な朱い衝撃波を周囲に放出。自身を囲んでいた魔法少女たちを弾き飛ばし、自身の作り出した分身に命令。
「やれぃ、我が分身!」
「しまっ――」
連携はバッチリ。分身の拳はグラビティの体を捉え、強烈なアッパーカット。投げられたボールをバットで打ち返すように、それを宙へ吹っ飛ばした。
「グラビティ!」
ジャムは思わず浮かぶ彼女に向かって叫ぶ。とんでもないこと敵が現れてしまったと、ジャムは頬に汗を流した。
お読み頂きいつもありがとうございます!今言うことか分かりませんが、3章結構長いです!