「かはっ!」
重力に押され、地面に叩きつけられたグラビティ。べたんと仰向けの体を起こして、ベイスを睨みつける。
「ッハ!まだ動けたか小娘!我が分身よ!」
その声に従い、道路標識を持った分身がグラビティに襲いかかる。急いでジャムが駆け出すが、彼女の前に立ちはだかるは朱の巨漢、ベイス。
「そうはさせん!お前らはこの俺が相手だ!」
両拳にエネルギーを集めて、ベイスが拳を振りかざす。
「見切れる!」
「うん!」
回避と同時に帯電!バチバチ音を鳴り響かせる右腕が、パワフルにベイスの胸元に届く。
「ぬぅっ!?」
「もう1発!」
振りかぶってもう1発。今度は左腕でのパンチを叩き込もうとしたが、ヒットする直前で、大きな手にがっしりと拳が掴まれる。
「くっ!」
「吹っ飛ぶがいい!」
彼女を投げようと右腕を乱暴に振り回そうとするベイス。直後、彼の右手を閃光が包み込み貫いた。
「《ソードドラグーン》……」
「ぐうっ……!?」
「ジャム、ぶっぱなして!合わせるっ!」
「っうん!《ジャムパルス》!」
手から放たれた電撃はベイスにダメージを与えるとともに、目くらましとしても機能していた。桃色の電光を裂き現れたのは煌めく剣。
「フハッ!これは驚いた!」
「でしょう?これが連携よ」
斬撃はしっかりと彼の体を捉えて、光の創痕を刻みつけた。思わず仰け反るベイス。その体を蹴りつけて、ソードはその身を翻した。
目配せ。ジャムはその意味がすぐに理解出来た。
(残りのエネルギーは少ない……でも、やるしかないよね!)
「ふぅんっ!《ジャム・サンダー》ッ!!」
手から放たれたのは高威力の電光。バチバチと激しい音を立てながら、ベイスの体を貫いた。エネルギーをたっぷり込めた攻撃。高い防御力を持つ彼でも、これを受けてなお無傷ということはないだろう。
「ぐはぁっ!?」
「グッジョブ!」
戻ってきたソードが、土煙を背にジャムとハイタッチ。2人はじっとその土煙を見る。ベイスのシルエットがうっすらと見えてきて、再び身構えた。
「まだやるっていうの?」
「ああまだやれるさっ!かかってこい!」
「…………」
2人はじっとその場から動かない。土煙が晴れてきて、ベイスの困惑の表情が見えた。
「どうしたどうした!」
あれほどの攻撃を受けてもなお威勢のいいベイス。しかし、2人が彼に攻撃を仕掛けないのはただ怯えているからではない。
「別に。どうやったらあなたに勝てるか考えてただけよ」
「ふっ、愚問だな!答えは明白、『勝てない』だ!攻めてこないならこちらから行くぞッ!」
ドッ……
右腕を振り上げて走り出した瞬間、周囲の地面とともに彼の体が少し沈む。
「……何?」
何かをしたのかと2人を見るが、彼女らも少し後退するばかりで、力を使っている様子もない。
――ならば、誰が?
恐る恐るベイスが後ろを向くと、ただただ地面に伏している分身体と、その前に凄まじいオーラを放つグラビティが。
ジジジジ……
「この……!」
完全なる不意打ち。押し潰そうと迫る紫色のオーラを弾き返すことも出来ない。
「ハッ、ザコ扱いしてくれちゃって。本当のザコはどちらかこのあたしが教えてやるよ」
ドッドッドッドッ……!
笑みを浮かべて、ジリジリと近寄るグラビティ。分身体は光の塵と化し、ベイスを押し潰す力もどんどん強くなっていく。
「ぐううううっ……!」
「このままペラペラにしてやってもいいけど、何しろあのメガネがうるさいし。……まァ、どうしようかね」
膝をつくベイスを視界に捉え、見下ろす。その時だった。
ザアアアアッ!!
何かが流れる音。どんどん音が大きくなる。それ即ち、何かがここに向かっている。
「……!」
「あれはっ!」
その正体。黒い液体が何かを載せながら波のようにこちらへ迫っていた。
「ンだよ、あれは……!?」
「ハッ!なかなかに使えるじゃないか!」
グラビティの方へ押し寄せる正体不明の黒波。発動していた重力波を解いてジャムの方へジャンプ。直後、波がベイスの後ろに到着。彼の体は黒い液体に掬い上げられて、その中へ沈んだ。
「あの黒い水は……まさか!」
「ええ、そうみたいね……」
正体に気付いた2人。遅れて、グラビティも何かを察した。ズズズズとせり上がるようにして黒い液体の上に現れたのは、彼女らの予想通りオトギアッシュだった。
「ごめんなさい……私たちはあなたたちの敵、『ラウェス・シュベリア』」
彼女の瞳は今までの何よりも強く煌めいた。不思議なことに、ジャムには悲しさも切なさもない。ただ、「こうなってしまったか」という思いだけが、彼女の中で響いた。
黒波と共に、ベイスを連れてどこかへ去っていく。プレッシャーに気圧されたか、誰も何も言わないまま、それをただ目で追っていた。
――――――――――
黒波の中。ベイスはもがきながらもごもごと口を動かす。
「アイサ!俺はまだ戦えるっ!」
「だ、ダメですっ!……って、インヴァくんが……」
「なっ、インヴァだと?……あいつ、余計なことをッ!」
激しいベイスの声と、それとは真反対なアッシュの声。異なるトーンの2つの声が黒い空間の中に響いた。
「ベイス、そんな大きな声を出さなくても聞こえているよ」
「なっ!?」
彼の足を掴む誰かの手。彼を脅かすつもりか、ニュッとインヴァの顔が現れた。
「うわっ!」
「絶対そんなことを言うだろうと思ったから、ちょっと驚かせてやりたくてね。……で、危うくグラビティに押し潰されそうになったベイスを僕たちが助けたわけだけど、どうやってあそこから逆転するつもりだったのかな?」
「チッ…………」
悔しそうな表情のベイス。舌打ちをして、うざったくペラペラと喋り出すインヴァを鋭い目つきで睨む。
「まぁそれはさておき。まさかグラビティにあそこまでの力があるとは思わなかったよ。怒らせると怖いんだね」
「ハッ、お前も気をつけろよ。お前は人を怒らせる天才だからな」
「全く酷い言い草だね。君は僕を何だと思ってるんだい?」
少しの沈黙が流れて、2人は顔を見合わせる。
「ガッハッハッハッハ!!」
「あっはは!」
――――――――――
「厄介なことになったな」
どこからかムネツグの声がする。まざるたちが振り向くと、彼がすぐ後ろにいた。
「うわっ、急に現れんな!」
「驚かせてすまない。しかし……」
「ムネツグさん。あのベイスという男、心当たりはありますか?」
「あ!私も気になってました!」
「……すまない。だがあの『ラウェス・シュベリア』……聞いたことがある」
ハッとした顔で、3人はグイッとムネツグの方へ迫る。
「……少し長くなる。だが、一旦帰るぞ。話はそれからだ」
ムネツグはいつにも増して真剣そうな表情を見せた。その目を見て、ジャムはごくりと唾を呑んだ。
お読み頂きありがとうございます!
……構想段階では、アッシュはジャムたちを盛大に裏切る予定だったのですが、すぐ前にカットがそれをやらかしていたのでこういう展開になりました。