「…………」
――今日は、最悪の日かもしれない。
怯えているような表情で、意地でも後ろを見ないうみ。それもそのはず、後ろで腕を組むなおが、メガネをキラリと輝かせてこちらを見ていた。
(あいつ、マジで来やがった……!)
あまりにも若々しいその姿は、他の生徒のお母様と比べてかなり浮いている。3つしか歳が離れていないから当然なわけだが。
現在3時間目、この授業が終われば帰れる。うみはじっと教科書を見つめる。
「で、そうだな……金陽!」
「ひゃい!え、え〜と……」
問題には正解。立ち上がっても座っても視線が痛い。なおがこちらを見ていることを、振り向いてもいないのに何故か分かった。
(うみちゃん……『ひゃい』って……。というか、まざるちゃんがいないと私まで緊張しちゃうわね)
「あいったぁ!足が!」
「えっ、大丈夫ですかっ!?」
後ろの方から叫び声が。よく聞けばその声はまざるのものだった。足でもつったのだろうか、騒がしかったのは一瞬だけで、再び世界は静けさを取り戻した。
そしてチャイムが鳴る。緊張が一気に解けて、なおは体中の力が抜けていくのを感じた。
(はぁ……普段のあの感じの言動で騒がしいのかと思いきや、何よ、人が変わったみたいになよなよして……本当に見る影もないわね)
教室の外で待機。数分、十数分とはいえ退屈なものは退屈なので、学校でのうみの様子を振り返る。
まず、クラスメイトとは挨拶含め一切の会話が発生しない。その上、荒々しかった態度なども一切なく上品そうに見える。先程授業で当てられた時もやや震え声で、その声も小さい。まざるが見ればきっと驚くだろう。
そんなこんなで、クラスメイトに紛れてうみが出てきた。何も言わずに、ただその目はなおを強く見つめていた。
「お前以外は」
「来てないわよ」
「ふん……まさか本当に来るとは思わなかったぜ」
自分の声を誰にも聞かれないように、うみはボソボソと話しかけた。そのまま軽く話していると、横からかわるが声をかけてきた。
「金陽さ〜ん。あ、隣はお姉さん?お姉さんいたんだね」
「え、ちが、これは、えっと……あの……友だち、で」
「もしかして……あなたがかわるちゃんかな?」
やや中腰になってかわると目線を合わせる。当たり前だが面識などないので、彼女はただただ困惑しながらなおを見る。
「あ、なお先輩にうみちゃん。どう、うちの妹!可愛いでしょいい子そうでしょ麗しいでしょう」
「ええ、まざるちゃんに似てて可愛いわね」
「照れますよぉ」
かわるが困惑していると、少し遅れてまざるがやって来て、かわるの頭を撫でながら自慢げにそう言う。
ふと、キョトンとした顔のかわると目が合った。うみが笑うと、かわるも笑う。
「そういえばなお先輩、うみちゃんはどんな感じでした?」
「ばっ……!」
「いやもう驚きよ。想像もつかないわよ」
「わーわーわー!」
(楽しそう。金陽さんって……こんな顔するんだ)
かわるは微笑んで、自身の胸元に手を当てる。
――もっと仲良くなりたい。そういえば私、普段の金陽さんのこと全然知らないな。
「ねぇ、金陽さん!今日この後……時間ってある?あのね……パフェ食べに行かない?」
「え?」
まざるの横から飛び出したかわるが、キュッとうみのすぐ近くに来る。予想外のことに、うみは言葉を詰まらせた。
「えっ、と……」
「え!私も行きたい!かわる、あの店?この間言ってた」
「うん!色々あるところ」
うみはプルプルと震えながら、こくこくと頷く。
「微妙な距離感ねぇ……」
「照れてるんですかね?」
――――――――――
「でね、パフェの中にくるみとか色々入ってるんだって」
「そういえば確かに前から行きたい行きたいって言ってたよね」
学校を出て、目当てのカフェへ足を運ぶ4人。せっかく仲良くなれるチャンスだというのに、かわるとうみの会話はほとんどない。
「パフェねぇ……ちょっと重そうだし、私はシュークリームでも――って、あれは!」
カフェの全貌が見えてきた。外にもテーブルが配置されており、なおたちが何気なく客の姿を見てみると……
「ど、どどどどういう、これはどういう……」
「は?マジでか……」
「……?」
見覚えのあるシルエットが2つ、知らないシルエットが同じく2つ。テーブルを囲んで楽しそうにパフェを食べている。
「それでねアイサ、気付いたんだよ。クリームは美味しいけどちょっと重すぎるかもしれないってさ!」
「う〜ん……どうも分かんねぇな。言うほど美味いか?これはよ」
「インヴァ、俺のケーキ残り食っていいよ」
どうやらこちらには気付いていないようだ。ささっと入口に向かう一同、瞬間、インヴァが手に持っていたフォークを更にそっと置いて、振り向く。視線の先にはまざるの目。
「う〜ん、どうしようかな?」
「あ?」
彼の行動に合わせてベイスも続けて振り向くと、驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
「いって……」
「あ、大丈夫、ですか……?」
「おー」
まざるたち3人はかわるを庇うように前に立ち、ゆっくりと後退していく。パフェはもちろん食べたいが、それどころではない。店を巻き込むわけにはいかないと、少しずつ離れる。インヴァたちも席から立って、戦闘態勢を整えていく。
「そうだなぁ……うーん……よし!アイサはお会計、ベイスは戸締まりの確認、僕は、ケーキを食べる。そしてミノン!今日は君が戦闘!さぁ急いだ!」
「あ、うん……」
「ったく……」
緊張感なんて欠片も感じさせない指示をすると、一斉に動き出す。インヴァは席に戻ってケーキを味わい、あいさは何事もないように彼女らの前を通って店内へ。ベイスは跳躍しどこかへ行ってしまう。
「やる気あるのかしら」
「え、え?なんですか?これ」
「あ、うみちゃん。かわるを安全な場所に!」
「分かった。苺園さん、あたしと一緒に来てっ!」
うみとかわるがどこかへ行ったのを見送ると、億劫そうに彼女らの前に立つ、制服を着た少年――ミノンと呼ばれていた彼が1人。まざると同い年くらいの男子生徒だ。他校の生徒だろうか、それともムネツグのように擬態している宇宙人か。
「別にアンタたちに恨みがあるわけじゃないけどさ。ま、役割はこなさなくちゃ」
右手をギュッと強く握ると、そこからオーラが放出。黒い糸のような形状のそれが、あっという間に彼を包み込んでその姿を変貌させた。
「怪人……!」
「ここじゃ何かと面倒だ。場所を変えるぞ」
シュバッと右手から糸を射出し、ワイヤーアクションの如く素早く飛び立つ。横でケーキを食べ始めるインヴァのことも気になるが、2人はミノンの後を追いかけた。
建物の屋上を走って次から次へジャンプ・ラン・ジャンプ。
「ジャム!そこでジャンプ!」
「えいやぁ!」
黒い糸が草結びのように地面からぴょこりと顔を出している。今回もなかなか厄介そうな相手だとジャムは確信を抱く。
目の前を疾走する怪人がスピードを落とし始め、屋上の角からひょいと飛び降りる。見下ろせば、見えたのは公園の野球グラウンド。
「悪いけど、野球は3人じゃ出来ないわよ!」
「へぇ、君は野球したかったん…………」
飛び降りて早々、ミノンはソードの挑発に乗る。手から生み出した糸を高速でグルグルと球状に変形させ、しっかり握っては振りかぶった。
「だっ!!!」
放たれた豪速球。しかしそれは一般人目線の話。変身したソードからすれは、余裕で捕捉できるスピードだ。ストライクゾーンど真ん中、構えていた剣を握る拳に力が入る。
思わず息を呑んだジャム。勝負の行方は――
お読み頂きありがとうございます。
VSミノンです。そこそこの強敵です。26話〜27話は個人的に書いてて楽しかった回なので、ほんのちょっとだけお楽しみに。
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