「ひっ……!」
ファングの口から声にならない声が漏れ出た。強烈なプレッシャーを放つグラビティに睨まれ、怖気付いて。
(もらった!)
だが、勇敢にもそんな彼女へ忍び寄る少女が1人。自身の能力で透明化した黒髪の魔法少女が、背後から首筋へ刃を突き立てる。
「…………!」
首元で揺らめいたオーラ。その正体を瞬時に理解して、穿ち割るように地面を強く踏みつける。直後、周囲に強い重力波が放たれて、磔にされたように少女が崩れ落ちた。
「ひ、ひぃやぁあぁ!来ないでくださいぃ!」
必死の叫び。紫のエネルギー球を携えたグラビティが迫る。無言で、ゆっくりと。
「うっ、う……うぅ……」
涙をポロポロと流す。問答無用、乱暴にグラビティが胸ぐらを掴んで自分の方に寄せる。限界が来たのか、眠るように少女の体から力が抜けた。魔法少女の衣服は光の粒となって散り、小柄な少女が姿を現した。
「まず1人……」
「しのちゃんっ!」
弓を持った天使のような少女が翼を広げて飛び上がる。手に力を込めたかと思うと、グラビティの足元が発光し、光の柱が伸びてきた。
「このバカ!何してんのよっ!」
「ハッ!弓矢は飾りかぁ!?」
「むむ〜っ!!」
華麗なステップで光の柱を回避したグラビティが距離を詰めていく。彼女が飛びかかったタイミングで、それを迎撃するように天使の弓矢を構えるが……
「おせぇよ!」
「きゃっ!?」
顔面にエネルギーを纏った掌底がヒット。天使の羽根が舞い、華奢な体が遥か彼方へ大きく吹っ飛んだ。
「エンジェルーーッ!」
続けざまに仲間が2人もやられてしまった。震えながら、なんとかファングは狼牙棒を構える。
「わ……私が、倒すしか!この――」
「うるっ、せえぇ!」
エネルギー球が狼牙棒に命中し、怯んだファングは己の武器を手放してしまった。防御の姿勢すら忘れてしまった彼女に紫電が迫る。
「二度とあたしらの前に現れんな……!はあぁっ――」
力を溜めた瞬間、命の危機を感じたのかファングの震える足が再び勢いを取り戻した。
「ごめんなさぁぁぁぁいっ!!」
攻撃するでも防御をするでもなく、瞬時にクルッとターン。一目散にダッシュして、グラビティの視界から小さな背中が消失する。
「なんて逃げ足だ……」
先程までの騒がしさが嘘のよう。辺りはすっかり静かになった。グラビティはおもむろに変身を解いて、座り込むかわるの手を取る。
「苺園さん……大丈夫、だった?」
「……うん。凄いね、金陽さん。凄く強くて……」
握ったかわるの手が少し震えているのが分かる。それは決して気のせいではない。
「あ……」
当然の反応だ。こんな力を目の前で見たら、誰だって怯えてしまうだろう。それを友だちが振るうとなれば、尚更だ。
「……やっぱり、隠しきれないよね。ごめん……ごめんねっ」
悲しげなうみの表情を読み取って、かわるも胸の奥がギュッと苦しくなって、温い涙が一滴、手に落ちた。
――――――――――
「はぁ…………」
事務所に戻ってきたはいいが、うみはひどく疲れた様子で俯いている。
「うみちゃん、ずっとあんな調子ですね」
「何かあったのかしら。かわるちゃんは無事に家に帰れたのよね?」
「はい、あの後電話があって、『元気だよ〜』って」
「はぁ……あの子も悩むことあるのね」
「コラッ!あたしをなんだと思ってる……」
落ち込んでいた様子のうみが、急に両腕を振り上げながら大声でそう言ったかと思うと、話すにつれて声量が小さくなっていく。
「はぁ……」
「こ――これはよっぽどだっ!」
「うみちゃん、一体何があったって――」
「……魔法少女だ」
食い気味に放たれた言葉に2人は釘付け。離れた場所にいたムネツグたちにも聞こえたのか、こちらに近寄ってくる。
「見たことのない魔法少女が3人……。トゲトゲした棒持った、リーダーみたいなピンクのやつに……紫色の忍者みたいなやつ、あと白っぽい天使みたいなやつ……幸い全員ザコだった。ボコボコにしたら逃げていったけど――」
そう言って、言葉を詰まらせた。うみの心情など露知らず、まざるは聞き返した。
「――けど?」
「……いや、なんでもない」
「それにしても、魔法少女が3人もねぇ。ラウェス・シュベリアの仲間なの?」
「分からん。でも、またあたしがぶっ飛ばしてやればいい」
「頼もしいわね。……あら、まざるちゃん?」
まざるが静かにソファを立った。気付かないわけもなく、隣にいたなおは声をかける。
「あ、いやいや。今さっきかわるから連絡があって。ちょっと遊んでくるよ」
「そう。行ってらっしゃい」
かわるの名を聞いた瞬間、うみが俯いて指でテーブルをなぞる。なおが軽く手を振って、出ていくまざるを見送ると、うみの方に向き直った。懐から何かを取り出して、彼女に見せる。
「食べる?ただの飴だけど」
「要らねーし……でも、貰っとく」
――――――――――
「ただいま〜。それで、話って何?かわるにこんなの言われるのってなんか新鮮だね」
「お姉ちゃん、おかえり。いやー、本当に大したことないんだけど、今日ね……」
かわるの部屋。まざるがドアを開けると、彼女がベッドに腰かけていた。彼女の暗い表情は見るのが初めてだ。それと同時に、その姿が何故だか先程のうみの姿と重なった。
「……うみちゃんと何かあったの?」
「え?あ……うん」
ペタンと座って、じっとかわるを見る。かわるもごくりと唾を呑んで、口を開いた。
「信じてくれないかもしれないけど……実はさ、金陽さんって……魔法少女、なんだ」
「うん。…………あっ!え!そうなんだ!」
まざるはそんなの知ってる、と軽く返事する。……そしてすぐに、焦ったように付け加えた。
「えっ、えー、初耳だなぁ〜、あ、あははは。で、それでどうしたの?」
「あのね、魔法少女が私たちの前に3人現れて……金陽さんはそいつらをやっつけてくれたんだけどさ」
「うんうん」
「私、酷いことしちゃった。金陽さんは一生懸命戦ってくれたのに、私はそんな金陽さんのこと、怖がっちゃった。せっかく助けてくれたのに……」
(なるほど、そういうことか……。なら、うみちゃんが悩んでたのもきっとそういうことだよね。うーん……)
かわるの話を聞いて、うんうんと頷く。どうしたものかとしばらく悩むと、何か妙案を思いついたのか表情が明るくなった。
「よーし!」
「えっ、何?」
「へ〜ん、しん!ちょあぁ!」
「え?」
奇怪な決めポーズとともにじわじわとまざるの姿が魔法少女のものへ変わっていく。様々な言葉が頭の中で入り交じって、かわるがフリーズした。
「えっとね……秘密にしてたんだけど、私も魔法少女なんだ。うみちゃんが魔法少女なのも、知ってた。……嘘ついてて、ごめんね」
「えっ、あっと、えっと、はぁ」
「これで怖くなくなった?」
「え。うん……」
口ではそう言うが、表情は未だ暗いまま。腰掛けるかわるの横に座って、ジャムはぴたりと肩を合わせた。
「私さ……実はうみちゃんとめちゃくちゃ、本当死ぬんじゃないかってくらい戦ったことがあるんだよね。その時はかなり凶暴で……あれ、今もかなっ。でもね、今はもうお友だちで、一緒に戦ってる。えっと……それで……」
話しているうちに結局何が言いたいのか分からなくなってしまったのか、しどろもどろになって。
「あっ……でね、うみちゃんは自分のためじゃなくて、いろいろ乗り越えて、今は誰かのために戦ってる。でね、私思うんだ。うみちゃん、今の方がうんと強いって。私じゃ3人も相手に出来ないもん!……で、えー……だからさ、その、きっと大丈夫だよ!」
「お姉ちゃん……」
「私、かわるとうみちゃんのこと応援してるから!」
両手でかわるの手を包み込み、上下にブンブンと振り回す。
「痛い、痛いってば!」
「あ、ごめんごめん!」
「もう…………。お姉ちゃん、ありがとね。私、明日またうみちゃんと話してくるよ」
「うん!また話、聞かせてね」
変身を解いて、まざるはドアを開ける。かわるに手を振って、部屋を出た。
「お姉ちゃんが魔法少女かぁ……なんか、ちょっといいかも」
話してスッキリしたのか、かわるは優しい微笑を浮かべた。
――――――――――
場所は変わり、とある家の風景。白い髪の少女が、歳の近い男――すなわち、弟に声をかける。
「ほれ、あんたも風呂入んなよ」
「おー、入っとく」
「湯船冷めちゃう前になー」
「うるさいな……」
「うるさいとはなんだよー。お姉ちゃんだぞ?」
弟の発言が気に食わなかったのか、ソファでくつろぐ弟の前に立って、しかめっ面を眼前へ近付ける。迫力は凄いが、彼は見慣れているのか何の反応もない。
「はいはい、今から行くよ……」
「あっ、
「どうしようかな……」
『
お読み頂きありがとうございます。
グラビティは強いのでガシガシ動かせます。この子が動いてるところを書くのは凄い楽しいです。