「みのん、あんま変なのとつるむなよ?」
「姉ちゃんには関係ないだろ」
自宅に帰った姉弟。牛乳を注ぎながら、めいらがみのんへ鋭い目線を向ける。
「魔法少女かぁ……ほんと、そんなの勘弁してほしいけど……」
「姉ちゃん?」
「……ううん、なんでも。そんなことよりほれ、あんたも牛乳飲め飲め」
「こんな飲んで母さん怒らない?コーヒー牛乳が作れないとか言って、たまに怒るでしょ」
「いいんだよそんなの。私らまだ子どもだし」
「そうかなぁ……」
そう呟いて、姉からコップを受け取り飲み干す。牛乳はほのかに甘くスッキリとしている。
「そういえば姉ちゃん、さっき、魔法少女がどうとか……って、ありゃ」
何か尋ねようとしてみのんは姉を呼ぶが、風呂にでも向かったのか、彼女の姿はない。不満げにポリポリと軽く頭を搔いて、彼はソファにもたれかかった。
――――――――――
「ただいま、ベイス。言われた通りいろいろ買ってきたよ」
「おう、ありがとな。ところでインヴァ、体の調子はどうだ?もう……戻ってきてるのか?」
廃ビル、帰ってきたインヴァが荷物を机の上に置いて、適当に座っていたベイスに袋の中のものを何個か投げ渡した。ベイスが受け取った内容を確認すると、インヴァの体を見ながら彼に尋ねた。
「ああ、バッチリさ。あと3日……それとも2日かな。ははっ、自分のことなのに分からないって、少し格好が悪いね。まぁそれはともかく、もう少しだよ。もう少しで本調子さ。ただ……軽く肩慣らしはしておいた方が良いよね?だから――っていけない。せっかく温めてもらった唐揚げが冷めちゃうよ」
「ハッ、冷めても大して味変わんねえだろ」
「わかってないなぁ……」
ベイスは口ではそう言いつつも、期待を抱きながら唐揚げを手で掴んで食べる。噛む度に口角が上がっていき、豪快な笑い声を上げながらインヴァへ話しかけた。
「うめえうめえ!」
「だろ?だから言ったんだよ」
「ハッ……。……それで、いつ潰す?」
「君は見かけとか印象に反して心配性で慎重派だよね。ギャップって言うのかな?――まぁ、冗談はこれくらいにしておいて。そうだね、とりあえず今度軽く戦ってくるよ。……で、その後は状況次第かな」
「無理はするなよ。所詮は肩慣らしだ」
「ふふ…………」
時折車の走る音だけが聞こえる夜の街。暗闇の中、インヴァの微かな笑い声が静寂に消えていった。
――――――――――
日が昇り、時刻は昼。楽しそうな表情で、まざるがロゴの描かれた紙袋を手から提げている。その後ろにはその姿を見守るなおとムネツグ、そしてつまらなさそうに辺りを見ているうみ。どうやら今日はショッピングをしているようだ。
「皆でショッピング、楽しいな♪」
「はしゃいじゃってるわね、まざるちゃん。しかしこのユウナンもしぶといわね。ボロボロになってもすぐに復活するんだから」
「企業努力かねぇ」
複合商業施設、ショッピングモール ユウナン。ファッションはもちろん、書店にゲームセンター、フードコート、さらにスーパーマーケットやホビーショップなども兼ね備えている。
頻繁に肉片が発生したり怪人に破壊されたりするが、それでもなお挫けない、しぶとい一面も魅力である。
「あ、ムネツグさんこれ持ってて!」
「……ああ」
ムネツグに荷物を手渡すと、書店へダッシュ。買っておきたいマンガがあるようだ。
「しっかし、ここに来た途端急に元気になったな」
「ええ。しかし、ガムを2個も踏むなんて不運よね。――あ。せっかくだし、私も参考書でも買おうかしら」
「じゃ、あたしも着いてくわ。特に買いたい本があるわけじゃないけどな」
各々興味のある場所へ赴き、様々な種類の本を手に取る。目当てのブツを入手したまざるは颯爽とレジに駆け込み、そしていつの間にかなおたちの真後ろにいた。
「おー、なお先輩はともかくうみちゃんも勤勉だね」
「あ、あたしはそんなんじゃ」
「ムネツグさんは?」
「ああ、あの人なら歴史が学びたい〜とか言って、向こうの方に行ったわ」
指さした方向には、確かにムネツグの背中がある。少しばかり脅かそうと思ったが、真剣に悩んでいそうな雰囲気を感じとり、踏み出さんとした足を引く。
「あ、戻ってきた」
1つの雑誌を両手で持って、見せびらかすように見せる。
「俺はこれを買う」
自慢げに見せてきた雑誌。表紙には大きく『温泉特集』と書かれていた。そう、これは――旅行ガイドブックだ。
「これ、ガイドブックじゃ……」
「私もてっきり歴史書とかそういうものかと思ってたわ」
「温泉なんて、メルフルではこんな特集を組めるほどの数は無かったからな。いつか入ってみたいんだ」
「ふ〜ん、お前にもそういうのあるんだな」
「地球では変か?」
「いや、そうじゃないけどさ……なんか、意外ってゆーか」
「ふん……?よく分からないな」
うみはむず痒い感覚を抱きながらも、彼に返す言葉が出てこないので黙り込んだ。
しばらくして、ムネツグがレジで支払いを済ませた。そして全員の荷物をまとめて、一同は書店を出る。
「あー、楽しかった!」
「にしても、休日なだけあって人が多かったわね。これじゃかえってストレスが溜まりそうな……」
「あ、その気持ちちょっと分かります。この間も――」
両手に荷物を提げて、「事務所に帰るぞ!」と、意気揚々とユウナンを出たまざるたち。
自動ドアが開き、外へ一歩踏み出した瞬間。まざるがポト、と両手の荷物を落とした。後ろにいたなおが怪訝そうにその手元を見る。まざると同じ方向を向くと、その意味が分かった。
「ん?お前ら、何して…………あ」
目の前で、暗い青色の怪人が地面を叩きつけている。この妙な体色、ラウェス・シュベリアが『分身』と呼んでいたものに違いない。前回の個体よりも小柄で、肉体の各部分がシャープになっている。
「なんでこんな時に……!」
「考えても仕方ないですよ!……チェンジ!」
「ムネツグさん、
「っ、分かった!」
先陣を切って変身したジャム。手を振りあげ突撃する彼女に続いて、あとの2人もムネツグに荷物を投げ渡して飛び出した。
「たあ!」
拳を握りしめ振り上げた瞬間、パチン!と軽い音が鳴ると共に、溶けるようにして怪人の姿が消える。思わぬ出来事に困惑し、キョロキョロと辺りを見回していると、空からゆっくりと翼を生やしたインヴァが降ってくる。
「やぁやぁ。やはりここで暴れさせてみるのが、君たちを呼びつけるには一番手っ取り早いみたいだね」
「今日は何を……!」
「ほんのちょっとした軽いお遊びと自慢みたいなものだよ」
再びフィンガースナップ。指の先に小さな炎が灯った。それが何を意味するのか――。
大きく足を振り上げワインドアップ、振りかぶって投げられたちっぽけな火球が、ジャムの頬を掠めてアスファルトに弾けた。
「あつっ……!」
振り返ると、火球が落ちた地点が黒く焦げていた。下手をすれば、ここら一帯全部が火の海になってしまうだろう。ここでなんとかしなければいけない。ジャムは深呼吸して、オーラを纏った両腕を構えた。
「いいね、いいね……!」
笑みを浮かべるインヴァ。その瞳の奥には小さな炎が宿っている。
「《ジョーカーフレイム》!」
履いた靴の先から伸びるように炎が放たれる。地面を走る火炎は一瞬でジャムの足元に到達するが、瞬時にバリアがそれを防ぎ打ち消した。
「ハッ!じゃあ次はこれでどうだ!」
ジャムへ集中攻撃。大きな火球を指先から出し、彼女の方へ投げつけた。一度見た攻撃、しかし先程よりも大きな火球だ。威力は未知数、しかし避けるわけにはいかないと、バリアを広げた。
「やああっ!」
火球が迫って、ジャムは目を瞑り両手に力を込める。前方に展開されたバリア。が、燃えるそれは弾けることなく、バリアに吸い込まれるようにして打ち消された。煙や音すら残さずに。
「防い……だ?」
「なるほどね!」
ビュンッと炎のような勢いで走り出したインヴァ。そのスピードに全員反応が遅れて、バリアを展開したままのジャムへ拳を向けた。
「《バーストレイ》」
炎を纏った右手はバリアをいとも容易く粉砕して、その奥に立つジャムの体に触れる。
一瞬にしてジャムの体が浮き上がり、大きく吹っ飛んだ。ユウナンの壁に激突して落ちたジャムが痛そうに立ち上がる。
「ジャム!」
「大丈夫……!今度は油断しないっ!」
「ムカつく野郎だぜ……ジャム!ソード!ボコボコにするぞっ!」
グラビティが両腕にエネルギー球を携えた。ソードも剣を構えてインヴァを睨みつける。体に付着した煤や埃をパタパタとはたいて、ジャムが深呼吸。「反撃開始だ」と言わんばかりに、バチッと一筋の電流がその髪先から走った。
お読み頂きありがとうございます。
そういえば炎のキャラがいないな。と思い、インヴァの能力は炎にしてみました。炎って怖いですよね。想像しただけでも嫌になります。