「おはようございます」
「おはよう、まざるちゃん。昨日はよく眠れた?」
学校の校門前、たまたま出会った2人。
「なんか疲れちゃったみたいで……帰った瞬間、コロリでした」
「ふふ。私もそんな感じ」
――――――――――
放課後。ムネツグからの連絡があり、2人は終礼が済み次第急いで合流する。
「何かあったんですかね?」
「うーん……でも、こういう時は大体肉片関連ね」
「はぁ〜……」
幸い探偵事務所は学校からは徒歩で行ける距離。スタスタと並んで早歩きをして目的地を目指す。
「そうだ、聞いてくださいよ!英語でちょっと分からないところがあって……」
「えぇ〜?うーん、一段落ついたらね!」
雑居ビルの階段を上り、なお、続いてまざるが床にペタンとカバンを下ろす。
「何か反応あったんですか?」
「あぁ、かなり近い。初仕事だ、なお、サポートしてやってくれ」
液晶付きトランシーバーのような、よく分からない機械を突き出す。慣れているなおはそれを見てパッと把握したようだが、まざるは少し時間がかかった。
「あっ、地図!」
「そう!ここから南西の方に肉片の反応があるわ。まざるちゃん、準備はいい?」
「……ばっちこい、です」
ガチャリと勢いよくドアを開けて2人の少女が飛び出す。南西の方角……特に目印もない場所だが、かえってそれが目印であるような気もする場所だ。
先程の早歩きよりも速いスピード、ほとんど走っているくらいの速度で数分、反応のあった地点へ到着した2人。しかし肉片の気配はどこにもない。
「まざるちゃん、見える?」
「いや、どこにも……」
キョロキョロと見渡してもない。路地裏や電柱の周辺にもない。お互いの顔を見合わせ、ふと空を見上げると、なんと目当てのものはそこにあった。
「なんですか、あれ……?」
「き……気球?それとも風船かしら?」
ギザギザした歯が見える口のついた黒い気球。バスケットの代わりに2本の触手のようなものがぶら下がっている。それが2人を目視した途端に、触手を彼女らへ向かって勢いよく伸ばした。
「避けて!」
鋭い触手がアスファルトに貫き刺さった。流石に当たってしまえば致命傷は避けられない。思わずまざるはブルっと身震いしてしまった。
「まざるちゃん、変身のやり方わかる?」
なおは目の前のターゲットを見据えたまま聞く。
「あの時は気合いでどうにかしたんですけど、よく分かってないです!」
「だと思ったわ。とにかく体の中心に力を集中させるイメージよ」
そう言うと、なおは手本を見せるように彼女の目の前で構える。
「チェンジッ!」
全身を包むオーラがパッと弾け、キラキラとした装い、トレードマークのポニーテールが剣のように光を反射した。
「誠実なる剣!オトギソードッ!」
名乗りを上げると足に力を込めて、気球の方へと跳びたつ。その後ろ姿を見て、まざるも両手に力を込め、構えを作る。
(体の中心に力を…………)
体中から込み上がる熱い何かが体内の中心部に集まっていくのを感じる。意識して変身するのは初めてだったが、どうやらコツを掴めたようだ。
「チェェンジッ!」
この間と同じ感覚だ。放出された眩いオーラが全身を包み込んで滾る。オーラが電撃と共に弾け、一瞬にしてまざるの容姿を変えた。艶やかに髪が光りなびき、全身に電流が走ったような感覚。
「痺れる春の嵐!オトギジャムっ!」
無意識につい名乗りを上げた。あぁ、さっきのソードのあれはこういう感じだったのかと、まざるは内心思ってしまった。
「そう、いい感じね!」
伸ばしてきた触手をその剣で弾いて、まざる――ジャムの方を見てニヤッと笑いながら言う。ジャムも呼応するように頷いて、気球の方へと跳ぶ。
空を舞う2人を迎撃するように、気球から触手が伸びる。
「ジャム!バリア!」
「へ?あっ!そいっ!」
まざると呼ばれなかったので、呼ばれたことに一瞬気が付かなかった。両手に前を伸ばすとオーラのバリアが展開され、迫り来る触手を受け止める。触手攻撃だからかこの間のように痺れさせることは叶わなかったが、それを受け止めることには成功した。
「隙ありっ!」
触手が弾かれた瞬間、グンッとスピードを上げソードが迫る。右手に持った剣をしっかりと構えて気球の方を見る。身を翻し、回転で勢いをつけその体を斬りつけた。
「ジャム、追撃!」
「はいっ!」
本体の方へ戻ろうと縮む触手を掻い潜り、落下の勢いをつけて強烈な蹴りを見舞う。
蹴りを放ったジャムの体が跳ねる。蹴りに耐えた気球は彼女を貫かんと触手を伸ばす。
「――!!」
「はぁっ!」
彼女の眼前に迫った触手がその目の前でバラバラになる。思わず閉じてしまった目を開けると、一筋の剣が触手を切り伏せていた。
「……なんだ、結構脆いじゃない」
着地し、2人は体勢を整える。
「ソ、ソード……ごめんなさい……ありがとうございます」
「そんな、謝らないでよ。これから慣れていけばいいんだもの」
「はいっ!」
気球の方を向き直ると、触手が切られたそれは逃げ去るようにプカプカと高度を上げ始めていた。逃亡か、再生までの時間稼ぎかは分からないが、これ以上時間はかけたくないと、ソードはジャムに耳打ちした。
「ぶっつけ本番で申し訳ないんだけど…………」
「えっ、ええぇ……」
「よし、行くよ!」
ジャムの後ろにソードが並び、グッと足に力を込める。直後、同時に2人が大きく跳んだ。気球の高さにはまだ届かない。瞬時にソードは剣を両手で構えて、ジャムの方を見た。
「「せーので!」」
「いっけぇぇぇっ!!」
ぐるっと剣を後方へ持っていき、下から斬り上げるようにしてその刀身はジャムの足元へ。ジャムもそれが来る直前で足を曲げ、ソードの剣に着地した瞬間それを解き放った。
ビュンッ!!
更に大きく跳躍して、ジャムが気球に肉薄する。両手に桃色の電気をビリビリと纏って、必死の表情でなんとか気球を掴んだ。
「ぐうう……!」
空気が冷たくて手から力が抜けそうだ。歯を食いしばってなんとか耐える。与えられた役目をきちんとこなしてみせる!
「《ジャムパルス》ぅっ!」
手に纏っていた電流を一気に放電。気球はその浮力を一瞬にして失ってしまい、ジャムを上に乗せたままヒュウウと音を立てながら落下を始めた。
「うわっ、落ちてる落ちてる!」
落ちる感覚の中地面を見てビクビクしていると、地上で剣を構えるソードの姿が見えた。
「《ストレート・ソード》!」
電流を受け、墜ちる気球をバッサリと一閃。それは致命傷と呼ぶに相応しい一撃だった。そして墜落した気球は、1つの風船を空へと飛ばし、光の粒と化してその場に散った。
「あ……風船、だったのね」
「はぁ〜、なんとかなって良かったぁぁ……。あ、色々とありがとうございました」
「私の方こそありがとう、ジャム。あなたがいてくれてこその勝利よ」
すると、散っていた光の粒が寝そべっているジャムの体内へとぐんぐん吸収されていく。
「あ、これって……」
「肉片。あなたが力を手にしたあの日、あなたは何らかの原因で私の体内にあった肉片と融合して……まぁそれは後で説明するとして。とりあえず簡単に言うと、あなたの体内にある肉片が1つ増えたわ」
正直ジャムにはまだ完全には理解できていない。ソードの指さしている自身の右手を見ると、1と書いてあった数値が2に変化するのが見えた。
「私の中に肉片かぁ……なんか、あんまり知りたくなかったかも、なぁ……」
初仕事は散々だったが、妙に達成感もあった。何しろ、誰かと目的を共に成し遂げるなど、まざるにとって初めての体験であったから。
「あっ、そうだ。英語教えてくださいよ!」
「もちろん。約束は守るわ」
ハイタッチの瞬間、2人の変身が解けた。
タイトルの『オトギテール』なんですが、これを書き始める半年前に書いていた作品(ボツになりましたが……)がありまして、そこから一部の設定とタイトルを頂きました。シリーズ化する予定は今は特に決まってないですが、僕個人としても変身モノは好きなので続けてはいきたいと思っています