「《クラスターショット》ォ!」
ババババッ!
先制したのはインヴァ。手のひらから煌めく光の粒子を放ったかと思えば、その一つ一つが強い光を放って爆発のような燃焼を起こした。
煙が舞う。しかし魔法少女はこんなのでくたばるほどヤワではない。インヴァの予想通り、煙幕を裂いて2つのエネルギー球が姿を見せた。
「ふぅん!」
放った炎が重力弾を上方へと弾き、インヴァの視線は遅れて煙幕の中から姿を現したもう1つの何かへ。
「予想通りだよ……!」
凛とした太刀筋、オトギソードの姿をその目で捉え、手に炎を纏うと瞬時に駆け出す。薄くなる煙幕からソードとジャムの姿がくっきり見える。
――迎撃を……いや待て、グラビティはどこに……!
「
目の前の光が。薄紅色をしたその光が、より一層強くなる。思考を巡らせていたインヴァの防御が遅れて、迅雷がその体を貫いた。
「グラビティ!」
「おっしゃ!このまま死ねぇぇぇっ!」
空中に飛び上がっていたグラビティが身を翻して、エネルギーを纏った腕をインヴァのいる方へと突き出す。痺れる体をなんとか制御して、わずかにグラビティのいる方向を向いたインヴァ。このままでは本当にやられる。踏ん張ると翼が大きく広がり、彼の体を持ち上げた。
「そうは……いかないよ!」
「クソッ、避けられたッ!」
先程まで彼がいた場所のアスファルトにヒビが入り、辺りがべコリと凹んだ。この一撃が命中していれば、非常にまずかっただろう。インヴァはゴクリと唾を呑んで、指先に炎を発生させた。
(このまま向こうのペースに乗せられるわけにはいかない……!)
発生させた炎を両掌で挟み込む。両手を広げると、炎が左右へ伸びるように広がった。
「《ファイアウォール》!」
バックステップと同時に両腕を振ると同時にそれを前方へ放つ。高さ1.5m弱ほどの炎の壁がインヴァとジャムたちを隔てるように発生。ジリジリと後退しながら、思考を巡らせつつ再び炎を指から生み出した。
「どうする?飛び越えるか?」
「なっ!無茶よ、そんなの」
「んだよ、こんなので万事休すって言うのか――」
「ううん、一つ方法があるよ!」
グラビティに被せるようにして、自信満々にジャムが言う。ピンとは来ていないようだったが、今は彼女を信じるしかないと、グラビティは小さく頷いた。
「――まさか!あれで行くつもり?」
「はい、多分合ってます!」
「乗ったわ!」
――――――――――
「さぁ、どうする?魔法少女たち……」
インヴァが炎の壁の向こうで微かに笑みを見せる。それだけの余裕が出来たということだ。パチンと指を鳴らしては、指の火炎を火球に変えて右手に浮かべ、前方を見据えた。そろそろ来る。彼の直感がそう知らせた。
「うおおおおお!!」
上から来るか、それとも……!
「フハハッ!君もついに気付いたかな!?」
「当たり前でしょぉ!
前方にバリアを発生させた状態のまま、ジャムは2人を引き連れて猛突進。バリアはいとも容易く炎の壁を突破して、彼女らをインヴァのいる向こう側へと運んだ。
――少し驚いたが、想定外ではない状況だ。炎を纏ってこのままパンチで迎撃すればいい。
「――《バーストレイ》!」
強烈な打撃を叩き込もうとインヴァが駆ける。しかし、ジャムとしても二度も同じ手を食うつもりもなかった。
「《ジャム・ランページ》!」
「なっ――!」
雷電を纏った強烈な拳が唸る。エネルギーを大量に使ってしまう技だが、命中すればその分リターンも大きい。
ジャムの『賭け』は幸運にも良い方向に転んだ。辺りの空気を歪ませて見せた熱拳と、迅雷を纏う小さな拳がぶつかり合い、ソードとグラビティをのけぞらせるほどの衝撃波を放った。
「こんな力が……!?」
「私だって……みんなみたいに戦えるんだから〜ッ!!」
ジャムの力がより一層強くなる。
「《クラスターショット》……!」
インヴァはその拳に力を込めて、炎を爆裂させようとするが、何も起こる様子がない。
(消された!?――あの『能力』はバリア以外の電気にまで……!)
余計なことを考えてしまったせいか、インヴァがついに力負けして、その拳が弾かれた。
「しまっ――」
「一気に行くわよ!」
「分かってる!」
「「ッたぁ!」」
体勢を整えた2つの光が無防備なインヴァに迫る。息のあったダブルキックが胸部に打ち込まれ、その体を大きく突き飛ばした。
ズザァッと地面を転がったインヴァ。しかし数秒後にはヨロヨロと立ち上がった。体をパッパッと軽くはたいて、再び指先に火炎を発生させる。
「正直に言って油断していたよ。本調子じゃないとはいえ、僕がここまで追い込まれるとはね。……しかし、今回で確信したよ。君たちじゃ
「負け犬の遠吠えかよ、みっともねーな」
「そう聞こえるのも無理はないか。……でも、本当のことだ」
「まだ言うか、このっ……!」
「グラビティ、待って!」
飛び出そうとするグラビティをジャムが制止。
「1週間後だ」
翼を広げながら、ビシッと立てた人差し指を前へ突き出した。
「1週間後の20時、スカイランドタワーの屋上で君たちを待つ。『最終決戦』といこうじゃないか」
「へぇ。1週間後だなんて、随分と待ってくれるのね。どんな凄い罠を作るつもり?」
「罠だなんてとんでもない。ただの情けだよ。それとも、もっと時間が必要かな?……まぁ、とにかく1週間後だよ」
話すのに疲れてきたのか、そう言って目を瞑る。フィンガースナップをすると炎の渦が立ち上り、火の粉と熱気か辺りに舞い散る。
「……!」
その熱さに思わず、ジャムたちは目を細めて、顔を手で守るように覆う。数秒後、彼女らが目を開くとインヴァはどこかへ消えていた。
「逃げられた……。しかし、かなり厄介な能力だったわね……。ジャムも防御ありがとう。大丈夫だった?」
「はい、もちろん消耗はしてますけど。私のバリアはよっぽどの力じゃない限り、いろいろ防げるみたいです。さっきの炎とか、グラビティのボールとか」
「その割にはパンチ1発でバラバラじゃねえか」
「飛び道具だけならなんでも防げるのかな。グラビティの攻撃を防いだときは単なる偶然だと思ってたけど……」
ジャムの顔の前で両手を握ったり開いたり。言い終わった直後に、ソードが彼女の肩を叩く。視線を向けると、ソードが口を開く。
「ねぇ、そろそろ帰らない?」
「へ……?」
冷や汗をかいているソードの顔を見て、ジャムはやっと辺りの状況に気がついた。目に赤い光が入り込む。そしてこのサイレン音、白と黒の車。
警察だ。ユウナン周辺に警察が到着していた。
「やばっ!」
「逃げるぞ!」
パトカーから警察官が何人か出てくる。声をかけられても面倒だ。いや、面倒に決まっている上、ろくな事にならない!彼女たちは頷き合って跳躍すると、建物の屋上を転々と渡ってその場を去った。
――――――――――
「私、あんな多くの警察に見られたの初めて〜」
「なんだよそれ……そんなことより、ムネツグには連絡したのかよ?」
「ええ……けど、まだ既読にはならないわ」
細い路地裏に潜んで、なおのスマホの画面を覗くまざるたち。確かにメッセージは送信されているが、返事は無い。
「何か面倒事に巻き込まれてなきゃいいけど。ま、あいつらも流石にそこまで卑怯なことはしないか……」
「それにしても、『最終決戦』かぁ。なんか、本当に壮大になってきましたね」
まざるの発言に頷くと、なおは嫌そうな顔でため息をついた。納得が出来てなさそうな表情だ。
「何が最終よ。そりゃ向こうは私たち倒して終わりだけど、こっちは向こうを倒してもまた肉片集めに戻るだけじゃない」
「あ、確かに……。言われてみればその通りかも……」
「まぁ、そんなのはいいだろ。遅かれ早かれ全員まとめてボコボコにしなきゃなんないからな」
「そうね……」
直後、なおのポケットでバイブレーションが。ブーブーと音を鳴らし震えているスマートフォンに、ムネツグの名前が書かれている。その文字を確認するや否や、画面に表示された受話器のマークをスワイプ。
「もしもしっ!」
『良かった、無事だったか!……今、どこにいる?』
「そっちこそ無事でよかったです。今は……どこかの路地裏にいます。とりあえずユウナンからは離れました」
『そうか。すぐに迎えに行く』
「いやいや、私たちが向かいますよ。今、事務所の辺りですか?」
『ああ、そうだな。高校が見える』
「じゃあ向かいますから、事務所でゆっくり待っててくださいよ」
『悪いな。お茶でも用意しておく』
ムネツグがそう言うと、電話が切れた。
「私たちもお菓子とか買いますか?」
「いや、まっすぐ帰りましょう……」
お読み頂きありがとうございます。バリアの話でした。
ジャムのバリア能力はこの作品を書くにあたって最初に考えた能力です。
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