「――というわけで、1週間後の20時みたいです」
「……えぇっ!?……ず、随分急に決まりましたね」
「そういえば、その袋何?ユウナンで服でも買ったの?」
「おー。でもこんなんじゃ服どころじゃねーよ。な、まざる」
「うん……」
事務所に全員集合したはいいが、ずーんと重たい空気が流れている。はるが何度かそれを打破しようと試みるが、結果は惨敗。これはもうどうしようもないと諦めて、俯いた。
「まぁ、これ以上燻ってても仕方ないわよね。せっかくみんな集まってることだし、向こうの戦力について整理しない?はるさん、書くものってどこかにあった?」
「あるある〜。そこの引き出し開けてみて」
「はーい」
立ち上がったなおは軽く返事をして、引き出しを開ける。若干空気が緩んだのを感じ取って、まざるがテーブルからチョコレートを1粒つまむ。
「あ、おいし……」
幸せのひとときは一瞬、戻ってきたなおがテーブルの上にパン!と1枚の紙を置いた。
「ってわけで、まずはオトギアッシュから……」
なおが軽く何かを描き始める。逆さになっているので細かくは見えないが、それがアッシュのイラストであることはまざるにも理解できた。
「あいさちゃん……」
「下手くそとか言わないでよ」
「言ってねーし思ってもねー。で、アッシュというと……なんか黒いヤツだったよな」
「うん。黒い泥みたいなのを操って、いろいろできるみたいだよね。移動に攻撃、防御とかいろいろ」
「防げんのか?バリアで」
「え……わかんない、かも」
そのやりとりと同時に、なおが何かを書いていく。ふとまざるが覗いてみると、ジャムという文字の横に『?』の文字が書かれた。
「正直一番よく分からないジョーカーよね、彼女。『要注意』っと……。黒いのの動きはよく見ないとね」
「で、次はベイスだな」
「ええ。超パワー型で、他と比べると少し頭が弱いっていうか……そんな感じよね。でも……それでもあのパワーは凄いわ。ジャムのバリアも効果が薄いでしょうし、私かグラビティで対処したいけど……向こうもそう簡単にはいかないでしょうね」
「はい、そうですね。あのインヴァって人、賢いし強い」
ベイスの項目を書き終えると、次はインヴァの名前を書く。
(似てる……)
画力こそそこまで高くはないが、イラストは特徴をよく捉えられており、よく似ている。感心するまざるだったが、なおの声を聞いてハッと彼女の顔を見る。
「それで――。……えっ、何?なんかついてる?」
「え!?いや、なんでも!」
「?……じゃあ本題に戻るけど。まざるちゃんの言う通りインヴァは賢い。ラウェス・シュベリアのリーダー兼参謀的な存在でしょうね」
次になおが描いたのは人魂のような火のイラスト。
「……火、ですか?」
「ええ。かなり広範囲に出せるみたい。しかも、これまた応用が効くみたい。炎の壁を出された時は、本当どうなることかと……」
「じゃあ、そ、それって結構ま、まずいんじゃ……」
夢野がそう言った瞬間、インヴァのイラストから線が伸ばされ、その先にジャムの名前を書く。
「……私もさっき知ったばかりなんだけど、どうやらジャムのバリアは飛び道具なら大体消せるみたいなの」
「なら、そのインヴァにジャムさんをぶつければ……!」
「勝算は大いにあるわね。でも、果たしてインヴァがそうさせてくれるかしら。向こうは絶対ベイスを戦わせてくる。何とか邪魔してやりたいけど、恐らく無理でしょうね。しかも、向こうには糸の怪人・ミノンもいるし」
ミノン。糸を巧みに操る怪人。怪人にしては本人の意思が強く残っている珍しいタイプの怪人。彼も合わせると、こちらとラウェス・シュベリアの戦力は3:4だ。
――ああ、戦いというものはこんなにも頭を使わないといけないのか。
なおは頭を抱えて、紙の端に触れていた手に強く力を込めた。
「なお」
「?」
「……それに、まざるとうみ」
俯く彼女に、ムネツグが声をかける。彼女と目を合わせたムネツグは、次はまざるとうみの方を見た。
「決戦の日、俺も同行する。無論、共闘もする」
「なっ、そんな、危険ですよ!」
「向こうも恐らく本気だ。危険なのはそちらも同じだ。……俺は大人として、そして皆を巻き込んだ者として、責任と義務がある。そんな俺が1人だけ安全圏にいるのは道理が通らない」
「で、でもムネツグさんは私たちみたいに変身出来ないし……!」
「変身は出来なくとも、俺も王と同じような力は持っている。あそこまで強力ではないがな」
「…………わかりました。――でもっ、無理だけはしないでくださいね」
――――――――――
「いやー本当に死んじゃうかと思ったよ!」
「お前ッ……無茶すんなって言っただろうが!」
「だ、大丈夫……!?」
「うん。本気は出してないから余力も全然あるよ。1週間後の決戦にも間に合う」
インヴァの言葉を聞くと、椅子をガタッと鳴らしてミノンが立ち上がる。
「決戦って――!聞いてないぞ!」
「わ、私も!」
「これから伝える予定だったさ。まぁ――簡単に言うと、1週間後の20時にスカイランドタワーの屋上へ行って、決着をつけるんだ。……急で申し訳ないけどね」
「……い、いや!私は、大丈夫……。そ、それより!本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。……ミノンはどうだい?」
「俺だって平気だよ。負ける気もしないしね」
「ああ、僕の計算でも圧勝の予定だよ。それで、皆を集めたのもそれについてなんだ。圧勝とは言ったけど、それは作戦あっての結果だ」
椅子の背もたれにゆったりともたれるインヴァ。ミノンも落ち着きを取り戻して、再び椅子に座る。
「まずは聞いてくれ。ベイスは――」
それから5時間が経って、ようやく廃ビルが静けさを取り戻した。暗い部屋の中で、小さな明かりがぽつりと灯っている。
「漆さん」
「あ……。ミノンくん……」
後ろから声をかけられたあいさが振り向いて、暗い夜道を2人で歩く。
「この間練習してた
「え?……あ、うん。な、なんとか調節出来るようになったよ。インヴァくんの方も……そうみたい」
「ふーん……。ところでさ、漆さんって
「うん……って言うか、ミ、ミノンくんにお姉さんいたんだね」
「うん。で、その姉ちゃんの話なんだけど。学校とかで見たりする?……って言っても、その反応じゃ見たことあっても知らないよな」
「ご、ごめん。力になれなくって」
「いいんだって。しょうもないことだし。学校ではどんな感じ……とか。――あ、学校で思い出したけど。そういえば普段のオトギジャムたちってどういう感じなんだ?」
質問の意図は分からないが、大した意味もない世間話だろう。あいさは「う〜ん」と考えると、数秒経って口を開く。
「そ、そう、だね……えっと……」
そして、ミノンと目を合わせる。
「ジャムは……凄く、いい人だと思う」
お読み頂きありがとうございます。
3章も残すところあと半分くらいです。
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