「あいさちゃん……聞いた?あの……1週間後の、こと」
「う、うん……。わ、私、全力だから……」
「うん、怖気付くつもりもないし、私だって全力だもん」
それ以上、2人は言葉を交わさなかった。1日経っても2日経っても、何も変わらなかった。
「ね……かわるちゃん。今度、さ、どっか……行かない?」
「うん、行きたい。なんか……うん、映画とか……ゲームセンターとか……いっぱいあるや」
とある日の夕方、公園のベンチに座る2人が空を見上げていた。なんとも言えない距離感で、浮かぶ雲をなぞるように視線を動かす。
「ね、あの雲、人の顔に見えない?」
「え……?」
「あ、崩れちゃった……」
「えっ、あっ、ご、ごめん」
「ううん。……あ、あれは犬っぽくない?」
「わ、枠島さんっ。ちょっといいですか?」
「夢野くんが学校で話しかけてくるなんて、なんだかちょっと不思議ね」
放課後、寂れた教室を出たなおの背を追う影が1つ。興味なさげに振り向いた彼女の目に入ったのは夢野の姿だった。彼女の瞳がその目を捉えると、夢野が口を開いた。
そして微笑む彼女が返したその言葉に頷いて、続ける。
「あの……一段落したら、海にでも行きませんか?せっかく、夏なんですし……」
「………………」
「……………………」
「……最高ね!皆でパーッと行きましょう!」
「……はいっ!」
「そのためには勝たなくちゃね……うん、元から負けるつもりなんて、ないけど」
とある雨の日のこと。飯島探偵事務所にて、2人が窓から外を見た。雨がアスファルトを突き、ザアザアと激しい音を立てている。
「雨だね……」
「雨は嫌いか?」
「子供の頃は嫌いだったけど……でも今は別にそうでもないかな」
「そうか。俺も雨の日は嫌いではない」
「理由って……聞いてもいいやつ?」
窓から離れ、コーヒーをカップに注ぎながら、はるが興味深そうに尋ねた。ムネツグはコクリと頷く。
「はるが俺を見つけたのは雨の日だったからな。きっと、あの日雨が降っていなければ、俺は今でも誰にも見つけてもらえずに暮らしていただろう」
「そう思うと、私たちって本当に不思議な出会いね。なおちゃんに、まざるちゃんも」
熱いコーヒーを一口飲む。いくら部屋が蒸し暑くとも旨いものは旨い。そんな中、ムネツグがまたはるに尋ねた。
「はる、少し付き合ってもらえるか」
「え、なにー?」
――――――――――
また別のとある日。荷物を抱えたベイスがインヴァの後を追う。
「おい、次はどこだってんだよ」
「ここだよここ。おもちゃ屋と呼ばれる場所だ。けん玉とやらを買いたくてね。どうやら巷では大層流行っているらしい」
「ケンダマ?んだそりゃ」
「知らないのかい?手や腕を上手く使って糸で繋がった玉を手で握った剣に乗せるのさ」
「意味わかんねえよ……」
「見れば分かるさ。きっと売ってある」
ベイスが小走りになって、先を歩くインヴァに追いついた。ベイスが彼に視線を合わせて、忠告するような目線を向けた。
「おい、俺たちチンタラ買い物なんてしてていいのかよ。そろそろ決戦だってのに……」
「いいんだよ。時間は有限、しっかりとこの星を堪能しておかなきゃ。それに、見くびって油断しているわけじゃない」
「……フン、そうかよ。ところで、アイサとミノンは何してる?」
「アイサは何か用事があるって言ってたような……。でも、ミノンは知らないや。……あっ、店員さん!『けん玉』ってどこにあるか分かりますか?」
店員と話し出すインヴァを見て、ベイスは何故か安心を覚えた。口では色々と言いつつも、結局はインヴァを信頼している。彼の普段通りで冷静な態度が、焦っていたベイスの気持ちを落ち着かせたのだろう。
「おいインヴァッ!」
「何だい?」
「後で俺にも遊ばせろ。その『ケンダマ』とやらを」
「いいけど……壊さないでね」
「ねぇ宿題終わったの?」
「ないでしょ、姉ちゃんも高校生なんだからそんくらい分かるでしょ」
「高校違うもーん」
家のリビングにて、視線を送り合う2人。よほど弟と話したいのかどうでもいいような話題をふっかけるめいら。対するみのんの方はうざったいと言わんばかりの表情で教材やノートをまとめている。
「そういう姉ちゃんこそどうなんだよ?俺より頭悪いじゃん」
「なっ……姉に向かってなんだその口の利き方はー!」
「へっ、事実だし」
「全く、困った弟だ」
そして彼がノート、本や文房具をカバンへ入れ込むと、それを棚の上に置き2階へ続く階段を上る。
「先に寝るから」
「へい、バイバイ」
軽くギシギシとノイズを鳴らす階段。その音を聞く中で、みのんはふと仲間の顔を思い出した。
(ああ、そろそろ決戦か…………)
――――――――――
ある日の昼下がりに、カン、コン、カンと、階段を登る音が狭い路地の中で響く。
――なんだか、皆がいる気がする。
まざるがそっと扉を開けると、彼女の直感はどうやら正しく、そこにみんながいた。
「やっぱり……!」
「ふふ。なんかここにいる気がしたのよね。ね、うみちゃん」
「う、うるせー……!」
「まぁまぁ。あ、まざるちゃん。お茶、飲むでしょ?」
「あ、はい!いただきます!」
ひょこりと小さな台所の方から顔を見せたはる。それからすぐに、そこから出てきた彼女がコップをまざるに手渡す。
「ほっ……」
一息つく。そこでふと、周囲を見て気付く。
「あれ、何か1人足りなくないですか?」
「ムネツグなら喋ってねーだけでずっとそこに……」
「いや、じゃなくて――」
再びドアが開いて、クーラーで涼しくなっていた部屋へ、暖かな空気が緩やかに入り込む。まざるにうみ、そして話題に出ていたムネツグが扉の方を向く。
「あ……!」
「ヤッベ、完全に忘れてた!」
「えっ、ええ!?なんですかぁ、ちょっと……?」
困ったような表情で、夢野は背中をバシバシと叩いてくるうみの手首を掴む。
「ちょっとちょっと!」
「あ、夢野くん。これで全員揃ったわね」
「あ、はい。せっかくなので、来ないとなって……だって、今日は……」
夢野がそう言うと、空気が変わった。コップを持つまざるの手がぴくりと止まる。
「今日は、決戦ですし」
視線が一気に彼の方へ集まる。想定外のことに、思わず仰け反ってしまった。
「……うん。ムネツグさんのためにも頑張らないと、ですよね」
「ああ。つっても、負ける気なんてしないけどな」
「みんな、ファイト!」
「あ、あの!き、昨日徹夜して作ったんです!その、お守りっ!」
お守りを、その場にいた人数分、どこからか取り出して見せた。
「わあっ!え、もう、すぐカバンにぶら下げます!」
「えっ、あ、ありがとう」
「手先器用なんだな、お前ー」
「い、いやそんなこと…………でも、皆が何事もなく、全部終わらせて帰れますようにって……」
「あらあら、素敵じゃない!」
皆でぐるりと夢野の周囲を囲って、彼を褒め称えるようにはるがうんうんと頷く。
「皆で海、行かなきゃね」
「……はい!」
「え、海?」
「い、いや……皆で海とか……行きたいなと思って。だってほら、夏じゃないですかっ」
まざるがモジモジと話す夢野の両手を掴んで、上下に振る。
「めっっちゃいいじゃないですか!え!水着買わないと!」
「気が早いわよ……」
――――――――――
「……インヴァくん」
「何かな?もしかして怖いのか――」
振り向いたインヴァの目にあいさが映る。長い黒髪の中から覗き込む彼女の瞳を見て、そうではない。と咳払いをすると、言い直した。
「ううん。……それで、どうしたんだい?」
「あのね、た、大したことじゃないんだけど、えっと、えーと……」
チラチラと左右を見つつ言い淀む。そんな彼女と、怪訝そうな笑顔を見せるインヴァが同時に前へ一歩、踏み出した。
「あの!インヴァ、くん……」
「うん」
「好き、です」
言うだけ言って、顔を赤らめて視線を逸らす。
「面白いことを言うね……。そんな感情を向けられるのは初めてだよ。いや、しかしだな……」
インヴァはブツブツと何かを話しながら、ポン、とあいさの肩に手を乗せた。2人は無言でお互いを見つめている。
「返事は明日でもいいかい?」
「あ、あ、うん……」
分かってはいたが、いざ言葉にされると辛い。切なさを隠すようにして、深く頷いた。
「さてと、そろそろ皆が来る頃だろう。……アイサ、僕は多分、今日のことを一生忘れないと思う」
「……!」
あいさに背を向けて、一切の視線を交わさずに呟くようにそう言った。言葉にこそしなかったが、無論彼女もそうであった。
ふと、あいさは目から何か熱いものが流れ落ちる感覚を覚えた。
(まだだ……まだ、早いから!)
パンッ!と軽く音を鳴らしながら両頬を手で叩き自身に喝を入れて、グッと拳を握った。
現在時刻18:30 決戦まであと1時間30分――
お読み頂きありがとうございます。
前書きあまり書けなかった分、後書きを少し長めに書いてみようと思います。
うみは2番目に考えたキャラクターです。とにかく強力なライバルを味方にしたい!と思ってこんな感じの性格とか能力になりました。
誕生日は9月12日です。
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