「たあぁぁぁぁ……!」
佇むインヴァをその目で捉えて、変身して早々、一直線にグラビティが駆け出した。
「ベイス!」
グラビティは蹴りの姿勢。足を構えたのを見ては、インヴァが後方にステップしながら指示を送る。
朱色のオーラを拳に纏ったベイスが前へと出て、彼女を迎撃するように右腕を振るった。
「よっしゃ!次!」
一気に防御を固めたグラビティが、笑いながらそう叫んでは後方へ吹き飛ぶ。
視線の先にはジャムとソード。先程のグラビティにも劣らないほどの速度で駆ける。
(へぇ……結構考えてきたね……!)
右手に小さな火球を携えて、冷や汗をかきながら、戦いを楽しんでいるように笑みを浮かべるインヴァ。
「ハッ、来るんじゃないっ!」
構えた火球を、体をひねりながらアンダースロー。真っ直ぐに放たれたそれはジャムたちの方へと進むが、ジャムのバリアが展開される。
それを展開したままジャンプしたその瞬間、火球が爆裂。強い光が辺りを包み込んだ。
「……ッ!目眩し――」
瞬間、強い衝撃と痛みが体を襲う。何かに攻撃されて、体が床に叩きつけられる。
目を開いたジャムが見たものは周囲に飛び散っていた黒い液体。先程の攻撃と目の前の光景が繋がる。オトギアッシュによる攻撃だと気付いた。
(向こうも考えてきてる……!)
周囲を見回してみてもアッシュはいない。隠れたか。インヴァから少し距離を取ってみる。
「ソード、どうすれば……!」
「そうね、とりあえずグラビティと動きを揃えましょう」
ベストなタイミングで彼女らの後ろにグラビティが着地。体勢を整える。
「チッ……あのドロドロ女がめんどくせぇことしてるみたいだな」
「ええ。次に出てきたら私がぶっ飛ばしてやるわ。グラビティは引き続きベイスの方を――」
言いかけている途中に、ベイスが前方より迫り来る。アッシュが背後から攻撃してくるかもしれない。そんな中、背後からムネツグが走ってきた。
「ムネツグさん!?」
「ちょ、ちょっ!」
飛び出そうとするジャム。その瞬間、ソードがムネツグの意図に気付く。
「待って、ジャム!」
――あのムネツグさんが、ベイスに真っ向から戦おうとするはずがない。何か策があるはずだ。
「ハッ!『飛んで火に入る夏の虫』かぁ!?」
「その言葉の意味を俺は知らない……!」
飛び上がる。口を大きく開けて、笑いながら拳を突き出そうとするベイス。ムネツグは顔色一つ変えずに、おもむろに片手を突き出そうとしている。
「……」
ジャムは思わず唾を呑んだ。
「ぶっ殺してやるよ、ケルウェイルゥ!」
「そうか、また後で聞いてやる」
何かに気づいたのか、奥にいたインヴァの表情が歪んで、ベイスの方へ走り出す。
「待てっ、ベイス!そこから離れるんだ!」
「あぁ?なんでだよ!」
インヴァの表情は確認せずに、ただ目の前にいるムネツグに集中している。ムネツグとベイス、2人の距離が縮まっていく。
「喰らえやァッ!」
「『
呟いたムネツグの右手に淡い光が集まってくる。これから何が起こるか、ベイスにも分かっただろう。
ベイスの強烈なパンチを身を翻して避ける。彼の拳は確かに速いが、ムネツグにとっては予測していればなんとか避けられる速さであった。
「この――!」
何かを言おうとしたベイスだったが、彼の体に触れたムネツグと同時に、その場から跡形もなく消えてしまった。
――――――――――
この場に残ったのはジャム、ソード、グラビティ。そして敵陣営であるインヴァとアッシュ。ムネツグの活躍によって、戦況がいい方向へと転んだ。
「全く……してやられたよ、本当に」
「……怖気付いたかしら?」
「…………」
睨み合う2人を横目に、ジャムは少しの不安を感じていた。ベイスとどこかへ消えてしまったが、ムネツグは無事だろうか。無事だったとして、ベイスと同じ場所にいるはず。心臓の鼓動の音が大きくなっていくのを感じる。
「おい、何してんだよ」
「……!」
急に肩を叩かれて、心臓が飛び出そうな気分だった。驚きのあまり声すら出ない。グラビティが彼女の顔を覗き込む。そして両手でその肩を支えて、言う。
「今は信じるしかないだろ。……向こうも同じだ」
「うん、そうだよね……うん!ムネツグさんなら絶対なんとかする!……だから私も……私たちも、絶対になんとかしてやるんだからっ!」
気合を入れて、グッと拳を握り、ソードと同じ方向を向いた。
「チッ…………アッシュ、『あれ』をやろう!」
「う、うん、分かった!」
すると突然アッシュの体から黒色の液体が噴出、無造作に放たれたそれがビシャビシャと地面に落ちる。
――何かが起ころうとしている。油断はしていられない……!
ジャムが拳に力を込めた瞬間、インヴァの手から火球が放たれた。
「さぁ、こいつはどうかな?」
パチパチと音を立てながら弾ける火球は辺りに火花を撒き散らして、彼女らに届く間もなく炸裂する。単に目眩しか、そんなことを考えていた途端、足元から炎が舞い上がった。
「あっつ!」
「また厄介なことをしてくれたみたいね……!」
「言ってる場合かよ!これはヤバいだろ!」
地面を見てみれば、先程放たれた黒い液体に炎が引火して、激しく燃え上がっている。このまま戦いが長引けば、インヴァに文字通り火力負けしてしまうのは明白だ。
アッシュの巧みな配置のおかげで、気付けば周囲を炎に囲まれていて自由に身動きも取れない。限られた移動範囲の中、軽快な足取りでインヴァが迫る――。
「燃えろっ!」
「単純なパワーなら……アタシの方が上だああっ!」
火柱を出しながらの打撃を、グラビティが受け止める。
その傍ら、辺りの炎をジャムが打ち消しているが、炎の勢いは留まることを知らず、尚も黒い液体の上で燃え続けている。
(きっとこのタイミングで攻めてくる……どこにいるの……?)
その最中、剣を片手に辺りをぐるりと見回すソード。アッシュの気配とその姿を探っているが、中々しっぽは掴めず。
(妨害のジャム、攻防一体のグラビティ、そして判断力と洞察力に優れたソード……容易くない布陣だ)
インヴァの猛攻も加速していく。汗を飛び散らせながらもグラビティはなんとか対処出来ているが、その表情に余裕はない。
炎の中戦う2人の熱が、高熱の炎に囲まれる中伝わってくる。ソードがそちらへ一瞬意識を逸らした瞬間、視界の端で何かが動いた。
「!」
――今のは炎じゃない……!きっと……
手がかりを掴んだ。火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、彼女の灰色の脳細胞が目まぐるしく動き思考を整理・構築していく。
(何らかの発射体、もしくは本体……この角度であれが動いていたのなら。次はどこから……)
黒い影を捉えた。目で追い続ける。その瞬間だった。
「クソッ……!」
「グラビティ!」
立て続けに聞こえた2人の声。だが、目は逸らさない。何故なら――
「アッシュ!」
「ここだと思った!」
剣を構え、速いスピードで移動するアッシュを剣をぶつける。更に追撃を試みたソードだが、足が重くて動かない。粘性の強い何かが足元にまとわりついている。きっとアッシュのものだろう。
一か八か、打破する方法が1つ。
「はあああああっ!」
振り上げた右足が邪魔くさい液体を斬り裂きぶっ飛ばして、黒い武装を纏ったアッシュへと剣を再び構えた。左足はまだ取られたままだが、この距離なら刃が届く。
「もらった!」
怯えたように目を見開くアッシュの体が、何かに押されたように後方へと移動し、斬撃が空を切る。
黒い翼を携え、アッシュを抱えたインヴァの姿が映る。
「ジャム、行くぞッ!」
「うんっ!」
インヴァの手が塞がっている今がチャンスと言わんばかりに、呼吸を合わせてオーラを纏った2人が駆ける。この状態なら攻撃も容易く通るはず。腕部に力を入れたその時、アッシュが両腕を前へ突き出して。
「《アッシュゲイザー》!」
地面より間欠泉のように噴き出した液体。インヴァが指を少し揺らすと、小さな火種がそれに引火し、大きな火柱へと姿を変えた。
「わっ、これは……!」
ジャムの足が止まる。燃え尽きるようにそれが消えると、目の前にいたのはインヴァが1人だけ。
――逃げられた!
汗がたらりとジャムの頬を伝う。彼女の少しの表情の変化を読み取っては、ソードが剣を強く握る。
「大丈夫、もう見切ったわ!」
頷いて、バッと駆けたその背中は見送らずに、ただ真っ直ぐに前を見る。
「《ジャムサーベル》!」
「ハッ!アタシらも新技いくぜ!」
オーラをほとばしらせながら指を立てて、グラビティはニヤリと笑みを見せた。
お読み頂きありがとうございます。
乱戦だったので、書くのに苦労した覚えがあります。
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