「邪魔……すんなぁっ!」
ババババッ!
ミノンの放つ何十本もの黒い糸が、地面から音を立ててポラリスの体を貫かんと伸びる。
「ヤッバー!……でも、こんなんで止まると思うなよ!」
糸を裂くなんてものではない。巨大な右手の爪が文字通りそれらを粉砕していく。
「ゴリラ女が……これならどうだっ!」
街灯に糸を括りつけて跳躍し、空中でシュババと高速で手を動かしては、指先から糸を放つ。先程よりも高速で、強度も高まっているのだろうか、金属のような光沢が強まっている。
「ふんっ!」
避けずに受け止めてみるも、先程のようにバラバラ、というわけにはいかない。手応えを感じた。
「こんなの人に向けちゃダメでしょ、みのん!」
グッと手のひらに力を込めて、振り払うようにして横へ弾いたポラリス。下半身に体重をかけては、ミノンに攻撃を叩き込もうと駆け出した。
「とおっ!」
――かかった。
ジャンプしたポラリスの隙を突くようにして、彼女のいる一点へ集中して複数の箇所から糸が伸びてくる。
「《ライズトラップ》だっ!」
「こ、こんのぉ〜〜!!」
なんとか身を翻してみるが、それでもやはりノーダメージとはいかなかったようだ。衣装の装飾を所々貫かれて、奇怪な姿勢で糸と糸の間に挟まっている。
「姉ちゃん、もういいだろ?」
ミノンは空中で身動きの取れないポラリスを見上げて言う。必死でもがこうとする彼女と目が合った。
「いや、いいわけないじゃん?」
彼女がカッと目を見開いた瞬間、彼女を囲う糸が弛んだように見えた。
(クソッ!まだ……!)
バッと後方へ飛び上がると、囲う糸を補強するように何本もの糸をまた地面から生やす。
「あ〜、もっ!全部ぶっ壊してやるっ!」
ミシッ……っと微かに音が鳴る。
瞬間、薄氷が爆ぜるような音が鳴り響き、黒い破片が辺りへ飛び散った。左手にも大きな爪を携えた魔法少女が笑みを見せながら、輝く目で現れる。
「はあああっ!」
「チィッ……この!」
爪を構えて猪突猛進。適当に糸を張り巡らせたところできっと破壊されて終わる。ミノンは数本の糸を1本に纏めて、剣のようにそれを持つ。
「はっ!たぁ!おりゃーッ!」
単純なパワーではポラリスには勝てない。テクニックを活かした剣術で、爪での切り裂きを弾いていく。
「この……埒が明かないっ!」
力を込めた大振りな攻撃でミノンの防御を崩すと、後方へ下がり一呼吸。グッと拳を握りしめもう一度駆け出すと、猛スピードで拳を突き出す。
「たぁっ!」
「フンッ!」
間一髪で回避したミノンが反撃。斬撃が肩をかすめるがポラリスの動きが鈍くなることはなく、むしろ先程よりも素早く、攻撃はより熾烈になっていく。
「そりゃそりゃそりゃそりゃ!!」
「〜〜〜〜ッ!」
――この猛攻を凌ぐには腕が2本じゃ足りないッ!
背部から生やした数本の糸が盾のようになって、第3、第4の腕として動き出す。
しかしそれでもミノンは防戦一方。両腕にかかる負担が少し減っただけで状況の根本的な解決はできていない。拳が打ち付けられていくたび糸の盾は破壊され、新たに作られたそれもすぐに崩壊する。
(いくら変身しているとはいえ、このスピードを長時間継続することは不可能なはずだ……なら、このまま防御に徹して――)
「ミット打ちやってるわけじゃないんだよ!」
思考に脳のリソースを割いたのが仇となったか、気付いた時にはポラリスの拳が眼前にあった。冷たい空気の感触が、風を裂く音が伝わってくる。その瞬間、ミノンの体が後方へ大きくぶっ飛んだ。
「なッ……!?」
「はあああああっ!!」
頭部の痛みを堪えながらポラリスの方を見ると、追撃の構えをとっているのが見えた。彼女がグッと足に力を込めたタイミングで、ミノンは大きな黒い壁を生成する。
(ここを耐え凌げばなんとか……なるはずだ!)
「邪魔くさいっ!」
ポラリスが言い放つと、右手の爪が発光し、大きな熊の手は更にそのサイズを増した。煌めいた爪、視界の先には大きくそびえる高い壁。
「うおおおおおっ!!《ポラリス・ビッグディッパー》!」
助走からの大胆なジャンプ!振り上げた巨大な右手が壁をダイナミックに切り裂き、同時に爪から放たれた強烈なエネルギー刃がミノンを襲う。彼の纏う黒い糸で構成された外套が一瞬のうちに空中で弾けて、人影がひとつ転がり落ちた。
「みのんっ!」
――――――――――
「テ、テメェ何しやがったっ……!」
周囲を見渡しては、困惑の表情でムネツグを睨みつけているベイス。
「ただ下の階へ『飛ばした』だけだ。それくらいは分かるだろう」
「バカにしやがって……!《クレータープレッサー》!」
大きく跳び上がるベイス。天井スレスレまで上昇した彼の拳がオーラを纏って、ムネツグのいる場所にそれを思い切り叩きつけた。
バゴォッ!!
轟音が鳴っては、床に大きなヒビが入る。塵が舞って、なんとか回避したムネツグが小さく咳き込んだ。
「ゴホッ……」
「だあああっ!クソッ!」
ヒビの入った床からミシリと音が鳴る。
「なぁ、ベイス……とか言ったな」
「ああ!?」
「きっとお前はあのインヴァからこの俺について様々なことを聞かされているはずだ。だが……」
そう言いながらムネツグは右腕を構えた。
「……これはどうかな」
「お前、まさか……!!」
鼻のあたりの前で構えた右手を握ると、瞳が煌めく。その意味をベイスは瞬時に理解した。
「チェンジ」
「ぐうっ……!」
ドギュゥンと眩しく強い光がムネツグの足元から柱のように上方へと伸び、光の粒で出来た螺旋が全身を包み込む。ベイスは眩しそうに目を細めて、両腕を顔の前で構えた。
強く伸びていた光の柱は徐々にその輝きを失っていき、光の粒は包んでいたものを顕にする。
「オトギ……エクリプス!」
決めゼリフも決めポーズもなし。ただ突っ立ってそう呟いた。『蝕』の名を冠する黒青色の戦士が、そこにいる。
「ハァッ!」
(速い……ッ!)
ベイスやインヴァをも超えるハイスピード。だが、辛うじて目で追える。ベイスはすぐに慣れたのか、防御の姿勢をとって。
(どう来る……どう仕掛けてくるつもりだ、ケルウェイル!)
グルグルと回る彼をベイスは目で追う。誰も攻撃をする素振りを見せない、緊張の戦場。
じれったいと、ベイスがもどかしさを感じたその瞬間、彼の立つ床が抜けた。
「何ッ……!こ、これはっ!」
「少しは周りを見ることだな」
目に映るは彼が顔につけている無骨な紺色の仮面。目が合っているのかどうかも分からない。
「《エクリプスチャージ》」
右手にエネルギーを溜めた後に放たれた一撃。空中で身動きの取れないベイスの腹部へ強烈に打ち込まれ、彼を下方へ大きく吹き飛ばす!
突き飛ばされたベイスの肉体は更にその下にあった床をぶち抜き、瓦礫の山と共に落下する。だが彼のパワーとタフさはラウェス・シュベリアの中でも随一。この程度でくたばるはずはないと、エクリプスはその穴から彼を追う。
「フハハッ!なかなかやるじゃあねぇか!」
かなりのダメージを受けたはずだが、ベイスは余裕そうに豪快に笑う。冷や汗を仮面で隠して、エクリプスは唾を呑む。
「しかし今のは効いたぜ」
ギュンッ!と空気が裂かれた。エクリプスの眼前に見えるはベイスの顔とその拳。
(避けられない。……きっと今までの俺なら諦めていたはず。だが、今は!)
脳の送った信号の通りに体が瞬時に反応する。ベイスの拳をガッチリと掴んで、その攻撃をひょいと受け流す。ベイスは攻撃の勢いでそのまま前へと突っ込んで、壁に激突する直前で停止した。
「クソがっ!」
ターンして再び駆ける。両手にエネルギーを纏い、掴むか、引っ掻くか、それとも突きか。どうとも判断しかねる手の形を保って、エクリプスに襲いかかる。
「うおらあぁっ!」
――打撃か!
握りこんだ手を見て、両腕に力を入れて構える。放たれた打撃、同時に発生した爆発で両者共に強く吹っ飛ぶ。
「ハハッ、どうだ――」
瓦礫混じりの爆風には人影がひとつ。ゆらゆらと爆風が揺らぐ中、シルエットが真っ直ぐベイスの元へ走り出す。
「――ッ!?」
「もう少し鍛えてから出直すんだな」
見上げるベイスの目に映るのは、紛れもなくエクリプス。ヒビが入り所々割れてしまった仮面の中から瞳が見える。右手にエネルギーの刃を携え、ジッと彼を睨みつけていた。
お読み頂きありがとうございます。
やっとエクリプスを出せました。1話を書いた頃から「あ〜戦わせてあげたいな」と思ってたのです……。
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