「勝たなきゃだ!」
バチリバチリと電流を纏いながら、火柱より現れるインヴァに拳を向ける。
「そのバリアで打ち消せないくらいの火力で君を燃やしてあげるよ!」
「そ――」
何か言おうとした瞬間、口を塞ごうとするかのように放たれた炎。バリアを展開してみるが、さっき彼が言っていたのはどうやらデタラメではなかったようで、防いでいるというのに熱すぎる。
(火力の高さが桁違いだ……)
炎の縫い目をくぐって、バリアを展開したまま跳躍。空中は体の制御が効きにくいが、炎がその場で留まらない分少しは有利に戦えるかもしれない。そんな矢先、インヴァが再び炎を放つ。
「むんっ!」
手を抜いては負けてしまう。全身に力を入れてバリアを展開。受け流すとすぐに炎が薄くなって、視界が開けた。
――今のは火球か!
視界が開けてすぐ見えたのはインヴァの姿。爆発を起こすとともに急接近してきて、彼が拳を構える。
バリアを解除して拳を回避したジャム。反撃の姿勢を作る間もなく、インヴァの放った2発目の打撃が命中する。
(速いっ!)
「遅いんだよぉっ!」
「うわあぁっ!」
打撃と爆発の両方がジャムを襲い、灰色をした煙と共に宙を舞う。だが、へこたれるわけにもいかない。しっかりと両手で床をグリップして、体勢を立て直す。
どうにかして攻撃を与えられないか。そう考えを練っては、火炎放射を次々と回避していく。
(勝ち目が無いわけじゃない……そう信じなきゃ……!)
右手にはジャムサーベル。左手はバリアを展開するために平手の形。
「これならどうだ!」
前へ向かって大きく跳躍。サーベルの切っ先をインヴァへ向けながら降下。
放たれた火炎、ジャムサーベルがそれを斬り裂いて、バリアだけでは到底防げそうにもない攻撃も難なく突破していく。
問題は距離を詰めた後の近距離戦。彼女のそれよりも遥かに速いインヴァの攻撃をどう掻い潜りダメージを与えるかだ。
「えいやっ!」
先制攻撃。電撃を纏った刃が命中した。インヴァが彼女をそうしたように吹っ飛ばせれば良かったのだが、ジャムの攻撃力では無理な話だ。一発でダメなら手数で攻める。次の一撃を構えたその瞬間、炎が揺れては拳が迫った。
(来る……!なら、ぶっ固める!)
左手で展開された小型のバリア。今までの物よりも分厚く、透明度の低い濃い桃色のそれが拳を受け止めた。
「たああっ……!」
電磁バリアは破壊されるその直前までインヴァの体に電気を流し込み、ジャムの攻撃する隙を作る。
一発、二発。ダメージを与えている感覚はある。前の状態とあまり変わらない手応えから察するに、防御力はあまり変わっていないようだ。
「《ジョーカーフレイム》!」
ダメージを負いながらもバリアを破壊したインヴァ。自身にまとわりつくジャムを追い払うため、足の先端から勢いよく火柱を放つ。
ヒットアンドアウェイ。予期していたのか足早にそこを去って、ジャムは再び距離を取る。
「土壇場になって頭が回る……君は強い!」
前屈みになってニヤつくと、インヴァはフィンガースナップ。彼がパチッと鳴らした音を合図に、彼らの周囲を高い炎の壁が取り囲む。
「!!」
炎のすぐ側にはうみがいたはずだ。戦えない彼女を守らなければと、ジャムが稲妻のようなスピードで走り出す。
「う、うみちゃん……」
うみの体は倒れたまま、動かない。幸い呼吸はあるが、体を少し持ち上げてみても何の反応もない。右手には軽度の火傷の痕、体中には煤が付着していた。ジャムは不意に、意味もなく彼女の頬を触った。
(……こんな、柔らかいんだ)
「そのままじっとしていてくれ。……まとめて葬る!」
全身から火花を放って、炎の翼で飛び上がる。炭化したような黒い右手には業火がひとつ。
「……私さ、なんか情けないや。手の火傷とか、全部今気付いちゃった」
窮地に立たされている中、ジャムはうみの火傷した手に触れて、密かに呟く。
「こんなこと言ったら……怒るかな、どうだろう、わかんないや」
静かに、彼女の右手にあるメーターの数字が増えていく。12、13、14、15…………21。柔らかく、彼女を炎から少し離れた場所へ寝かせると、おもむろに後ろを振り向いた。
「ハッ、君らしいな!」
――僕の勝ちだ。
そう確信しては業火を纏いし拳を前へと突き出した。目を見開いて、口を開けて笑みを見せる。
「…………」
対照的にジャムはひたすら無表情で。諦めたわけではない。憤りに近い何かを感じているだけ。構えた右手からジャムサーベルがスッと伸びる。何の変哲もないいつもの姿。
「もらった――」
ギィィン……!!
金属のような鈍い音が鳴った。これほどのエネルギーを纏った拳だ、ジャムサーベルのようなペラペラな剣、打ち抜けないはずがない。インヴァが理解出来ないまま、ジャムサーベルは自らを犠牲にしてインヴァを後方へ弾き飛ばした。
「よく分からないけど、力がいっぱいだ。……うみちゃんが何か残してくれたのかな。って、縁起でもないや」
首をブルブルと横に振る。そして、視線の先に空を飛ぶインヴァを捉えた。
「クソッ、急に戦闘能力が上がった……!?理解出来ない……だけど!」
両腕に湛えた炎を解き放つ。赤い炎を放つうちにその色が黒く変わっていき、赤黒い炎がジャムを襲う。しかし……
「ふん!」
展開されたバリア。燃え盛る炎を打ち消しながらジャムがゆっくりと前進する。
「なんだと……!?なら、これはっ!」
インヴァが大きな火球を生成する。禍々しい煌めきを放つそれを頭上で構え、ジャムのバリア目掛けて放り投げる。
バリィッ!!
バリアと火球の間に火花が飛び散って対消滅、その爆風でジャムは思わず後退する。
「くっ……!」
「黒い炎……。奥の手かと思って警戒してたけど、大したことは無さそうだね……!」
続けて何度も何度も火球を投げる。その分だけバリアの崩壊する音が聞こえてくる。スタミナ勝負の耐久戦が始まったかと思いきや、砂埃の中からバリアの壊れる音が聞こえなくなった。受け止められてしまったかと、インヴァがまた火球を生成する。
「さっきみたいにまた強度を上げたっていうのか……!」
その瞬間、一瞬で火球に風穴が空いて消滅する。想定外のアクシデントに呆気に取られて、インヴァはその場でフリーズしてしまった。
「な、何がッ!」
もう一度火球を構えるが、先程と同じく穴が空いては消える。
「――ッ!」
火球が使えないならこれで、と火炎放射の構えを取り、黒い炎を両手から放った。
ゴォォォと激しい音を鳴らしながらメラメラと燃える炎。その中で、小さくジジジとノイズのような音が聞こえた。
ビリビリビリビリッ!!
その音を耳から受け取り、桃色の電光をその目で視認した。燃え盛っていた爆炎も、立ち込んでいた熱気も一瞬でその場から消滅する。
「《ジャムパルス》」
バチッ、バチッと、ジャムの手の平から電流の残穢が滲み出る。バリアが炎を打ち消していたように、彼女の放つ電撃もまた、それらを打ち消せるように変化したのだ。
インヴァは初めて心の底から焦った。計算高く頭の回転が速い彼だが、これには流石に驚きを隠せないようで。彼が何らかの判断を下す前にジャムの体が動いた。
「こっち……見ろ!!」
ビッ、ビッと電気が走る音と共に、電流を纏った彼女が高速でインヴァの背後を取った。防御が間に合わない。電気を帯びた蹴りが頬に迫る。
「ぐえぁっ!!」
防御をしなければ。そう思ったときには既にもう体は吹き飛んでいた。繰り出された蹴りは、圧倒的に速い。
「まだまだあぁぁぁ〜っ!!」
雨なんて降っていないのに、どこかに雷が落ちた音がした。転がるインヴァへと駆けるジャムの叫び声が様々な音にかき消される。
すくい上げるようにインヴァを蹴り上げ、上空へと打ち上げられた彼の体に向かって跳躍し、拳を構える。
「《ジャムランページ》ッ……」
拳が腹部へと命中すると同時に鈍い音が鳴り、凝縮された拳の先端に集まった電気エネルギーが今にでも破裂しそうにバチバチと音を立てる。
「サンダァァァァッ!!」
思い切り上空へと突き上げた拳から光線のような電流が雲を突き刺し切り裂く勢いで真上へ放たれた。その姿はまさに雷。薄紅色をした迅雷が、インヴァを貫いた。
お読み頂きありがとうございます。
でっかいバトルなので、ジャムにはでっかい強化をあげたかったんです。
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