飯島探偵事務所のテーブルの上に、開かれたテキストとノートが2つ。
「先輩」
まざるが持っているペンを置いて、目の前にいるなおに尋ねる。
「何?」
「さっきの……先輩の力がうんぬんとか、詳しく教えてください」
「あっ……。オーケー、分かった」
なおもペンをカタッとその場に置いて、脳内を整理しているのか、考えているような素振りを少し見せて、まざるの方を向く。
「まず初めに……私たちの力の源は『肉片』なの。肉片が体内に入ることによって、私たちは変身できるし、力を行使できる」
「ふむふむ」
「それで、私はある日偶然遭遇した肉片を体内に取り込んでしまってこの力を得た。あなたは私の手を通じて、言い方が悪いかもしれないけど……私の力の一部を奪って、力を得た」
そう聞いて、まざるは妙に申し訳なくなってしまい、縮こまって俯く。
「気にしないでよ。そのおかげで今回はなんとかなったんだし。で、肉片を捕まえたり、他の物と融合してしまった肉片を倒したりしたら、肉片が粒子となって私たちの体に取り込まれる」
「数字が増えたやつですね!」
「そう。集めれば集めるほど私たちの力は強化されていく。集めた分だけ更に集めるのが楽になる」
「……あ。そういえば肉片って、どれくらい集めればいいんですか?」
「さぁ……?ムネツグさん――」
名前を呼んだ瞬間、奥の方からムネツグがニュッと出てきて、食い気味にボソッと。
「100個。100個集めれば元に戻る」
「――だそうよ」
「100個かぁ……」
先は長い。まざるは置いていたペンを取り、再び英語の学習に手をつけた。
「英語も肉片集めも、地道にやっていくぞっ!」
――――――――――
翌日の朝。
「おはよー!」
まざるが元気に1年A組の教室に入り、これまた元気に挨拶。クラスメイトとたわいもない話をして、着席。
「おはよう、苺園」
背後からの声に反応して、まざるが振り返る。
「おはよう、江崎くん!」
「ね、1時間目って何だっけ……?」
「数学じゃなかった?」
周囲の机を見て、推察する。それを聞くと、まざるは席を立つ。しばらくすると、教材をたくさん持ってきた。机の中に次々にそれらを入れていき、筆箱から文房具を出していく。
……口にはしたことがないが、江崎はまざるのことが好きである。
――――――――――
昼休み。食堂へ向かうもの、教室で机をひっつけ弁当を食べるもの、隅に一人で食べるもの。江崎が弁当を出したとき、偶然彼に声がかかった。
「江崎、暇なら一緒に食べない?」
「へ?」
確か男子バスケ部所属の男子と取り巻きの男子数人だ。入学当初に少しだけ話したが、距離を置きたくてそれ以来話していなかったのに……と江崎は心の中で呟く。
彼に半ば強引に連れられ、階段を降りていき食堂へ。財布はあるが弁当もあるので、食券を買い昼食を取りに行く彼らを待つ。
「ごめんごめん、待たせて」
「いや、いいよ」
「いただきます……」
弁当を開け、白米を一口。誰かは知らないが昨日の出来事だとか、部活の話だとか、気に入らない先輩の話だとか。自分の知らない話を身内だけで楽しんで、最終的に自分はいなくなる。何のために誘われたんだと、江崎は思いを募らせては一口、また一口と弁当を食べ進めていく。
食べ終わってしまった。程々に空気を読んで、同じタイミングで食堂を出て、またまた同じタイミングで教室へ戻る。誰かが開けたドアを通り、それを閉める。席へ向かうと、まだ昼食を食べているまざると目が合った。笑顔を作る彼女。江崎は思ったように笑顔が作れず、絶妙な表情で会釈する。
(何食べてたんだろう……)
――――――――――
チャイムが鳴る。生徒が次々に教室から出ていく。何の意識もしていなかったが、偶然にまざるの直後に教室から出た。朝から妙に意識してしまう。と頬を軽く掻いて、彼女の後を追うように階段へ向かう。
(なんか、ストーカーみたいだ。いや、意識しすぎかな)
校門の周辺、遠くの方で男子バスケ部が集まって何かをしている。昼に江崎に話しかけてきた男子はかなり身長が高く、遠くからでもよく目立っている。
食堂でのことを思い出して、なんだか無性に腹が立ってきた。この苛立ちがどこかへ漏れてしまわないようにグッと歯を食いしばり拳をグッと握りこむ。
(さっさと帰ろう……)
学校を出た江崎。ボーッと歩いていたが、足元に何か黒い影が見えた。彼本人はもちろん知っているわけがないが、それはまさにまざるたちの集めている『肉片』だった。
「これって……」
ガサゴソとカバンを漁ると、不要な白い紙で包まれた何かを取り出す。隙間から少し黒い何かが見える。
「朝拾ったのと同じか……?」
江崎は落ちている肉片を手に取って、自身が朝拾った物を交互に見て比べる。よく似ていた。好奇心を抑えきれずに、包みを剥いでまじまじと見る。
「うーん……」
「なぁ、そこ邪魔だわ」
3年生だろうか。江崎より少し体格の大きい男子生徒に軽く突き飛ばされた。江崎の横を通り過ぎ、友達と何か話し、大きな笑い声。
もちろん自分が悪いのは理解している。原因ももちろん理解している。しかし、だからといって別に自分に苛立ってしまったわけではない。後方で彼を睨みつける江崎の眉がグッと歪んだ直後。
バンッ
――平和だったはずの通学路に、鈍くも鋭い銃声が轟いた。