――目の前で、雷が落ちた。何となく、『行かなければ』と思った。
体はもう随分動くようになってきた。傍らで倒れているあいさを無視して、ソードはスカイランドタワーへと向かう。
――――――――――
かなりの大きさの火柱が、インヴァを中心に立ち昇る。近付くだけで火傷をしそうな出力だ。微かにインヴァが倒れているのが見えた。どうやら意識は無いらしい。
――『意識』は無い。
頭の中で浮かんだその言葉。引っ張られるように、ジャムの意識もどこかへ遠ざかったような感覚がした。なんとか持ち堪えて、うみの体を持ち上げながら避難を試みる。
(……意識が無いのは、厄介だ。多分、無理矢理どうにかしないと止められない。でも、そんなことはしたくない)
思うように体が動かない。ジャムがふと足下を見ると、自身の体からポロポロと光の粒がこぼれ落ちていっている。
「な……なんで」
――いや、考えるのは後だ。今はうみちゃんを……。下の階へと続く階段へ向かわなければ。
扉を開けて階段を下りる。間もなくして、下の方からコツン、コツンと階段をハイスピードで登る音が聞こえる。緊張感がジャムを襲った。音はどんどん近くなってきて、思わずゴクリと唾を呑んだ。
「……ジャム!」
「っは!ムネツグさん!」
音の正体はムネツグの足音。驚いた顔をした2人の目が合う。
良かった、無事だった、と安堵が彼女の心を包む。しかし、悠長に喜んでいる場合ではない。
「ムネツグさん、インヴァが……!えっと、とりあえずうみちゃんをお願いしてもいいですか!?」
「一体何が……?まぁいい、分かった。安全なところへ連れていく」
ぐったりとしているうみの体をジャムから受け取って、階段を下り始める。ほっと一息ついて、ジャムは再び燃えるインヴァへと立ち向かう。
「しかし困った状況ね。なんでこんな……って、ジャム!?あぁ良かった、無事だったのね」
いつの間にかそこに、ジャムの横にソードがいた。不安だった気持ちが一気に楽になった。ムネツグといい、頼れる歳上の存在のありがたみがよく分かった。
「ソードこそ!……アッシュは?」
「なんとかしたわ。……そんなことより、今は目の前のこれが優先ね。……これまさかそういうこと?」
「はい。でも、本人の意識がないみたいで」
「なるほどね。向こうもエネルギーが無限ってわけじゃないんだし、私的には収まるまで放置してもいいと思うのだけど、どうしましょうか。…………あれ、というかグラビティはどうしたの?」
今気付いたのか、ソードが不思議そうにジャムの顔を覗いた。
「あぁ、グラビティなら途中で変身が解けて……今は、ムネツグさんが安全なところに連れて行ってくれているはずです」
「そう……。ムネツグさんも無事で良かった。……彼女もベストを尽くしたのね。もちろん、あなたも」
「……はい!」
炎の燃え上がる音が強まり、2人の視線がそちらに向けられる。炎の放つ輝きが強く、白っぽくなった。何やら妙な音がする。気付いたソードはジャムの手を取って、庇うようにしながら後退した。
「えっ?」
「これはヤバいかも!」
火柱を構成する炎は徐々にドーム状に姿を変えていく。白色の混ざった橙色のそれはまるで水をパンパンに湛えて膨らんだ水風船のようだった。
「急いでここから離れるわよ!」
「え、あ、はい!」
――――――――――
目が覚めると、黒い夏の空で輝く星が見えた。朦朧とした記憶と意識がまとまってきて、あいさは『彼』のことを真っ先に思い出した。
「インヴァ……くん……!」
大きくそびえるスカイランドタワー。その頂上で赤い星が弾けた。かなりの量の光が目に入ってきて、あいさは思わず目を瞑ってしまった。
「行かなきゃ……!」
体を何とか動かす。力がまだ微かに残っているような感覚を感じて、それを頼りに全身に力を込める。光の粒が全身を包み込んだ。
――――――――――
「みんなー!」
「はるさん!」
まざるを背負うソードとうみを背負ったムネツグが、少し離れた場所で待機していたはる達と合流した。
「大丈夫?怪我とかない?」
「まざるさんとうみさん、どうかしたんですか!?」
「ううん、2人とも疲れ果ててるだけで特に問題はないわ」
「それなら良かった。それにしても――」
はるはポケットに手を突っ込んで、少し遠くで炎上するビルを見上げた。
「……すんごいことになったね」
彼女らが合流するほんの少し前、インヴァが最後に引き起こした爆発でスカイランドタワーの屋上が吹き飛んだのだ。高層ビルがたいまつのように燃えて、黒い煙がもくもくと上がっていた。
パトカーや消防車のサイレンの音がそこら中からうるさいほどに響いている。
「……終わったんでしょうか」
「…………」
燃えるビルを見つめながら、誰もその問いかけに答えられなかった。
「ん……」
そんな中、ムネツグの肩に掴まる眠り姫・うみが微睡みの中から目を覚ました。目の前の風景を見て、ふと、言葉をこぼした。
「まざる…………」
視線がギョッとうみの方へ集まる。なんだか恥ずかしくなってきたのか頬を赤らめながら、ゆっくりと地面に降り立つ。
「まだ目覚めてないみたい。……よし、みんな。帰ろっか」
――――――――――
「インヴァくんっ!」
爆発に巻き込まれて墜落したインヴァ。そのボロボロの体をあいさが揺さぶった。パチパチと微かだが炎の弾ける音が聞こえる。
「…………ぁ……」
息が漏れては、微かながら彼の目が開かれた。視界が霞んで何もろくに見えはしなかったが、自身の手を握っていたのがあいさであることは理解出来たようだ。
「あぁ……アイサ、か……。…………すまない、負けてしまった…………」
悔しいのに、涙すら出ない。一方で、あいさの目から溢れた涙は留まるところを知らずに、彼の体にポトポトと流れ落ちていく。
「……何を泣いているんだい?…………残念だけど、僕はどうやらここまでみたいだ」
「インヴァくん……!イヤだよ、そんなのっ……」
あいさがどれだけ悔しさに唇を噛んでも、インヴァが彼女に向ける視線は変わらない。
「君に呪いをかけるつもりは……ないんだよ。でも、せっかくだからさ……」
彼の体から光る粒子が溢れた。『肉片』だ。無論あいさもその正体に気付いて、ゆっくりとそれに触れた。
「ハハ、驚いたかい……?僕もこっそり、集めていたんだ」
「…………」
あいさは小さく頷く。
「ベイスにも…………伝えてほしい。
『命令は失敗した。自由に生きろ』
って…………」
笑顔だった。笑顔のまま眠りについた。焦げついた体が白っぽく光り出して、体がバラバラの粒子となっていく。
「インヴァくん…………いっ、インヴァ……くん……」
あいさはその場で泣き崩れた。涙が枯れるほどに。
――――――――――
『
リビングのテレビに臨時ニュースが映った。めいらはあんぐりと口を開け、手はリモコンを持ったままピクリとも動かない。
「なぁ、姉ちゃん。あのさ……」
みのんは気まずそうに言いながら、彼女の方に手を乗せた。
「あのさ、なんていうか……ありがと」
「いや、なんか、私も……我ながら凄いことをしてしまったかもって思ってるよ」