「海だーーーーーーっ!!!」
燃えるような夏の日差し!アッツい砂浜!潮の匂いが混じった涼風!そのド真ん中でまざるの声が宙を舞った。
「全く……この間までグースカピーだったのに」
「で、でも、元気になって良かったです」
前方ではしゃぐまざるとうみの後ろで、なおたちはゆっくりと砂浜を歩く。
「夢野くん、海の家まで焼きそば買いにいかない?私にムネツグくんになおちゃん、それからまざるちゃんとうみちゃん。で、夢野くんのも合わせて6人分」
「えっ、あ、いいですよ」
「よし決まり〜。何も海の楽しみは海水浴だけじゃないもんねー」
財布を握りしめて最寄りの海の家へと目的地を変える。その時、偶然はると夢野の横顔を視認したなおが声をかけた。
「あれ。2人とも、どこか行くんですか?」
「ちょーっと焼きそばを買いにね!」
「ふ〜ん。あ、じゃあアメリカンドッグ買ってくれませんか?」
「はいは〜い」
軽い会話とともにお互いに手を振ってそれぞれ歩き出す。
「そういえば、ムネツグさんは海初めてなんですよね?」
「……ああ、地球の海には初めて来た。思っていたよりも賑やかだ」
「……泳げますか?」
「分からないが、きっとどうにかなる」
「いつでも貸しますよ」
なおは彼に肩にかけた浮き輪をチラチラと見せる。
そしてその後、もう既に海のすぐそばで準備運動を始めているまざるたちと合流した。
「あ、なおさん遅いですよ」
「準備運動、偉いわね」
「当然だろ。海なんて足でもつったらその時点でお陀仏だからな。……おっしゃまざる!そろそろ行くぞ!」
「オッケー!」
パシャパシャと浅瀬の水を足で弾いてはジャンプ。大量の水しぶきが舞って2人の姿が海の中へ消えた。
「ぷはっ!なお先輩たちも〜!」
「あんまりはしゃぐと怪我するわよ」
腕のストレッチに屈伸運動を済ませて、なおも2人に続いて海に足をつけた。すました顔で諭すように言っているが、腰には浮き輪を装着して、もう楽しむ気は満々らしい。
遅れてムネツグも来る。最初こそ慣れない感覚に戸惑っていたが、すぐに順応したようで今ではプカプカと浮いている。つまらなさそうな目でそれを見るなおに、横からまざるが声をかけた。
「なお先輩……もしかして泳げないんですか?」
「泳げるわよ。……でも今日はそんなに泳ぐ気分じゃないの。水泳って結構疲れるのよ?」
「なるほど」
『疲れる』。その言葉を聞いて、まざるはすぐ前の出来事を思い出す。新たな敵が現れ、戦って倒して、大きな火事が起きたこと。実感はないが疲れ果てて眠りこけていたこと。
「いや〜……なんか、大変でしたね」
「……でも、あの戦いのおかげで自分の可能性に気付けたわ。まざるちゃんも凄いじゃない。あのインヴァを倒したんだし」
「あんなの、ほとんどうみちゃんのおかげです」
不機嫌そうな顔のうみが爆速でまざるたちの方へ泳いでくる。水しぶきがかかって、思わず2人は腕で目を覆った。
「ちょっと!」
「まざるはあたしの分まで戦っただろ。……結構悔しく思ってるんだからな」
「あ、ごめん……」
かなり海に慣れてきたのか、自慢をするように平泳ぎを見せつけながらムネツグがうみの後ろから現れてきて、彼も会話に参加する。
「まざる、インヴァと戦ったときのことを聞かせてくれないか。なんだかんだ聞きそびれていたからな」
「ああ、あの時目覚めてからすぐ家に帰してそれっきりだもんな」
「あっ……そっか。……あれから色々思い出したんです。うみちゃんが倒れたあと、うみちゃんが危ない!って思って助けに行ったとき、うみちゃんの手を握った瞬間に力がグワーって湧いてきて……って、なんか変ですよね!アハハ」
自嘲気味に乾いた笑いを口から出すまざる。ムネツグは真剣そうな顔で頷いた。
「いや、ありがとう。……正直、魔法少女という存在自体が謎だ。何が起こるか分からない。それだけでも分かってよかった」
「えぇ〜、そんなぁ」
「もしかしたら、『愛の力』ってやつかもしれないわね?」
「バカ!」
なおが言い終わるよりも先にうみの手が出た。余程の力だったのか、なおの着けていたゴーグルがズレる。
「いたた……冗談!だってば!……うみちゃんはなんか覚えてることないの?」
「なーんも。なんも覚えてない」
「うーん……」
「おーいっ!みんなー!」
気まずい静寂が流れたかと思うと、それをぶち壊すようにはるの声が轟く。砂浜からは結構離れているというのに、物凄い声量だ。周囲で遊泳していた他の人も一瞬彼女の方を見た。
両手にはビニール袋を携えていて、それを見せつけるように両手を上げた。
「あ、忘れてた!」
「ん?もしかしてなんか買ってきてくれたのか?」
「……確かに、何か買いに行っていたな。忘れていた」
「え〜なんだろなんだろ!楽しみ〜!」
――――――――――
「は〜。あん時そんなことがあったのね」
「はむはむ……。……ちょっと、見たかったですね」
まざるの話を聞いて、ソースで覆われた麺を頬張りながら頷く2人。
「マジで愛の力なんじゃない?あるでしょ、マンガとかでもそういうの。最近のは全然知らないけど」
「あ、で、でも、別にいいと思います……。そ、そういうのって別に自由っていうか……」
モジモジとしながらそう言う夢野。うみが一瞬立ち上がりかけたがすぐに静けさを取り戻す。
「……もう怒る気もなくなったわ」
「違うとなると……うみちゃんがまざるちゃんに力をプレゼントしたとか」
「プレゼント……譲渡か。だが、うみが力を渡したというわけではないだろう、はる」
「ありゃ?って、なんで私が注意されてんだ?この間まで私が日本語教えてあげてたはずなんだけどなー……」
「ん……?」
はるとムネツグの会話を傍らで聞いていたなおが何やらビビッと来たようで、アメリカンドッグを口から離した。
「うみちゃんが渡したわけでもないのに力……肉片が移動したんだとしたら……!」
その瞬間、まざる、なお、ムネツグが顔を見合わせた。
「そうか、そういうことか……!」
「まざるちゃんも覚えてる?」
「はい!私が初めて変身した時……!」
はるが空を見上げて思考しているが、結局思い出せなかったようで、笑みを浮かべては3人を見る。
「私、あの時になおさんの手から力を吸い取って変身したんです!もしかしたらうみちゃんの力も!」
「お前、そんな妙な力持ってんのかよ!」
「は、初耳ですよぉ!」
先程まで目の前の焼きそばに夢中だったというのに、それも忘れてそれぞれまざるに言葉を投げる。
「あはは……皆そんなものかと思ってたし」
「私もわざわざ言うことでもないかな、と思ってたのよね」
「ああ」
「まぁなんであれ、解決したなら良かったわ〜」
はるはそう言って、再び焼きそばを啜り始めた。ビールも飲んで、恍惚の表情を浮かべる。
「やっぱり夏って最高ね〜」
――――――――――
「あ〜、楽しかった!」
「体を砂浜に埋められた時は……流石に死ぬかと思ったぞ」
「……バ、バレーボール、楽しかったです……」
「まさか全勝するとは思わなかったわ。夢野くん、いつもいて欲しい場所にいたもの」
夕日の射す砂浜を並んで歩く。海で遊んで皆ヘトヘトだ。
「海に来たのなんて10年振りくらいだけど、この歳になっても案外楽しめるものね〜。こんな感じならまた来たいかも、海」
楽しげに話すはるの後ろで、すっかり焼けてしまったうみの視線が左から右へと移る。
「ああ。また来れたらいいな」
「ムネツグさんも楽しめたなら良かったです、海」
右から左。いわゆるジト目になったうみの視線が動く。
「うみちゃんも海、楽しかった?ってあれ?うみちゃん、海ちゃん、うみ……」
「なぁ、まざる……うみっていい名前だと思うか?」
「う、うん。思う思う」
そう言いながら、うみはまざるの肩をポンポンと叩く。
もちろん心からそう思っている、が。その時まざるは『あぁ、そう言わないといけない』と思ってしまった。
――――――――――
まざるたちが海で遊ぶだけ遊んだその日の晩のことだった。
「インヴァ……クソッ」
消えかかった街灯の照らす小路を、ベイスがレジ袋を持って歩いていた。
「ハァイ、ベイスくん?」
「あぁ……?」
急に名前を呼ばれて、驚き混じりの表情で背後を振り向いた。暗闇の中に見えるのは華奢なシルエット。見知らぬ女が立っている。
「誰だお前、どうして俺の名前を知っている……!まさか、貴様……!」
「はい当たり、まぁここでは貴方と同じような存在よ」
「まさかケルウェイルの……!」
「それはハズレ。私は誰の下にもつかないの。……まぁいいわ、冥土の土産に教えてあげる。私は『ルムール』。少しは聞いたことくらいあるんじゃない?結構有名なのよ?……あ、もちろん悪い意味でね?」
何かを思い出したように、指を前へと突き出しながら後退する。
「『
「本当ヤな肩書きよね〜、それ。……じゃあ、死ね!」
やれやれ、と両手を耳の横に据えたかと思いきや、声色が変わると同時に腰に携えた銃を引き抜いた。意識外の不意打ちがベイスの胸を静かに撃ち抜く。
「もう一発〜♪……ってあら?」
カチッカチッと音が鳴るだけで、銃口からは何も出ない。不機嫌そうにそれを腰へと戻し軽くボヤきながら、仰け反ったベイスの方へ歩き始める。
「最悪〜。やっぱボロじゃあダメね。あとあんたはしぶとすぎ。激闘の後で瀕死みたいなもんでしょ?」
「な、何言って……やがんだ……!」
上品に、かつ不快感溢れる邪悪な笑みを残して、髪をかきあげながら、ベイスの首元に人差し指を向けた。
「それじゃ、バイバ〜イ」
お読み頂きありがとうございます。少し長かった3章、とうとう終わりです。評価や感想、励みになります。
次回から4章開始です。どうぞお楽しみに!