「ルムール様。おはようございます」
「……おはようございます、ユイカ」
とある教会の講壇に1人の女が佇んでいる。密やかにベイスを殺害した女がそこにいる。ユイカと呼ばれた少女は、彼女を見上げては朝のご挨拶。
「モモたちはいないのですか?」
「さぁ。知りません。朝ですし、寝ているのでしょう」
「(……なるほど、この時間帯にモモたちは来ないのね)……あら、残念です。彼女のお話を聞きたかったのですが」
「では、今日の夕方頃、ここに来るように言っておきます」
「……あ、ユイカ、一つ、いいですか?」
「なんでしょうか?」
「『苺園 まざる』についての情報は集まりましたか?」
ルムールの口から出たその名前。 どうやら彼女はまざるたちについての情報を収集しているようだ。ユイカと呼ばれた少女――
「はい。今日にでも行えますが」
「では、お願いします。『彼』にも伝えておきます」
「ありがとうございます。では、そろそろお暇します」
「はい、ありがとうございました」
ギィィと音を立てて扉が閉まる。ゆいかがいなくなったことが分かると、ルムールの体から一気に力が抜けた。
「はぁ〜。嘘をつくのなんて簡単だけど、疲れるもんは疲れるわね〜。あんな上品な話し方、反吐が出ちゃいそ」
――――――――――
「今日から学校か〜。かわるは夏休み楽しかった?」
「うん、まぁまぁかな。良くも悪くもいつも通り……いや、うみちゃんとはいっぱい遊んで楽しかったよ」
「そっか!それはよかった」
他愛もない会話をしては、まざるは扉を開けて家を出る。普通の日常が始まろうとしていた。
唯一変わったことといえば……あいさが姿を消したこと。
(お休みが今日だけなら……いいのになぁ。……なんて思うのは、ちょっと勝手かな)
教室に入ったまざる。机に頬杖をついて、彼女のいた机を見る。誰も彼女のことについて言及していなかったのが、まるで最初からいなかったような扱いをされているみたいで、まざるは少し辛かった。
キーンコーンカーンコーン。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。担任の話を適当に聞き流して、ゾロゾロと生徒たちが教室から出ていく。もちろん、まざるもその中の1人。
「今日の授業ダルかった〜」
「わかる。っていうか、今からパッとどっか行かない?ちょっとお腹空いちゃった」
騒がしい。だがそんな騒がしさも懐かしい。そんなことを思いながら校門へ向かうと、校門を抜けた先に誰かがいるのが見えた。
「嘘……!?」
思わず声が出た。その人影。見覚えがある。いや、見覚えしかない。だが簡単には受け入れられない。体が勝手に走り出す。その音に向こうも気付いたのか、目が合った。
「学校なんて久しぶりに来たな……って、あ。久しぶり」
「マ……マジか」
江崎 晃矢。学生服に学生鞄を背負っている。目の前の光景が中々受け入れられなくて、まざるは挙動不審になった。
「まぁ落ち着いて。そんなことよりちょっと……話さないか?」
「え……?ま、まぁいいけど」
――――――――――
言われるがまま彼についていくまざる。歩いているうちに、少しづつ辺りから人が消えていくのを感じた。
「どっか、行く?カフェとか、カラオケとか」
「え、いやー……い、今かぁ」
「別にハンバーガーとか牛丼でもいいしっ」
「じゃあハンバーガー……テイクアウトで?」
「お、おし!それじゃあ行こうぜ!」
江崎はまざるの手を掴んで走る。最初こそ引っ張られっぱなしのまざるだったが、なんとか足が追いつく。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」
「苺園、ごめんっ!」
「え、えぇっ!?」
それからすぐのことだった。頭上を黒い影が通り過ぎる。妙な感覚を覚えたと同時に、江崎の足が止まった。顔を覗き込んでみると、悔しそうな表情で前方を見ている。
「クソッ、ちょっと遅かったか……!」
何がその目に映っているのか、まざるがその視線を追うと、前方には少女が1人立っていた。普通の少女ではない。青黒い服装に身を包んでいる上に、半透明のマントのようなものを羽織っている。
――間違いない、魔法少女だ。
まざるがそう気付いた瞬間、その少女は口を開く。
「そう。私は魔法少女、その名を『オトギマント』。……だが安心しろ、君の心を読んだわけではない。……この裏切り者」
紺色をした魔法少女は江崎を睨む。彼はまざるを庇うようにして前に立っては両手を広げる。
「裏切り?心外だな……こんなのただの贖罪だ」
「ご、ごめん!状況が飲み込めないのは私だけかな?」
「チッ……お前を始末したと報告すれば、ルムール様は悲しむだろうな」
静寂が流れる。嵐の前の静けさとでも言うべきか。
「《マントニードル》!」
「はああっ!」
声を上げると同時に黒いオーラが江崎を包み、まざるがいつか戦ったあの姿へと彼を変貌させた。
その一方で、オトギマントは羽織る外套の形状を変化させて、巨大な針状にしたそれを前方へと突き刺すように伸ばす。
「どういうこと……!?」
まざるの問いかけも虚しく、江崎は彼女の手を握ったまま戦闘を続ける。彼の放つ銃撃をマントは外套を剣のように変形させて弾いていく。
「期待はしていなかったが所詮この程度か」
攻撃を弾きながらマントが走る。江崎は咄嗟に手を離して、まざるの背中を強く押した。
「逃げろっ!多分苺園でも勝てるか分からない!」
「えぇっ!?……分かった!」
マントの足元から伸びた影。黒い外套の一部がそう見えている。それを視認するよりも早く、マントが拳を握った。
外套の一部を右腕にグルッと纏わせた青色の腕がオーラを放っては、江崎の胸部に強烈な打撃を叩き込んだ。だがこれで終わりではない。吹っ飛ぶ彼に、間髪入れず次の攻撃が待ち構える。
「……こりゃまずいな」
先程に伸ばしていた外套の一部はいつの間にか水溜まりのようなサイズにまでなっていた。チラッと見えただけだが、江崎はぐっと歯を食いしばる。
「《マント・ブラウローゼン》!」
青い花が咲いた。花弁の形をした刃が江崎を貫いて、その変身を強制的に解除する。散らばった肉片を回収しては、スマートフォンを取り出す。
「…………もしもし、こちらマント。ターゲットを逃がした。……見つけたらでいい。それじゃ」
電話越しにそう言っては大きく跳躍し、ビルを飛び越えながらどこかへと消えた。
――――――――――
「全くゆいかってば自分勝手でさ〜、今日も張り切っちゃって」
「ももさん、あまりそういうことを外で言ってはいけませんよ?下品に見えますわ」
「そういうひめのだって、ハンバーガー手で食べてるのは下品じゃないの〜?お嬢様ならナイフとフォークで食べればいいのに」
「なんですって!?……コホン。まさかあなたが
背丈も年齢も違う4人が、ファストフード店のテーブル席で何か話している。
「そうだよももちゃん、友だちの悪口よくないよー」
「せいらんに言われるなんて、もももまだまだ子供ですね〜……」
窓の外を見ながら、手裏剣のような髪留めを着けた少女が笑う。いや、嗤う。
「ちょっとしの。その髪留め誰があげたと思ってんの?あん時ボコボコにされて可哀想だったから――」
ムキになったももが話している途中で、突如として彼女のスマートフォンから着信音が鳴る。めんどくさそうに発信元を見ると、ゆいかの名前があった。
「あ、ゆいかからだ。……もしもし?なんかあったん?…………」
応対する彼女の様子を他の3人はじっと見る。彼女の表情の変化から、電話の内容から内容を推察しようとしている。
「ん、分かったー。またねー」
プツッと電話を切ると同時に、ひめのが前のめりになった。
「な、何かありました!?」
「なんか失敗しちゃったって」
「ゆいかちゃんが失敗するなんて。余程のことでもあったんでしょうか」
「えーゆいかちゃん失敗しちゃったのー?めずらしー!」
「めずらしー!じゃないよ。はぁもう、私たちも出ろってさ。……まぁ、そうと決まればちゃちゃっと行くわよ!」
「言われなくとも分かってます」
一斉に席を立っては自動ドアを通って外に出る。出入口の近辺からは駅が見える。そんな中、1人の女子高生が目の前を通り過ぎた。
「ねーあの人ってあの、なんだっけ、まざる?ちゃんに似てない?」
4人の中でも小柄で幼く見える少女、せいらんがももの顔を覗き込みながら、その女子高生に指をさす。
「ん?あぁ、確かに似て……って!」
「本人ですわ!」
怪訝そうにその女子高生――すなわち、まざるが振り向く。見覚えのない少女たちがこちらを見ていた。
(え……なんだろう、私に何か用かな?)
嫌な予感がするが、そんなことはないと振り切って、再び歩き出す。が、その予感は的中、後ろから声をかけられた。
「ねー、あんたまざるって言うんでしょ?」
「……そ、そうだけど。な……なんですか?」
「私とひめのは一度助けてもらったから悪いんだけどさ、ちょっとツラ貸してくんない?」
「変身」
ももはそう言うと、左の手の平を右手で突いて、赤色の魔法少女に変身する。残りの3人も彼女に続いてその姿を変えた。
「そ……そんなぁ!」
お読み頂きありがとうございます。
タイトルの通り、久しぶりのやつらが何人か登場です。
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