「し、死んでない……!」
痛むのか脇腹を抑えながら、ガバッと江崎が起き上がった。
「そうなんです!私も驚いたんです!」
「まぁいいや、江崎くん……でいいのよね。いろいろ説明してもらえる?」
「あ、はい……ちょっと借りますね」
江崎は近くにあった座布団に座っては語り出す。
「……あの後、目が覚めたら知らない場所にいたんだ。目の前に知らない女がいて……。それで、外に出てみたんだけど。そこ、森の中の教会だった。ここからそう遠くない場所にあるんだけど……」
「へぇ、初耳ね。森なんて入ったこともないし、全然知らなかったわ。教会なんてあったのね。……えっと、熊野さんの方は何か知ってる?」
「めいら、でいーよ。ごめんだけどその人のことも知らないし、教会?のことも全然わかんない」
「ふーん……っと、ごめん、続けて?」
話が逸れた。なおがそう言うと江崎も頷いて、続けた。
「で、少し話を戻すと、教会にいた女は『ルムール』って名前らしい。詳しいことはよく分からないけど、肉片ってのを100個集めればいいらしい」
「嘘だな。ルムールは嘘と虚構で誰彼構わず騙す」
ルムール。その名を聞いて、ムネツグに電流が走る。鋭い視線を江崎に向け、冷たい声でそう言った。
「知ってるんですか?」
めいら以外の全員が驚いたような顔つきになる。数秒の沈黙が流れたあと、なおがムネツグに問いかけた。
「あぁ。……とはいえ聞いた話だ。『盗人ルムール』。虚構を
「じゃあ、あの魔法少女たちも……」
「恐らくそうだろう。騙されて、戦わされている。……本人たちがそれをどう思っているかは知らないが」
ムネツグの言葉を聞いて、なんとも言えない表情でまざるが俯いた。
「そんなのダメだよ!……どうにかしなきゃ」
グッと拳を握ったまざるが、そう言って前を向いた。どうやら皆気持ちは同じなようで、言葉こそ交わさなかったものの彼女の発言に頷く。
緊張した空気が流れる中、なんでもない発言がその空気を引き裂いた。
「ごめん、ちょっといい?さっきから皆のこと知らないまま話が進んでるんだけど……」
皆の視線がめいらへ集まる。
江崎の話に集中し過ぎて、彼女のことを忘れていた。
――――――――――
「じゃあ改めて自己紹介するね。私は熊野 めいら!塗屋高校2年生の17歳!趣味は散歩で好きなものは鮭!嫌いなものは特にないけど、昔キャンプした時に食べた鹿肉だけはどうしても無理だったなー」
カニのようなジェスチャーのダブルピース。どうしてもキラキラにデコられた長い爪に視線が行ってしまう。
「ん?この爪?かわいいでしょ。今度教えてあげよっか」
視線を感じ取ったか、今度はその手の甲をまざるに見せつけ、ニコッと笑顔で言う。
善意100%の眩しさに思わず目を逸らしてしまった。
「……じゃあ、次は私ね」
メガネをクイッと上にあげては、次はなおの自己紹介。
「私は枠島 なお。高校3年、あなたと同じ魔法少女よ。これからよろしくね」
「えっ、3年なんですか!?」
「……タメ口でいいわよ。あなたに敬語で話されるとなんかムズムズってするわ」
「え……?え、あ、じゃあ、よろしく……」
軽く握手を済ませると、めいらの視線がムネツグの方に向けられた。
「……俺か?俺はムネツグ。端的に言えば宇宙人だ」
「宇宙人!?宇宙人かぁ……うーん……なるほど……よろしく、ムネツグさん。…………あ、で、君は?もしかしてゾンビ?」
めいらはなんとなく納得すると、ムネツグと握手をして、流れるように次は江崎に指をさした。
「ゾンビじゃないですって。……江崎 晃矢って言います。さっきまで俺も戦えてたんですけど、オトギマントに力を奪われて、もうただの木偶の坊です。あ、1年です」
「1年かぁ!江崎くん、よろしくねー。(デクノボーってなんだろ……)」
言葉の意味は分かっていないが、とりあえず握手。
「よし、これで皆のことも分かったし、他にも色々教えてよ」
「じゃあ、肉片のことから――」
「ってちょっと待ってよー!私は!?」
じっと座っていたまざるが立ち上がって、涙目で皆の顔を見る。
「んぇ?」
「なお先輩も気付いてたでしょ!」
「あはは、ごめんごめん。ちょっとからかってみたくなっちゃって」
「もー……。ってわけで、私は苺園 まざるって言います。魔法少女……って言うのは知ってますよね。江崎くんと同じく1年生です。よろしくお願いします」
「さっきネイル見せたのに忘れちゃってごめんね!まざるちゃんって呼んでいい?」
先程の非礼を詫びるように、ペコりと軽く謝罪の姿勢を見せたあと、まざるの両手を持ってブンブンと振る。
「はい〜。めいら先輩、よろしくお願いします」
「硬っ苦しいなぁ。呼び捨てでいいし敬語も使わなくていいよ?だって私たちもう仲間じゃん?」
「えぇ〜っ……じゃ、じゃあ、よろしく……」
敬語を使わずに歳上と話すなんて、家族に対してのものを除けば小学生の時ぶりかもしれない。まざるは慣れない口振りでなんとか答えた。
――――――――――
「はぁ、はぁ。え、じゃああのビルの一件も先輩たちがやったってこと?」
「まぁ、そうなるわね。……厳密にはラウェス・シュベリアのやつらが起こしたんだけど」
「まさに悪を挫くヒロインって感じじゃん!私はそんなの知らずに弟とボコスカ喧嘩してたな〜。……って、もしかして!」
何か思い出したようで、手をパチッと叩いた。
「みのん……後で叱らないとな」
「みのん!?」
めいらがボソッと口から出した名前に、思わずなおは驚く。その言葉でまざるも驚いて、2人してめいらの顔を見た。
「なお先輩!どこかでめいらさんを見たような気がしたんです!」
「どこかって、一体どこよ……。…………あ!!」
2人の脳内に思い浮かんだ景色は同じ。ミノンとの戦いの後、彼とインヴァが合流したあの時。思い出の中で、変身を解除したみのんが彼の姉に引っ張られてフェードアウトしていく。そう、みのんの姉。
「「あーっ!!」」
「え、なになに?みのんの知り合いなの?」
「えーっ、あー、いやー」
興味津々に2人の方を見るが、2人はみのんについて話していいのか分からない。
「あら違うの?……あ、そっか」
2人が適当にはぐらかそうとしていると、めいらは何かに気付いたのか声のトーンが変わった。
「……みのんってさ、たまに意味分からないことするし、生意気でアホだけど、根はいいやつなんだよ。ごめんね、色眼鏡?かけてるかも。……今度ここ呼んでもいいかな?敵とかじゃなくてさ、私の弟として。多分、魔法少女のことも知ってると思うし」
優しい目で俯きながらそう語るめいら。少し言い過ぎかもしれないが、弟のことを強く想っているようだ。
「なんだか出会いって不思議だよね。めいらちゃん、私会ってみたいかも!ね、なお先輩」
「まぁ、まざるちゃんがそう言うならね」
「それにしても弟か〜。あ、私も妹ならいるよ!」
「マジで!?写真とかある!?」
「うん、あるある」
「ヤッバー!超かわいいじゃん!」
騒ぐ3人の姿を遠くで見守る男性陣。お茶を一口飲んで、気まずそうに江崎がムネツグに話しかけた。
「ムネツグさん……で、いいんですよね?」
「ん?ああ。何か質問か?」
様々なことを知ったからか、江崎の目に映るムネツグの姿はさっきよりも優しく見えた。何より、妙なプレッシャーがない。
「いや、えぇ、まぁ。これまで、色々大変だったんじゃないかって」
「そうだな。……だが、仲間のおかげで乗り越えられた」
「なんかいいですね、それ」
江崎が微笑むと、扉が鳴って風が差し込む。何かと思って全員が入口の方を見ると、紫髪でツインテールの少女。うみが入ってきた。やけに騒がしい事務所を見て、一言。
「どういう状況?」
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