「どういう状況?」
うみが一言。なおが立ち上がろうとしたその時、先にめいらの体が動いた。猛スピードでうみへと近寄り、彼女の肌に触れる。
「え〜〜っ!!かわいい!」
ベタベタとうみの髪や頬、手に触れていく。その柔らかさを知ってもう一度触れる。
「ヤッバー……ピチピチじゃん……!」
「おいコラッまざる!どうにかしろっ!」
叫んだと同時にまざるが飛んできて、なんとかめいらを引き剥がす。
「全く……急になんだよ、てか誰だよコイツは」
「あっ、説明するね。今日知り合っためいらちゃん。私のこと助けてくれたんだよ」
「敵じゃないのか。なら良かった」
「えー、酷くない?」
正座しているめいら、その横で同じく正座しているまざる。2人の前で立ちながら交互に彼女らを見るうみ。傍から見ればカオスそのものであった。
「ねぇ、あの子は何?」
「うみちゃんだよ。中学生で、私の妹と同級生。でもね、私たちの中だと一番強いんだよ!」
「ほぉほぉ……」
隣り合った2人は、うみに気付かれないようにヒソヒソと話している。彼女に気付かれそうになった瞬間、なおが横から彼女に声をかけた。
「せっかくだしうみちゃんも自己紹介してあげたら?これから仲間になるんだし」
「仲間?……あぁ、そういうこと。分かった。……あたしは金陽 うみ!中学2年。もし裏切りでもしたら容赦しないからな!」
「……って言ってるけど、素直になれないだけでいい子だよ」
「聞こえてるっつの」
まざるがふと窓を覗くと、いつの間にか日が落ちていた。
……そういえば、はるがいない。何をしているのだろうとまざるが想像を膨らませようとしていた途中で、また扉が開いた。
「ムネツグく〜ん。パン……買っと……いた……よー、って……」
あまりにも人数が多い。話すのがどんどんゆっくりになっていって、荷物を机の上に起きながら蛇のようなスピードでムネツグの横まで来る。
「何、パーティでもするの?」
「はぁ……」
――――――――――
「まざるちゃん、せっかくだし送っていこうか?」
「え、いいんですか?」
「うん。めいらちゃんも乗りなよ」
「やったー!車乗るのって大好き!」
次々に皆が帰って、静かになった事務所。残ったのはムネツグにはる、そしてまざるとめいら。時刻は22時。
「しっかし、皆馴染むのが早いよね〜」
ハンドルを握りながらはるが言う。助手席に座ったまざるも、めいらのいる後部座席の方を見た。
「まぁ、私も魔法少女だし?宇宙人とか言われても今更だって〜」
「ふーん、そういうもんか」
「めいらちゃん、これからよろしくね。力合わせて戦おっ」
「うん、まぁそのつもりなんだけどさ。あのムネツグさんが私たちを騙してる……ってことはないよね?」
信号が赤に変わって、3人を乗せる車が止まる。
「確かに……そうかも」
「いやー、それは無いんじゃないかなー。……うさんくさいかもしれないけど、彼、嘘つくとか苦手だし……。でももし本当に騙されてたら、その時は魔法少女全員集めてぶっ飛ばしてやろうよ」
「あはっ!それ最高!」
信号が青になって、車は再び走り出す。張り詰めていた車内のムードは穏やかになって、誰かが馬鹿らしいことを言っては笑いが起こる。
「……まざるちゃん、着いたよ?」
「……え?あっ、ごめんなさい。ふぁ〜ぁ」
はるの声でまざるが起きた。あくびをして、はるに会釈をしたあと、後部座席を見る。
スマートフォンの画面を触ったまま眠りこけていた。ラメ入りの爪がチカチカ光っている。
「ふふ、めいらちゃんも寝てるみたいね。明日も学校だよね?頑張ってね」
「あ、はい!ありがとうございます」
外に出てドアを閉めると、振り返る間もなく車は走り出す。
(はぁ……。こんな疲れた始業式って初めてかも)
一眠りしたというのに疲れが取れた感じが全くしない。と、まざるは肩を落としてため息をついた。
――――――――――
新しい一日が始まる。まざるが教室に入るや否や、江崎の姿が目に留まった。
"居る"。
クラスもその話題で持ち切りで、彼の周りを男子生徒が囲んでいて、中々珍しい光景だ。
「苺園さん、おはよー」
「あ、佐藤さん。おはよう」
「江崎くん、今日から学校来れるんだってね」
「うん。……良かった」
江崎に顔を合わせて会釈だけすると、静かに席についた。
(ずっと休んでたからちょっと不安だったけど……馴染めててよかった。……あぁ、今日もあの魔法少女たち来たりするのかな。学校の皆に迷惑かかったりしたらやだなぁ……)
そんなことを思っていたら、時間はあっという間に過ぎていった。いつの間にか授業も終わって皆カバンを背負い出している。
「そういえば今日はなお先輩が教室まで来るって……」
教室を出ようとしたが、約束を思い出してその場で立ち止まる。何歩かバックで後退して、ターンをしては席へ戻る。
「ん?苺園、帰らないのか?」
「あ、今日はなお先輩と約束があるんだ」
「あぁ、そうか。……じゃあ俺先帰るから、気をつけてな!」
江崎はまざるに手を振りながら、彼の友だち数名と固まって教室を出ていく。脇腹をつつかれながらも笑顔で何か話している姿が見える。彼の性格が少し明るくなったのだと感じて、思わず微笑を浮かべた。
「……あ」
机に寄りかかってスマートフォンを見ていると、視界の隅になおの姿が見えた。よく見ればめいらもいたような気がする。カバンを手に持ってドアへ向かう。
「お疲れ様」
「おつおつ〜まざるちゃ〜ん」
「はい、2人もお疲れ様です!」
まざるに手を振る2人。まざるも振り返すと、3人揃って歩き出す。
「で、今日は何をするんですか?」
「そうそう!私も気になってた〜」
「何もしないわよ」
「は!?」
階段を降りている途中での質疑応答は危険だ、とまざるはその時心からそう思った。驚きすぎて、その場から転落しかけたからだ。めいらとまざるが手を掴んでくれたおかげでなんとかバランスを取り戻せたが、大量に出た冷や汗が引っ込むことはない。
「大丈夫?」
「うん……。それでなお先輩、何もしないって……」
「何故かは知らないけど、向こうの狙いはまざるちゃんなんでしょ?なら、1人では行動するのは危険だって思ってね?」
「な、なるほど!……ありがとうございます」
「あれ、ちょっと待ってよなおちゃん。江崎くんは?」
「もう戦えないみたいだし……言い方は悪いけど、守る対象が増えても一石二鳥って感じにはならないのよ」
「ふーん……よく分かってないけど、分かった」
話しているうちに校門付近へ到着した3人。ここがうるさいのはいつものことだが今日は少し違う。うるさいのはうるさいのだが、前方を見ながらヒソヒソ話している声がよく聞こえる。
なんだなんだとまざるたちが目を凝らしてみると、何やら校門を抜けたところで、他校の制服を着た緑色の髪の女子生徒がウロウロしている。それだけではなく、彼女の横には2人の筋骨隆々な黒服が待機していて、まさに異常。
少し近付いたところで、それが昨日戦った鉄扇の魔法少女の変身者だということに気付いた。
「あ、あれってもしかして昨日の……」
「……はぁ、なるほどね」
「どうします?戦いますか?それとも別の道から?」
「一度は勝った敵でしょ?なら次も勝てるでしょ。ここで情報の1つでも引き出してやりましょ」
なおの意見に頷くと、まざるが先陣を切る。向こうは気付いていないがかなり近い距離まで近付いた。
「ちょっと!」
「わあぁっ!?なんですか急にっ!って、あなたは!」
驚愕する彼女の声に合わせて、横の黒服2名が彼女の前へ腕を組みながら現れる。
「ボブ、ヨハネス。少し話させて」
その声で2人は少し横にズレて、緑髪の少女の顔がよく見えるようになった。
「苺園まざる……残念ですが、あなたには私にここで倒されてもらいます!おーほっほっほ!」
高笑いが響く。辺りからも嘲笑が聞こえて、まざるは少し恥ずかしかった。
「待ちなさいよ」
「な……なんですかあなたはっ!?」
「そっちはまざるちゃんのことを知ってるのに、私たちはあなたの名前を知らないまんま戦うなんて妙な話じゃない?何より、『野蛮』だと思うわ」
「や、野蛮ですって……!」
感情を抑えるように、歯を食いしばり拳を握りしめる。少しすると、再び口を開いた。
「……いいです、名乗ってあげましょう。私は
手を口元に持っていきまた高笑い。一度負けたというのにこの自信である。
こういうタイプが一番厄介だ。まざるはつくづくそう思った。
お読み頂きありがとうございます。
ひめの、好きなキャラです。