「……3人がかりでいいって言うからそうしたけど……」
めいらが気まずそうに何か見下ろしながら言う。なおも同じく気まずそうに、黙って括った髪をいじり始めた。
「やっぱり3対1じゃこうなるよね……」
「こっ……こんなの認められませんわ〜っ!!」
涙目になったひめのが仰向けのままジタバタと暴れる。
「ねぇ。私たちが勝ったんだし、何か情報の一つでも教えてくれないかしら?」
冷静になおが言う。彼女の冷静さは時に厳しさに変わるような気がする。……まざるは思った。
「ハッ!絶対に言いませんわ!」
「んー……どうする?なおちゃん」
「ふーむ。……この調子だとこれ以上何聞いても仕方ないような気がするし、一旦帰りましょうか」
「ひめのちゃん、次会う時は敵としてじゃなかったらいいね」
振り向きながら門を抜ける。ひめのはその場で手足をジタバタとさせて。
「いつかリベンジしてやります!首でも洗って待ってなさい!」
「ほんとメンタル強いわね……」
――――――――――
行きと違って帰りは車が出ない。疲労に肩を落としながら事務所の前へ到着したのは良いものの、中から何やら恐ろしい叫び声が聞こえる。恐る恐るなおが先陣を切ると、ドアの前に立っていた夢野と目が合った。
「わ、わ枠島さん……!うみさんが……!」
「何よ、何やってんの?」
悲鳴は聞こえるがうみのものではない。ゆっくりと扉を開けると、とんでもない光景が目に映った。
「ひっ!あ、いちご……ひぃっ!」
椅子に座って優雅に何かしらの飲み物を嗜んでいるムネツグ。その手前にいるのはグラビティ。そして先日の魔法少女2人が変身を解いた状態で座り込んで、壁にもたれかかっている。
桃色お団子の少女、ももは怯えた様子でまざるの方を見た。それと同時に胸ぐらをグラビティに掴まれて、声にならない声を出した。
「ちょ、ちょっと何やってんのよ?」
「何って、尋問だろ?学校の近くでチョロチョロしてたから2人とも連れてきたんだ」
「た、たすけて!このままじゃももちゃんが!」
「ちょっと静かにしてろって……!」
小柄な少女、せいらんが涙目でなおの足元にまで来る。流石のグラビティでも彼女には手を上げられないようで、ももの胸ぐらを掴んだままじっとしている。
「ねぇグラビティ、そろそろ離してあげなよ」
「チッ!」
ももから乱暴に手を離すと、グラビティは変身を解く。
(マジで死ぬかと思った……!……なんで私はこいつに勝てないんだろう……)
「……あたしの持ってる肉片、5しかないのにこいつら2人仕留めたの褒めて欲しいくらいだよ」
「うみちゃん、偉いぞぉ!」
まざるがうみの頭を撫でる。うみは鬱陶しそうにそれを払い除けながら、彼女の右手首を掴んだ。
「今21個だろ?ちょっと見せてみろよ」
「もう今日は変身出来ないよ。疲れたし」
そう言っては、流れるように部屋を進んでソファにドカンと座り、天井を見上げて一息ついた。
「しかし妙な光景ね……うみちゃん、何か有益な情報はあった?」
「それが中々口を割らなくてさ〜っ!だからこうやってんだけど……」
「じゃあこっから本番といきましょうか」
なおは中腰になって、座り込んでいるももを見た。
「お、終わった……」
あまりの絶望感に思わず思考を声に出してしまった。いよいよ頭が真っ白になってしまう。
「え、そのブレスレットめっちゃいーね。どこで買ったの?」
「これ?これママが買ってくれたんだ!かわいい?」
「うん、ヤッバいくらいかわいいし似合ってるよ」
せいらんの方は何故だかめいらと打ち解け始めている。隣で死にかけているもものことなど最早視界に入っていないのか?
「……しかし、18年も生きてきたけどこんなことをするのは人生で初めてかもしれないわね」
「あたしもこんなの初めてだよ。で、どうすんの?」
「どうすんのって……うーん。押してダメなら引いてみる?」
「な、何されようと私は何も言わないぞ!」
「お菓子でも食うか?」
「食わない!」
なおとうみはお互いの顔を見ては首を傾げる。果たしてどうすれば……。そんな中で、めいらとせいらんは何やらはしゃいでいるようで。
「せいらんちゃんお菓子食べるー?」
「食べるー!」
「グミとチョコどっちがいい?」
「グミがいいー!」
「よ〜し、くれてやる!」
いつの間にかソファにいためいらは、自身の膝の上にせいらんを乗せている。うみたち3人の視線は気付けばそこに釘付けになっていた。
「せいらんちゃん、好きな食べ物とかあるの?」
「うーん……。あ、サイダー!サイダー好きだよ!」
「いいね〜、私も好きだよ」
2人のやり取りを見ていたなおが何かを閃いた。ゆっくりとせいらんに近付いて言う。
「せいらんちゃん、ルムールさんって、どんな人?」
「!!」
うみとももが同時になおの方を見る。ソファに座っていたまざるも、うみと同じような気持ちで、驚愕を隠せずになおを見た。
(なお、お前ぶっこんだな……!)
「ルムールさんはねー。すっごい人だよー。メ、メルフル星?の、ほーおー?って言うんだって!」
「メルフル星って……」
「ほーおー……?ほうおう……法王か。それにメルフル星だと?ハッ。これまた凄いデタラメを言ったものだな」
ムネツグが俯きながらそう言った。テーブルの上のコップをカップをつまんで一口飲んでは再び口を開く。
「どうやら俺たちのことを相当バカにしているようだ。絶対に引っ捕らえてやる」
ここまで怒りを顕にしている彼を見るのは初めてだった。そのプレッシャーに押されて、なおの額から一筋、汗が顎へと流れた。
「あ、そうだ。お前名前なんて言うの?」
うみがももに顔を近付けて聞いた。ももはダラダラと汗を流しながら、ボソボソと答える。
「も、もも。
その時、まざるが立ち上がった。
「ももちゃんに、せいらんちゃん……だよね?それで、さっき倒したひめのちゃん。オトギマント……はとりあえず今はいいとして、もう一人いたよね?」
「い、いいい言うわけないじゃん!」
声は震えるが、ももは強がってみせた。うみはじっと彼女を睨んだ。
「住んでる場所は?」
「し、知らない」
「好きな食べものは?」
「知らないっ!」
うみが問い詰める度に、ももの表情が歪んでいく。
「家族構成は――」
「知らないってば!しのは全然自分のこと話さないんだから!住んでる場所だって聞いたこともないし……って、あ」
「よしまざる。こいつバカだ」
「バカじゃないやい!」
情報が引き出せると、うみは笑いながらまざるに向かって言う。ももは悔しそうに唇を噛む。が、それも束の間、彼女は溜め息をついた。
「しのやひめの、そんでゆいかちゃんには悪いけど……もういいや。私は投降するよ」
降参を表すように両腕を上げて、首を左右に振った。
「ありがと。お茶用意するね」
――――――――――
「あーほんと死ぬかと思った」
「?ももちゃん、何かあったの?」
「えぇっ。……ううん、なんでもないよ」
もう夜だ。あれからせいらんとももはあっさりと帰されて、月明かりの中手を繋いで帰路についた。
一方事務所。床でひっくり返って眠るめいらを横目に、はる、まざる、なお、そしてムネツグが話している。
「能力、それに名前くらいしか有益な情報は無かったわね」
「そうですね。でも、能力が知れたのは大きいですよ!」
「まぁ、大体割れてはいたけれどね……」
「っていうか、ムネツグくん大丈夫?」
「……ああ」
眉間に皺を寄せては頷く。
「ルムールって人、自分のことはメルフル星の法王って言っていたんですよね」
「話を聞く限りそのようだ。……狡猾な女だ。第一、メルフル星に法王なんて役職は存在しない。……反吐が出る」
「ふぅん、まぁ、なるほどね。……じゃ、手下の子たち全員倒して、引きずり出してやろうよ!」
「……そうだな。その後は縄でぐるぐる巻きにして宇宙警察に引き渡してやる」
はるの一言でムネツグの表情が明るくなった。顔を見て微笑みあっては、お互いのカップをぶつけてまた笑った。
お読み頂きありがとうございます。せいらんの苗字は『天城(あまぎ)』です。