――昨日、ひめのちゃんがやられた。それからすぐに連絡が入って、せいらんちゃんも、ももちゃんもやられたようだ。ももちゃんに関しては『もうやめないか』なんてふざけたメールを送ってきた。ふざけている。
「はぁ……」
――もう皆は学校のようだ。私だけまだ夏休みの途中で、何もやることはなくて退屈。ゲームももう遊び倒したし、買った漫画も読み尽くした。DVDでも見ようと思ったけれどリビングに行けばお姉ちゃんが邪魔で仕方ないし。
「何しよっかな…………。……あ。いいこと思いついた」
――――――――――
忍者を彷彿とさせる紫色の衣装。オトギシャドーが屋根から屋根へぴょんぴょんと駆け跳ねる。
(思いついたからやってみたけど、昼はちょっと目立つかも……!)
変身者はもちろん
確かに彼女の思った通り、昼に紫色は少々目立つ。だが、彼女の能力をもってすれば何の問題もない。徐々に姿やシルエットが透けていき、周囲の風景に溶け込んだ。そう、『透明化』である。オトギシャドーは攻撃や防御に関しての性能は低いが、スピードや特殊能力に長けたタイプの変身体なのだ。
(もう皆やられちゃった。なら、私1人だけでも……!)
シャドーの目に映るはまざるの通う塗屋高校。一人で彼女を暗殺してやろうと目論んだ彼女は口角を上げた。
――――――――――
シュタッと音を立てて屋上に着地。到着と同時に透明化を解いて、ゆっくりと屋上を歩いていく。
「着いちゃった……よしっ!」
再び透明になって、床をじっと見る。両手を前に出すと同時にシャドーが呟く。
「ドロン!……なんちゃって」
屋上の床をすり抜けて5階の廊下に到着。静かに着地をして、左右を見渡す。誰もいない。どうやらこのフロアの教室ではどのクラスも授業を行っていないようで、何の音もしない。
(こんなに静かな中で、自分の足音がしないなんてちょっと不安だな……)
ゆっくりと階段を降りていく。少しづつ声が聞こえてきた。階段を降りてすぐにある教室からボソボソとした声が聞こえてくる。
1年D組、1年C組、1年B組。そして、1年A組の教室を覗く。皆座って教師の話を聞いている。何の授業だろうか?黒板には日本語で文字が書かれているがよく見えない。国語科か社会科か?
(って、違う違う。苺園まざるを探さないと)
じっと窓越しに教室を眺めていると、まざるを見つけた。今すぐにでも仕留めたいところだが、急に扉が開けば流石に怪しまれる。……かもしれないと、シャドーはぐっと我慢してトイレに入る。
「はぁ……緊張したぁ」
個室に入るや否や変身を解いて、ホッと一息。
(苺園まざるは見つけた……。次の休み時間、教室から出てきたところを仕留めてやるっ)
チャイムが鳴った。個室の鍵を開けて、先程床をすり抜けたように扉をすり抜けてトイレを出る。その瞬間、シャドーは気付く。
――これで教室入ればよかった。
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(覚悟しろ、苺園まざる……!)
まざるの後ろを尾けて、襲撃のチャンスを探る。だがずっと誰かと会話をしていてそんなチャンスは訪れない。佐藤と話していたかと思えば次は江崎。
そしてその次はめいら。会話をしながら階段を上るまざるの後ろで、シャドーはワナワナと震えている。
その渦中。
ピロリ!ピロリ!
何らかの通知が2回。通知音がその場で響いた。
「まざるちゃん、なんかメール来てない?」
「え?めいらちゃんのじゃないの?」
「「え?」」
不思議現象。まざるとめいらは周囲を見回した。だがそれらしき人はどこにもいない。
「なんか妙だね?」
「そうだね…………ん?」
もう一度周囲をぐるりと見回したまざる。視界の違和感に気付く。
「あ、あの、めいらちゃん。な、何か」
「ん?なに?」
めいらがそう言うと、まざるは恐る恐る手を前方に伸ばして、目に映る『違和感』に触れた。
「やっっぱり!!なんかいる!」
「いやああああああああああああああッ!!」
叫んだと同時に、シャドーの透明化が解けた。周囲の視線がその場に集まって、シャドーだけでなくまざるやめいらからも汗がダラダラと流れる。
「ど、どうしようめいらちゃん」
「えぇ私に聞く!?えーと、えーと、運ぼう!どこかに!」
硬直するシャドーの体を2人がかりで抱えてはエッサホイサと運ぶ。どこに運べばいいのか分からず、歩いて走って、結局3階の女子トイレに辿りついた。
「しかしけったいな格好だね。コスプレ?」
「いやいや。この子、あれだよ。えっと、灯野 しのちゃん!」
「あぁ!この間ももちゃんが言ってた!」
「ってコラー!」
狭い女子トイレに3人は余計狭い。そんな中まざるたちが話していると、便座の蓋の上で雑に座らせられたシャドーが大声を出す。
「あのヤロー、何人様の個人情報ペラペラ喋っちゃってんですか!全く。というか苺園まざるも苺園まざるですよ!なんで見えるんですか!あーもう!今ここで始末してやる!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ」
まざるは立ち上がろうとするシャドーを宥めては、両肩を持って制止する。
「そりゃ今は始末されるかもしれないけどさ、私たちが変身したらそうもいかないよ?」
「ぐぬぬ……」
鼻につくが反論は出来ない。シャドーは座ったまま視線を逸らす。
「そういえばめいらちゃん、次の授業って何だったの?階段登ってたけど」
「あー、第1理科室でなんかやるんだって……って、そろそろ時間じゃね?私行かないとかも」
「あ、行ってらっしゃい。って、私もか。……しのちゃん、どうする?」
「『しの』じゃなくて、今は『シャドー』って呼んでください」
「じゃあシャドー。ちょっと1時間くらいここにいてくれる?そうしたら放課後だからさ」
「は、はい。待てます」
「ありがと。じゃあまたね!」
めいらに続いて、まざるもどこかへ行った。トイレの個室にはオトギシャドーが独り。
「って、なんで……!」
非常に遅れたツッコミが、寂しく響いた。
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「ごめん、待った?」
「待ちましたよ!」
今日の授業を一通り受け終えたまざるがトイレに入ってみると、私服のしのが歓迎。
「さぁ、ぶちのめしてやりますよ!」
「いや、でも学校だし。今はめいらちゃんが校門の近くで待ってるから、先にここ抜け出して向かっといてよ。私も後で向かうし」
「はぁ……分かりました。じゃあ、来てくださいね」
しのは再び変身すると、小窓のついている壁の方向まで走り、ポン!と紫色のオーラの残滓を残して消えた。それを見届けると、誰かに通話をかけながらトイレを出る。
「もしもしめいらちゃん?しのちゃんそっち向かったよー」
『りょーかーい。なおっち先輩もいるよー』
「私も今から向かうねー」
通話相手はめいらだった。通話を切ると、ぐっと伸びをしながら階段を降りた。
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