「で、来ましたけど。苺園まざるはまだなんですか?」
「そーみたいだね?まぁ待ってたら来るよ」
「というか、『来ましたけど』じゃないわよ?何仲良くなっちゃってるのよ。あなた敵でしょ?」
「敵って言ったって、まだ中3の女の子じゃん?暴れたりもしないしいい子だよ。ねー?」
「そうですよ。甘く見てもらっちゃ困ります」
何故か息ぴったりな2人。なおが引き気味にそれを見ていると、まざるがこちらに手を振りながら向かって来るのが見えた。
「あ、来た来た」
「もう、遅いですよ」
「うん、さっきからちょっと思ってたけど。しのちゃんってうみちゃんに負けず劣らずツンデレだよね」
「なっ、そんなんじゃありません!というかうみちゃんって誰です!?」
しのは先頭を進むめいらの後ろにちょこっとついて、あまり訪れたことのない街を警戒しているのか周囲を見回しながら歩く。
「あの、どこ行くんですか?」
「んー決めてないや?まざるちゃん、どっか行く?ファミレス?」
「あ、ファミレス。いいね。しのちゃんはどう?」
「ファミレス、ですか。奢りなら行ってあげてもいいですよ」
「私が出すわ。こういうのは最年長の役割だしね」
「おぉ!なおっち先輩流石だぁ!……私のも払ってよ?ほらほら」
「ほらほらじゃないわよ。あなたはちゃんと自分の分を払いなさい」
めいらは不貞腐れたような顔でなおから顔を背ける。まざるは苦笑いでそんな2人を見ていた。そんな中、考えが頭をよぎる。
「うみちゃんも呼びますか?さっき知らないって言ってたし」
「アリね。一応連絡しておきましょう」
「その『うみ』さんってどんな人なんですか?」
「うーん、優しくて、強い子?背はしのちゃんと同じくらいだけど、凄く頼りになるんだよ」
「へぇ」
――――――――――
「うわ。メニュー見た途端急にお腹が空いてきた。ガッツリ食べちゃおうかしら」
「なお先輩、この間もそれ言ってましたよねー。……あ、しのちゃんは何食べる?」
「じゃあ、この『揚げベーコンセット』で」
「揚げベーコン?いいね」
ファミレスは中高生にとってはまさにオアシス。安価でクオリティの保証された料理が食べられるからだ。ちなみに、厚切りのベーコンを天ぷらのように揚げた『揚げベーコン』はコアな人気がある。
「フライドポテトも頼みましょ。私が払うわ」
「ひゅー、太っ腹ぁ」
「いいんですか?なお先輩。財布事情もですけど」
「これくらい大したことないわよ。それに、育ち盛りな中学生は沢山食べるべきだし」
タッチパネルで注文を進めている途中で、チリンチリンと、入口の方で入店音が鳴った。うみが入ってきて、まざるたちを探すようにチラチラとテーブル席の方を見ている。
向けられた視線に気付いて、うみがこちらへ向かってくる。その時、
「あ、ああ……!」
「あぁ、あれがうみちゃん」
「こ、殺される、私……殺される!」
みるみるうちに顔が青ざめていく。喉から高い音が出るとともに妙な息が口からこぼれる。
「まざる、約束通り奢れ……よ……って……。なんかちっこいのがいるな」
「まぁ座りなよ」
(よ、よかった!覚えられてない!……出来るだけ大人しくしてさっさと帰ろう!)
先程まで死んだような顔をしていたしのに生気が戻ってきた。ガチガチに緊張しながらも、笑顔を作ってはうみを迎える。まざるたちのテーブルは6人席。幸い、うみはしのから最も離れた場所にある椅子に座った。
「で、この子なんだけど。この子が灯野しのちゃん!」
「あぁ、お前が……って待て、お前……あの時の!」
うみは何かを思い出して、ビシッとしのの方へ指を向けた。その瞬間、しのは体内で何かが切れ落ちたような感覚に陥った。
(や……やばい!)
ゆっくりとしのの姿勢が下がる。
両手をテーブルにつけ、勢いよく頭を下げた。
「すみませんでしたーーーーッ!!」
放たれたのは座り土下座。叫びながらデコをテーブルに擦り付ける。
「ちょ、ちょっと……!」
「し、しのちゃん?」
「ん、2人とも何かあったのん?」
――――――――――
「ははーん。なるほど、うみちゃんらしいね」
「どういう意味だよ、それ」
恥ずかしそうにそう言っては、うみはしのの方へ向き直った。
「またかわるに手出したら許さねーから。……で、お前はこれからどうすんだよ?」
「え……どうする、って?」
「だから、こっち側につくのか、引き続きあたしらとバチバチやり合うか選べってこと」
「……何を企んでます?」
「オトギマントと戦って、ルムールとやらと一緒にぶっ飛ばす」
作戦は頓挫、仲間は一部を除いて戦意喪失。ここから一人で全員倒せる実力も能力もない。
――彼女らについた方がいいに決まっている。ひめのちゃんは分からないが、ももちゃんやせいらんちゃんもこちら側にいる。
「……もし、私があなたたちの方につくって言ったら、納豆買ってくれますか?」
「は?納豆?」
突拍子もない問いかけに、めいらは思わずそう言った。恥ずかしげに縮こまるしのの背中に、まざるが手を当てた。
「納豆好きなの?」
「え、はい……」
「帰りスーパー寄ってこっ!」
まざるはキラッと笑顔でサムズアップ。直後、しのの笑顔が輝いた。
――――――――――
「ルムール様、こんばんは」
「こんばんは、ユイカ」
とある日の夕暮れ時、ゆいかは静かな教会に足を踏み入れる。挨拶と同時に、2人の視線が合った。
「最近は、あなたしか来ませんね」
「えぇ。誰とも連絡がつきません」
「野垂れ死にましたか?」
「いえ。きっと裏切ったのでしょう」
再び静寂が訪れた。少し考えて、ルムールはゆいかの足元から顔をゆっくりと見る。そして、彼女の瞳を見ながら言った。
「きっと、苺園まざるはここへ来ます。……その時、この教会を守ってください。……私を、守り抜いてください、ユイカ。……いえ、濃紺の騎士、オトギマント」
「仰せのままに」
ゆいかはその場で跪く。優しい微笑を送るルムールだが、その一方、内心で彼女のことを嘲笑う。
(頭の中で鳥が楽しく鳴いてるような子ばかりで、ほんと助かるわ。なーんも知らずに忠誠なんてもの誓っちゃって、バカみたい)
お読み頂きありがとうございます。4章もそろそろクライマックスです。