ビーッと、まざるのスマホが振動する。
「なお先輩から……?」
通知を見て、急いでメッセージを開く。
[《なお》
『まざるちゃん集合!とりあえず事務所!』]
幸い事務所はもうすぐだ。ポケットにスマホをしまって、集合地点へと駆け出した。
――――――――――
銃声の直後。江崎を突き飛ばした男子生徒の右肩から血が吹き出る。
「あ……?」
「おまっ、血が……」
2人はパニックに陥ってジタバタと駆けている。江崎は右腕に妙な感覚を覚えた。
(今、俺が撃ったのか…………?チクショウ、どうなってんだこれ……!)
細く黒い猟銃のような形状に右手が変形している。銃口からは煙が薄く出ているのが見えた。
右手に続き、全身が徐々に変形していく。数秒も経たないうちに、江崎の体は黒く硬い何かに覆われた。もう、彼の面影はない。背中から翼のような何かを展開し、高笑いと共に上空へと飛び立った。
―――――――――
「まざるちゃん!待ってたわ」
走ってくるまざるの姿を見て、なおが手を振りながらそう言う。その姿を確認すると、彼女の後ろにムネツグがいるのが見えた。
「なおさん、一体何が……」
「向こうの方で発砲事件があったらしいの」
「ええっ、発砲事件!?怖っ……」
救急車がサイレンを鳴らしながらどこかを走っている。サイレンに負けないようになおもなんとか声を張り上げる。
「……どうやら、肉片が関係しているようなの」
「えっ、それって……」
「そう、私たちの出番よ」
なおはそう言うと胸の前で軽く拳を握りこんで変身する。まざるも戸惑いながら荷物をその場に置いて、彼女と同じように変身。
「今回は俺も行く」
「えっ、大丈夫なんですか……?」
「2人のようにはいかないが……とにかく、サポートくらいは出来る」
「分かりました!」
「ソード、ジャム。こっちだ」
「「はいっ!」」
ムネツグの身体能力は高かった。2人にも劣らないくらいのスピードで駆けていき、軽快に移動している。
後を追っていると、景色がどんどん変わっていく。見たことない場所から、見たことある場所、最終的に3人がたどりついた場所は、少し離れた街だった。
「ここだ」
ビルがたくさん建っている。まさにイメージ通りの都会だ。イメージと違うところがあるとするなら……それはまさに、人々が叫び、次々に逃げているところだろうか。
――――――――――
ババババババッ
バリバリバリバリッ!!
銃声とほぼ同時にビルの窓が割れていく。ジャムたちが空を見上げると、黒い何かで身を包んだ人型のものが、空を飛びながら弾丸を次々に放っている。
「これって、何…………」
明らかに自分たちと同じ存在ではない、しかしそうにも見える何かに、ソードは戸惑った。横を見ると、ジャムも同じく困惑しているようだった。
「……悪いが、詳しいことは俺にも分からない。だが……恐らく、肉片が人に乗り移ったのだろう。つまり、いつも通りで大丈夫だ」
それを聞くと、ソードはどこか安心して、ジャムと目を合わせる。
「行くよ!」
「はいっ!」
2人は高く飛び上がって、銃の怪人へと一気に距離を詰める。
「なんだお前らっ!」
振り向いたその顔を見ると、黒い何かが目を覆っていた。
そして、話した。知性がそれなりにあるのか!?と、戸惑いを隠しきれない様子でソードが斬りかかるが、その剣は右腕で受け止められた。
「お前ら、俺と同じか……まぁいいや、とりあえず死ねッ!」
受け止めた剣を振り払い、左の拳をソードに向けると、腕に取り付けられた機銃が煌めく。弾丸が放たれる瞬間、ジャムがバリアを展開し、それをなんとか防ぎきった。
「ありがとう、ジャム。あなたがいなかったら体中穴だらけだったわ」
「怖いこと言わないでください!……あっ、来ます!」
「オラァッ!」
上空から黒い影が迫る。2人はお互いから離れるようにステップすると、その中心にそれが降り立った。
「チッ……!」
バババッと、辺り一面に弾丸をばら撒く。再び飛び上がると、ソードに銃口を向け射撃。
「きゃっ……!」
ジャムが近くにいない。つまりバリアは展開出来ない。剣で弾こうにも数が多すぎる。ソードはただ走って、銃弾の雨を避けていく。
「ちょこまか避けてんじゃねーよ!」
アクロバティックにビルの壁を駆ける怪人。銃弾の雨は止まないまま、角度を変えてソードに襲い来る。
「相性が悪すぎる……!」
「さっさとくたばれッ!」
ついにソードに追いついた怪人が彼女の方へ飛び込む。
咄嗟に剣を構え防御しようとするが間に合わない。胸部に強烈な蹴りを叩き込まれ、銃から放たれた弾丸のように吹き飛んだ。
「フンッ……」
怪人は右腕の猟銃を構え、頭を撃ち抜かんと照準を合わせる。
「ダメダメダメーッ!」
横から猛スピードでジャムが飛んできて、右腕を掴んで抑える。右腕を振り回すが、がっしりと掴まれていてなかなか振りほどけない。
「《ジャムパルス》!!」
強烈な電撃が放たれ全身を駆ける。左手の機銃でジャムを撃ち抜こうと乱射するが、浴びた電撃のせいでなかなか思うように当たらない。
「離せ、このっ!」
「ソード!!」
名を呼ぶと、全速力でソードが向かう。オーラを纏った剣と瞳が煌めいて、銃の怪人を捉えた。
「《クロスソード・ストライク》ッ!」
強烈な袈裟斬り。そして逆側から、X字を描くようにもう一度斬りつける。斬りつけた箇所からエネルギーが溢れ出て、炸裂したと同時にその体を後方へと吹き飛ばす。
「お前らっ……いい加減にしろよッ!!」
受け身を取り瞬時に反撃。弾丸が如く猛スピードで突進し、両腕による強烈なラリアットで2人の体を大きく突き飛ばした。
「きゃあっ!!」
「ハハハァッ!!」
突き飛ばされ壁にめり込んだ2人に向かい、右腕に集中させたエネルギーを解き放つ。轟音が響き、瓦礫がバラバラと崩れていく。
「ハハハハ…………!」
静寂が訪れた。怪人が両腕の力を抜くと、首から音をバキバキと鳴らす。そんな時、ふと背後が気になった。
「…………」
「マジかよ……」
かすかに見える桃色のオーラ。土埃が散り、2人の戦士がボロボロになりながらも怪人の方を睨んでいる。
「こんなの……大したことない……」
ジャムが口を開き、握った拳を顔の前で構える。
「チッ!」
舌打ちすると2人に向かい射撃を始める。先程の戦闘で消耗してしまったのか先程よりも射撃精度が悪く、本体の動きも鈍くなっている。
ソードとジャムが弾をいなしなから一歩一歩近付く。それに合わせて怪人も一歩一歩後退していき、そのスピードを上げた。
「ジャム!」
「ここで仕留めましょう!」
怪人はよろけながら走り逃げ出して、ビルの壁や信号機の上、様々な場所を足場にして街を駆けていく。
「来んじゃねえっ!!」
同じように街を疾走し追いかけてくる邪魔者に発砲するが、弾速の落ちたそれを避けることなど容易であった。黒い銃弾は命中しないまま地面に落ち、2つの光が迫り来る。
「このっ……!!」
ついに痺れを切らしたか、先程、大技を放った時と同じように右腕にエネルギーを集中させた。猟銃から放たれたエネルギーは2人に届くことなく、地面に衝突し弾けた。
衝撃波に身構える。土埃が晴れると、そこには怪人の姿はなかった。
「逃げられた…………」
ソードの頬に、ツー……と、汗が一粒垂れた。