あれから数日経った。秋の始まりを感じ始める頃だ。
「なんで私まで……」
目を逸らしながら、悔しそうな顔をしてひめのが言う。
「まーまー。敗者に口なしってやつだよ、
「あなたこそ勝手に情報ベラベラ喋ってんじゃないですわよ!」
茶々を入れるももに殴るように言っては、持っていた扇を広げて口元を隠した。
「しっかしなんですか『ひめのちん』とは。バカにしているのですか!?敗者に口なしだのなんだのと……フン!」
「相変わらずですね……」
「ももちゃん、ひめのちゃんいじめたらダメだよー」
ひめのはそのままそっぽを向く。飯島探偵事務所は今日も騒がしい。
「それで、私たちなんで呼ばれたのさ?」
「お仲間の『ゆいか』さんの説得のためよ。私たちが言うよりあなたたちの方が効果的でしょう」
読んでいた本をパタンと閉じて、ソファから立ち上がりながらなおが言う。
「あ、く、熊野さん……ですよね?」
「うん、そーだけど。あんた誰?」
「あっ!す、すみません。さ、3年の夢野です……すみません」
「なんだ先輩かー。これからよろしくねー」
いつも通りに気弱な夢野の背中をめいらがバシバシと叩く。そして半ば無理やりに握手をした。
「にしても、今から教会にカチコミかけるんですよね……ちょっと緊張してきました」
「ラウェス・シュベリアとも戦ったのに、何怖気付いてんだよ?」
「だって、ルムールって人とは戦ったことないし……」
そんな2人の会話の中、ムネツグがニュッと入ってくる。
「ルムールは話術に長けているが、あいつ自身の戦闘力もかなり高い。戦ったことはないから具体的に何をしてくるかは知らないがな」
「なんかえらく大雑把だな……」
「でも、負ける気はないですよ!オトギマントにもルムールにも!」
グッと拳を前に突き出す。そんなまざるの姿に、2人は強い安心感を覚えた。
――――――――――
教会の中で、ピロリ♪と通知音が鳴った。ゆいかはポケットをまさぐった後、取り出したスマートフォンの通知を確認する。ももからのメールだ。
(……ももから?)
『今からそっち行くみたい』
――裏切り者め。
ゆいかは液晶を睨みつけて、ポケットにそれをしまってはルムールにメールの内容を伝えた。
「そうですか。……来るのですね」
「はい。ですがこの私が守り抜いてみせます」
ゆいかは微笑むルムールに笑みを返す。クルリと振り返って、彼女に背を向けて教会を出た。
「5人でも9人でもかかってこい……全部私が薙ぎ倒してやる…………!」
目に映るのは木々と綺麗な空。ゆいかは自信に満ちた眼差しで、フッと口角を上げた。
――――――――――
「ももちゃん、送ってくれた?」
「お前らって妙に生真面目だな……」
「えぇ。まざるちゃんがちゃんと連絡入れておきたいってうるさくてね……」
「ははっ、それちょっとわかるかも」
待機&監視役のムネツグと夢野に、「後は任せた」となおが手を振って、ドアを開けた。彼女を先頭として、一行は教会へ向かう。
「ねーひめのちゃん。全部終わったら、またゆいかちゃんと遊べるかなっ?」
「また遊べますよ、きっと。ねぇ、ももすけ?」
「そう来たか……。しのはどう思う?」
「さぁ。私はあんまり話したこともないですし。……でも、ひめのちゃんの言う通りにことが進めばいいなと思います」
壁にもたれて、まざるたちを見送る傍らでそんなことを話す4人。ゆいかと笑いあう自分の姿を薄ぼんやりと空想して、ももは小さく笑った。
「そういえば、場所分かるんですかね?」
「ああ、それなら――」
教会のある森へと向かうまざるたち。その途中、コンビニの角である人と待ち合わせ。幸い向こうはもう既に到着していたようで、彼女らの姿を見つけては手を振っている。
「よっ」
「江崎くん、おはよう!」
「おはよう、苺園。それで枠島先輩……えっと、道案内ですよね?」
「ええ。お願いするわ」
彼となおを先頭にして、再び歩き始める。直進、左折に右折を繰り返して、ナビがいるおかげもあり特に何事もなく森の入口へ到着した。
「なんか、不思議な感じですね」
「森の中の教会なんて、なんか神秘的だな」
鬱蒼と茂る木々を興味深そうに見上げては、まざるとうみがそう言った。
「この先、ちょっと進んだら教会がある。
「なんっか堅苦しい言い回しね」
「江崎くんも気を付けてね。山とか森って、割と植物とか土に足取られやすいんだって」
「おう、ありがと。……あ、屋根見えてきたな」
少し湿っている地面をザッザッと踏みしめていると、前方に生い茂る木々の隙間から教会のなんとも言えない赤っぽい色の屋根がうっすらと見えた。
「真っ直ぐ?」
「まぁ、そうですね。左に広い道あるんでそっち寄りましょう」
言われるがまま進んでいくと、少しづつ視界が晴れていく。開けたところに、教会が1つ。その門の前に、誰かが1人。
「江崎くん。ここまで道案内ありがとうね」
「あ、はい。何かあれば、また」
会釈をすると、くるりと背中を見せて去っていく。その姿は見送らずに、まざるたちは木々の陰から飛び出した。
「こ、こんにちは〜。出来たら戦わずに済ませたいんだけど……」
「来たか」
右腕を横に伸ばして、鋭い眼光でまざるを睨みつける。足元から首へかけて光の粒子が伸びていき、紺色の鎧を見に纏った。
「御託はいい。……消えろ」
外套の端、縦に切り込みが入る。瞬時に切り込みによって分断された外套の細い方が鋭く形状を変え、超スピードでまざるのいる方へ伸びる。
「危ないっ!」
ガッとまざるの背中をなおが押すと、凶刃はまざるの背後を通り空を切る。切っ先が曲がって、再びまざるを捉えたのを目視して、なおは焦りながら彼女に言う。
「変身して!早く!」
「チェンジッ!」
四つん這いの姿勢から変身し、やや前のめりになりながら前方に突き進む。彼女に続いて、後の3人も突っ走る。
「ジャム!プラズマヨーヨーだ!」
「オッケー!ポラリスとソードは撹乱お願いします!」
「簡単に言ってくれちゃって……!」
速度を落として後衛につくジャム。彼女にそう言いながらもソードは笑っている。握りしめた剣を構えながら突進して、マント目がけてそれを振りかぶった。
「受け切れるかしら?」
振り下ろしたそれを、いとも容易くマントは受け止める。細かな鋭い外套の刃が何重にもなって斬撃を防いだのだ。
「私の爪はもっと重いよ!」
遅れて攻撃に参加するポラリス。右手の爪を大きく振り上げるが、マントはソードの攻撃を受け止めたまま体を逸らせて難なく回避。それだけではなく、地面に這わせるように伸ばしていた外套の刃をギュンッ!と伸ばして、ポラリスを弾き飛ばす。
「きゃあっ!」
「ポラリスッ!」
ソードの意識が緩んだ瞬間、マントによる怒涛の攻撃が仕掛けられた。剣を受け止めていた外套がそれを弾き飛ばして、無数の刃でソードを切りつけ突き飛ばす。
「2人ともありがとっ!」
グラビティがいつの間にか辺りに漂わせていた重力球。飛び出したジャムが電流を放とうとした瞬間、重力球全てが濃紺の刃に串刺しにされ消滅する。
「んなッ!……そんなのありかよ!」
グラビティが呟くと同時に突進。彼女の意図を理解したジャムも拳に電気を湛えて構える。
「いくよ!」
「喰らえやぁっ!」
同時に2方向からのダブルパンチ。マントは外套を2つに分けて、左右に突き出した両手の前方へとそれらを移動させる。外套は堅い盾のような形状となり、2人の打撃を防ぐ。
「残念だったな!《マント・グングニル》ッ!」
攻撃を弾き盾を無数の刃へと形状を変化させる。それを螺旋状の大きな槍先のような形状に練り、グラビティを突く。それと同時に自身も軽く跳躍し、隙を晒したジャムに強烈なドロップキックを叩き込んだ。
「ぐっ……」
グルグルと回転し地面を削りながらも、なんとかジャムは立ち上がる。
(さっきの瞬間、マントの右手に『23』って書いてあった……私のは……えっ)
右手の甲に書かれている数字がピッと光る。記憶していた限りでは最後の数字は21。あれから何回か戦闘をしたから、もう少しあるはずだ。そのはずだったのだが。
いざ確認してみるとそこに書かれていた数字はたったの8。思わず唇を噛んだ。
――苦戦の予感がする。
「皆、一斉に動こう。ちょっとでもバラけてたら勝てそうにないかも……!」
「えぇ、そうね!」
マントから離れるように移動すると、4人は再びひとつの場所で集まった。
「策は?」
「いや、特にないわ」
「……どうしましょう」
ソードに問いかけても返事はそれだけ。再び問いかけても返事はない。ジャムは冷や汗をかきながら彼女の顔色を窺った。だが暗い表情のジャムとは対照的に、ニッと口角を上げていた。
改めて、祝50話です。皆様本当にありがとうございます。
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