「ムネツグさん!」
「レーダーで捕捉できない……やはり人間と融合すると捉えられないのか……」
トランシーバー型レーダーを握り込むムネツグの手に力が入る。画面にはただの地図以外何も表示されていない。
「手分けして探しましょう!」
「それが良さそうね……ジャム、動ける?」
「ソードこそ、大丈夫なんですか?」
「これくらい余裕よ。とりあえず、出来たらでいいから見つけたら場所を教えて」
ジャムとムネツグが頷いて、続いてソードも2人の顔を見て頷き返すと、それぞれ別の方向へと飛び立った。
――――――――――
日が暮れていく。暗くなる街に不安を抱えながら、ジャムは焦り気味に周囲を見渡しながら走っていく。
「ここにもいない……」
スマホを見ても発見したという内容のメッセージはない。このまま逃がしてしまったら、取り返しのつかないことになるかもしれないし、想像も出来ない。そう思うと、なんだかゾッと寒気がした。
路地。騒ぎを知らない猫がニャオンと鳴くばかりで、動物以外の気配は全くない。
次に訪れたのは人のいない工事現場。ここに訪れる人はそういない。それ即ち、隠れるのに最適な場所だ。足音を殺し、中を覗いてみる。暗くなってきてしまって、なかなかよく見えない。
だが…………
一瞬だけ、光の反射か何か分からないが、ほんの一瞬だけうっすらとシルエットと金属光沢のような煌めきが見えた。『居た』。何かが走ったような感覚がした。
急いでスマホを取り出してメッセージを送る。手が何故か震えだして、上手く文字が打ち込めない。なんとか打ち込めた文字列をグループにそっと送信し、ジャムは1人、工事現場の中へ向かった。
――――――――――
ザッと音を立てて突入する。銃の怪人よ、もう逃がさない!と拳を向けるが、そこに銃の怪人はいない。その代わり、そこには1人の高校生……『江崎 晃矢』が立っていた。
「ええ江崎くん!?」
その声でやっと存在に気付いたのか、江崎は振り向く。もはや消耗しきって立っているのもやっとだが、そんなことなど、ジャムには知る由もない。
「お前……苺園……か!?」
彼の目がその正体を見抜いたわけではない。ただその声、その姿がどこかまざると重なった。
「えっ……」
「……近寄るなっ!」
思わずビクッと体が反応するが、ジャムは困惑混じりの笑顔で、尚も彼へと近付く。
「江崎くん、ここは危ないから逃げて……今、銃を持った怪物が――」
そう言ったタイミングで江崎と目が合った。
その瞬間、ジャムの脳内にふと、ある仮説が思い浮かんだ。
(いやいや……そんなはずないよ)
が、彼へと向かうが足が止まってしまう。
(絶対にそんなはずないって、だって江崎くんは普通の……普通のクラスメイト……だし)
思わず涙ぐむ。江崎は驚いたような、焦っているようななんとも言えない表情で、ジャムの顔を見る。
「なぁ」
俯いた江崎はそう言いながら、黒いオーラを放つ。
「あ、あぁ……!!」
オーラは黒色の装甲を形作り、ゆっくりと江崎の体を包み込んでいく。
「ちょっと、これっ、違うんでしょ、ねえっ!!」
江崎の面影はもう無い。銃の怪人が目の前に現れて、思わず目から涙が溢れた。
その表情はよく見えなかった。怪人は右手の銃を頭に突きつける。
「こんな……あのさ、今日の昼何食ってたんだ……?」
銃声が鳴って、怪人が仰向けに倒れる。力が抜けその場で崩れ落ちるジャム。光の粒が体内へ入っていることにも気付かず、声を殺して泣いた。
消しゴム拾ってくれたな、とか。よく挨拶してくれたな、とか。様々な思い出が頭を巡る。そんな中でふと、昼休みに彼と目が合ったことを思い出した。
「そんなの……そんなのっ……あの時言ってくれたらよかったのにっ……!」
泣きじゃくってしまった。気付けば大きな声で泣いていた。右手の数字が2個増えていた。助けられなかった。
枯れたように涙が止まった。涙のあとを腕で拭って、そっと立ち上がる。
ハッと、予感がした。いいことか悪いことか分からないが、何かの予感が――
ドーンッッ!!
爆音と同時に走る衝撃。現れたのは紫色のオーラを纏う中学生くらいの少女。ジャムと同じような力を持っているのか、彼女に似た衣装を纏っている。
「みーつけた。魔法少女ちゃん……」
「次はっ……次は何!?」
少女はジャムを見て、ニヤニヤと笑いながら両手に何かエネルギーを溜めている。
「騒ぎがあったから来てみたら、やっぱりいたよ。魔法少女ちゃんは本当にお人好しなんだな」
「誰っ!?」
バリアを展開しようと戦闘準備万端のジャム。ツインテールの少女は答えた。
「オトギグラビティ。簡単に言うと、あたしの魔法少女・ネームだ……よっ!!」
ソフトボールのようなアンダースロー。右手からエネルギー弾をジャムへ投げつける。ジャムも負けじとバリアを展開しそれを無効化。直後、グラビティと目が合う。
「お前……あたしのこれ受け止めたのか。……ならこれはどうだ!」
次は両手。彼女がどれだけエネルギー弾を放とうが、ジャムのバリアがそれを打ち消す。
「無敵バリアかなんだか知らないけど、気に食わねぇなぁ!!」
高速で動いたかと思うと、持ち上げた工事現場の鉄骨を軽々と宙に浮かべ、オーラを纏わせたそれを一気にジャムに放った。
カランカランと金属音を立て、何本かの鉄骨が地面へ突き刺さる。そのちょうど中心に、ボロボロのジャムが立っていた。
「ふぅん……よく分かんねえの」
ジャムの動きが鈍っているのがよく分かる。グラビティは軽快な動きでその体を蹴り飛ばし、車道へと転がした。
「ぐっ……ううっ……!」
「さっさとあたしに点数寄越しな。……4もあるなんて上等じゃねえか」
グラビティが乱暴にジャムの右手に触って、数値を確かめた。そしてこれまた乱暴にジャムを蹴って、トドメを刺そうと右手に力を込める。
電流が出せない。このままでは本当におしまいだ。
「させないっ!!」
ギューン!!
「はあぁぁ!?もう一人いるのかよ!」
風を切り飛来するもう一人の少女。その勢いのままグラビティはジャムのもとから思いきり吹き飛ばされる。
「なんとか間に合った……!」
様々な感情が入り交じって、倒れているジャムの目から大粒の涙がこぼれる。
「ソード、ソードぉぉ……」
「ジャム…………。今は一旦退きましょう」
泣きじゃくるジャムの体を抱いて、グラビティの吹っ飛んだ方向を見ながらその背中を撫でる。
「あぁ!?逃がすかよぉっ!!」
右手に濃い紫の球体エネルギーを纏い、足に力を込めるグラビティ。プレッシャーを放ちながら迫り来るそれをソードは気後れせずに睨みつけ、後方の空へ振り向く。
「ムネツグさん!」
「いい判断だ」
ムネツグが遅れて現れ、彼女らの前に急降下し何かの構えを取る。
「《フラッシュ・ボム》!」
手に生成した何かを投げたかと思うと、その場で街灯など比にならないほどの閃光が放たれる。攻撃能力こそ低いものの目くらましにはなったようで、一時的に視力を失ったグラビティが怯み、その場で手のエネルギーを拡散させた。
「……ぐぅ」
しばらくして、視力を取り戻したグラビティ。アスファルトに出来た小さなクレーターの中心で、ボロボロになった地面を睨みつけながら拳に力を込める。
「あのバリア野郎…………マジでムカつくっ!!!」
もう少しだったのに、まんまと逃げられてしまった。グラビティは悔しさと怒りで唇を噛み、ダンッ!と地面を殴りつけた。
お読み頂きありがとうございます。
オトギグラビティ。パワー型の魔法少女です。乱暴な彼女ですが個人的に気に入ってるキャラです。