やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-100 仮面を外すまで

 

 南太平洋の紺碧に浮かぶ群島国家、オーブ連合首長国。

 

 つい数週間前まで、地球上最大の軍事勢力たる大西洋連邦の大艦隊によって業火に包まれていたはずの海域は今、全く異なる喧騒と活気に満ち溢れていた。

 

 全世界の注目を集める一大環境・技術開発計画『アーカディアンプロジェクト』の発足。

 

 その巨大な第一歩を踏み出すべく、オノゴロ島の沖合には、すでに無数の作業用クレーン船や巨大なプラットフォーム、そして「ジャンク屋組合」に所属する多種多様な工作船が所狭しとひしめき合っている。

 

 かつて、巨大なマスドライバーを有する人工浮島『ギガフロート』の建設を成功させた実績を持つジャンク屋組合は、国家間のしがらみに縛られない中立組織であり、その卓越した技術力は世界中の誰もが認めるところだ。

 

 国家の枠を超えた超巨大プロジェクトであるアーカティアンの先兵として、これほど適任な技術者集団は他に存在しない。彼らの参加は、プロジェクトの推進力を爆発的に高めていた。

 

 オーブは今や、単なる中立国から、全世界の叡智と資金が集結する「地球圏最大の宿場町」へとその機能を劇的に変化させつつあった。

 

 大西洋連邦の投資ファンド、AEUの環境・建築工学の権威、人革連の基礎物理学の専門家、そしてプラントからは平和利用の枠組みで派遣された優秀なコーディネイターの技術者たち。

 

 かつては銃火を交えた者たちが、理想郷という強固な大義名分の下、次々とオーブの土を踏んでいる。

 

 彼らがまず直面するのは、この国を襲った「戦争の現実」と、そこから立ち上がろうとする「人々の途方もない熱量」であった。

 

 オノゴロ島の沿岸部から沖合にかけては、先日の『オーブ攻防戦』においてブルーコスモス艦隊が撃沈され、海へ沈んだ無数の戦艦やモビルスーツの残骸が、今も痛々しい姿を晒している。

 

 だが、その残骸すらも無駄にはされない。アーカディアンプロジェクトの根幹を成す、最大直径60kmという天文学的スケールの超巨大人工島竜宮島の建造において、最も不足するのは莫大な建築鋼材だ。

 

 オーブ政府とジャンク屋組合は、この海底に眠るおびただしい数の「敵の残骸」を引き揚げ、徹底的に精錬・リサイクルし、新たな平和の礎へと再利用する計画をすでに開始していた。

 

 自分たちを焼き尽くそうとした兵器の残骸が、次代の平和を護るための巨大な揺り籠へと造り変えられていく。

 

 それは、死の商人を自称するキラ・ヤマトらしい、最高に合理的で、皮肉に満ちた資源の循環であった。

 

 しかし、海外から招かれた技術者やその家族たちがオノゴロ島に降り立った時、最も息を呑み、言葉を失うのは、その痛々しい景色そのものではない。

 

 街の至る所に、ミサイルの着弾によってえぐられた巨大なクレーターが口を開けている。

 

 美しかった海沿いの居住区は無惨に吹き飛び、かつての近代的なビルの多くは瓦礫の山と化し、見渡す限りの凄惨な「戦場の跡地」が広がっている。

 

 彼らは、この光景を見て「自分たちはなんて悲惨な場所に来てしまったのか」と戦慄するかもしれない。

 

 だが、その惨状の中で生きるオーブの民衆の顔を一度でも見れば、その戦慄は即座に「畏敬」へと変わるだろう。

 

 立ち並ぶのは、モルゲンレーテの技術で急速に建造された、プレハブの仮設住宅群。

 

 決して裕福とは言えないその生活環境に身を置きながら、泥まみれになって復興作業に従事する人々の顔に、悲壮感は微塵もなかった。

 

 すれ違う誰もが、活気に満ちた声を掛け合い、瓦礫を片付けながらも笑顔を絶やさない。

 

 子供たちは仮設住宅の広場で元気いっぱいに走り回り、配給の列に並ぶ大人たちの間には、絶望ではなく、確かな明日の生活を語り合う温かな空気が流れていた。

 

 彼らがこれほどまでに強く、誇り高く前を向ける理由は、あまりにも明白だった。

 

 一つは、あの地獄のようなオーブ攻防戦において、世界最大級の艦隊と圧倒的な物量による飽和攻撃を受けながらも、「オーブ国民の死者ゼロ」という文字通りの『奇跡』を成し遂げたという、絶対的な事実。

 

 自国の軍隊が、指導者が、自らの命を懸けて自分たちを最後の一人まで守り抜いてくれた。

 

 その圧倒的な信頼と恩義があるからこそ、家を失い仮設住宅で暮らす不便さなど、彼らにとっては文句を言うべき不満の種ですらなかった。

 

 戦火が収まった直後から、国民の誰も飢えさせず、雨風をしのぐ仮住まいを驚異的な速度で用意してくれた現代表首長カガリ・ユラ・アスハに対し、オーブ国民が抱いているのは、深い感謝と揺るぎない絶対の忠誠である。

 

 そしてもう一つ。

 

 この未曾有の復興と、全世界を巻き込む巨大プロジェクト『アーカディアン』の発起人が、他でもない、彼らが心から敬愛する最高軍事顧問であり、白銀の英雄たるキラ・ヤマト准将であるという誇りだ。

 

 何より、彼らの心に決定的な安らぎと余裕をもたらしたのは、「戦争が終わった」という事実そのものであった。

 

 つい数日前、全世界に向けて同時に発表された『停戦協定』。

 

 一年と半年。血塗られ、果てしなく続くと思われていたナチュラルとコーディネイターの殲滅戦争は、あまりにも唐突に、しかし極めて強固な合意の下に終結を宣言した。

 

 その歴史的偉業の最大の立役者が、オーブの英雄であり、若獅子カガリの双子の弟であるキラ・ヤマトだということを、世界中の誰もが知っている。

 

 准将に就任してから、わずか一ヶ月足らず。

 

 彼は、大国を脅し、技術を天秤にかけ、自らは泥に塗れながらも、狂気に満ちた世界を力尽くで捩じ伏せ、一つのテーブルに縛り付けたのだ。

 

 しかし、オーブの国民は誰一人として、彼を「神」や「超人」だとは思っていない。

 

 ジェス・リブルが発信し、世界を震撼させたあのインタビュー記事。

 

 あれを読んだオーブの民衆は、涙を流した。

 

 彼らが畏敬する白銀の英雄は、冷酷な支配者でも、感情を持たない戦神でもない。

 

 親友と殺し合い、愛する人を救えなかった悔恨に胸を張り裂けさせ、その絶望の果てに、二度と誰も死なせないために自ら『死の商人』の仮面を被り、阿修羅となって修羅道を歩むことを選んだ、ただの一人の、不器用で、心優しすぎる16歳の少年に過ぎないのだと。

 

 自分たちを守るために、あの細い肩に世界中の憎悪と罪を背負い込んでいる双子の姉弟。

 

「……あんな子供たちの手を、これ以上煩わせるわけにはいかない」

 

 それが、焼け野原となったオーブに生きるすべての国民が共有した、声なき誓いであった。

 

 食料が足りなければ分け合い、瓦礫があれば共に退け、略奪や犯罪などという恥知らずな真似は絶対に許さない。

 

 戦乱直後、本来であれば治安が最も悪化するはずの極限状態において、オーブは世界でも類を見ない「とてつもなく高い治安意識と道徳的秩序」を、国民一人ひとりの自発的な意志によって維持していた。

 

「見てみなさい。あれが、私たちが誇る『オーブの光』よ」

 

 仮設住宅の窓辺から、海を見つめる母親が幼い子供に語りかける。

 

 彼女の視線の先、復興の槌音が響くオノゴロ島の港には、アーカティアンプロジェクトの巨大な資材を積んだ輸送船が、夕陽に照らされて輝いている。

 

 その光景は、偽りの平和の裏側で、彼らが創り出そうとしている本物の希望の形そのものであった。

 

 オーブは傷つき、燃えた。

 

 だが、その灰の中から立ち上がったこの国は、かつての脆弱な中立国ではなく、世界を縛る鎖の起点となり、そして世界中のどこよりも強く、温かく、気高き民草の意志に支えられた「真の覇権国家」としての道を、力強く歩み始めていたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

「ラウ……ここが?」

 

 南太平洋の陽光が降り注ぐオノゴロ島の港湾部。潮風に金色の前髪を揺らしながら、端正な顔立ちの少年──レイ・ザ・バレルが、周囲の光景に目を丸くして呟いた。

 

 あちこちに残るミサイルの着弾痕や崩れかけたビル。

 

 それでいて、至る所に建ち並ぶ真新しい仮設住宅群と、大型重機を操りながら笑顔で言葉を交わす人々の活気。

 

 その凄惨な傷跡と不釣り合いなほどの希望に満ちた喧騒は、少年の目にひどく奇妙で、そして力強く映った。

 

「そうさ、レイ。ここが……あの少年が世界の明日を生み出そうとしている、巨大な揺り籠の中心地だ」

 

 少年の傍らに立ち、大きなサングラスで顔を覆った金髪の男──ラウ・ル・クルーゼは、特徴的な冷たい、だがどこか楽しげな響きを帯びた声で答えた。

 

 終戦の宣言が世界に響き渡った直後、プラント最高評議会議長パトリック・ザラの号令の下、ザフト軍内部は大規模な再編の嵐が吹き荒れていた。

 

 しかし、クルーゼはその嵐が自らに及ぶ前に、あっさりとザフトの軍籍──白き軍服も、エースパイロットとしての地位も、すべてを投げ捨てていた。

 

 そして、彼が個人的に密かに保護し、育てていたクローン少年であるレイを連れ、民間人のパスポートで堂々と、このオーブの地へと降り立ったのである。

 

 彼がわざわざオーブへと乗り込んできた理由はただ一つ。

 

 キラ・ヤマトという存在が、この狂った世界をどう捩じ伏せ、どんな明日を創り出すのか──その一部始終を、特等席で見届けるためだ。

 

 プラントの軍人という檻の中にいては、遠すぎる。

 

 人間の業の深さと愚かさを誰よりも憎み、世界そのものに終止符を打とうとしていたクルーゼにとって、キラ・ヤマトという少年の存在は、己の虚無を根底から揺さぶる強烈な「劇薬」であった。

 

 死の商人の仮面を被り、泥に塗れながらも平和を強要するあの少年の結末が、希望となるのか、それともより深い絶望となるのか。

 

 それを直接、この目で確かめる。

 

 そのための最前列の観客席として、彼はこのオーブの地を選んだのだ。

 

「……ッ!」

 

 ふと、クルーゼの脳裏に、電撃のような特有の感覚が走った。

 

 それは、レイも同じだった。少年が怪訝そうに周囲を見回すよりも早く、クルーゼはゆっくりと振り返る。

 

「……貴様。ラウ・ル・クルーゼか!」

 

 人混みを掻き分けて現れたのは、オーブ国防軍の制服をラフに着崩し、鋭い眼光でこちらを睨みつける男──ムウ・ラ・フラガであった。

 

 彼もまた、あのオーブ攻防戦を戦い抜き、アークエンジェルのクルーとして、そしてキラの頼れる兄貴分として、この国に留まっているのだ。

 

「フッ……互いに『感じ合う』というのは、本当に不愉快で不幸な宿縁だな、ムウ」

 

 クルーゼはサングラスの奥で目を細め、皮肉げな笑みを浮かべた。

 

 戦場において、幾度となく死闘を繰り広げ、互いの存在を本能レベルで感知し合う宿敵。

 

 それが、銃を持たぬ平服の姿で、真昼の復興の街中で鉢合わせるなど、何の冗談か。

 

「貴様、何故此処に……! ザフトの白服が、この国に何の用だ!」

 

 ムウは腰のホルスターに手を伸ばしかけ、油断なく身を沈めた。

 

 その気配は、いつでもクルーゼの喉笛を掻き切る臨戦態勢のものだった。

 

「勘違いしないでいただきたい。私はすでにザフトの軍籍を退いている。……強いて言うなら、『観光客』とでも言っておこうか?」

 

「観光客、だと?」

 

「そうだ。この活気に満ちた平和な街並み。実に素晴らしいじゃないか。君たちオーブが、あの少年と共に守り抜いた誇り高き国だ」

 

「……………へっ」

 

 クルーゼの芝居がかった、しかし嘘を吐いているようには見えない態度の前に、ムウは一瞬だけ毒気を抜かれたような顔になり、直後、構えていた手をあっさりと下ろした。

 

「……やめだ、やめ。せっかく世界中が平和になったってのに、俺がここで騒ぎを起こして、キラの手を煩わせるわけにはいかないしな」

 

「ほう?」

 

 クルーゼは意外そうに眉を上げた。

 

「アレだけ撃ち合い、互いに殺し合った私を前にして、剣を引くというのか? 復讐の機会を自ら手放すと?」

 

「言ったろ。戦争は終わったんだ」

 

 ムウは面倒くさそうに首を鳴らし、ポケットに両手を突っ込んだ。

 

「なら別に、お前が観光客だなんだって言い張って、悪さもしねぇで歩いてるなら、ここで戦う意味がねぇ。……キラの奴が、どれだけの思いをしてこの『平和』をもぎ取ってきたか、俺は一番近くで見てきたからな」

 

 その言葉には、ムウ・ラ・フラガという男が持つ、鷹揚で常識的な本質がよく表れていた。

 

 過去の遺恨よりも、今目の前にある「若者が創り出した平和な日常」を壊さないことを優先する。

 

 だが、クルーゼはそれを聞いて、さらに深い、悪意に満ちた笑みを深めた。

 

「……本当にそう言えるかな? 私が、フラガ家を滅ぼした張本人──お前の父親であるアル・ダ・フラガを殺した元凶だと知っても?」

 

「……なんだと?」

 

 その瞬間、ムウの放つ空気が再び凍りついた。吊り上がった眉間の奥で、彼の瞳が猛禽類のように鋭く細められる。

 

 父親を殺した張本人。

 

 愛憎入り混じる複雑な感情を抱いていたとはいえ、血の繋がった父親の死の真相。

 

 その爆弾発言を、クルーゼはまるで天気の話でもするかのようにあっさりと口にしたのだ。

 

「ここではなんだ。……そこのカフェテリアにでも座って、ゆっくりと語ろうじゃないか。お前も、己の血の因縁について、知る権利があるだろう?」

 

 クルーゼは、近くにある仮設の、しかし小綺麗に整えられたオープンカフェを顎でしゃくった。

 

「……ケッ。あんだけ殺し合いをやったヤツと、真昼間から茶ァ飲む日が来るとはねぇ」

 

 ムウは舌打ちを一つして、強ばった肩の力を無理やり抜いた。

 

「良いだろう。その話、きっちり付き合ってもらうぜ。……逃げられると思うなよ」

 

 ムウはクルーゼの提案を受け入れると、ふと、クルーゼの背後に隠れるように立っていた少年──レイに視線を移した。

 

「……にしても。子持ちだったのか? オマエ。隠し子にしては、ずいぶんとデカいな」

 

「私がそう老けて見えるのかね?」

 

 クルーゼはクックッと喉を鳴らして笑い、レイの細い肩に手を置いた。

 

「この子についても、纏めて話そうじゃないか。……お前にとっても、決して無関係とは言えない存在だからな」

 

「俺に? ……わけが分かんねぇな」

 

 そうして、因縁の男たちは言葉を交わしながら、三連の仮設パラソルの下、海風の吹き抜けるカフェテリアの席へと腰を下ろした。

 

 出されたコーヒーと、レイが不思議そうに眺めるオレンジジュース。

 

 テーブルを挟んで向かい合う、サングラスの元ザフトホワイトとオーブの軍服を着崩したエースパイロット。

 

 おそらく、もしこの場にキラ・ヤマトが居合わせ、そんな風に剣呑ではない──奇妙な静けさの中で会話を交わすクルーゼとムウを見たならば、あまりの現実離れした光景に「僕はまた過労で夢でも見ているのかな」と、本気で己の頬をつねったに違いない。

 

 世界の明日を生み出す中心地、オーブ。

 

 そこは、憎悪と業に縛られていた者たちが、剣を置き、自らの真実と因縁に向き合うための、奇妙で穏やかな『終着駅』にもなろうとしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「さて。胡乱な言葉で遠回しに話しても、互いに誤解と猜疑を生む土壌でしかない。単刀直入に言えば、私とこの子は、お前の父、アル・ダ・フラガのクローンだ」

 

「……ちょっと待て」

 

 ムウは口を付けていたアイスコーヒーのグラスをテーブルに置き、眉間を指で強く揉みほぐした。

 

 仮設カフェテリアの軽快なBGMすらも、今の彼にはひどく耳障りに感じられるほど、脳の処理能力が許容量を超えそうになっていた。

 

「お前、そりゃ…、コーディネイト以上にやべーって禁止されてる奴だぞ。国際条約はおろか、倫理的にも完全にアウトだ。冗談にしては悪趣味すぎる」

 

「そうだとも。だが紛れもない事実だ。あの男は、己の死でさえも金で買えると思い上がり、そして……『人類最高のコーディネイター』を作るための莫大な研究資金を欲した一人の狂気的な科学者の手によって、我々は生み出された。だがな、ムウ。元々の遺伝子がすでに老化している人間の細胞を使えば、いったい何が起こると思う?」

 

「そりゃあ……細胞の寿命が短いんだから、元からオヤジならオヤジじゃねぇのか?」

 

「当たらずも遠からず、だ。生み出された私は、容姿も才能も、確かにアル・ダ・フラガそのものだった。フラガ家の家督も私が継ぐ予定だった。だが、元から老化していた遺伝子だ。テロメアの短さから、常人の数倍の速度で老化していく肉体。……それが、私とこの子が背負わされた、あの傲慢な男の身勝手な業だ」

 

「…………あのクソ親父」

 

 戦場で幾度となく殺し合い、火花を散らした宿敵。その正体が、まさか自分と血を分けた、いや、血そのものである父親のクローンであり、あまつさえその誕生の理由が、父親の果てしないエゴの産物であったとは。

 

 ムウの胸の内に湧き上がったのは、クルーゼに対する敵意や殺意ではなかった。

 

 ただ、一人の人間を道具として生み出し、呪いだけを与えたアル・ダ・フラガという男への、底知れぬ嫌悪と呆れだった。

 

「その欠陥を知ったアル・ダ・フラガは、私を『失敗作』としてあっさりと見限り、捨てた。そしてお前に家督を譲ることにしたのだ。勝手に生み出し、期待をかけ、そして勝手に捨てる。恨み節も極まれりというものだろう?」

 

「……だから、親父を殺して、屋敷に火をつけたのか」

 

「いかにも」

 

 ムウの脳裡に、遠い日の記憶が蘇る。

 

 夜空を赤く染め上げ、すべてを焼き尽くして崩れ落ちていったフラガの豪邸。

 

 あの火事によってフラガ家は没落し、天涯孤独となったムウは、資産家の御曹司という肩書きを失った。

 

 地球軍の士官学校へ入ったのも、一番手っ取り早く食い扶持を稼げるからだった。

 

「で? それが何でまた、ザフトのトップガンなんてやってたんだ?」

 

「人より早く老化し、確実に朽ち逝くこの身を、少しでも長く生き永らえさせる方法を探すならば、最先端の遺伝子工学の粋が集まるプラントへと移るのは、至極当然の話だろう?」

 

「まぁ、理屈はそうだけどな。……お前、ナチュラルだろ?」

 

「むろん、楽な道のりではなかったさ。しかし、あの男の才能は私の中にも確かにあった。高い空間認識能力と、卓越したMSの操縦技術。……皮肉にも、私は誰よりも優秀な兵士として振る舞うことで、ナチュラルであるとは露見せずにザフトの階級を上り詰めることができたのだよ」

 

 並みのコーディネイターを遥かに凌ぐ才覚。

 

 それが、クルーゼという仮面を被ったナチュラルの、血を吐くような生存戦略であった。

 

「そうしてプラントで過ごす日々の中で、私はこの子──レイを拾った。私と同じ、短き命を運命づけられたアル・ダ・フラガのもう一つの分身を。……そして同時に、世界に絶望した。果てしない憎しみの渦によって、コーディネイターとナチュラルが互いに競い、妬み、憎んで、その身を食い合う愚かな世界。こんな世界は、一度すべて滅んでしまったほうがマシだとさえ思った。この子の生きる『明日』が、どうしようもない絶望の世界になるというのならば……そのまま滅びの道を歩むのなら、いっそ私がその背中を押して、すべてを終わらせてしまえと。私はそれなりに、世界を破滅へ導くために色々と暗躍してきた」

 

「じゃあ、あのユニウスセブンへの核攻撃も、お前が糸を引いて……」

 

「アレは私ではないよ。それだけは名誉のために言っておこうか」

 

 クルーゼは肩をすくめ、氷の溶けかかったアイスコーヒーを一口飲んだ。

 

「だが、世界は劇的に変わった。TC-OS、ティエレン……そして何より、我々と同じ『生まれながらの業』を背負った、キラ・ヤマトという少年の登場によって。世界を塗り替えられた。……人類最高のコーディネイターとして生を受けながら、あの血のバレンタインまでは、ただの普通の少年だった彼は……自ら血を流し、大国と取引する『死の商人』となり、修羅の道を歩むことを選んだ。それでいて、彼は『笑顔の盾となる』とまで言い放ったのだ」

 

 クルーゼの脳裏に、あのオーブ攻防戦の光景が鮮明に蘇る。

 

 大西洋連邦の大艦隊に包囲され、世界中から「悪魔」と罵られた絶望的な状況。

 

 大切な者たちや国を、魔女だの売女だのと侮辱され、焼き払うと宣告された極限の状況において。

 

『あらゆる邪悪を打ち砕く、笑顔の盾と成る者だ──!!』

 

「正直、震えたとも。私が決してなれなかった、世界を敵に回してでも大切な者のために明日を創り、守り抜く強さ。『白銀の英雄』という圧倒的な覚悟。……それを目の当たりにして、私は生まれて初めて、完全な敗北感に打ちのめされたのだよ」

 

「だから、軍を辞めて、アイツを間近で見ようってか?」

 

「ご明察だ。彼が創る明日が、本当にこの世界を救えるのか。それとも、彼自身の傲慢さによって自滅するのか。特等席で見届けたくなってね」

 

「……『人類最高のコーディネイター』、ね」

 

 ムウはため息をついた。

 

 驚きはある。あの普段は甘ったれで、どこか泣き虫な一面もある少年が、裏ではそんな重すぎる宿命を背負っていたなんて。

 

 凄腕メカニックにして、パイロットとしても超一流。

 

 今ではオーブ軍のトップに君臨し、世界の和平交渉すら裏から扇動するとんでもない16歳の少年。

 

 とはいえ、ムウは彼のその「強さ」だけでなく、不器用さや「弱さ」を一番近くで見てきた。

 

 どんなに出自が規格外であろうと、キラはキラだ。ムウにとって、それは変わらない事実だった。

 

「──ムウさん!」

 

 ふいに、カフェテリアに近づいてくる声があった。

 

 その声が聞こえた瞬間、周囲を行き交うオーブの民衆たちは、口々に「キラ様!」「准将!」「キラ様だ!」「准将閣下!」と歓声を上げ、誰に命令されたわけでもなく、自然と道を開けた。

 

 それに手を振り、照れくさそうに、しかし確かな慈愛を込めて微笑み返しながら、キラ・ヤマトがムウの元へと歩み寄ってくる。

 

「ほう。まさか君の方から出向いてきてくれるとは。……あのヘリオポリスで、私と互いに『感じ合って』いた相手が、よもや君だったとはな」

 

 ヘリオポリス襲撃の折、シグーで内部に侵入したクルーゼは、そこで紺色のティエレンと交戦した。

 

 その時、互いに特有の空間認識能力によって、その存在を確かに感知していた。

 

 だが、その相手がよもや、自分と同じ「狂気の遺伝子工学の果て」に生まれた少年だとは。

 

 その時のクルーゼは、露ほども思っていなかったのだ。

 

「ラウ・ル、クルーゼ……」

 

「私を知るか。いや、今の君の持つ情報網ならば、知っていても不思議ではないか。初めましてと言うべきかな、キラ・ヤマト君」

 

 クルーゼと対峙したキラは、しかし、身構えることも、敵意を剥き出しにすることもなかった。

 

 ただ静かに、その深い瞳で彼を見据えた。

 

「どうして、ここへ来たんですか?」

 

「観光客さ。君がその手で創る未来を、この目で最後まで見届けるために、ね」

 

 そう言って、クルーゼは特徴的なサングラスをゆっくりとズラした。

 

 その目尻には、彼の実際の年齢には到底似合わない、深い老化のシワが刻み込まれていた。

 

 テロメアの欠陥による、抗いようのない死へのカウントダウンの証。

 

「……クルーゼさん。貴方と、その子に……僕は、新しい明日を与えられるかもしれません」

 

「ほう? それはどういう意味かな?」

 

 キラは制服のポケットから携帯端末を取り出すと、ホログラムスクリーンを展開し、それをクルーゼの目の前へと提示した。

 

「かつて、コロニー・メンデルで極秘に研究されていた『アンチエイジング』の研究データです。細胞を修復し、肉体年齢を根本から改善する。……まぁ、まだ調整が難しくて、程度が過ぎると若返り過ぎて、大人でも子供になってしまう少し危険な薬品ですけどね」

 

「…………」

 

 クルーゼは、その端末に映し出された複雑な塩基配列と修復のプロセスデータ、そしてキラの淡々とした言葉に、数秒間、完全に言葉を失った。

 

 そして次の瞬間──。

「…………ククク、ハーッハッハッハッハッ!!!!」

 

 クルーゼは天を仰ぎ、恐らく生まれて初めてであろう、心の底からの、歓喜と諦観が入り混じった高笑いを上げた。

 

 その笑い声は、カフェテリアの周囲の人間が驚いて振り返るほどだった。

 

「君は……本当に、途方もなく傲慢な存在だ。この奇跡の薬で、死に行く私とこの子の人生を買い上げ、君の『明日』の観客として永遠に縛り付けようと言うのかね?」

 

「いえ。そんな大層なものじゃありません。……でも、『明日が欲しい』と願うのは、誰でも同じだと思いますから。それに、貴方にはもう少し、この世界がどう変わっていくのか、生きて見届ける義務があるはずです」

 

 傲慢なまでの、一方的な庇護と救済の愛。

 

 神のような視座から手を差し伸べる、それが『キラ・ヤマト』という人間であるというのならば。

 

「……完敗だよ、キラ君。私の中で燻っていた最後の虚無すらも、君はあっさりと吹き飛ばしてくれた。……その薬、この子へと先に使ってやってくれたまえ」

 

「ラウ……!」

 

 レイが不安げに、クルーゼの袖を強く引いた。自分だけが助かることを恐れるような、幼い瞳。

 

「心配は要らないさ、レイ。君の後に、私もありがたく使わせてもらおう。……いや、やはり逆だな。私が先に被検者として試すか」

 

「一応、僕自身がすでに投薬のテストを行っているので、人体への致死的な毒はないと保証しますよ」

 

キラが涼しい顔で付け加える。

 

「……はぁ!? お前、その歳で若作り始める気かよ!?」

 

 ムウが目を剥いて突っ込んだ。

 

「でないと、最近の激務とストレスで、過労死する前に禿げ上がりそうなんですよ、ムウさん……カガリは無茶ばかり言うし、各国の首脳は狸ばかりだし……」

 

 キラは本気で疲れたような顔をして、大きなため息をついた。

 

「くくっ、ま、確かにな。オーブの最高軍事顧問がハゲちゃあ、格好がつかねぇもんな。……んで? どうするんだ、クルーゼ。このまま大人しく若返って、オーブの厄介になるつもりか?」

 

「別に、どうともせぬさ。私はただの観光客だからな。……だが」

 

 クルーゼは、サングラスをかけ直し、少しだけ氷の溶けたアイスコーヒーのグラスを傾けた。

 

「一日でも長く生き永らえ……君が創るこの世界の『明日』を見続けられるというのなら。それは、最高に愉快な暇つぶしになりそうだ」

 

 そう言って微笑んだクルーゼの顔には、かつて世界を憎悪していた影はもうない。

 

 南太平洋の穏やかな風が吹き抜ける中、因縁の三人は、それぞれの過去と未来を交差させながら、ゆっくりとコーヒーを味わっていた。

 

 それは、血塗られた世界が確かに『明日』へと進み始めていることを証明する、奇跡のような一時であった。

 

 

 

 




ご都合主義?こまけぇこたぁ良いんだよ!

アウラのお陰で若返ったり寿命問題解決出来る手掛かりが公式に転がってるのは、古のSEED二次創作まで知る身としては説得力持たせられるからマジ助かるわぁ。

遺伝子的に困ったらメンデル掘り返せばなんでも出てきそうなのマジなんなんあそこ?

クルーゼが光落ちしたって?

そりゃ光を見ちゃったから仕方ないね。

気になる人は是非、『ジェイス・ザ・オーバードライブ』で調べてみると言い。

ついでに『クリストファー・ヴァルゼライド』も調べてみると良い。

生まれの優劣など、不断の努力と不退転の意志さえあれば乗り越えられる!!全て心ひとつなり!!





























※以下閲覧注意※





もうガンダムSEEDじゃなくて架空のスパロボにした方が良いとか、話の都合でジブリール生かしすぎとか、何がしたいのかわからないと言われまして。

いやうん、ご尤も何だけど、しばらく前のあとがき読んでないんですかね?

意見があるならご意見板に書いてって言って予防線張ったんだけどなぁ……。

そりゃその場のライブ感で書いてる上に、最初に想定したプロットなんてまるで意味がないくらい話が変わっちゃったから、何がしたいのかわからないと言われても、そりゃ私も何がしたいのかわからない。

だって世界が赴くままに筆を進め、世界を動かす為に必要な知識や要素をキラがブチ込んでるから、そりゃあっちこっち取っ散らかるのも自覚してます。



だって信じられる?



最初は一騎と総士みたいに、アスランが居ないとダメダメなキラかと、キラの事過保護なアスランで、そんなキラとアスランを微笑ましく見守るラクスっていう構図だったはずなんだ。

それこそ原作沿いみたいになるはずだったのに、どんどんどんどん脱線した結果の世界が今のやめ、僕なんだもの。

ハーレムの予定も無かった。

それこそイングリットがヒロインになるなんて事もプロットの何処にもなかった。

特にティエレン周りなんて全部想定外で、人革連爆誕は予想外だと何度もしつこく言ってる位に勝手に動くんだもの。

だからこんな世界になったから、そんな世界の流れはこんな感じになって、キャラがうごくならこう動くのが自然だと思って書いてるだけなのに。

もしそれがダメならもうこの作品やめて良いですか。

正直予防線張ってるのにそれでもアカンならもうどうしようもなくてやってられないんですよ。

楽しみながら書いて、文章を書いて描いた小説っていう世界は、物書きからすると可愛い我が子みたいなんです。

それをあーだこーだ言われると我が子をバカにされたみたいで酷く傷つくんです。


あとがきにお気持ち表明書かないほうが良いとはわかってるんですけどね?

でも活動報告だと私をお気に入り登録してる人しか表示されなくて、この作品が受け入れられない人の目に止まるには、後にで残しておかないと不特定多数のめに止まらないでしょう?

純粋な疑問であるかもしれない、純粋にそうしてつづける意味がわからないとかあるかもしれない。

けれどもそれで一人の人間が心を傷つけていることを自覚して欲しい。


じゃあなんで他の00とかファフナー要素入れてるのかって?

身も蓋もない事言えば、そっちの方が書いてて楽だからッスね。

こんな、世界丸ごと書いてる側からすると、オリジナル要素とか名称とか入れて管理するのムリっす!!

そんで名称同じなら細かく説明しなくてもフワッと皆さん理解してくれると思ってますんで。

感想にもありましたけど、人々に指針を示して導くコンパスではなく、世界を横っ面から殴る組織だからソレスタルビーイングにしたりとかね。

アロウズとめっちゃ悩んだ理由としては、なんか頭の片隅でキラがゼロ・レクイエムしそうだったからとかね。

メサイアの中でアスランに撃たれて、ラクスと一緒に炎と瓦礫の中に消えるなんてこと想像しちゃってます、ハイ。
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