やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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取り敢えずアレで私と合わない方々は離れていったことでしょう。

前回のは鬱憤を晴らさせて頂くための物ですし。

取り敢えずどうにかこうにか続きを書いてみました。

…………勢いとはいえ一度畳んだからキャラたちが全然動いてくれなくて苦労しました。






PHASE-101 集いし者たち

 

 オーブモルゲンレーテ社地下の極秘格納庫。

 

 アーカディアンプロジェクトの裏側で産声を上げた『ソレスタルビーイング』の一時的な拠点となるこの場所に、プラントから極秘裏に派遣された精鋭部隊が整列していた。

 

「ジュール隊、イザーク・ジュール、以下4名。……本日付をもって、世界平和治安維持組織ソレスタルビーイングへと配属となりました。よろしくお願いします。キラ・ヤマト准将」

 

 ザフトの赤き軍服に身を包んだ銀髪の青年、イザーク・ジュールは、生真面目に敬礼をし、ピンと背筋を伸ばして着任の挨拶を述べた。

 

 彼らの所属はすでにザフト軍からソレスタルビーイングへの出向要員となっている。

 

「うん。ようこそ、ソレスタルビーイングへ」

 

 キラが穏やかな笑みを浮かべて右手を差し出すと、イザークは一瞬だけ、かつて敵として、そして一人のコーディネイターとして複雑な感情を顔に覗かせたが、すぐにその手を力強く握り返した。

 

「ジュール隊、ディアッカ・エルスマンであります。……しっかしたまげたねぇ」

 

 イザークの隣で、金髪で色黒の青年が肩の力を抜きながらニヤリと笑った。

 

「あの化け物じみた『紺色のティエレン』のパイロットが、まさかお前みたいな優男だったなんてさ」

 

「おいディアッカ! 貴様、准将閣下に向かって口の利き方が──」

 

「そう目くじら立てるなよ、イザーク。俺たちと同世代ってのに、世界を股に掛けて戦争を終わらせたヤツが、強面の鬼とかじゃなくて良かったって話さ」

 

「どっちにしても失礼だろうが貴様ッ!」

 

 怒鳴りつけるイザークを前に、キラはクスクスと笑いながら手を振った。

 

「ううん。良いんだイザーク。そうした忌憚のない意見もフラットに言える組織で良いんだよ、ソレスタルビーイングは」

 

「だが、上官というものはだな──」

 

「良いって言ってんなら良いんじゃねぇか? ……ミゲル・アイマンだ。宇宙じゃあ随分な借りだったぜ、准将サマ」

 

 イザークの脇から飄々とした態度で進み出たのは、彼ら4人の中で唯一「緑服」を着たミゲルだった。

 

 ミゲルとキラには浅からぬ因縁がある。

 

 ヘリオポリス宙域での開戦直後、キラはミゲルの乗るジンをダルマ状態にして戦闘不能に追い込み、見逃した過去があるのだ。

 

 あの時、命まで奪わなかったキラの情けがあったからこそ、ミゲルは今こうして生きている。

 

 彼自身、そのことを恨むどころか、むしろ恩義に感じているようだった。

 

「シホ・ハーネンフースです。よろしくお願いします、准将閣下」

 

 ミゲルに続いて、イザークに次ぐ生真面目さを持ったシホが、ピンと背筋を伸ばしてキラと握手を交わした。

 

「うん。よろしく、シホ。……君が書いたプラントのエネルギー偏光論文、見させてもらったよ。君の歳であそこまでのビーム兵器の小型化に関する技術論文は、中々書けるものじゃない。素晴らしい才能だ」

 

「い、いえっ。准将閣下と比べれば、私などまだまだで……!」

 

 キラからの突然の専門的な称賛に、シホは頬を赤らめて恐縮した。

 

 彼女はイザークらと同世代でありながら、プラント独自の高出力小型ビーム兵器の偏光技術論文を執筆した才女である。

 

 彼女の愛機である『シグーディープアームズ』にも、連合のG兵器からのリバースエンジニアリングとは別に、彼女自身が編み出したビーム偏光技術が惜しみなく使われているのだ。

 

 ひとしきりの挨拶を終えると、イザークは表情を引き締め、格納庫の奥に鎮座する三機の巨大な機体へと視線を向けた。

 

「それで、アレが……」

 

「ええ」

 

 イザークが頷く。

 

「ZGMF-X10A フリーダム。そしてその隣が、ZGMF-X09A ジャスティス。さらにZGMF-X13A プロヴィデンス。……ザラ議長閣下より、ソレスタルビーイングへと戦力提供する旨、准将へ仰せつかっております」

 

「うん。確かに受け取ったよ。パトリック議長によろしく伝えておいて」

 

 キラはイザークへそう返すとゆっくりと歩み寄り、『フリーダム』を見上げた。

 

(……まさか、この世界でも君に乗ることになるとは思わなかったよ)

 

 ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した、現行兵器の常識を覆す核動力機。

 

 ジェス・リブルに渡した『アウトフレーム』もそうだが、大国の勢力図がどれほど変わり、歴史が歪もうとも、やはり「運命の担い手」と「機体」の縁というものは、そう簡単に変わるものではないらしい。

 

 めぐり巡って、結局はこの白き剣が自分の手元へと収束してきたことに、キラは不思議な因果を感じて微笑んだ。

 

「預かりついでに、そっちの『デュエル』と『バスター』にも、オーブの技術で強化プランを適応しようと思うけど、良いかい?」

 

 キラが視線を向けた先には、まだロールアウトしたばかりの真新しいデュエルとバスターの姿があった。

 

 あの苛烈を極めたカオシュン宇宙港攻防戦。

 

 ティエレンダーフォンの放った460mm滑腔砲の圧倒的な爆風から、シホとミゲルを守るために盾となったイザークとディアッカの機体は、中破の憂き目に遭った。

 

 投降後の彼らを非武装の帰還船に乗せるため、オリジナルのデュエルとバスターは現地で放棄せざるを得なかったのだ。

 

 今ここにあるのは、本国の予備補修パーツを掻き集めて新造された、いわば「二代目」であった。

 

「自分に異論はありません」

 

「俺も賛成。バスターが強くなってくれるのは有り難いぜ。……何せ、これから戦う相手はブルーコスモスの狂信者共だからな」

 

 二人の快諾を得て、キラはタブレットを操作し、早速作業手続きに入った。

 

 『パワーエクステンダー』を内蔵し、PS装甲の稼働時間と高出力ビーム兵器の継戦能力を飛躍的に向上。

 

 デュエルには、フォルテストラの概念を発展させた固定追加装甲と、多彩な近接・射撃兵装を統合したブルデュエルへ。

 

 バスターには、複合バヨネット装備型ビームライフルを装備した近接自衛力を両立したヴェルデバスターへ。

 

(……本当は『デュエルブリッツ』や『ライトニングバスター』への改装も考えたんだけどね。そっちはそっちで、『別口』で用意してもらおう)

 

 自分の記憶の奥底にある「未来の機体」の知識を都合よく分割しながら、キラは涼しい顔で彼らへと説明を続けた。

 

「ありがとう。それじゃあ、モルゲンレーテのファクトリーに回して、最優先で作業に入らせるよ。……これから忙しくなる。君たちの力が必要だ」

 

「はっ!」

 

 

 彼らは今、同じ旗を持たぬ組織に集い、平和を乱す者への無慈悲な剣となるべく、格納庫の底で新たな刃を研ぎ澄ませていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 南太平洋の常夏の気候に加え、復興と新兵器開発の熱気に包まれたモルゲンレーテの地下ファクトリー。

 

 その一角で、大西洋連邦の軍服を気崩した三人の少年たちが、うだるような暑さに辟易しながらパイプ椅子にだらしなく腰掛けていた。

 

「しっかし、人使い荒いよなぁ、あのオッサン。散々待機させといて、いきなり南の島に島流しだぜ?」

 

 クロト・ブエルが、携帯ゲーム機のボタンをカチャカチャと乱暴に弾きながら不満を漏らす。

 

「しょうがねぇだろ。俺たち、ずっと開店休業状態でサボって……いや、休んでた分、きっちり働けってことだろ。あのオッサンがタダ飯を食わせてくれるわけねーからな」

 

 隣でスポーツドリンクをあおりながら、オルガ・サブナックがやれやれと肩をすくめた。

 

「……あつい……」

 

 さらにその横で、シャニ・アンドラスが虚ろな目で宙を見つめ、気怠そうに呟く。

 

 彼ら三人──オルガ、クロト、シャニは、大西洋連邦のムルタ・アズラエル直々の命により、ソレスタルビーイングの人員提供枠としてこのオーブへと派遣されてきた『ブーステッドマン』たちであった。

 

 ちなみに、彼らと共に来たもう一人の特派員、ジェーン・ヒューストンも共に派遣されてきたのだが、彼女は到着するや否や、出迎えに来た『切り裂きエド』ことエドワード・ハレルソンがさっさと自分の部隊へと連れて行ってしまったため、ここには男三人だけが残されている。

 

 元々、彼らブーステッドマンは「使い捨ての生体パーツ」として、非人道的な薬物投与と調整を施された存在だった。

 

 だが、キラ・ヤマトが『TC-OS』を世界にバラ撒いたことで、状況は一変した。

 

 普通のナチュラルでも数時間の訓練でMSを自在に操れるようになった今、莫大なコストと薬物を消費するブーステッドマンをわざわざ運用する理由は、軍のどこにもなくなってしまったのだ。

 

 完全な「お払い箱」である。

 

 本来の歴史や、冷酷な軍の上層部であれば、彼らは用済みとして処分されるか、実験動物として廃棄されていただろう。

 

 しかし、あの合理主義の権化たるアズラエルは、彼らを殺さなかった。

 

 ソレスタルビーイングへの「活動資金・人員提供」という名目でオーブへと送り出してきたのだ。

 

 現在、彼らへの戦闘用薬物の投与は完全にストップしている。

 

 強化レベルが突出して高く、後遺症が出るシャニだけは、ごく少量の薬を服用し、時間をかけて徐々に「薬抜き」の治療を行っている最中だった。

 

「お、新しいひよっこ共はお前たちか?」

 

 そこへ、気さくな声をかけながら近づいてくる男がいた。

 

 オーブ軍の制服をラフに着こなした、飄々とした雰囲気の男──ムウ・ラ・フラガである。

「あァ? なんだよ、また説教臭いオッサンの上司ですかァ?」

 

 クロトがゲーム機から目を離さず、露骨に面倒くさそうな態度をとる。

 

「こらクロト、口を慎め。……オルガ・サブナック少尉っす。こっちはシャニ。今日からソレスタルビーイングで世話んなります」

 

 オルガは即座にクロトの頭を小突くと、立ち上がってそれなりに真っ当な敬礼を見せた。

 

「ムウ・ラ・フラガだ。……お前さんがリーダーか。苦労するねぇ」

 

 ムウは苦笑しながら、三人の様子を値踏みするように見回した。

 

 反抗的なゲーマーと、上の空の虚ろな少年。

 

 それをまとめ上げる、少しだけ常識の匂いがする少年。

 

「ま、仕方ねッスよ。俺たち三人の中で、こういうの向いてるの、相対的に俺だけですし」

 

 オルガは大きなため息をつきながら、自分の不運を呪うように肩を落とした。

 

 薬が抜けてきたことで、彼ら本来の「ただの少し荒っぽい年相応の少年」としてのパーソナリティが戻りつつある。

 

 中でもオルガは、根が意外と面倒見が良く、社会的な常識を持ち合わせていたため、自然とこの問題児トリオの「お兄ちゃん役兼リーダー」に収まってしまったのだ。

 

「いいじゃないか。仲間を見捨てないリーダーってのは、部隊の生存率を上げる一番の要素だぜ」

 

 ムウはカラカラと笑い、シャニの様子をチラリと見た。

 

「薬抜きの調子はどうだ? 無理はしなくていい。俺たちの組織は、使い捨ての駒なんざ求めちゃいない。お前たちが『生きた人間』として空を飛べるようになるまで、きっちり待つ余裕くらいはあるからな」

 

 その言葉に、クロトの手の動きがピタリと止まり、シャニがわずかに視線を動かしてムウを見た。

 

 オルガもまた、少しだけ驚いたように目を瞬かせる。

 

 大西洋連邦の研究所では、彼らは常に「消耗品」だった。

 

「戦えなくなれば廃棄される」という恐怖と薬物の飢餓感が、彼らを狂戦士へと駆り立てていた。

 

 だが、この南の島の、国家に縛られない奇妙な組織では。

 

 「人間として治るまで待つ」と、上司になる男が当然のように言ってのけたのだ。

 

「……ケッ。甘っちょろいこと言ってんじゃねーですよ。俺たちは『滅殺』すんのが仕事なんだぜ?」

 

 クロトが照れ隠しのように悪態をつきながら、再びゲームのボタンを連打し始める。

 

「おいクロト。フラガ隊長、こいつら口は悪いですけど、腕は確かですから。……きっちり治して、働いて、あのオッサンに『タダ飯食らい』とは言わせねぇようにしますよ」

 

 オルガは不敵に笑い、力強く宣言した。

 

「頼もしいねぇ。期待してるぜ、坊主ども」

 

 ムウはひらひらと手を振って、その場を後にした。

 

 大西洋連邦の闇から救い出された『生体CPU』の少年たち。

 

 彼らはキラ・ヤマトという一人の少年の創り出した『ソレスタルビーイング』という名の揺り籠の中で、兵器としての呪いを解かれ、新たな「明日」を生きるための翼を休めていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 オーブ連合首長国の透き通るような青空。その高高度を、一隻の巨大な艦が悠然と航行していた。

 

 一見して、それが「空を飛ぶ」ための兵器であるとは誰も思わないだろう。

 

 航空力学を完全に無視した、流線型で横長の赤塗りの船体。

 

 それは、キラ・ヤマトがまだオーブ国防軍の「技術三尉」であった時代に、国家の絶対防衛を担う『イージス計画』の要として提唱し、モルゲンレーテの総力を結集して極秘裏に建造されたオーブの最新鋭艦。

 

 ──ヒリュウ級汎用戦闘母艦『ヒリュウ』。

 

 その規格外の巨体が空に浮かんでいる理由は、従来の熱核ジェットやホバー推進ではない。

 

 主機関として搭載されているのは、擬似反重力機関『レヴィテーター』から発展・完成した新技術『テスラ・ドライブ』である。

 

 さらに補機としてレヴィテーターを並列搭載することで、大質量艦の完璧な慣性制御と重力制御を可能としていた。

 

 将来的にはこの機関を極小化し、モビルスーツへと搭載して完全な単独飛行を可能とする計画も進められているが、現行の技術レベルでは、この艦船クラスの大型ユニットとして稼働させるのが精一杯であった。

 

「テスラ・ドライブ、出力安定。補機レヴィテーター、問題なし」

 

「よし。本艦はこのままTD滞空へ移行。第三警戒体制を維持せよ。訓練とはいえ、対空監視は厳に」

 

「了解。引き続き対空監視を厳に。各ブロック、異常なし」

 

 凛とした、しかし張り詰めた声がブリッジに響き渡る。

 

 指示を下したのは、この最新鋭艦の艦長を任された女性士官──ナタル・バジルール三佐であった。

 

 彼女は、艦長シートからブリッジ全体を見下ろしながら、モニターに映るオーブの領空を鋭い視線で確認していた。

 

 このヒリュウの艦橋レイアウトは、彼女がかつて乗艦していた地球連合軍の特装艦『アークエンジェル』とも、ザフト艦とも全く異なる、極めて独特な構造をしている。

 

 アークエンジェルは、少人数でも運用できるようにオートメーション化が図られており、艦長席を中心に操舵席、オペレーター席、CICがコンパクトな配置がされていた。

 

 対してヒリュウのブリッジは、艦長席が後方の上段に完全に「独立」して設置されており、その下層を見下ろす形でオペレーターや操舵手たちが作業を行う、階層型のレイアウトとなっている。

 

 艦長が戦局の全体像を俯瞰し、絶対的な指揮権をもって下層のクルーを動かす、より統率と威厳を重んじた設計であった。

 

「……中々、見事な指揮ですな」

 

 感心したような穏やかな声と共に、艦長席の脇に立つのは副長を務めるトダカ一尉であった。

 

 オーブ軍艦艇の艦長を務めた経験もある叩き上げの軍人である。

 

「お褒めに預かり光栄です、トダカ副長。……ですが、これは准将閣下に任された、オーブの命運を担う最新鋭艦です。オーブ軍随一の練度に仕上げなければ、閣下に合わせる顔がありませんから」

 

 階級で言えば、三佐であるナタルの方が上官である。

 

 しかし、彼女は歳上で経験豊富なトダカに対して、決して驕ることなく、敬意を込めた丁寧な口調で返答した。

 

 ナタル・バジルールという人間の、軍規には厳しいが礼節を重んじる実直な性格が表れていた。

 

 地球連合軍という巨大な組織の狂気──ブルーコスモスの攻撃を前にして悩み抜いた末に、彼女はオーブという国へ下り、キラ・ヤマトの掲げる「平和への修羅道」に付き従うことを決めた。

 

 オーブ軍に籍を置いてまだ日は浅い。

 

 にもかかわらず、その若き新参者の彼女が、なぜオーブの威信を懸けた最新鋭艦の初代艦長という大任を任されたのか。

 

(……この実直さと、己を律する厳しさ。なるほど、ヤマト准将が彼女を名指しで抜擢した理由が、よく分かる)

 

 トダカは、前方を鋭く見据える若き女艦長の横顔を見ながら、内心で深く納得し、微笑んだ。

 

「その意気です、艦長。我々クルーも、全力で貴女のタクトに応えましょう」

 

「ええ。頼りにしています、副長」

 

 紅の巨艦は、テスラ・ドライブの微かな駆動音だけを響かせながら、無音で重力をねじ伏せ、オーブの空に確かな守護の影を落としていた。

 

 かつて地球軍の優秀な士官であったナタルは今、世界のしがらみから解き放たれ、一人の誇り高きオーブの将として、白銀の英雄が切り拓く「明日」の空を力強く防衛していた。

 

 

 

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