やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-17 ガンダム大地に立つ

 

 ヘリオポリス。

 

 中立国オーブの資源コロニーであり、地球連合軍の新型MSが極秘裏に開発されているという標的。その強奪作戦の概要を告げられた時、アスラン・ザラは内心の激しい動揺を必死に押し殺していた。

 

 何故なら、その平和なコロニーには、彼にとって誰よりも大切な幼馴染の親友──キラ・ヤマトが暮らしているのだから。

 

 もし、自分たちの引き起こす戦闘に彼が巻き込まれでもしたら。万が一の事態が起きれば、今度は自分の方が罪悪感と絶望で、一生食事が喉を通らないような地獄の生活に陥るだろう。

 

『どうか、巻き込まれないでくれ。無事に避難していてくれ……』

 

 祈るような思いを胸の奥底に封じ込め、アスランは冷たいアサルトライフルを手に取り、死地へと赴いた。

 

 工区の外、3機のMSの奪取は、イザーク、ディアッカ、ニコルたちに任せた。

 

 アスランは、アカデミーからの同期であり、同室の友人でもあったラスティ・マッケンジーと他の仲間たちを引き連れ、残る2機のMSを奪取すべく、工区の内部へと突入した。

 

 しかし、そこには地球軍の頑強な抵抗が待ち受けていた。

 

 飛び交う銃弾、炸裂する手榴弾。そして、凄惨な銃撃戦の最中──笑い合っていた友人であるラスティが、アスランの目の前で地球軍の凶弾に撃ち抜かれ、血飛沫を上げて崩れ落ちたのだ。

 

「ラスティッ!!」

 

 怒りと焦燥で視界が赤く染まる。アスランは弾切れになったライフルを憎々しげに投げ捨てると、腰のコンバットナイフを引き抜き、強引にハンガーのストライクの上へと跳躍した。

 

 眼下には、地球軍の女性士官を押し倒し、その上に覆い被さっている小柄な影。

 

 ナイフを振り下ろそうと身構えたその時、爆炎と火花に照らし出されたその「顔」を、アスランが見間違うはずがなかった。

 

「……キ、ラ……?」

 

 ヘルメットのバイザー越し。信じられないものを見るように、アスランの唇が震える。

 

「アスラン……っ」

 

 悲痛な顔をしたキラが、そこにはいた。

 

(何故……お前がこんなところに居る?)

 

 アスランの頭の中から、ザフトのエリート軍人としての使命も、先程まで飛び交っていた銃弾の恐怖も、ラスティを失った悲しみすらも、一瞬にして完全に吹き飛んでしまった。

 

(何故、避難していないんだ。……もしかして、逃げ遅れたのか? 迷子にでもなったのか!?)

 

 極限の戦場だというのに、アスランの心に湧き上がってきたのは、あまりにも場違いな安堵と、幼馴染に対する呆れにも似た庇護欲だった。

 

『全く、本当に俺がついていてやらないとダメな奴だ』

 

 かつて月のコペルニクスで過ごした日々と同じように。一人では何もできない親友の姿を見たことで、アスランは完全に戦いを忘れ、気を抜いてしまっていた。

 

「っ!?」

 

 だから、キラの下敷きになっていた女性士官が、隙だらけのアスランに向かって拳銃の銃口を突きつけた時。

 

 アスランは反応すらできず、『あ、俺は死んだ』と、ただ静かに死を覚悟した。

 

 だが、銃声は響かなかった。

 

「ダメっ、撃たないで!!」

 

 キラが、地球軍の女性士官の腕に、泣きそうな顔で必死に縋り付いたのだ。

 

 引き金を引かせまいと、その細い腕で思い切り銃口の狙いを逸らさせる。

 

「親友なんだっ! 逃げて、アスラン!!」

 

 火薬の匂いが充満する工場の中に、キラの悲痛な叫び声が木霊した。

 

 その声に、アスランはハッと我に返った。

 

 そうだ、ここは戦場だ。自分はザフトの軍人で、彼は地球軍の士官と一緒にいる民間人。このままここに居ては、自分だけでなくキラまで地球軍から撃たれてしまう。

 

「……っ!」

 

 アスランは弾かれたようにその場から飛び退き、宙を舞った。

 

 親友が稼いでくれたほんの数秒の猶予。その後ろ髪を引かれるような想いを振り切るように、アスランは隣に固定されていたもう一機のMS──『イージス』の開け放たれたコックピットへと、滑り込むように身を躍らせたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 「ガンダム、大地に立つ」──前世の記憶を持つオタクとしては、そんな暢気なセリフの一つでも心の中で呟いてやりたいところだった。

 

 しかし、現実のコックピットを満たしていたのは、ロマンの欠片もない息が詰まるような冷たい沈黙と、濃密な血と硝煙の匂いだけだった。

 

 開け放たれたハッチから僕をストライクのコックピットへと強引に押し込んだマリューさんは、「シートの後ろに下がって!」と鋭く命じたきり、一言も口を利こうとしない。

それが、どうしようもなく怖い。

 

 無理もない話だ。地球連合軍の士官であるマリューさんからすれば、赤いノーマルスーツを着たアスランは、数多くの同僚を今まさに目の前で虫ケラのように撃ち殺していった憎きザフト軍の兵士であり、絶対に生かして返してはならない強奪犯だ。

 

 それなのに、民間人の、しかも守ってやったはずの子供が、敵のエリート兵を前にして「親友だから撃たないで」と泣き喚き、あまつさえ彼女の銃口を力ずくで逸らしたのだ。

 

 軍法会議にかけられれば即座に利敵行為で銃殺されてもおかしくない。正直なところ、あのまま爆炎と瓦礫が崩れ落ちる格納庫の床に僕を置き去りにし、見殺しにしていったとしても、僕には文句を言う権利など一切なかった。彼女が僕を拾ってくれたのは、ただ彼女の生真面目さと善良さ故でしかない。

 

 無機質な電子音声と共に、ストライクが重い駆動音を響かせて工区のゲートから外へと飛び出した。

 

 しかし、その動きは素人目に見ても明らかにおかしい。関節のモーターが悲鳴を上げ、まるで糸の絡まった操り人形のように不器用だ。案の定、まともな着地処理の計算すらOSが追いついておらず、ストライクは凄まじい衝撃をコックピットに伝えながら、ズシン、ズシンと数歩無様にたたらを踏んで、漸くその巨体を止めた。

 

 全身を打ち付けるような衝撃に耐えながらメインモニターを見上げると、アスランを乗せたイージスが、待機していたジンと合流する姿が映し出された。

 

(結局、こうなってしまったか……)

 

 僕がどれだけ足掻いても、歴史の強制力はアスランをイージスのシートへと座らせてしまった。絶望感に苛まれる暇もなく、イージスは素早く戦線を離脱して上昇していく。そして、それを援護するように残された一機のジンが、背中のスラスターを激しく吹かしながら、巨大な実体剣──重斬刀を抜き放ち、こちらへと猛然と斬り掛かってきた。

 

「くっ……!」

 

 マリューさんが顔を歪めながら、コンソールのボタンを乱押す。

 

 直後、灰色のディアクティブモードだったストライクの装甲に、凄まじい電力が流れ込み、フェイズシフト装甲を展開する。

 

 赤、青、白のトリコロールカラーへと瞬時に変色したストライクのボディが、振り下ろされたジンの重斬刀を真正面から受け止める。

 

 PS装甲の恩恵により、物理的な刃が装甲を切り裂くことはなかった。しかし、数十トンの巨体が乗せた「運動エネルギーの衝撃」までを無効化することはできない。

 

「きゃあっ!」

 

 ストライクは体勢を崩し、その重い一撃に耐えきれずにズルズルと後退させられてしまう。

 

 その時だ。コックピットのサブモニターが、動体センサーの反応を捉えて小さなウィンドウをポップアップさせた。

 

 そこに映っていたのは、崩れゆく工区の傍の通路を、必死の形相で走って逃げるトールたちの姿だった。避難シェルターに向かう途中、運悪く戦闘空域のど真ん中に飛び出してしまったのだ。

 

「トール……! ミリアリア!」

 

 マリューさんは、目の前で再び体勢を立て直し、追撃の構えをとるジンの動きに完全に集中しており、モニターの端の民間人の存在に全く気付いていない。このままストライクが押し込まれ、流れ弾や瓦礫が一つでも飛べば、彼らは跡形もなくミンチになってしまう。

 

(ふざけるな。……ふざけるな!)

 

 頭の中で、何かが弾けた。

 

 僕は後部スペースから身を乗り出すと、マリューさんが必死に握りしめている操縦桿を、彼女の震える手の上から強引に両手で握り込み、前へ向かって力任せに押し込んだ。

 

「えっ!?」

 

「うおおおおッ!!」

 

 ストライクの推進器が火を吹き、機体が大きく前傾姿勢をとる。不器用な動作のまま、ストライクはジンが剣を振り上げるよりも早く、その懐へと飛び込み、巨大な鋼鉄の肩で強烈なショルダータックルをぶちかました。

 

 不意を突かれたジンが、姿勢制御を失って大きく後方へと吹き飛ばされる。トールたちから距離を取ることに成功した。

 

「君、急に何を!?」

 

 マリューさんが血相を変えて僕を怒鳴りつける。

 

「代わってください!」

 

「ええ!? 何を言っているの、そんなこと出来るわけ……」

 

「僕はコーディネイターで、TC-OSの開発者です! あなたよりMSは動かせますよ!」

 

 その言葉を叩きつけながら、僕はシートからマリューさんを押し退けるようにして強引にパイロットシートへと身体をねじ込んだ。彼女が呆然としている隙に、物理キーボードを引き出し、機体の心臓部であるOSのソースコードへと直接アクセスする。

 

 モニターに滝のように流れ込んでくる数列とコマンドライン。それを一瞥した瞬間、システムエンジニアとしての僕の頭脳は、絶望と怒りで沸騰しそうになった。

 

「っ、無茶苦茶だ……! なんだよこれ! 機体制御のサブルーチンどころかメインプロトコル周りまでが完全にスパゲッティ状態じゃないか! こんなゴミみたいなOSで、これだけの機体を実戦で動かそうだなんて、パイロットを殺す気ですか!」

 

「ま、まだすべての調整が終わってないのよ……!」

 

 マリューさんが反論するが、そんな言い訳で納得できるレベルではない。歩行プログラムの一つをとっても、モーターへの負荷計算が根本から間違っている。これは調整云々以前の問題、ただの「未完成の欠陥品」だ。

 

 僕は胸ポケットから一枚のデータディスクを取り出すと、ストライクのコンソールスロットへと叩き込むように挿し込んだ。

 

「何をする気!?」

 

「TC-OSをインストールするんですよ! こんな泥舟OSより万倍マシです!」

 

 とはいえ、戦場のど真ん中でOSをイジるというのは、本来なら自殺行為だ。

 

 コンソール上でコードを書き換えるなら機体を動かしながらでも可能だが、「インストール」となれば話は別だ。

 

 システム領域の書き換えに伴い、機体は完全にコントロールを受け付けない「隙だらけの棒立ち状態」になってしまう。

 

 けれども、僕が挿し込んだこのデータディスクは、ただの汎用OSではない。この「崩壊の日」が来ることを想定し、GAT-Xシリーズの基礎フレームとハードウェア仕様に完全にアジャストするよう、あらかじめ僕が組み上げておいた専用の拡張プログラムだ。

 

 いわば、ゼロからOSを丸ごと入れ替えるのではなく、既存のシステムに足りないモジュールを後付けでパッチ当てする仕様になっている。

 

 これなら、数秒もかからずにインストールは終わるはずだ。

 

「前から来るわ!」

 

「わかっています!」

 

 マリューさんの悲鳴のような警告。モニターの向こうでは、体勢を立て直したジンが、棒立ちになっているストライクを絶好の的と認識し、スラスターを全開にして突っ込んできていた。

 

 斬りつけるのではフェイズシフト装甲に弾かれると判断したのだろう。今度は重斬刀の鋭い切先を真っ直ぐにこちらへ向け、ストライクのコックピットブロック、すなわち僕たちの命を貫くための「突き」の構えをとっている。

 

 動けない。回避行動すらとれない。

 

 巨大な刃が、モニターいっぱいに迫ってくる。マリューさんが恐怖に顔を引き攣らせて目を閉じる。

 

 僕はキーボードから手を離さず、コンソールの中央に表示されたインストールバーを「早く終われ、早く終われ!」と血を吐くような思いで睨みつけていた。

 

 97%……98%……99%……。

 

 巨大な切先が、ストライクの装甲に触れるかというその刹那。

 

『Update Complete. TC-OS Ready.』

 

 インストールバーが端まで到達し、システムがグリーンに染まったその瞬間。

 

 僕はキーボードのエンターキーを叩き割らんばかりの勢いでターンッ! と叩き込み、両手で操縦桿を限界まで握り込んで倒した。

 

「いけぇぇぇぇッ!!」

 

 先程までの鈍重な動きが嘘のように、ストライクは野生の豹のような滑らかさと圧倒的な速度で駆動した。

 

 僕の思考と機体の挙動が、一切のタイムラグなく直結する。

 

 ストライクは、コックピットを串刺しにしようと迫り来るジンの重斬刀に対し、両腕を交差させるようにして猛然と突き出した。

 

 ガキンッ!! という甲高い金属音。

 

 ストライクの分厚いマニピュレーターが、ジンが渾身の力で突き出してきた重斬刀の刀身を、両側から挟み込むようにして完璧に受け止めていた。

 

 サムライの剣術で言うところの『真剣白刃取り』だ。

 

「そこだっ!!」

 

 僕は白刃取りで相手の武器を完全にロックした状態のまま、ストライクの右脚を高く跳ね上げた。TC-OSの完璧な姿勢制御が、片足立ちの無茶な機動を易々と可能にする。

 

 そして、そのままジンの無防備な腹部装甲に目掛け、数十トンの質量を乗せた強烈な前蹴りを深々と叩き込んだ。

 

 凄まじい衝撃に、ジンの機体が「く」の字に折れ曲がる。

 

 ストライクは蹴り飛ばす反動を利用して、がっちりと掴んでいた重斬刀をジンから乱暴に奪い取った。

 

 そのまま十数メートル後方へと吹き飛んでいくジンを見据えながら、僕は奪い取った重斬刀を構え直し、ストライクを大地にしっかりと踏みとどまらせた。

 

「……嘘、でしょう? あれだけの未完成なOSで、こんな機動を……」

 

 背後で、シートにしがみついていたマリューさんが、信じられないものを見るような声で呟いた。

 

「言ったでしょう、僕はTC-OSの開発者だって」

 

 荒い息を吐きながら、僕は前世の記憶と今世の技術のすべてを叩き込んだ『僕のストライク』の操縦桿を、これから戦うのだという恐怖で離すまいと強く、強く握りしめていた。

 

 

◇◇◇

 

 

『TC-OS』──それは、地球連合軍の技術士官であるマリュー・ラミアスの目から見ても、まるで「魔法」のようなオペレーティングシステムだった。

 

 パイロットの操縦桿やペダルの操作に対し、OS側が内部に蓄積された膨大なモーションサンプリングデータから自機の姿勢や外部状況を瞬時に判断し、最適解となるモーションで応答して機体を動かす。この革新的なオートマチックシステムは、「モビルスーツはコーディネイターにしか扱えない」という世界の常識を根本から覆し、ナチュラルであっても容易に鋼鉄の巨人を乗りこなすことを可能にしてしまった画期的な代物だ。

 

 なにより実戦において恐るべきは、パイロット自身の操縦の癖に合わせて、パイロット自身の手で機体OSを直感的に弄れるよう設計されているその柔軟な構造だった。アーキテクチャが洗練されているが故に、別機体へのOSデータのコピーや流用すらも容易い。

 

 しかし、大西洋連邦上層部からマリューたち開発陣に突きつけられていた至上命令は、「現行開発中の連合純正OSを搭載した状態での機体完成」という、現場の悲鳴を無視した無茶な要求だった。

 

 一刻も早くザフトに対抗し得る新型MSを完成させ、実戦投入しなければならない首の皮一枚の現状において、システム面の圧倒的な近道どころか、完成度も汎用性も極めて高い『正解』が目の前に存在しているというのに。軍のプライドというくだらない理由のためにそれを一切使わず、「すべてをゼロからオーダーメイドで仕上げろ」と言われているようなものだった。

 

 故に、GAT-Xシリーズは機体のハードウェア本体こそとうに完成していたにも関わらず、それを動かすためのOSの開発が致命的に難航し、今日という最悪の日までこの工場に留め置かれる羽目になってしまったのだ。

 

(まさか……あのOSの設計者が、こんな少年だなんて……!)

 

 マリューは驚愕に震える瞳で、パイロットシートに座る少年の横顔を見つめていた。

 

 これほどまでのシステムを一人で組み上げた開発者が、いくら知能の高いコーディネイターとはいえ、こんなあどけない『子供』だとは夢にも思わなかったのだ。

 

 それこそ、ほんの数分前まで、彼はザフトの精鋭の証である赤服を前にして「親友だから撃たないで!」と縋り付いてきたような、戦場の現実など何も知らないただの民間人の少年だったはずだ。

 

 なのに。

 

 先程、ストライクの未完成なOSのソースコードを一瞥し、忌々しげに扱き下ろしたその横顔は、修羅場を潜り抜けてきた一端の「超一流のエンジニア」の顔だった。

 

 そして今。

 

 自らが書き換えたシステムと完全に同調し、数十トンの巨体をまるで自分の手足のように操ってジンを蹴り飛ばした彼は。

 

 モニターの光に照らされながら、前方の敵機を油断なく、冷徹に見据えるその横顔は──。

 

 すでに歴戦の猛者すらも凌駕する、一端の「パイロット」の顔をしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 蹴り飛ばされた凄まじい衝撃からかろうじて立ち直ったジンが、怒りに任せるようにスラスターを吹かして体勢を立て直し、その分厚い右腕に握られた主力兵装、76mm重突撃機銃の凶悪な銃口を真っ直ぐにストライクへと向けてきた。

 

 冷や汗が背中を伝う。

 

 現在のストライクの装備状況は、極めて貧弱と言わざるを得なかった。

 

 頭部に内蔵されたバルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』と、両腰のサイドアーマーに収納されている折りたたみナイフ『アーマーシュナイダー』のみ。そして、今しがたこの手でジンから力ずくで拝借したばかりの巨大な実体剣、『重斬刀』だけだ。

 

 ビームライフルもシールドも、換装用のストライカーパックすら装備していない、文字通りの素体(すっぴん)状態である。

 

 PS装甲を展開している今のストライクなら、76mm口径程度の実弾をどれだけ浴びようとも、装甲が傷つくことは絶対にない。機体そのものは無敵の盾だ。

 

 しかし、問題はそこではない。

 

 まだ近くの通路には、避難シェルターへ向かって走っているトールたちの姿がある。もしストライクの装甲で弾かれた流れ弾が、予測不能な跳弾となって彼らを襲わないと、誰が言い切れるだろうか。たった一発の弾丸の破片でも、生身の人間にとっては致命傷になる。

 

(……ここで弾幕を張らせるわけにはいかない!)

 

 頭の中の計算領域が限界まで加速する。

 

 そんな状況下となれば、相手に引き金を引く暇すら与えず、下手な撃ち合いに持ち込まれる前に一気呵成に懐へ飛び込み、近接戦闘で瞬時に無力化するしかない。

 

「舌を噛まないようにしっかり掴まっててください!」

 

「えっ、ちょっと待っ──!」

 

 後部のマリューさんに一応の注意を促し、操縦桿を限界まで倒してスラスターをフル稼働させようとした、まさにその時だった。

 

 閃光。

 

 そして、耳を劈くような高エネルギーの炸裂音。

 

 崩れかけていた工区の分厚い隔壁を、高出力のビームが、まるで熱したナイフでバターを切るように一筋の軌跡を描いて貫いたのだ。

 

 舞い上がる爆炎と赤熱した瓦礫の雨を突き破って、暗い工区内へと飛び出してきたのは、僕が見慣れた純白の装甲──『アストレイ ホワイトフレーム』だった。

 

「なっ……なんだ、あの機体は!?」

 

 ジンのパイロットが、突然乱入してきた見知らぬ白亜のMSの出現に完全に気を取られ、機銃の狙いを一瞬だけ外した。

 

(今だッ!)

 

 その千載一遇の隙を、僕が見逃すはずがない。

 

 ストライクの背部スラスターが爆発的な推進力を生み出し、巨体が弾丸のようにジンへ向かって吶喊する。

 

 ジンが慌てて機銃をこちらへ向け直そうとするよりも速く、ストライクは奪い取った重斬刀を両手で逆手に構え、フルスピードの勢いを乗せたまま、ジンの右腕の付け根──機銃を保持している最も厄介な関節部へと、刀身を深く、深く突き立てた。

 

 火花が散り、鋼鉄の装甲が嫌な音を立てて拉げる。

 

「このぉぉッ!」

 

 僕は一切の躊躇なく、突き立てた刃を支点にするようにしてストライクの機体を捻り、そのままの勢いでジンの右腕を肩のジョイントごと強引にもぎ取った。ブチブチとケーブルが千切れ、火線が噴き出す。

 

 主武装を失い、バランスを崩して大きくたたらを踏んで後退するジン。

 

 そのジンの背後の死角に、まるで獲物を狩る白い猟犬のように、ホワイトフレームが音もなく着地していた。

 

 純白の機体が、ビームサーベルのグリップを引き抜く。ピンク色の刀身が鮮やかに展開された直後、ホワイトフレームは流れるような剣舞のモーションで、ジンの両膝の関節部を、文字通り一閃のもとに両断した。

 

 足という支えを完全に失ったジンは、自重を支えきれずにその場に無様に崩れ落ち、完全に擱座した。

 

(……助かった)

 

 僕はストライクの中で、安堵の息を吐き出した。

 

 ジンを爆発させまいとする僕の意図(トールたちを巻き込まないための配慮)を、ホワイトフレームのパイロットは完璧に理解し、連携してくれたのだ。

 

 僕自身、オーブ本国で彼女たちと行った地獄の模擬戦の中で、「機体を爆発させずに無力化にする」というえげつない戦法を嫌というほど叩き込んでいたからこそ、この阿吽の呼吸が成立したのだろう。

 

 擱座したジンの胸部装甲が弾け飛び、コックピットハッチが爆砕ボルトによって強制的に解放された。

 

 中から、緑色のノーマルスーツを着たパイロットが飛び出し、背中のパーソナルスラスターパックを吹かして、上空へと素早く脱出していった。

 

 しばらくモニターで警戒を続けていたが、崩れ落ちたジンから自爆プログラムが起動するような異常な熱源反応は確認されなかった。

 

 どうやら、ミゲルはジンを自爆させずに脱出することを選んだようだ。

 

 それもそうだろう。

 

 原作の歴史において、彼が機体を自爆させたのは、ストライクがアーマーシュナイダーを突き立て至近距離に居たからだろう。しかし今の状況は違う。自らの両膝をビームサーベルで鮮やかに斬り落とされて擱座させられ、さらに目の前にはストライクと、得体の知れない白いMSの二機が立ち塞がっている。

 

 圧倒的な戦力差を見せつけられ、反撃の手段を完全に絶たれた状態であれば、無駄に機体を自爆させて自分の命まで危険に晒すよりも、訓練されたエースパイロットとして「生存と情報の持ち帰り」を最優先の選択として選んだのは、極めて合理的で当然の判断だった。

 

 戦闘の余韻が残る中、ホワイトフレームがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

 

 純白の機体はストライクの肩に優しく手を置くと、接触回線を開いてきた。

 

『……お疲れさま、キラ君』

 

 ノイズ混じりのスピーカーから聞こえてきたのは、安堵と微かな疲労を含んだ、落ち着いた女性の声だった。

 

「はい。……お疲れさまです、アサギさん」

 

 乗っていたのは、やはりアサギさんだった。

 

 3人娘の中で実質的なリーダーである彼女が、僕の隠し持っていたMSの中で、M1アストレイの操縦感覚に一番近い系統の機体である『ホワイトフレーム』を選択し、即座に実戦投入してきたのは、非常に理にかなっていると言える。

 

 一先ず、工区内における目の前の直接的な脅威は去った。トールたちも無事に避難経路へ逃げ切れたはずだ。

 

 しかし、メインモニターに映る崩壊したヘリオポリスの惨状を見つめながら、僕はストライクの硬いシートに深く、深く息を吐き出しながら腰を沈めた。

 

(これからが……本当に大変だ)

 

 アスランが強奪していったイージスを含め、ザフトにはまだ4機のG兵器がある。クルーゼ隊の母艦であるヴェサリウスも外に控えているだろうし、何より、このストライクのOSを完全な実戦レベルまで引き上げ、アークエンジェルという厄介な艦と共にこの地獄を抜け出さなければならない。

 

 僕の長く、血塗られた戦争は、今まさにその重い幕を開けたばかりだった。

 

 

 




どっちもストライクもプロトアストレイシリーズも商品名として『ガンダム』が入るからこのサブタイトルにウソはないのである。
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