やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-01 憔悴の別れ

 

 逃げ込んだ先は、当然のように隣のアスランの家だった。

 

 瀟洒で無駄のない、どこか冷たささえ感じる洗練されたデザインのザラ邸。プラントの最高評議会委員であり、後に急進派のトップとして世界を業火に巻き込むことになるパトリック・ザラは、当然ながら本国であるプラントに掛かりきりで、このコペルニクスの家でその姿を見たことは一度もない。

 

 しかし、母親であるレノア・ザラさんは別だ。彼女は農業生産の専門家として、このコペルニクスでも研究を続けながらアスランと共に暮らしている。僕の家とは文字通り庭続きの隣同士であり、頻繁にお裾分けをし合ったり、一緒にお茶を飲んだりする、家族ぐるみでの深い付き合いがあった。

 

「あらあら、可愛い家出人さんね。……お父さんたち、随分と大きな声を出していたけれど」

 

 玄関のドアを開けたレノアさんは、ふわりとした、それでいてどこか芯の強さを感じさせる微笑みを浮かべて僕を迎え入れてくれた。彼女の淹れてくれたハーブティーの香りが、微かに鼻腔をくすぐる。

 

 血のバレンタイン。ユニウスセブンへの核攻撃。

 

 いずれ訪れる凄惨な未来において、彼女が辿る残酷な運命を僕は知っている。だからこそ、この優しく聡明な人を失いたくないという思いも、僕がプラント行きを望んだ隠れた理由の一つだった。

 

 初めてのワガママは、必然的に初めての父さんとの激しい親子喧嘩へと発展した。

 

「なぜだ、キラ! ヘリオポリスの学校なら、お前の才能を十分に活かせる。プラントへ行く理由なんてないだろう!」

 

「嫌だ! 僕は絶対、アスランと一緒にプラントへ行く!」

 

 温和なハルマ父さんが顔を真っ赤にして怒鳴り、カリダ母さんがオロオロと涙ぐむ姿を見るのは、正直言って劇薬のような罪悪感をもたらした。彼らが僕を心から愛し、僕の正体──スーパーコーディネイターとしての数奇な出自を隠し通すために、あえて中立国のコロニーであるヘリオポリスを選んでくれたことは痛いほど理解している。

 

 それでも、僕は引けなかった。

 

 ここで頷けば、運命は容赦なく僕とアスランを引き裂き、泥沼の殺し合いへと突き落とす。あの地獄のような原作のシナリオを、自らの手でなぞる事だけは絶対に避けたかった。

 

 梃子でも動かないという鋼の意思を貫き、両親の必死の説得にも一切耳を貸さず、僕は荷物も持たずに家を飛び出し、こうして隣のザラ家へと転がり込んだのだ。

 

「……本当に、君という奴は。ご両親を困らせて、どうするつもりだ」

 

 ため息と共に階段を下りてきたアスランは、呆れ果てたような、やれやれと言わんばかりの仏頂面を作っていた。

 

 けれど、もちろんそんな激しい親子喧嘩の口論は、壁一枚隔てたお隣さんであるザラ家にも筒抜けだったはずだ。アスランは口でこそ小言を並べながらも、僕が自分の所に逃げ込んで来たことに対して、その端正な口元が微かに、しかし確かに嬉しそうに弧を描いていたのを、僕は目敏く見逃さなかった。

 

「だって、アスランが僕を誘ったんじゃないか。責任とってよ」

 

 僕は出されたハーブティーのカップを両手で包み込みながら、いけしゃあしゃあと丸投げの言葉を吐いた。

 

「っ……! 僕はただ、提案しただけで、あんなに大喧嘩をして家出をしてこいなんて一言も言っていないだろう! 全く君は、昔から極端なんだ!」

 

 図星を突かれたのか、それとも照れ隠しか。アスランは顔を僅かに赤くして声を荒げたが、その瞳には僕を拒絶する色は微塵もなかった。

 

 彼は結局のところ、僕に甘いのだ。僕がこうして無理を言ってでも自分の側に居ようとしてくれた事実が、彼の抱えていた得体の知れない孤独感や不安を、少しだけ拭い去ってくれたのだろう。

 

「ふふっ、本当に仲が良いのね、あなた達は」

 

 レノアさんが口元を押さえてクスクスと笑う。その穏やかな日常の光景が、今は何よりも愛おしかった。

 

 アスランの部屋に上がり込むと、そこは相変わらず塵一つ落ちていないほど整然としており、彼の几帳面すぎる性格をそのまま体現したような空間だった。僕は遠慮など一切せず、自分の指定席であるベッドの上にダイブして寝転がる。

 

「おいキラ、服にシワが寄るぞ。……まったく。とりあえず、ご両親が落ち着くまでここに居ればいい」

 

「うん。……ねえ、アスラン」

 

「なんだ」

 

「プラントに行ったら、色々と面倒な手続きとか、学校の勉強とかあると思うんだけど。……よろしくね」

 

「……お前は、行く前から僕に全部投げ出すつもりか」

 

 頭を抱えるアスランを尻目に、僕はベッドのシーツに顔を埋めて密かに笑った。

 

 スパダリな幼馴染みと、このまま一緒に居られる。

 

 それは同時に、僕がプラントというザフトの膝元、つまりコーディネイターの巣窟であり、今後の戦争の火薬庫となる場所へ自ら足を踏み入れることを意味している。一般人としてひっそり生きるという当初の目標からは完全に外れてしまったし、いずれパトリック・ザラという強硬派の親玉とも顔を合わせることになるだろう。

 

 フラグをへし折った代償として、先の読めない不透明な未来が口を開けて待っている。

 

 それでも、アスランと敵対して殺し合うという最悪の確定事項を回避できたのなら、なんだってやってやる。おんぶに抱っこで怠け者の僕だけれど、いざという時は、この世界の「運命」を横から思い切りぶん殴ってでも、僕の平和な日常と、このお人好しな親友を守り抜いてみせる。

 

 柔らかいベッドの感触と、隣で小言を言いながらも僕のための毛布を引っ張り出してくれているアスランの気配を感じながら、僕は密かに、しかし決して揺るがない決意を固めていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 子供のワガママ一つで、この淀みきったコズミック・イラの世界の運命が変わるのならば、誰も苦労などしない。

 

 思えば、前世の記憶という不確かなアドバンテージに浮かれて、僕はひどく思い上がっていたのだろう。

 

 原作において、ラウ・ル・クルーゼが半ば狂気に満ちた博打のようにフレイ・アルスターへNジャマーキャンセラーのデータを託し、それがブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルの手に渡る。その結果、地球連合軍が再び核ミサイルという禁忌の炎を手に入れ、報復としてザフトが巨大ジェネシスを放つ。人類が互いを文字通り根絶やしにするまで止まらない、あの破滅的な絶滅戦争へと転げ落ちるように加速していく狂った世界なのだ。

 

 一人の幼い子供が「親友と離れたくない」と泣き喚いた程度で、歴史の巨大な歯車が止まるわけがなかった。

 

 僕がどれほど泣き叫び、喉を枯らして訴えようとも、両親──ハルマとカリダは首を縦には振らなかった。今なら彼らの悲痛な決断も理解できる。彼らは僕が『最高のコーディネイター』という、存在自体が火種となる爆弾であることを知っているからだ。僕を守るためには、ザフトの膝元であるプラントになど絶対に送るわけにはいかなかったのだ。

 

 結果として、僕は本当に、文字通り身が引き裂かれるような断腸の思いで、アスランと別れることになった。

 

 彼が宇宙港へと旅立つ日、僕は泣きすぎて過呼吸を起こし、彼に縋り付こうとする手を父親に強く抱き止められていた。アスランは泣いていなかった。けれど、その端正な顔はひどく蒼白で、僕の悲鳴のような泣き声を聞くたびに、彼の琥珀色の瞳がひどく傷ついたように揺らいでいたのを、今でも鮮明に思い出すことができる。

 

 彼がいなくなったコペルニクス、そして引っ越しの準備が進む家の中で、僕は完全に心を壊してしまった。

 

 あまりのショックと喪失感から、僕は重度の拒食症に陥った。

 

 大袈裟な表現ではなく、本当に水の一滴、パンの一欠片すら喉を通らなくなったのだ。食べ物を口に含むと、胃の奥から強烈な拒絶反応が込み上げ、吐き出してしまう。精神的なダメージが、ここまでダイレクトに肉体を破壊するのかと、中身は大人であるはずの僕自身が一番驚いていた。前世の人生を含めても、これほどまでに誰かに依存し、誰かが隣に居ないことに絶望した経験などなかった。

 

「キラ……お願い、一口だけでも食べて。ねえ、キラ……」

 

 カリダ母さんが泣きながら、僕の口にスプーンを運ぶ。

 

 固形物が駄目ならと、彼女たちは栄養剤や高カロリーのゼリー飲料、果物をドロドロにすり潰した流動食をどうにか僕に流し込もうと必死だった。僕も、これ以上彼らを悲しませてはいけないと理屈では分かっているのに、喉の筋肉が痙攣して嚥下を拒否するのだ。無理やり飲み込んだゼリーの人工的な甘ったるさは、ただただ吐き気を催すだけの毒のように感じられた。

 

 根本的にきちんとした食事を摂っていない僕の肉体は、みるみるうちに衰弱していった。

 

 鏡に映る自分を見るのが恐ろしかった。頬は痩せこけ、目の下には濃い隈が落ち、腕は枯れ枝のように細くなった。スーパーコーディネイターの頑健な肉体ですら抗えないほどの精神的ショック。見兼ねた両親は、点滴を受けさせるために僕を病院へ連れて行き、あの手この手を尽くしてくれた。ヘリオポリスへの引っ越し作業というただでさえ多忙な時期に、僕という存在は彼らにとって重すぎる枷になっていたはずだ。それでも彼らは僕を見捨てず、ただ僕の命を繋ぐために必死に看病してくれた。

 

 そして、僕たちはオーブの資源衛星、ヘリオポリスへと移り住んだ。

 

 モルゲンレーテ社の施設がある、一見平和で美しく作られた人工の大地。いずれ火の海となり、崩壊する運命にあるこのコロニーの真新しい家で、僕は自室のベッドに丸まったまま、完全な引きこもりになっていた。

 

 カーテンを閉め切り、薄暗い部屋の中で、ただただ時間の感覚もなく天井を見つめる日々。

 

 ストライクに乗らなければ、とか、世界を救わなければ、とか、そんな前世の知識に基づく使命感など、とうの昔に消え失せていた。アスランがいない世界で、どうやって息を吸えばいいのかすら分からない。僕はただの、一人のひ弱で無力な子供に成り下がっていた。

 

 そんな暗闇の底で泥のように沈んでいた僕への唯一にして最大の救いは、思いがけない形で訪れた。

 

 部屋の机の上に置かれていたパーソナル端末が、微かな電子音を鳴らしたのだ。

 

 見慣れない、厳重に暗号化された長距離通信の着信表示。緩慢な動作でベッドから這い出し、震える指で通信の受諾ボタンを押した。

 

 ノイズが走り、モニターがパッと明るく発光する。

 

 そこに映し出されたのは、プラントの自室らしき見慣れない背景と──少しだけ大人びた服に身を包んだ、僕の、たった一人の親友だった。

 

『……キラ』

 

 モニター越しのその声を聞いた瞬間、せき止められていた涙がボロボロと止めどなく溢れ出した。

 

 僕の変わり果てた姿に言葉を失ったのか、アスランは数秒間、目を見開いて硬直していた。

 

 痩せ細り、目の焦点も定まらない、幽霊のような僕の姿。プラントへ移ってようやく落ち着き、真っ先に通信を繋いできてくれた彼の目に、僕がどれほど痛々しく映ったかは想像に難くない。

 

『お前……っ、なんだその顔は! まともにご飯を食べていないのか!?』

 

 静寂を破ったのは、アスランの悲痛な怒鳴り声だった。

 

 それは単なる怒りではない。どうしようもない心配と、側にいてやれない自分自身への苛立ちが混じり合った、不器用な彼らしい叫び。

 

「アス、ラン……あすらん……っ」

 

 僕は子供のようにしゃくり上げながら、モニター画面に縋り付いた。冷たいガラス越しに、彼の顔に触れようとする。

 

 その情けない僕の姿を見て、アスランはモニター越しに顔を歪め、今にもこちらへ手を伸ばしてきそうなほど身を乗り出した。

 

『……泣くな。全く、君は僕がいないと本当に何もできないんだな』

 

 呆れたように息を吐くその声は、ひどく優しくて、震えていた。

 

『だから言っただろう。プラントに来いと。……キラ、絶対に無理をしてでも食事を摂れ。ご両親をこれ以上困らせるな。僕は……僕は、こんな遠くから画面越しにお前を叱ることしかできないんだぞ』

 

 アスランの悲痛な懇願を聞きながら、僕は泥濘に沈んでいた肺の奥底に、ようやく新しい空気が流れ込んでくるのを感じていた。

 

 ああ、僕は生きている。

 

 このクソみたいな世界で、彼が僕を心配してくれている限り、僕はまだ生きていける。

 

「……うん。食べるよ……アスランが、言うなら……」

 

 ひらがなばかりの拙い声で頷く僕を見て、アスランは安堵したように、深く、長く息を吐き出した。

 

 その日から、僕の止まっていた時間は再び動き始めた。彼からの定期的なテレビ通信だけを命綱にして、僕は少しずつ流動食から固形物へと食事を戻し、這いつくばるようにして『キラ・ヤマト』としての日常を再構築していくことになるのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 僕自身、自分がここまでアスランという存在に依存し過ぎていたという事実に、誰よりも驚愕していた。

 

 中身は前世の記憶を持ったいい大人のはずなのに、いざアスランと引き離された途端、理性も何もかも吹き飛んで肉体が生存を拒否するレベルで壊れるなんて。スーパーコーディネイターのメンタル、どうなってんだよ。平井キャラ特有のクソデカ感情のバグでも組み込まれているんじゃないかと疑いたくなる。

 

 ともかく、そんな僕の唯一の命綱となったのが、プラントにいる彼との定期的な長距離通信だった。

 

 コズミック・イラの世界は伊達に現代や多分宇宙世紀より技術が進んでいるわけではない。量子コンピュータや量子通信が実用化されているおかげで、地球圏のヘリオポリスとプラントという途方もない距離があっても、タイムラグやノイズの無いクリアな映像で会話ができる。この技術の恩恵には、マジで五体投地して感謝したいくらいだった。

 

 ただ、最初の通信の時は本当に大変だった。

 

 なにせ、久しぶりに繋がった画面に映った親友が、まるでミイラかゾンビのような土気色に窶れ果てた姿だったのだ。そりゃあアスランも激怒する。

 

 『どうして君がそんなボロボロになっているんだ! ご両親は何をしている!?』と、今にもヘリオポリスに怒鳴り込んできそうな勢いの彼を宥めるために、僕は衰弱した頭と口を必死に動かさなければならなかった。

 

「ち、違うんだよアスラン! 父さんも母さんも、一ミリも悪くないんだ!」

 

 僕はゼエゼエと息を切らしながら、両親がどれほど僕のために尽くしてくれたかを事細かに説明した。

 

 高価な栄養ゼリーを何種類も買ってきてくれたこと。毎日点滴のために病院へ運んでくれたこと。引っ越しの忙しい最中にも拘わらず、僕につきっきりで看病してくれたこと。

 

 その上で、最大の原因にして唯一の理由を、恥を忍んで白状する羽目になった。

 

「僕が……っ、僕がただ、アスランと別れたショックで、何も喉を通らなくなっちゃっただけの、ダメ人間なだけなんだよぉ……」

 

 情けなさすぎて、自分で言いながら泣きそうだった。いや、実際ポロポロ泣いていた。

 

 たかが幼馴染みと引っ越しで離れたくらいでこんなになるなんて、前世の僕が知ったらドン引きして鼻で笑うだろう。

 

 だが、そのあまりにも情けなく、しかしこれ以上ないほどストレートな「君がいなくて寂しすぎて死にかけてる」という僕の告白を聞いたアスランは、わかりやすくフリーズした。

 

 画面越しに瞬きを繰り返し、怒りで険しかった表情から、スゥッと毒気が抜けていく。

 

 そして訪れたのは、いつもの、あの普段通りの彼だった。

 

『……っ、本当に、君という奴は……。僕がいなければ、まともにご飯も食べられないのか』

 

 深く、長いため息。

 

 「なんだかんだ言って仕方ないな」とぼやきながら、結局は何でもかんでも僕の面倒を見て、おんぶにだっこで許してくれる、あの『保護者モード』のアスラン・ザラだ。

 

「うぅ……ごめん、アスラン……」

 

『謝るくらいなら、今すぐそこにあるゼリーを飲み込みなさい。ほら、僕が見ているから』

 

「うん……」

 

 まるで小さな子供をあやすような声色で指示を出す彼に従い、僕は大人しく栄養ゼリーを啜った。

 

 でもね、僕は気づいていたんだよ。

 

 アスランがいないとまともに生きられない僕に対する呆れが声には滲み出ているくせに、その端正な口元が、どうしようもなく緩んで、微かに弧を描いているのを。

 

 あの野郎、「僕がいないとダメなキラ」の存在を確認して、絶対に安心してるし、ちょっと喜んでる! スパダリの皮を被った重度の過保護め!

 

 というか、ふと冷静になって画面越しの彼を見て、僕は理不尽な不公平感に襲われた。

 

 僕の方は、水分も油分も抜け落ちた干しシイタケみたいにボロボロでシナシナな状態だというのに。

 

 画面の向こうのアスランは、肌ツヤも良く、プラントの新しい環境にすっかり適応しているようで、ちっとも変わらなさそうに元気な様子なのだ。むしろ、コペルニクスにいた頃より少し精悍になって、顔立ちの良さに磨きがかかっている気すらする。

 

 ……なんか、ズルくない?

 

 僕だけがこんなに寂しがって、身を削るような断腸の思いでボロボロになってるのに。アスランは向こうで「キラがいなくて寂しい」とか言ってご飯を食べなくなったりしなかったわけ!?

 

 ちょっとくらい、目の下にクマとか作っててほしかった。僕だけがこんなに依存してるみたいじゃないか(実際そうなんだけど)。

 

「……アスランは、元気そうだね」

 

 ゼリーを飲み込みながら、ちょっとだけ恨めしそうな声を出してしまった僕に、アスランはきょとんとした後、ふっと優しく笑った。

 

『君がそんな有様なんだ。僕まで倒れるわけにはいかないだろう? ……早く元気になってくれ、キラ。君のその顔は、見ているこっちが辛い』

 

 そんな風に、痛いところを突かれたように眉尻を下げて甘い声を出されると、文句も言えなくなってしまう。

 

 全く、本当にズルい男だ。

 

 僕は彼のその言葉と笑顔を一番の特効薬にして、少しずつ、少しずつ、元の『キラ・ヤマト』の姿を取り戻していくのだった。

 

 

 

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