やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
ムウさんとの会話を終え、重苦しい空気が漂うパイロットロッカーから格納庫へと足を踏み入れると、先程までの戦闘の熱気とオイルの匂いが入り交じった独特の空気が僕を包み込んだ。
ドックの一角では、アサギさんが搭乗していた『アストレイ ホワイトフレーム』がハンガーに固定され、機体の整備が進められていた。そこには、パイロットスーツ姿のアサギさんと、整備用のタブレット端末を手にしたマユラさんとジュリさんの姿があった。
「あ、お疲れさま、キラ君」
僕の姿に気付いたジュリさんが、端末から顔を上げて声を掛けてきた。その表情には、無事に帰還できたことへの安堵が浮かんでいる。
「お疲れさまです。どうです? 機体の方は」
「被弾はしていないから、バッテリーと推進剤の補給、それに各部関節のトルクチェックで済むと思うわ。TC-OSのフィードバックデータも良好よ」
ジュリさんの言葉通り、見上げるホワイトフレームの純白の装甲には、デブリと擦れた細かな傷やスラスターの煤汚れこそあるものの、戦闘による目立った損傷は全く見受けられなかった。アサギさんの操縦が的確で、被弾を完全に避けていた証拠だ。
「さっきはごめんね。アタシらも出られれば良かったんだけど」
少しバツが悪そうに、マユラさんが肩をすくめて謝ってきた。
「大丈夫ですよ。慣れない機体で無理に出る事もないですし」
マユラさんの言葉に、僕は自然と言葉を返した。
マユラさんが気に病む必要なんて、本当はどこにもないのだ。
確かに、この格納庫にはまだ戦力になり得る機体が残されていた。
高機動型ジンやデュエル、そして識別用に白く塗装されたノーマルのジンだ。
しかし、冷静になって状況を整理すれば、彼女たちが出撃しなかっのは、極めて妥当な判断だったと言える。
白塗装のジンやデュエルは、大西洋連邦の所有物だ。
中立国であるオーブの軍人であるマユラさんやジュリさんがそれに乗って戦闘を行えば、後々、大西洋連邦やこれから向かうユーラシア連邦との間で「オーブ軍が連合の兵器を使用し戦闘に介入した」という政治的な問題に発展した際、非常にややこしい事態を招きかねない。
トールが宇宙用ティエレンに乗れたのは、彼が一応は「オーブの軍属ではない民間人」というグレーな立場であり、最初はあくまで「溶断作業の支援」という名目があったからだ。
とはいえ、その後の戦闘に彼をなし崩し的に参加させてしまったことに関しては、トール自身の強い意志があったとはいえ、僕がもっと気遣うべきだった。
親友を、死と隣り合わせの戦場に放り込んでしまったのだから。
ならば、残っていたあの『高機動型ジン』はどうかというと、あれはあれで、相当なじゃじゃ馬機体である。
いくらTC-OSを組みこんでいるとはいえ、シミュレーションもなしにいきなり実戦で乗りこなすのは、優秀なテストパイロットである彼女たちにとってもリスクが高すぎた。
だからこそ、完全なオーブの自国製プロトタイプである『アストレイ ホワイトフレーム』にアサギさんが搭乗し、マユラさんとジュリさんがそのフォローに回るという現在の陣容は、政治的にも戦術的にも、最も理に適っているのだ。
「キラ君の言う通りよ、マユラ。アンタたちがバックアップに回ってくれたから、私も思い切り戦えたんだし」
ホワイトフレームのコックピットハッチから、タオルで汗を拭きながらアサギさんが降りてきた。彼女は僕に向かって、どこか誇らしげな、それでいて頼もしい笑顔を向ける。
「それにしても、キラ君のティエレン……凄い動きだったわね。敵のジンを撃墜せずに、武装とカメラだけを正確に撃ち抜くなんて。シミュレーターで嫌ってほど味わわされたあの『変態機動』、味方になるとこれほど心強いものはないわ」
「変態機動って……。僕としては、必死に生き残るための最適解を選んでるだけなんですけどね」
僕が苦笑交じりに抗議すると、三人娘は顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
その明るい笑い声に、僕の張り詰めていた心も、ほんの少しだけ解れていくのを感じた。
「でも、ここからが本当の正念場ね」
笑いを収め、アサギさんが真剣な表情で僕と、そして暗黒の宇宙が広がるドックの隔壁の方へと視線を向けた。
「次は『アルテミスの傘』……ユーラシア連邦の宇宙要塞。大西洋連邦の新造艦に、オーブの機体と軍人。あちらの司令官が私たちをすんなり歓迎してくれるとは思えないわ」
「ええ……。間違いなく、一波乱あるでしょうね」
僕は深く頷いた。
クルーゼ隊の脅威は一時的に去ったものの、今度は「同じ地球軍」という名目のもとに隠された、人間のドロドロとした政治的野心や駆け引きが、僕たちを待ち受けているのだ。
◇◇◇
僕は自分のティエレン全領域対応型のメンテナンスを終え、トールが搭乗していた『宇宙用ティエレン』の傍らに立っていた。
僕自身の機体は、先ほどの激闘で無数の被弾痕を刻まれていた。だが、それはあくまでジンの放つ弾丸はティエレンの物理装甲そのものには一撃たりともダメージを負うこともなく弾いていた。
故に機体機能に何ら支障はなかった。
トールのティエレンも全身被弾の嵐を受けた跡が残っているが、「戦場の盾」の面目躍如といったところだ。
トールの拙い操縦と不意の被弾を、その重厚な装甲がすべて完璧に弾き飛ばし、パイロットを守り抜いていた。
トールは、初めての戦場という極限状態からの脱力で、今は医務室のベッドで深い眠りについているはずだ。
「キラ」
不意に背後から声をかけられ、僕は振り返る。
そこにいたのは、同じカレッジの友人──サイ・アーガイルと、カズイ・バスカークだった。
「サイ、カズイも……どうしたの?」
僕は手にしていたレンチを置き、彼らに向き直る。
「なにか、手伝えることないかと思ってさ。お前、今日一日ずっと動きっぱなしだろ? 整備兵の人たちも限界みたいだし、素人だけど、力仕事くらいなら手伝えるはずだから」
サイがそう言って、心からの心配を込めた笑顔を向けてくれた。
だが、その背後にいるカズイは、サイとは対照的に顔色が優れず、どこか浮かない表情を浮かべていた。彼はサイの言葉に深く頷くこともできず、ハンガーの無機質な鉄骨を見上げながら、ポツリと口を開く。
「……あ、あのさ、キラ。この船って……これからどうなるの?」
僕とサイは、同時にカズイの顔を見た。
彼は明らかに、戦場の恐怖よりも、これから先、自分がどんな運命に放り込まれるのか分からないという、孤独な不安に押しつぶされそうになっていた。
「アークエンジェルは、このまま地球軍の宇宙要塞『アルテミス』へ向かうことになったよ」
僕が淡々と事実を告げると、カズイは大きく目を見開いて絶句した。
「アルテミスって……! それってヘリオポリスから完全に離れるってこと!? じゃあ、俺たちはもう……帰れないの?」
「うん。このままヘリオポリスの近くに留まっていても、ザフトの追撃を受けるだけで、どっちにしてもどうしようもないからね」
「あ……いや、でもさ。……どっかで降りられるんだよね? どっか途中で」
「カズイ……」
僕は、胸の奥がキュッと締め付けられるような思いで、カズイを見つめた。
彼が言いたいことは痛いほど分かる。サイの隣で口を閉ざしているけれど、彼の中には純粋な恐怖と、平穏な日常への渇望がある。僕以上に争い事なんて向いていない、ごく普通の学生なんだ。巻き込まれて、訳も分からないままにこのアークエンジェルに乗せられてしまった彼の不安を、誰が責められるだろうか。
サイが「今そんな事言う場面じゃないだろ」と、焦った表情でカズイを窘めようと目配せをするのが見えた。だが、僕はそれを静かに制した。
カズイは間違っていない。この艦の誰もが、心の中ではそう思っているのだから。
「……今はまだ、保証は出来ないけど」
僕は、カズイの肩に手を置き、真っ直ぐに彼の瞳を見据えて言った。
「降りられる場所、安全な場所は僕も必ず考えるから。今は、艦全体が混乱してるんだ。だから……今はちょっとだけ、我慢してくれるかな。お願い」
僕の言葉に、カズイはゆっくりとだが、深く頷いてくれた。その瞳から恐怖が完全には消えなかったけれど、僕の言葉を信じようとしてくれているのが伝わってきた。
「……悪いな、キラ。お前を困らせて」
カズイを宥めた後、サイがバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「俺らにもできるMSの整備、手伝うよ。大したことはできないけど、指示をくれれば俺にも多分出来るからさ。……少しでも、お前の負担を減らしたいんだ」
サイのその言葉は、僕にとって何よりも有難い救いだった。
今日一日、死線を越え、親友と銃口を向け合って、誰かの命を奪うことの忌避感に震え、必死に張り詰めていた糸が、サイの優しさでふわりと緩むのを感じる。
「ありがとう、サイ。……じゃあ、機体外装のパネルチェックと、予備パーツの在庫確認を手伝ってもらえるかな? この端末を使えば出来るから、やり方は僕が教えるよ」
僕は差し出されたサイの手に、メンテナンス用のタブレットを預けた。
格納庫の喧騒の中で、少しだけ、いつもの日常が戻ってきたような安心感に包まれながら、僕たちは再び、アークエンジェルと共に明日へと生き残るための作業を再開した。
◇◇◇
「……奴らは、アルテミスに向かう気だな」
ヴェサリウスの艦橋で、ラウ・ル・クルーゼは仮面の下の薄い唇を歪ませながら、メインスクリーンに表示されたアークエンジェルの予測進路を睨みつけた。
「はい。航跡のスペクトル分析からも進路は間違いなくユーラシア連邦宇宙要塞アルテミスと一致します」
オペレーターからの分析を聞いた副官のアデスが、重苦しい表情で報告する。
「『アルテミスの傘』か。あそこへ逃げ込まれれば……光波防御帯を破るのは不可能に近い。些か厄介なことになったな」
クルーゼは椅子に深く腰掛け、指先で肘掛けをコツコツと叩きながら低く呟いた。
物理的な装甲や大軍をもってしても容易に陥落させられない、ユーラシア連邦が誇る絶対防壁。
そこにあの新造艦と、あの忌々しいモビルスーツ部隊が身を潜めるとなれば、外から手を出すのは極めて困難となる。
だが、クルーゼの思考はすぐに別の問題へと切り替わっていた。
「隊長。それと……本国より、特命が下っております」
アデスがさらに声のトーンを落とした。
「我々ヴェサリウスに対する即時帰投命令です」
「フッ……最高評議会への出頭命令、というわけだな」
クルーゼはその命令を特に深刻に受け止める事なく鼻で笑った。
アデスの顔には、評議会の決議を待たず中立国であるオーブのコロニーを攻撃したことへの、本国からの厳しい追及を恐れる緊迫感が張り付いている。
「そう恐い顔をするな、アデス。……我々は何も間違ったことはしていない」
クルーゼは立ち上がり、宇宙の深淵が広がる窓へと歩み寄った。
「『中立』だと高らかに宣いながら、その裏で地球軍の新型MS開発に加担していたのは、当のオーブの方だ。その動かぬ証拠として、我々は連合の最高機密である新型機を4機も奪取した。しかも……」
クルーゼの脳裏に、格納庫で徹底的な解析が進められている『イージス』や『デュエル』たちの姿がよぎる。
「ザフトの技術局が血眼になっても未だ小型化に苦労している、高出力ビームライフルやビームサーベル。それらを標準装備し、実用化レベルで運用している機体を、無傷で持ち帰るのだ。評議会の連中の目を眩ませるには、これ以上ないほど上等の手土産だろう?」
アデスはハッとして、クルーゼを見つめた。
「……なるほど。ヘリオポリス攻撃という外交的な『失態』よりも、この技術的・戦術的な『戦果』の価値の方が遥かに上回る、と……」
「そういうことだ。オーブの背信行為を糾弾するカードにもなる。プラント国防委員会からすれば、我が隊の行動は批難されるどころか、最高勲章ものだ。悪いことにはならんさ」
クルーゼの冷徹な政治的計算と揺るぎない自信に、アデスは深く息を吐き出し、ようやく表情を和らげた。
「はぁ……。隊長のその読み、信じさせていただきます」
「ガモフとそれに動けるジンはこの宙域に残し、引き続き新造艦の監視と包囲網の維持に当たらせる」
クルーゼは振り返り、鋭い号令を飛ばした。
「ヴェサリウスはこれより本国プラントへと帰還する。部隊の再編成を急げ」
「ハッ! ヴェサリウス、これより反転。進路、本国プラント!」
仮面の奥で、クルーゼは漆黒の宇宙を冷ややかな目で見下ろしていた。
あの新型ティエレンを駆る少年。そして、ムウ・ラ・フラガ。
彼らとの決着は先に持ち越されたが、それもまた時の妙と言うものだ。
次なる邂逅の時は今回の様にはいかぬと、クルーゼは冷笑と共に去り行く気配を見送った。
◇◇◇
アークエンジェルの喧騒に包まれた格納庫で、僕は宇宙用ティエレンの整備を終わらせ、次なる作業へと取り掛かっていた。
目の前に並べられているのは、モルゲンレーテの秘密工区から回収してきた『アストレイ グリーンフレーム』のパーツだ。
現状、アークエンジェルの戦力はギリギリの綱渡り。このグリーンフレームを組み上げることができれば、マユラさんかジュリさんが搭乗できる機体がもう一機増え、防衛のローテーションに劇的な余裕が生まれる。
ホワイトフレームの整備を終えた三人娘も、僕の作業を手伝ってくれていた。
そんな中、レンチを回しながらふと、僕の脳裏に「ある極めて重要な、しかし完全に抜け落ちていた事実」がよぎった。
「そういえば……アサギさん達って、元々は『あの金髪の女の子』の護衛としてヘリオポリスに来てたんですよね? ぶっちゃけて、そっちの任務は放置してて良いんですか?」
僕が何気なく尋ねたその瞬間。
カチャリ、と三人娘の手から工具が滑り落ちる音が、妙にハッキリと響いた。
「「「あ……っ」」」
三人が三人とも、まるで雷に打たれたような顔をして硬直した。その表情は完全に「あ、ヤバい。ガチで完全に忘れてた」と雄弁に物語っていた。
「い、いや〜! ホラ、ね!? ザフトがいきなり攻めてきたり、工区が崩落したり、色々あったし! 護衛対象はシェルターに押し込んだから、とりあえず安全確保は完了してるっていうか!」
マユラさんが冷や汗をダラダラ流しながら、必死に取り繕う。
「そ、そうよ! べ、別に忘れてたわけじゃないし!? 状況の優先順位を見極めた結果よ!」
アサギさんも露骨に視線を逸らしながら早口で捲し立てた。
「というより、もう私たち、完全にアークエンジェルの防衛戦力として頭数に組み込まれちゃってるから、今更『護衛に戻ります』なんて抜けられないというか……。仮に強引に抜けてヘリオポリスに戻ろうとしても、外で網を張ってるザフトに捕捉されたら、それこそまたコロニー内で戦闘になっちゃうし」
ジュリさんがデータパッドで顔を隠しながら、極めて論理的で、しかし言い訳がましい正論を口にする。
「で、ですよね〜」
僕は苦笑しながら同意した。
確かにジュリさんの言う通りだ。僕たちが身を挺してアークエンジェルを宇宙空間に引っ張り出したのは、「ヘリオポリスを戦場にしないため」だ。ここで彼女たちだけがコロニーに戻れば、クルーゼ隊の別働隊が追撃を仕掛け、結局ヘリオポリスは火の海になる。
まだコロニーそのものが崩壊していない以上、避難シェルターが宇宙空間へ退避カプセルとして射出されるような最悪の事態には陥っていない。カガリは救助船が来るまで、頑丈なシェルターの中で大人しくしているのが一番安全なのだ。
そこで、僕の思考がピタリと停止した。
手にしたレンチを握りしめたまま、僕は戦慄にも似た「気付き」に襲われていた。
(シェルターが、退避カプセルとして宇宙に放出されていない……?)
ヘリオポリスが崩壊しなかった。
それはつまり、崩壊したコロニーのデブリに接触し、スラスターを損傷して宇宙を漂流していた救命艇を、ストライクが回収してアークエンジェルに収容する」というイベントが、根底から消滅したことを意味している。
そして、その退避カプセルの中には、数少ないヘリオポリスの民間人の生き残りと共に──サイの婚約者である『フレイ・アルスター』が乗っていたのだ。
「……フレイが、アークエンジェルに乗らない……」
無意識に口から漏れた呟きは、格納庫の騒音にかき消された。
だが、僕の脳内では、そのたった一つの事実が引き起こす連鎖反応が、凄まじい勢いで未来の歴史を書き換えていく演算結果を弾き出していた。
フレイがアークエンジェルに乗らない。
それはつまり、彼女が父親の死をきっかけに復讐鬼と化し、僕(キラ)を精神的に絡め取って戦場へと駆り立てるという、あの泥沼のような愛憎劇が起きないということだ。
個人的な精神衛生上は、途方もなくありがたい話ではある。
だが、問題はそんなミクロな話ではない。
フレイがアークエンジェルに乗っていなければ、中盤の地球降下後、彼女がザフトの捕虜としてラウ・ル・クルーゼの手に落ちるというイベントも発生しない。
(フレイが捕虜にならないってことは……クルーゼが、彼女に『あのデータディスク』を渡す展開も消滅する……!)
戦争終盤。クルーゼは捕虜として囲っていたフレイを解放する際、彼女に「戦争を終わらせる鍵」と称して一枚のディスクを託す。その中身こそが、核分裂を阻害するNジャマーの効力を無効化する『ニュートロンジャマーキャンセラー』の設計データだ。
彼女が乗った脱出ポッドがドミニオンに回収されることで、そのデータはブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの手に渡る。結果、地球連合軍は核兵器の使用が可能となり、戦局は一気に狂気の殲滅戦──ボアズ陥落、そして最終決戦であるヤキン・ドゥーエ攻防戦へと雪崩れ込んでいくのだ。
フレイという「データの運び屋」が存在しない今、クルーゼは一体どうやって、アズラエルにNJCのデータを渡すつもりだ?
別の誰かを使うのか? それとも、まったく違うルートを用意するのか? あるいは、データが渡る時期が大幅にズレ込み、地球連合は核を持たないまま宇宙へ上がるのか?
「……予測が、つかない」
僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ヘリオポリスを崩壊させない」という僕の行動は、しかしその代償として、原作知識という僕の最大の武器の一つである「戦争終盤のシナリオ進行」を、完全に白紙にしてしまったのだ。
これからの戦局推移は、もはや「知っている歴史」ではない。僕の介入によって生まれた、誰も結末を知らない「未知の戦争」だ。
統計的な憶測や、各陣営の戦力比からのシミュレーションはできても、そこに原作知識を下地にした確信を持つことはもうできない。
僕は小さく息を吐き、再びレンチを握り直してグリーンフレームの装甲板へと向き直った。
歴史のレールが外れたのなら、自分の手で新しいレールを敷き直すまでだ。この艦のみんなを、サイやトールやカズイたちを死なせないための未来を。
「キラ君? どうしたの、急に怖い顔して」
「あ、いえ。なんでもないです。さぁ、サクッとこのグリーンフレームを組み上げちゃいましょう。まだアルテミスに着くまで、何が起こるか分かりませんからね」
僕が笑ってそう言うと、三人娘も「そうね」「急ぎましょ」と作業を再開した。
未知の歴史への不安を胸の奥に封じ込め、僕は工具を振るい続けた。
指摘されて思い出した。そういえばオーブ軍の階級呼称は自衛隊式やんけ!
ご指摘ありがとうございます。FREEDOM見過ぎて素でスッポ抜けてました。