キラ・ヤマトになってしまった…   作:星乃 望夢

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PHASE-35 サイレントアタック

 

「──熱源反応、急速接近!」

 

 ローラシア級『ガモフ』の艦橋は、デブリベルトの沈黙を唐突に引き裂いたオペレーターの悲鳴のような報告により、蜂の巣を突いたような喧騒と混乱の渦に包まれた。

 

「なんだと!? ミサイルか!?」

 

「い、いえ、この動きはMSですが……あ、あり得ない! デブリの中を、ジンの3倍のスピードで向かって来ています!」

 

「バカな。そんな速度でデブリにでも衝突すれば機体がバラバラになるぞ!」

 

「識別コード、地球連合軍のG兵器、X-105ストライクです!」

 

「足付きではなく、MS単機で突出してきたというのか!」

 

 艦長であるゼルマンは、艦長席から身を乗り出し、メインモニターに映し出された信じがたい光景に目を剥いた。

 

 暗礁宙域の中から、フェイズシフト装甲を鮮やかなトリコロールに輝かせたストライクが、まるでこちらを挑発するかのように、無数のデブリの岩塊を次々と蹴り飛ばしながら、ガモフの艦首へ向けて一直線に──しかも尋常ではない加速力で突進してくるのだ。

 

「正面からだと!? 迎撃しろ! CIWS起動、全門開け! MSも直ちに出撃させろ!」

 

 ゼルマンの怒号が飛び交う中、ガモフの艦体に配置されたCIWSが一斉に火を噴いた。

 

 暗い宇宙空間を、無数の実体弾の嵐が埋め尽くし、ストライクの進行ルートに分厚い弾幕の壁を形成する。

 

 通常のモビルスーツであれば、あるいは熟練のパイロットであったとしても、これほどの濃密な弾幕を正面から突破することは物理的に不可能に近いはずだった。

 

 しかし、メインモニターに映し出されるストライクの動きは、ゼルマンをはじめとするザフトのクルーたちの常識を、根本から嘲笑うかのような次元に達していた。

 

「あ、当たりません! 敵機、信じられない軌道で対空砲火を……抜けてきます!」

 

 ストライクは、推力任せの直線的な突撃をしているわけではなかった。

 

 デブリの破片を足場として利用し、予測不可能な三次元のジグザグ軌道を描きながら、弾幕の「薄い箇所」を的確に縫うようにして突き進んでくる。

 

 時には機体をバレルロールさせて弾道を逸らし、時には推進剤の噴射を細かく切り替えて虚空で直角に軌道を変える。

 

 それは、もはや機械の操縦という枠を超え、意思を持った鳥か、あるいは魔神の舞のようなおぞましいまでの回避運動だった。

 

「ひぃっ……!」

 

 銃座のオペレーターから、短い悲鳴が漏れた。

 

 ストライクが、ガモフの対空有効射程内へと完全に踏み込んだ瞬間だった。

 

 機体は回避運動の合間に、まるで流れるような動作で右手に握ったビームライフルを構えた。そして、一切の照準動作すら感じさせない速度で、閃光が迸る。

 

 ガモフの右舷に張り出していた対空砲の一つが、直撃を受け爆発四散した。

 

「右舷第3CIWS、大破!」

 

「敵機、さらに接近! また来ます!」

 

「ちぃっ! なんなのだ、あの化け物じみた動きは! ナチュラルにこれほどの操縦ができるはずがない!」

 

 ゼルマンはコンソールを力強く叩きつけた。

 

 ストライクは、雨あられと降り注ぐ弾幕を紙一重でかわし続けながら、圧倒的な空間認識能力と精密射撃で、ガモフの対空火器を一つ、また一つと確実に沈黙させていく。

 

 その動きには、一切の迷いも、死に対する恐怖すら見受けられない。ただ冷徹に、そして完璧な演算に基づいて、ガモフの「目」と「牙」を削ぎ落とすことだけを目的に動いている。

 

「艦長! デュエルとバスター、発進準備完了しました!」

 

「出させろ! あの機体をこれ以上艦に近づかせるな! 撃ち落とせ!!」

 

 ゼルマンの絶叫に呼応するように、ガモフのカタパルトハッチが開き、ザフトが地球軍から奪取した二機のG兵器──デュエルとバスターが、復讐の炎を燃やして宇宙へと飛び出していく。

 

 ガモフの艦橋のクルーたちは、ストライクという一機の悪魔的な陽動に完全に心を奪われ、自分たちの視線が「ただ一点」に釘付けにされていることに、まだ誰一人として気付いていなかった。

 

 彼らの死角。デブリの密集地帯のさらに深くから、完全な静音状態で滑るように接近してくる、もう一機の「死神」の存在に──。

 

 

◇◇◇

 

 

 陽動として、ただ闇雲に火線を引き、派手に目立つ必要があったからというわけではない。デブリの海を縦横無尽に駆け抜け、岩塊やコロニーの残骸を物理的に蹴り飛ばして急加速と急制動を繰り返しつつ、単機で敵艦へと肉迫する。その一連の極限状態の中で、僕は脳裏にある一つの鮮烈な映像を思い浮かべながら、ストライクの操縦桿を握っていた。

 

 それは、前世の記憶にある『機動戦士ガンダムUC』において、フル・フロンタルの駆る真紅のモビルスーツ『シナンジュ』が、ネェル・アーガマへと単機で攻撃を仕掛ける戦闘シーンの光景だった。

 

 密集するデブリ帯を、後続の機体と比較して約三倍という常軌を逸した速度で擦り抜け、ネェル・アーガマから放たれる対空砲火の網目をまるで幻影のようにすり抜けていく赤い彗星の再来。

 

 そして、機体の姿勢を滑らかに反転させながら、母艦の防衛の要である対空機銃群を、高出力のビームライフルで次々と正確に撃ち抜いて破壊して回るあの光景。

 

 僕はOSの演算予測を極限まで引き上げ、自身の空間認識能力とスーパーコーディネイターとしての反射神経を完全に機体へと同期させた。

 

 フェイズシフト装甲が展開され、トリコロールに発光するストライクは、暗礁宙域においてこれ以上ないほどの標的だ。

 

 ガモフから放たれる無数の曳光弾やミサイルの軌道が、僕の脳内ではっきりとした光の線となって可視化される。

 

 右へスウェーし、その直後に左へと機体の軌道を変える。

 

 予測不能な鋭角のベクトルで機体を急激に左へと跳ねさせる。直後、僕がコンマ数秒前までいた空間を、ガモフの対空砲弾の束が虚しく通り過ぎていった。

 

 ストライクのシステムが悲鳴を上げんばかりのGをコックピット内で殺しつつ、僕は流れるような動作でビームライフルを構え、引き金を引く。

 

 閃光。そして、ガモフの左舷に備えられていた対空機銃が爆発四散する。

 

 シナンジュは、ネェル・アーガマへの牽制の最中、カタパルトから発進しようとするリゼルを出合い頭の出撃中に狙い撃つという非情な手段すら平然とやってのけた。

 

 僕の視界の端、高度な光学センサーが、ガモフの艦底部に位置するMS用カタパルトハッチが重々しく開放されていくのを正確に捉えていた。出てくるのは当然、あの艦に残された最大戦力であるデュエルとバスターだろう。

 

 だが、僕はあえて出撃そのものを潰すような真似はしなかった。彼らを艦から引き剥がし、僕の元へ惹きつけることこそがこの陽動の真の目的だからだ。

 

 ガモフの装甲表面で次々と巻き起こる小規模な爆発。対空火器が潰されていくことは、この後に完全な静音状態で死角から突入してくるムウさんのガンバレルストライカーへの、最大の援護となる。

 

『出たな、ストライクゥゥッ!!』

 

 通信回線越しに、イザーク・ジュールの怒りに満ちた咆哮が轟く。

 

 ガモフのカタパルトから、蒼白の炎を噴き上げて三機のモビルスーツが飛び出してきた。

 

 怒涛の勢いで肉薄してくる、ビームサーベルを抜いたイザークのデュエル。

 

 後方から圧倒的な重火器の照準を合わせてくる、ディアッカのバスター。

 

 そして、その後方で冷静に射線を構築しようとしているのは、『バルルス改特火重粒子砲』を担いだジンだ。

 

 彼らの視線、敵意、殺意、そのすべてが、完全にこのストライク一機へと向けられている。

 

「……狙い通りに、釣れた」

 

 僕は唇の端を僅かに吊り上げ、冷徹な思考のまま操縦桿を切り返した。

 

 ムウさんがガモフの尻に痛撃を見舞うまでの間、僕はこの三機を相手に、一歩も退かずに暴れ回らなければならない。

 

 真正面から突撃してくるデュエルの進行ルートを塞ぐように、僕は予測射撃によるビームライフルの牽制弾を三連射で放つ。

 

 直撃こそ免れたものの、鼻先を掠めた高出力のビームにイザークが反射的に機体を仰け反らせ、デュエルの突進速度がガクンと落ちる。ディアッカのバスターの射線も、そのイザークの動きによって一瞬だけ遮られた。

 

「ここからだッ!」

 

 陣形がわずかに崩れたその一瞬の隙を突き、僕はストライクのスラスターを最大出力で噴かした。

 

 対艦攻撃用のヒット&アウェイから、モビルスーツ三機を相手取った高機動のドッグファイトへの完全な移行。

 

 デブリの海を舞台にした、極限の死闘の幕が上がった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……おいおい、俺の出る幕ないんじゃないの?」

 

 暗礁宙域の濃密な影の中。巨大な岩塊の裏側に機体を固定し、息を潜めていたムウは、コンソールのセンサー情報が描き出す戦況図を見つめながら、思わず呆れたような声を漏らした。

 

 当初の作戦概要では、「ストライクがデブリの際で派手に動き回り、囮として敵艦の注意を引く。その隙を突いて、ムウのガンバレルストライカーが死角から突入する」というものだったはずだ。

 

 しかし、いざ蓋を開けてみればどうだ。あの温厚な学生上がりの少年が駆るストライクは、ただの囮などという生温いレベルをとうに超えていた。

 

 単機での『強襲陽動』。

 

 ストライクはローラシア級の対空砲火を嘲笑うかのようにすり抜け、厄介な対空機銃群を次々とビームライフルで黙らせてしまった。さらに、艦から吐き出されたデュエル、バスター、そして特火重粒子砲を担いだジンという最大戦力の三機を、完璧なドッグファイトで翻弄しつつ、意図的に敵艦の防衛圏内から遠ざかるようにして『釣り出して』しまっているのだ。

 

「あいつ、一人で艦隊戦でもやってるつもりか?」

 

 ムウはヘルメットの中で小さく息を吐いた。

 

 敵艦の銃座の死角は、キラの緻密な射撃によって完全に丸裸にされている。そして、護衛すべきMS部隊は、ストライクという劇薬に目を奪われて母艦から引き離されてしまった。

 

 これ以上ないほどのお膳立て。

 

 もしここで自分が仕掛けるタイミングを誤ったり、つまらないヘマをやらかしたりすれば、「すまなかった」で済む話ではない。

 

 ブリッジのマリューやナタルに呆れられるどころか、後輩であるキラの前で『エンデュミオンの鷹』という大仰な二つ名を永遠に返上し、土下座しなければならないほどの手厚すぎる援護だった。

 

「んじゃ、大人の意地ってやつを見せに行くとしますか!」

 

 いつまでも優秀すぎる後輩におんぶに抱っこというわけにはいかない。それに、自分が敵艦の足を止める第一撃を放つその瞬間を、後方で息を潜めるアークエンジェル全体が今か今かと待ち構えているのだ。

 

 ムウは操縦桿を強く握り込み、ガンバレルストライカーのメインエンジンをフルスロットルで始動させた。

 

 轟音と共に、機体のスラスターから強烈な炎が噴き上がる。

 

 静止状態からの急加速。巨大なデブリの影から虚空へと躍り出たガンバレルストライカーは、宇宙空間を切り裂くような速度で、完全に無防備となったローラシア級ガモフの後部──生命線であるメインエンジンブロックへと一直線に吶喊していった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ミゲル隊の射線上から艦を退かせ! 誤射を避けつつ、被弾箇所のダメージコントロールを急げ!」

 

 デュエル、バスター、そして特火重粒子砲を装備したジンの三機が、ストライクとの苛烈なドッグファイトを展開している最中。ローラシア級ガモフの艦橋では、味方への同士討ちを避けるために主砲を沈黙させつつ、先ほどのストライクによる強襲のダメージコントロールに追われていた。

 

 状況は極めて芳しくない。

 

 ストライクのピンポイントなビーム射撃によって、艦のCIWSは半数近くが破壊され、防空網には致命的な「穴」が空いてしまっている。

 

 もし、ストライクがイザークたち三機を無視、あるいは振り切って再び艦へと突進してきた場合、今の欠損した対空防御網で接近を阻止できる保証はどこにもなかった。艦橋のクルーたちの間には、見えない死への焦燥がじわじわと広がり始めていた。

 

 そんな張り詰めた空気を真っ二つに切り裂くように、オペレーターの悲鳴に似た報告が飛び込んできた。

 

「艦長! 後方デブリの影より、急速接近する新たな機影ッ! こ、これは……! データ照合、地球軍MAメビウス・ゼロと推定!!」

 

「なんだと!?」

 

 ゼルマンが叫ぶと同時、メインモニターにセンサー類と光学カメラが捉えた映像がノイズ交じりに映し出される。

 

 そこにいたのは、強烈な推進炎を噴き上げながら、一直線にガモフの無防備な背後──生命線であるメインエンジンブロックへと吶喊してくる機影。

 

 4基ではなく、6基ものガンバレルを展開した、異形の『メビウス・ゼロ』の姿だった。

 

「総員、対空戦闘! 操舵手、面舵一杯、回避行動を取れ! ……ッ、謀られた!!」

 

 ゼルマンは血を吐くような声で回避を命じながら、ここに至ってようやく、自分たちが嵌められていた致死の罠の『全貌』を悟った。

 

 今現在、赤服2人と二つ名付きのエースたちを相手に単機で踊り狂っているストライクの姿。

 

 そういえば、あの機体の背中には何もなかったではないか。

 

 ヘリオポリスでの戦闘で目撃されたメビウスのエンジンブロックの流用品もなければ、アルテミスでの戦闘でニコルのブリッツを中破させたというメビウス・ゼロ型のパックも存在していなかった。

 

 今のストライクの姿は、自軍のデュエルとほとんど変わらない、ビームライフルとシールドだけを装備した極めてシンプルな『素体』そのものであった。

 

 なぜ、そんな軽装で母艦から単機突出してきたのか。

 

 それが何を意味しているのか。

 

 その答えは今、6基のガンバレルを展開しながら艦の後方から突っ込んでくる『メビウス・ゼロ』の存在が、あまりにも雄弁に物語っていた。

 

 陽動と強襲の役割が、完全に逆転していたのだ。

 

 あのストライクの派手な立ち回りは、ガモフの目とMS部隊を引き剥がすための、極めて悪辣で計算し尽くされたデコイ。

 

 そして、本命の刃は、分離独立して完全な静音状態で死角に潜んでいた、このモビルアーマーの奇襲だったのだ。

 

「撃ち落とせェッ!! エンジンをやらせるな!!」

 

 ゼルマンの絶叫が艦橋に木霊する。だが、残存する対空火器が慌てて砲口を振り向かせるよりも早く、エンデュミオンの鷹が駆る六つの砲門が、ガモフの脆弱な機関部へ向けて致命的な閃光を解き放った。

 

 

◇◇◇

 

 

 ガンバレルストライカーから放たれた六門のビームと、本体のリニアガンが一斉に火を噴いた。

 

 重厚なローラシア級の装甲を貫き、後部エンジンブロックを容赦なく焼き切る。吶喊の勢いそのままに、ストライクが撃ち抜いた対空砲火の穴をすり抜け、ガンバレルストライカーは一瞬で戦域から急速離脱を果たした。

 

「よっしゃあああっ!!」

 

 後方センサーが捉えたのは、黒煙を吹き上げながら推進機能を喪失しつつあるローラシア級の姿だ。

 

 手応えのある一撃に、ムウはコックピットの中でガッツポーズと共に雄叫びを上げた。

 

 『エンデュミオンの鷹』と呼ばれた男の、面目躍如の瞬間だった。

 

「キラ!」

 

 勝利の余韻に浸る間もなく、ムウは機首を向ける。3機からの火線を回避し続けながらなおも戦い続けるストライクの援護に向かうためだ。

 

 ムウはガンバレルを4基展開し、残る左右の2基は速度維持と細やかな姿勢制御の補助として本体に固定した。

 

 4基のガンバレルから一斉に放たれたビームの奔流。

 

 その予期せぬ横槍に、デュエル、バスター、ジンの三機は散開を余儀なくされる。

 

「軸線に入った。相対速度、合わせないと事故るぞ!」

 

「速すぎますよ! レーザーセンサー、間に合わない……! マニュアルでドッキングします!」

 

 ガモフから離脱した勢いを殺さず、ムウはストライクの背後へと肉迫する。

 

 キラの声は切迫していた。ドッキングシークエンスの完了を待っていては、敵機に隙を突かれる。

 

 キラは警告を無視する勢いで、己の反射神経を信じて操縦桿を操った。

 

 激しすぎる慣性と相対速度。

 

 金属が軋むような激しい衝撃と共に、ガンバレルストライカーがストライクの背中に噛み合う。

 

「うわっ……! あとで接続軸のメンテナンス、マードックさんにドヤされるぞ……!」

 

 コックピット内で身を揺らしながら、キラは脳内で整備班長の怖い顔を想像して苦笑する。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 合体したコネクターからの信号を通じ、ガンバレルストライカーが完全にストライクと同期する。

 

「追加展開、全弾発射!」

 

 背中からさらに2基のガンバレルがせり出し、合計6基の砲門が展開される。

 

 先ほどまでデュエルたちを追い詰めていたストライクの火力が、さらに数倍へと跳ね上がる。六つの死線が空間を支配し、三機の出鼻を完全に挫いた。

 

「くっそ……ガンバレルだと!? ちょこまか戦い方を変えやがって!」

 

 イザークの苛立ちを声に乗せて放つ。

 

 その混乱を決定づけたのは、後方のガモフから上がった閃光だった。

 

 敗北を悟った敵艦からの撤退信号。

 

「これ以上は無駄か」

 

 キラはガンバレルをストライク本体へ回収すると、スラスターを最大出力で噴かした。

 

 ガンバレルストライクは、三機のザフト機が追撃の意志を削がれたその一瞬を逃さず、背後のデブリの彼方へと吸い込まれるように加速していく。

 

 陽動、強襲、そして離脱。

 

 完璧な連携が、圧倒的な火力差を覆し、アークエンジェルを囲い込もうとしていた包囲網を霧散させた瞬間だった。

 

 

◇◇◇

 

 

「逃すかぁ!!」

 

 血を吐くような咆哮が、デュエルの狭いコックピット内に木霊した。

 

 イザーク・ジュールは、血走った両眼でメインモニターの中央、デブリの影へと吸い込まれていくトリコロールの機影と、そこから放たれる推進炎を睨みつけていた。

 

 先ほどのドッグファイト。三機がかりで攻め立てたにも関わらず、あのストライクは自分たちを殺すことすら「あえて」せず、ただひたすらに時間を稼ぎ、翻弄し尽くしたのだ。

 

 エリートである赤服のプライドを泥靴で踏みにじられた上に、母艦であるガモフの背後をまんまと突かれた。この圧倒的な屈辱を抱えたまま、敵の背中を黙って見送ることなど、彼の煮えたぎる自尊心が許すはずもなかった。

 

「追うぞディアッカ!」

 

 

 デュエルのスロットルレバーを限界まで押し込もうとしたその瞬間。

 

「待て、イザーク!」

 

 視界の端から強引に割り込んできた巨大な質量が、デュエルの進行ベクトルの真正面を塞いだ。

 

 ミゲル・アイマンの駆るジンだ。右腕に抱えた無骨なバルルス改特火重粒子砲を突き出し、デュエルの鼻先で強制的に制動を掛けさせる。

 

「どけミゲル! ここまでコケにされて、何故止める!」

 

 イザークは通信回線越しに噛み付いた。怒りで視界が真っ赤に染まり、操縦桿を握る手はグローブが軋むほどに限界まで握り込まれている。

 

「足付きはまだ遠いはずだ! 今あのストライクを仕留めなければ、俺たちはザフトの、赤服の面汚しだぞ!」

 

 しかし、激昂するイザークに対し、歴戦の『黄昏の魔弾』はどこまでも冷徹で、そして苛立たしげな凄みを帯びた声で怒鳴り返した。

 

「頭を冷やせ、この単細胞! 艦からの撤退信号が見えてねぇのか!」

 

 ミゲルの言葉に、イザークは弾かれたように後方カメラの映像を視界の隅に引き出した。

 

 そこには後部メインエンジンブロックからプラズマと黒煙を宇宙空間へ激しく噴出させている、ガモフの痛ましい姿があった。

 

「コケにされようが、面子を潰されようが、今はどうでもいい! 事実として俺たちは敵の陽動に一杯食わされて、ガモフはエンジンをぶち抜かれたんだ!」

 

 ミゲルは容赦なく『敗北』という現実をイザークの顔面に叩きつけた。

 

「いいか、相手を追う前に自分の足元を見ろ。あの被弾箇所は推進ブロックのど真ん中だ。放っておけば冷却系がイカれて、あっという間にエンジンが臨界に達する。わかったらさっさと武器を収めて、外からも消火と冷却の支援に回るんだよ! ヘタ打ったら、それこそガモフのエンジンがボカンと大爆発して、俺達の帰る艦が星屑になっちまうんだからな!」

 

 ミゲルの言う通りであった。

 

 宇宙空間において、戦艦のエンジンブロックの損傷は直ちに全乗組員の死に直結する。内部のダメージコントロール班だけでは限界があり、MSによる外部からの消火剤散布や隔壁の強制パージなど、やらなければならない救難作業は山積みだった。

 

 ここでイザークが独断で突出したところで、弾幕の援護もない単機では、あのストライクと異形のモビルアーマーの連携の前に各個撃破されるのがオチだ。

 

「……ええいっ、クソッ!!」

 

 イザークは、喉の奥から絞り出すような怨嗟の声を上げ、力任せに操縦桿へ拳を振り下ろした。

 

 分厚いパイロットスーツ越しに鈍い痛みが走るが、脳髄を焼くような敗北感と屈辱に比べれば気晴らしにもなりはしなかった。

 

 メインモニターの奥、すでにセンサーの有効半径から外れつつあるストライクの光の尾が、まるで「また遊んでやる」と嘲笑っているかのようにチカチカと瞬き、やがて完全な闇の中へと溶けて消えていく。

 

(次だ……次に出会った時こそ、必ずあのストライクを引き裂いてやるッ……!)

 

 イザークは血が滲むほどに唇を噛み締めると、デュエルを乱暴に反転させ、黒煙を上げるガモフへと重い足取りで機体を進ませた。

 

 

 

 




感想欄であのルキーニはどうしてんのかと書かれていたので、ザックリすると、キラが関わってないASTRAY側はあまりストーリーの大枠は変わっていないので、ロウにちょっかい掛けてますけど、ユニウスセブンで連合追っ払った後に女海賊に襲われなかったのは、ぶっちゃけると素手でMA解体するなんか素早いティエレンが4機も居たんで仕掛けるのを止めたっていうのがあります。

じゃあなんでそこ書かないのかと言われたら、まぁそこまで書かなくて良いかなぁなんて思ったりしたという感じです。

キラがガッツリ関わっているなら書こうかどうか悩んだんですけど、出てきた所でキラのティエレン全領域対応型に追い掛け回されて、しかも予備バッテリーのタネも看破してるから速攻ケリつけられて話が膨らませられないなぁと思ったからです。
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