やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-37 迫る脅威

 

 ガモフの格納庫は、無数の火花と金属を叩く不協和音に支配されていた。

 

 整備兵たちの怒号が飛び交う中、イザーク・ジュールはハンガーに固定されたデュエルの無骨な機体を見上げ、鼻を鳴らした。

 

 本来、デュエルは極めて素直な機体だった。ビームライフル、ビームサーベル、頭部バルカン、そしてシールド。白兵戦に特化したシンプルさは、洗練された殺意を具現化したようなものだ。しかし、アルテミスでの戦闘で盾を切り飛ばされ、あの紺色の化け物とストライクに翻弄された事実は、イザークの戦士としてのプライドを完膚なきまでに叩き折っていた。

 

 イザークの苛立ちを無視するように、重厚な追加装甲パーツ『アサルトシュラウド』がデュエルへと組み付けられていく。

 

 PS装甲を持つデュエルには不要なはずの重装甲。しかし、これは単なる『防御力アップ』の代物ではない。

 

 両肩に増設されたレールガンとミサイルポッド、そして機体重心を整えつつ、素のデュエルを凌駕する推力を生み出すバックパックと脚部の追加スラスター。この機体は、今や純粋な白兵戦用MSから、一撃必殺の重火器を備えた『強襲強攻型MS』へと変貌を遂げようとしていた。

 

 増設されたスラスターが生み出す加速力は、かつての機体を上回る。これならば、あのストライクや紺色のデカブツの動きに遅れをとることも、煮え湯を飲まされることもない。

 

「今度こそ……今度こそ、貴様らの首を獲ってやる」

 

 イザークの瞳に、復讐の炎が宿る。

 

 その隣では、別格の存在感を放つ機体が搬入されていた。

 

 通常機体の灰色とは対照的な、目に焼き付くような『オレンジ色』のジン。コックピットから降りてきたミゲル・アイマンが、相棒の復帰を確かめるように機体を優しく叩いた。

 

「っし、やっと戻って来た愛車のコイツさえあれば、アイツらにも遅れはしないぜ!」

 

 ミゲルの顔には、サーペントテールの叢雲劾に専用機を破壊され、敗北を喫した際の悔しさは消えていた。いや、消えたのではない。それは新たな闘志となって彼の内側で煮えたぎっている。

 

 真新しい塗装を施された自慢の専用機を見上げるその目は、再び戦場へと向かう猛獣のそれだった。

 

 ガモフの格納庫は、かつての閉塞的な空気とは一変していた。

 

 本国から増援として差し向けられたローラシア級『ツィーグラー』。その艦から搬入された物資と、ラウ・ル・クルーゼが駆る旗艦ヴェサリウスが持ち帰った最新の装備群は、ガモフのクルーたちに確かな「勝機」を予感させていた。

 

「ヴェサリウスの帰還……これで、ようやく本気で潰しに行けるというわけだ」

 

 イザークはアサルトシュラウドの接続が完了したデュエルのコクピットへと乗り込む。

 

 重厚な装甲に包まれた機体は、かつてないほどの威圧感を放っていた。

 

 戦場は、再び加速する。アークエンジェルを逃し、自尊心を傷つけられたクルーゼ隊の面々は、その全戦力を以てして、再びあの艦を地の果てまで追い詰める準備を整えていた。

 

 ガモフの艦内に漂う硝煙とオイルの匂いは、間もなく始まる次なる惨劇の幕開けを、静かに告げていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 イージスの薄暗いコックピットに身を沈めながら、アスラン・ザラは胸の奥底に複雑な、しかし紛れもない『安堵』が広がっていくのを感じていた。

 

 標的であるあの『足付き』が、ついに地球連合軍の第8艦隊と合流を果たした。

 

 それはつまり、あの艦に偶然乗り合わせてしまったオーブの民間人──親友であるキラ・ヤマトが、身を挺してあの艦を守らなければならない理由が完全に消滅したということを意味している。

 

「これでいいんだ……」

 

 アスランは、コンソールの計器類に視線を落としながら小さく呟いた。

 

 オーブの人間であるキラは、あのまま連合の軍艦と関わるような血生臭い人生とは無縁の場所へ帰れる。また平和な国で、面倒くさがり屋で、誰かが世話を焼いてやらなければ生活すら危ういような、あののんびりとした甘ったれた日常へと戻っていくはずだ。

 

 いや、どうかそうであってくれと、アスランは祈るような思いだった。

 

 そもそも、自分が隣にいてやらなければまともに部屋の片付けすらできないようなアイツが、あろうことか戦場の最前線に引きずり出され、モビルスーツに乗って戦っていること自体が狂った異常事態だったのだ。

 

 確かに、連合の新型MSを奪取するためにヘリオポリスを火の海にしたのは、自分たちザフトだ。その混乱の中で生き延びるため、身を守るための正当防衛として、キラが仕方なくあの紺色の『ティエレン』に乗らざるを得なかったのだという事情は、アスランにも痛いほどに理解できた。

 

 だとしても、これからはもう大丈夫だ。あの艦には連合の正規の軍人たちが補充されるだろうし、キラが無理をして戦う大義名分はどこにもない。

 

 それに、もう一つ。

 

 アルテミスの宙域でニコル・アマルフィに重傷を負わせた機体が、キラの乗るティエレンではなく、あの忌まわしいガンバレルを操る『ストライク』であったと判明したことも、アスランの心を縛っていた重い鎖を一つ解き放っていた。

 

 「自分の親友が、もう一人の親友を撃ち、殺しかけた」という最悪の悲劇が存在していなかったという事実に、アスランは心底ホッとしていたのだ。

 

「もうアイツは……キラは、この戦争に関わることはないんだ」

 

 アスランはイージスの機体システムを調整する作業を続けながらも、頭の中から、かつて芝生の上で無邪気に笑い合っていた幼き日の親友の面影を消し去ることはできなかった。

 

 平和な世界で、笑っているキラ。

 

 戦場には決して似つかわしくない、優しすぎる親友。

 

 だが、それはアスラン自身の希望的観測が作り出した、あまりにも脆く儚い幻想に過ぎない。

 

 第8艦隊に合流したアークエンジェルの中で、彼が守りたかった親友がすでに決意を固め、自ら退路を断っていたことなど──この時のアスランが知る由もなかったのである。

 

 

◇◇◇

 

 

 ラウ・ル・クルーゼは、旗艦ヴェサリウスのブリッジで、メインモニターに映し出される第8艦隊の配置図を静かに見下ろしていた。仮面の下で浮かべているのは、獲物を追い詰めた捕食者の、冷ややかな笑みである。

 

「実に滑稽だな……」

 

 地球連合軍の無能さを物語る陣容。

 

 第8艦隊が誇る圧倒的な戦艦の数、そして防空を担う無数のメビウス隊。しかし、その布陣はあくまで「旧来の艦隊戦」を想定したものに過ぎない。

 

 ユーラシア連邦はティエレンという鉄の壁を揃えたが、大西洋連邦は独自のMS開発に固執するあまり、現場では各々がバラバラの規格で戦うという不整合。

 

 ザフトがNジャマーを投下し、MSが戦場の主役であることを世界中に知らしめたというのに、彼らは未だに広大な宇宙に「鉄の箱」を並べて安心している。

 

「ティエレンを主力とするユーラシアの現場部隊ならば、多少の厄介事もあっただろうが……。連合の本隊は、まさに無防備な肉の壁というわけだ」

 

 クルーゼの脳内では、すでに戦闘のシミュレーションが完了していた。

 

 総数14機のMS。たとえムウ・ラ・フラガという鷹と、その性能は既存のティエレンとは一線を画す紺色のティエレンが紛れ込んでいようとも、戦術論的に見ればこの艦隊は崩壊する。

 

 ブリッツを中破させたストライクや己の不意を突き撤退させる程の紺色のティエレン。

 

 それらは確かに脅威である。だが、それはあくまで「個人」の武勇であって、「艦隊」の力ではない。

 

 MSを「点」でしか運用できない連合艦隊に対し、こちらは戦線を「面」で制圧できる。

 

「イザーク、ディアッカ、そしてミゲル……。君たちがどれほど煮え湯を飲まされていようと、組織としての質量差で押し潰せば、その恨みも結果として晴れるというものだ」

 

 クルーゼは、通信回線を開き、静かに、しかし威圧を込めて全艦隊へ命を下した。

 

「全艦、これより第8艦隊に対し、強襲を敢行する。ツィーグラーとガモフは左右に展開、第8艦隊のメビウス隊を機動戦で引き裂け。ザフトの誇りに懸け、今日こそあの『足付き』を逃さず仕留める」

 

「全MS部隊、出撃!」

 

 そのクルーゼとアデスの号令と共に、漆黒の宇宙が火花で染まる。

 

 第8艦隊の長距離スキャンには、突然の反応増大としてそれは映ったはずだ。

 

 クルーゼには確信があった。

 

 この戦闘は、ただの勝利ではない。連合の旧態依然とした指導者たちに対し、彼らの時代が完全に終わったことを証明する、残酷なまでの儀式なのだ。

 

「さあ、見せてくれないか。ムウ、そして少年よ。君たちの力で、この絶望を覆すことが出来るのか……?」

 

 クルーゼの呟きは、誰にも届くことなく通信の波間に消えた。

 

 そしてザフトの各艦から発進したMS部隊が、多大の犠牲を生み出すことになる悲劇の序曲へと、その身を投じていった。

 

 

◇◇◇

 

 

「はぁ……っ。あんたねぇ、口で言うのは簡単だけど、本国に帰った後で上層部にどう報告書を上げるつもりよ……」

 

 アサギは痛むこめかみを指で揉み解しながら、深く、ひどく疲れたような溜息を吐き出した。

 

 彼女はモルゲンレーテのテストパイロットチームのリーダー格だ。だからこそ、キラの提示した『中立理念の極限解釈による言い訳』が、いかに薄氷の上でタップダンスを踊るような真似か、痛いほど理解できてしまう。もしここにオーブの政治家や高級将校がいれば、間違いなく卒倒するか、キラの胸ぐらを掴んで怒鳴り散らしているだろう。

 

「あははっ、いいじゃんアサギ! 命あっての物種ってやつでしょ!」

 

「ちょっ、マユラさん、苦し……ッ」

 

 うんうんと唸るアサギの横で、マユラはキラの首に回した腕をさらにギュッと締め上げ、悪びれる様子もなく快活に笑った。軍規違反だの国際法だのといった小難しい理屈よりも、撃たれたのだから撃ち返しただけというシンプルな考えに持っていくキラの悪知恵に同調した。

 

「どーせ外に出たって、あのザフトが『あ、オーブの方でしたか。どうぞどうぞ』なんて見逃してくれるわけないじゃん。黙って撃たれて死ぬくらいなら、こっちから先回りしてボコボコにしてやった方が絶対マシだしね!」

 

「マユラの言う通りね」

 

 ジュリもまた、冷静な顔で推し進められたキラの理屈に同意の頷きを見せた。

 

「理念や中立は尊いけれど、死人に口なしよ。それに、私たちが手をこまねいている間にアークエンジェルが沈めば、次に宇宙の塵になるのはこの艦に乗っている私たち自身だわ。専守防衛の拡大解釈……強引だけど、生き残るための大義名分としては十分機能するわ」

 

「ジュリまで……っ。あーもう、わかった、わかったわよ!」

 

 両手を上げて降参のポーズをとるアサギ。リーダーとして歯止めをかけなければという責任感はあったが、彼女自身、ザフトの無差別な攻撃にただ怯えて縮こまっているような性分ではない。ヘリオポリスからこれまで、修羅場を共に潜り抜けてきた白いアストレイの感覚が、彼女にも戦士としての腹を括らせていた。

 

「ただし! 本国に帰った後の政治的な責任だの査問会議だのは、ぜーんぶアンタが被りなさいよ、キラ技術三尉殿? 言い出しっぺなんだからね!」

 

 アサギが指を突きつけて凄むと、マユラに首を絞められながらも、キラはどこかホッとしたような、それでいて覚悟を決めたような真剣な眼差しで真っ直ぐに頷いた。

 

「はい。責任は……全部僕が負います。だから、皆さんには僕の我が侭に、もう少しだけ付き合ってもらいます」

 

 彼自身、自分のやっていることが詭弁であり、彼女たちを再び血生臭い戦場へ引きずり込む身勝手な行いであることは自覚している。それでも、友人と彼女たちを確実に地球へ生還させるためには、共に戦うという選択肢以外に道はなかった。

 

「よーし、決まり! それじゃあ、アタシらのアストレイもいつでも出撃できるように、OSの最終調整をやっちゃおっか!」

 

 マユラがパッと腕を離し、意気揚々と格納庫の自機へと向かおうとした、その時だった。

 

 突如として、アークエンジェルの艦内に、血の凍るような第一級戦闘配備の警報が鳴り響いた。

 

『総員、第一戦闘配備! 繰り返す、総員、第一戦闘配備!』

 

 艦内放送から飛び出してきたナタルの声は、これまでにないほど切迫していた。

 

『本艦隊周辺宙域に、ザフトのMS部隊多数接近! パイロットは直ちに機体へ搭乗しろ!』

 

格納庫の空気が、一瞬にして凍りついた。

 

キラの予測した『最悪のシナリオ』が、一寸の狂いもなく現実のものとなったのだ。

 

「……本当に来ちゃったし」

 

 アサギが忌々しげに舌打ちをする。

 

「行くよ、アサギ、ジュリ!」

 

「ええ、私たちの命と、この艦を守るためにね」

 

 パイロットスーツに身を包んだ三人の少女たちが、それぞれの機体へと向かって弾かれたように駆け出す。

 

 キラもそれに続いてティエレン全領域対応型のコックピットへと向かった。

 

 オーブの理念を盾に連合の剣となる決意を固めた若き技術士官とパイロットたちは、再びその身を投じていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 原作において、この「低軌道会戦」は、地球連合軍にとってあまりにも一方的で残酷な惨劇として語り継がれるはずの戦いであった。

 

 圧倒的な機動力と火力を誇るザフトのMS部隊を前にして、連合軍の主力であるメビウスや旧態依然とした護衛艦艇は、文字通り殆ど手も足も出ないまま次々と宇宙の塵と化していった。

 

 ザフト側の最大の標的であるアークエンジェルは、第8機動艦隊司令デュエイン・ハルバートン提督の決断と許可を得て隊列を離れ、地球への降下シークエンスを開始した。

 

 第8艦隊は陣形を必死に立て直し、その莫大な質量と人命を文字通り「肉の盾」としてアークエンジェルを守り抜いたが、結果は全滅。

 

 連合の誇る艦隊は完全に壊滅し、旗艦メネラオスもまた、アークエンジェルを執拗に追撃し続けたローラシア級ガモフと大気圏の摩擦熱の中で刺し違え、業火に焼かれながら砕け散っていった。

 

 アークエンジェルもまた、降下シークエンスの極限状態の中でストライクとメビウス・ゼロを発進させ、必死の防衛戦を展開した。だが、たった二機の戦力でこの絶望的な低軌道会戦の大局にどれほど貢献できたかといえば、第8艦隊全滅という凄惨な結果を見れば火を見るよりも明らかであった。 

 

 しかし、この世界線においては、幾重にも重なった要因が、原作の絶望的な陣容を根本から覆していた。

 

 まず、地球連合軍の最高機密であるX-105ストライクの操縦桿を握るのは、民間人の少年ではなく、『エンデュミオンの鷹』の異名を持つエースパイロット、ムウ・ラ・フラガ大尉である。その背には、彼の類稀なる空間認識能力を極限まで引き出す凶悪な牙、ガンバレルストライカーが装備されていた。

 

 そして、本来その席に座るはずだったキラ・ヤマトは、ジャンク屋組合の仲間たちを海賊や盗賊から守る為に開発したティエレン・シリーズの最高水準の機体である『ティエレン全領域対応型』のコックピットに鎮座している。

 

 さらにキラは、アルテミス要塞でのアークエンジェル停泊期間の裏で民間ステーションから買い付けた3機のティエレンを指揮官機仕様に改造し、そのうち2機を無人制御の『ビットMS』として自機に随伴させていた。

 

 量子通信による完全なタイムラグ無しの無線操作。それは、キラという一人の規格外の天才が、単機で一個小隊以上の戦術的包囲網を敷くことを意味していた。

 

 アークエンジェルを彩る力は、それだけにとどまらない。

 

 カガリの護衛としてヘリオポリスに潜入していたアサギ・コードウェルは、ヘリオポリスのモルゲンレーテ社で極秘裏に新造されたこの世界にのみ存在する機体『ホワイトフレーム』を駆る。

 

 歴史の空白期に埋もれる筈だった『グリーンフレーム』には、キラの常軌を逸した設計思想の結晶である超大型追加兵装『アリュゼウスユニット』が組み込まれ、マユラ・ラバッツがその圧倒的な推力と火力を制御する。

 

 さらに、ジュリ・ウー・ニェンは、キラが個人的に所有・カスタムを施していたザフト製MSの魔改造機『高機動型ガンバレルジン』に搭乗。ジンという汎用機体の皮を被りながら、全方位攻撃を可能とする悪夢のような機体だ。

 

 そして、最も大きな運命の変化。キラと共にジャンク屋組合で週末のアルバイトに精を出し、ナチュラル用TC-OSを搭載したティエレンの操縦に慣れ親しんでいた平和な学生、トール・ケーニヒ。

 

 彼は、アークエンジェルで震える恋人・ミリアリアを守り抜くという強固な決意のもと、キラから託された『宇宙用ティエレン指揮官機仕様』に乗り込み、自らの意思で血塗られた戦場へと足を踏み入れていた。

 

 原作では、ストライクとメビウス・ゼロという、あまりにも心細く貧弱な戦力しか持たなかったアークエンジェル。

 

 だが今、この艦の格納庫には、所属も設計思想もバラバラな、しかし一機一機が戦局を左右しかねない怪物たちがひしめき合っていた。

 

 そして何より、キラとハルバートン提督の間で交わされた、「専守防衛」というオーブ軍の軍務規定の抜け穴を突いたギリギリの利害一致。

 

 これが、アークエンジェルの戦術教義を根本から変革した。原作のように旗艦メネラオスの横で「守られるべき箱」として息を潜めるのではなく、第8艦隊周辺宙域にザフトの接近警報が鳴り響き、艦隊が戦闘状態に突入したその瞬間──アークエンジェルは自らを「矛」として第一種戦闘配置を発令し、その腹に抱えた過剰なまでの艦載MS部隊を次々と虚空へ吐き出し始めた。

 

「ムウ・ラ・フラガ、ストライク、出るぞ!」

 

 最先発としてカタパルトを駆け抜けたのは、ムウのガンバレルストライクが前衛へと躍り出る。

 

「キラ・ヤマト、ティエレン、行きます!」

 

 それに続くのは、キラのティエレン全領域対応型。重装甲の威容からは想像もつかない俊敏な機動でムウのストライクに続き、その左右には量子通信で完全に同期された2機のビットティエレンが、まるで本体の影法師のように不気味なほどの無音の編隊を組んで随伴していく。

 

「アサギ・コールドウェル、ホワイトフレーム、出るわよ!」

 

「ジュリ・ウー・ニェン、ガンバレルジン、発進します!」

 

「トール・ケーニヒ、ティエレン、行きますッ!」

 

 次に射出されたアサギの流麗なホワイトフレーム、ジュリの高機動型ガンバレルジン、そして緊張に顔を強張らせながらも決意に満ちたトールの宇宙用ティエレン指揮官機仕様は、艦を離れると即座に陣形を広げ、アークエンジェルの周囲を分厚く覆う直掩の防衛線を構築した。

 

 そして、最後発。

 

 アークエンジェルの前面格納庫、巨大な装甲ハッチが重々しい駆動音とともに開け放たれる。その機体は通常のMSよりも巨体サイズゆえに、通常のリニアカタパルトを使用することすら不可能だった。

 

「マユラ・ラバッツ、アリュゼウス、ぶっちぎるよぉッ!!」

 

 暗黒の宇宙空間を、目を焼くような極彩色のプラズマの閃光が切り裂いた。

 

 マユラの駆るグリーンフレームを核とし、巨大な『アリュゼウスユニット』が、シェルフノズルのプラズマエンジンユニットを最大出力で咆哮させる。

 

 その機動性は、巨大な見た目を完全に裏切る異常なものだった。強烈なGにマユラが歓喜の悲鳴を上げる中、アリュゼウスは一瞬にしてアークエンジェルの防衛線を置き去りにし、圧倒的な加速力であっという間に先行するムウのストライクとキラのティエレンの背中へと追いつき、最前線の鋒矢へと並び立った。

 

 それはもはや、逃げ惑う敗残艦の姿ではない。

 

 地球連合、オーブ、ザフト、そしてジャンク屋の技術の結晶が混然一体となった異形の独立部隊が、迫り来るクルーゼ隊の殺意を真っ向から粉砕すべく、漆黒の戦場へとその巨大な顎を開いた瞬間であった。

 

 

 

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