やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
地球連合宇宙軍の最大拠点であり、反攻の要衝たる月面プトレマイオス基地。
静寂なはずの月の地下に掘り抜かれた広大な工廠エリアは今、かつてない熱気と金属の咆哮、そして眩い溶接の閃光に包み込まれていた。
巨大な生産ラインを流れていたのは、これまで連合宇宙軍の主力として大量生産され、そしてザフトのMS『ジン』の前に無惨な的として散っていったMA『メビウス』……ではない。
連合宇宙軍上層部は、進行中だったメビウスの生産ラインを即座に全面凍結。ある全く新しい機体の建造へとリソースを注ぎ込んでいた。
その機体のベースとなったのは、「エンデュミオンの鷹」と謳われるエースパイロット、ムウ・ラ・フラガの愛機『メビウス・ゼロ』である。
元来、有線式機動兵装である「ガンバレル」を自在に操るためには、先天的で極めて特異な『高い空間認識能力』が不可欠だった。それがメビウス・ゼロが量産化されず、連合軍が凡庸なメビウスで数を補うしかなかった最大の理由である。
しかし、アークエンジェルからもたらされたガンバレルストライカーの運用データと『TC-OS』の導入が、その絶対的だった常識の壁を木っ端微塵に粉砕した。
特殊な才能を持たないごく一般的なパイロットであっても、数時間のシミュレーター訓練さえ積めば、4基のガンバレルをまるで自分の手足の延長であるかのように、同時かつ立体的に展開・操作することが可能となったのである。
次々とラインからロールアウトしていくその機体は、もはやメビウス・ゼロと呼ぶことすら相応しくない、全く別の獰猛な進化を遂げていた。
機体後部に十字型に配置されていたガンバレルは「X字」の配置へと変更されている。そして、そのガンバレル一つ一つに施された改修こそが、この機体の真の牙だった。
かつては実体弾を吐き出すだけだった砲塔には、小型化された高出力のビーム砲が内蔵され、さらに接近戦において敵機の装甲を容易く切り裂く『ビームエッジ』の発生器までが組み込まれていた。
主武装である機体下部のリニアガンも、単装から二連装へと増強され、純粋な火力においてすらザフトのジンを凌駕する威容を誇っている。
制式名称、新型次世代MA『エグザス』。
モビルスーツという人型の汎用兵器の台頭によって、旧態依然の時代遅れと烙印を押され、宇宙のデブリと化す運命にあったモビルアーマー。
しかし今、規格外のOSという「脳」と、ビーム兵器という最強の「牙」を与えられたエグザスは、MSに対抗し得る……いや、MSを四方からの不可視のオールレンジ攻撃によって一方的に蹂躙し、狩り立てるための新たな翼として新生した。
モビルスーツだけが、宇宙の覇者ではない。
冷たい月面の地下深くで産声を上げる無数のエグザス。
その機体の連なりは、劣勢に立たされていた地球連合宇宙軍が、再び宇宙の主役の座に返り咲かんとする、恐るべき執念と反撃の狼煙そのものであった。
眼下のラインを次々と流れていく真新しい鋭角的な機体の群れを、第8機動艦隊司令にして「G兵器開発計画」の発起人であるデュエイン・ハルバートン提督は、防音ガラス越しに腕を組みながら見下ろしていた。
その厳格な顔つきに浮かんでいたのは、何とも形容しがたい、極めて複雑な心境だった。
開戦前から、「これからの戦局はモビルスーツが支配する」と看破していたハルバートンは、早期から地球連合製MSの開発と配備の必要性を上層部へ訴え続けてきた。
だが、保守的な軍上層部は「人型の兵器など非効率の極みだ」と彼の言葉に耳を傾けず、計画は一部の理解ある議員からの支援を受けて、細々とスタートさせるしかなかった。
事態が動いたのは開戦後である。ザフトのMSを前に連合の部隊が一方的な大敗を喫し、血を吐くように戦線を後退させていく無惨な現実を突きつけられて、ようやく重い腰を上げた上層部からの正式認可が下り、G兵器開発計画は日の目を見たのだ。
(だが、運命というのは実に皮肉なものだ)
ハルバートンは小さく息を吐いた。
ヘリオポリスでのザフト強襲により、完成した5機のうち4機ものGがクルーゼ隊に奪取された。
唯一残された『ストライク』は、そのパイロットとなったムウ・ラ・フラガの特性を最大限に発揮させるため、メビウス・ゼロを転用した『ガンバレルストライカー』というイレギュラーな装備で運用されることとなった。
そして、そのガンバレルストライクが蓄積した貴重な戦闘データ。それが巡り巡って生み出したのが、眼下で産声を上げているMA『エグザス』である。
高出力のビーム兵器と、TC-OSの恩恵による誰にでも扱えるオールレンジ攻撃。
ガンバレルストライクが見せた戦闘データは、ザフトのジンを一方的に屠るどころか、エースパイロットが搭乗さえしていれば、あの奪取されたG兵器群を相手にしても互角以上に渡り合えるという、恐るべきポテンシャルを証明してしまった。
その結果として、完全に終わったはずの「MAの時代」が、宇宙で再び幕を開けようとしている。
連合製MSの推進者であるハルバートンの立場からすれば、これほど自らの先見性とドクトリンを根本から覆される事態はない。MSこそが次世代の主役だと信じて疑わなかった自分が、MAの劇的な復権を目の当たりにしているのだから、複雑な思いを抱かない方が嘘になる。
だが──ハルバートンの厳めしい口元は、やがて柔らかく、安堵に満ちた笑みの形に歪んだ。
「……構わんさ。それで明日の戦局が変わり、若者たちが生き残れるというのならばな」
彼はMSの開発推進者である以前に、前線で命を懸ける将兵たちを預かる、第8艦隊の提督であった。
メビウスに乗り込み、「空飛ぶ棺桶」と自嘲しながら、成す術もなくジンのライフルに撃ち落とされていく部下たちの姿を、彼はこれまで幾度となく、血の涙を流す思いで見送ってきた。
貴重な、そして未来ある若きパイロットたちが、兵器の性能差という残酷な現実の前に無惨に散っていく。指揮官として、それほど辛く苦しいことはなかった。
部下たちが無駄死にすることなく、この頼もしい「新たな翼」を得て、再び誇り高く宇宙を飛び、ザフトのMSと対等に渡り合えるというのならば、それ以上に喜ばしいことはないではないか。
彼が提唱した「MS至上主義」が一時的に後退し、MAが復権を果たしたかのように見える現在の状況であっても、ハルバートンが心血を注いだ連合製MS開発計画──『G兵器開発計画』が決して無駄ではなかったことは、誰の目にも明らかだった。
もし、ハルバートンの強固な意志と政治的立ち回りがなく、計画そのものが立ち上がっていなければ、『ストライク』は歴史に名を刻むことはなかった。
ストライクが存在しなければ、ムウ・ラ・フラガの特性を引き出すための『ガンバレルストライカー』も考案されず、その戦闘データをフィードバックして生まれた『エグザス』がこの宇宙を飛ぶことも永遠になかったのだ。
全ての起点は、ハルバートンの「次世代の戦場にはMSが必要である」という確固たる信念にあった。
それに、宇宙空間においてMAが復権を果たし、ザフトの『ジン』や『シグー』に対抗しうる力を得たとしても、地球という重力下に縛られた戦場──すなわち『重力戦線』においては、話は全く異なってくる。
宇宙用の高機動MAでは、大気圏内の空気抵抗と重力という足枷の中で戦闘を行うことは不可能だ。
そして、現在連合軍の地上戦力の中核を成しているリニアガン・タンクは、ザフトの地上専用四脚MS『バクゥ』の圧倒的な機動力と火力の前に、ただの「無力すぎる的」として蹂躙され続けてきた。
ユーラシア連邦がジャンク屋組合とライセンス契約を結び、大量生産・配備を行っている『ティエレン』の登場によって、ようやく地球軍は重力戦線において防衛線を構築し、ザフトの侵攻を泥臭く食い止めることができるようになった。
しかし、あの機体にも致命的な欠陥がある。その重装甲と引き換えにした「鈍亀」と揶揄されるほどの劣悪な機動性だ。
ティエレンは陣地防衛や拠点制圧には無類の強さを発揮するが、流動的な戦局に対応する機動戦には決定的に不向きなのだ。
その弱点を補い、バクゥやディンといったザフトの高機動機を打倒するためには、やはり純粋な「高機動MS」が必要不可欠となる。
つまり、地球圏全体の戦局を俯瞰した時、G兵器開発計画が目指した『汎用人型兵器』は、いまだ絶対的な価値を失ってはいない。
その証拠に、プトレマイオスの工廠の片隅、エグザスの大規模な生産ラインに押しやられながらも、確かな熱量を帯びて稼働し続けている区画があった。
そこでは、モビルスーツ用の複雑なパーツが精密な工程を経て製造されていた。
ハルバートンの政治的交渉によって、極めて限定的ながら「少数生産」の枠をもぎ取ったそのラインで組み上げられていたのは、強奪されたXナンバーの機体群だった。
一つは、最もベーシックなX100系フレームを採用し、純粋な白兵戦と汎用性に特化した『デュエル』。
もう一つは、同じくX100系フレームを共有しながらも、後方からの超長距離砲撃と支援に特化した『バスター』。
共通の基礎フレームを持ちながら、役割が明確に分担されているこの2機。
ハルバートンがこの2機種の少数生産にこだわったのは、低軌道会戦において、彼自身が「MS同士の極限のドッグファイト」をその目で目撃したからこその、冷徹な備えであった。
確かに、エグザスはその圧倒的な機動性と高火力のビーム兵器、そしてTC-OSにサポートされたオールレンジ攻撃によって、ザフトのジンを一方的に屠る能力を持っている。
しかし、限定空間においては四肢を用いたAMBACと、人型ゆえの異常なまでの小回りの良さは、依然としてMAには決して真似のできない、MSだけの絶対的な強みだった。
◇◇◇
大西洋連邦が『G兵器開発計画』の裏で、その技術をフィードバックさせる形で密かに並行開発を進めていた次期主力量産型モビルスーツ──『ダガー』シリーズ。
G兵器の最大の特徴とも言えるフェイズシフト装甲は、ザフトのモビルスーツが標準装備する実体弾や実体剣による物理攻撃を完全に無力化する、まさに画期的かつ無敵の装甲であった。
しかし、兵器としての『量産化』という現実的な視点に立った時、PS装甲はあまりにも致命的な欠陥を抱えていた。一つは製造コスト。そしてもう一つは、劣悪なエネルギー効率である。
PS装甲は起動しているだけで機体のバッテリー電力を常時消費し続け、いざ被弾して衝撃を相殺する際にはさらに電力を瞬間的にバカ食いする。そこに加えて、高出力のビーム兵器を駆動させるのだから、機体の稼働時間は実戦において極端に短くならざるを得ない。
故に、大西洋連邦の技術陣は一つの冷徹な決断を下した。
量産型であるダガーシリーズには、絶大な火力となる『ビーム兵器』の標準搭載は維持しつつも、継戦能力の確保とコストダウンを優先し、フェイズシフト装甲の採用を完全に見送ったのである。
そのダガーシリーズの系譜は、戦局の逼迫により本来の設計を削ぎ落としてロールアウトされた戦時急造の簡易量産機『ストライクダガー』だけにとどまらない。
本来の計画における真の主力量産機であり、ストライカーパックシステムに完全対応することで、あらゆる局地戦への極めて高い適応能力を誇る『105ダガー』。
砲撃戦特化型G兵器であるバスターの設計思想を量産機として完璧に落とし込んだ、後方支援の要『バスターダガー』。
ダガーシリーズの系譜の中で最も初期に組み上げられ、当初は皮肉にもコーディネイター用OSを搭載しての運用がされていた『ロングダガー』。
そして、そのロングダガーをベースに、大西洋連邦純正のナチュラル用OSを搭載する予定で設計された白兵戦用量産機『デュエルダガー』。
ムルタ・アズラエルという一人の権力者の冷徹な決断と大号令によって、これらすべてのダガーシリーズの機体に、大西洋連邦製の出来損ないのOSに代わり、オーブの少年がもたらした奇跡のソフトウェア『TC-OS』がインストールされた。
本来であればOSの不備によって性能の半分も引き出せなかったはずの機体群はこの瞬間、ナチュラルのパイロットの意思に完璧に追従し、ビーム兵器を正確無比に操る『最凶の猟犬』へと一斉にその姿を変えたのである。
さらに、軍上層部と開発陣は歩みを止めなかった。
基礎ポテンシャルの高い白兵戦用機体であるロングダガーとデュエルダガー。
この2機には、ヘリオポリスでザフトに奪取された『デュエル』が、実戦で装備して現れた追加装甲『アサルトシュラウド』の交戦データを徹底的に解析・参考にした、専用の増加装甲システム『フォルテストラ』の開発と実装が急遽決定された。
装甲の脆弱性を補い、重装甲と追加火力を纏うことで、戦線を強行突破する重装歩兵としての役割をも獲得しようとしていた。
これらの新型機群が優先的に配備されたのは、赤道直下に位置し、地球から宇宙への物資輸送の生命線であるマスドライバー施設を有する戦略的要衝──『パナマ基地』であった。
地球連合軍の宇宙への大動脈であるマスドライバー。
そのうち、東アジア共和国に位置するカオシュン宇宙港と、アフリカ共同体に位置するビクトリア宇宙港は現在、ユーラシア連邦がジャンク屋組合からライセンス生産した重装甲MS『ティエレン』の大部隊を泥臭く張り巡らせることで、ザフトの猛攻からその防衛線を維持していた。
大西洋連邦としては、ユーラシア連邦のティエレン部隊が他地域のマスドライバーを泥臭く支え、同盟陣営内での発言力を日に日に強めている現状を、ただ指をくわえて見ているわけにはいかなかった。
だからこそ、大西洋連邦の完全な膝元であり、彼らの絶対的な聖域であるパナマ基地だけは、何としてでも、意地にかけても自国の最新鋭機で守り抜かなければならない。
大西洋連邦の威信と、アズラエルの冷徹な算盤。そしてTC-OSという完璧な頭脳を与えられた鋼鉄の猟犬たちは、来るべきザフトの降下部隊を真っ向から迎え撃ち、その悉くをビームの光条で焼き尽くすべく、パナマの地に静かに、しかし暴力的なまでの密度で集結しつつあった。
◇◇◇
キラたちをオーブ本国へ帰還させるための「迎え」は、地球上の空や海からではなく、宇宙から訪れることとなった。
無理からぬことである。彼らが何としても祖国オーブへと持ち帰らねばならない「手土産」は、あまりにも大所帯であるからだ。
キラの私有機であり、彼自身の専用チューンが施されたティエレン全領域対応型。そのビットMSである宇宙用ティエレン指揮官機仕様3機と高機動型ガンバレルジン。
ヘリオポリスから持ち出したホワイトフレームとグリーンフレーム。
総計7機にも及ぶモビルスーツの群れ。
去年のクリスマス・イブに自国製MS『M1アストレイ』の量産配備を内外に公表したばかりのオーブには、これほどまでの数のMSを一括で搭載し、安全に運搬できるような大型の空中輸送機や海上輸送艦はまだ存在していなかった。
故に、唯一この数のMSを丸ごと収容できるだけの格納庫を持ち、ヘリオポリスやオーブが所有する軌道ステーション『アメノミハシラ』との連絡輸送を担う、宇宙艦『イズモ級』をおいて他になかった。
その同型艦の中でも、ヘリオポリスとの連絡船として運用されていた『クサナギ』が、今回の極秘回収任務の迎えとして抜擢されたのだ。
そのクサナギとのランデブーを果たすため、キラたちはアラスカから大西洋連邦の絶対的防衛線であるパナマ基地へと移動していた。
アズラエルとの間で交わされた契約の「副産物」とも言うべき地球軍の全面的な手配により、パナマの空へ向けて長く伸びる巨大なマスドライバー施設が彼らのために用意された。
本来ならば月面基地などへの物資輸送に用いられる巨大な輸送シャトルが2機。その貨物区画に7機のMSを積載し、キラをはじめとするオーブの少年少女たちを乗せたシャトルは、轟音と共にレールを駆け上がり、地球の重力を振り切って飛翔した。
◇◇◇
合流予定ポイントへと到達し、メインスラスターの推進光が静かに落ちた時、シャトルに張り詰めていた緊張が一気に解けた。
「……あ、いた! オーブの艦だ!」
光学センサーが捉えた巨大な艦影がモニターに映し出された瞬間、トール・ケーニヒはコンソールにすがりつくようにして声を上げ、心の底からの安堵の息を吐き出した。隣ではサイやカズイ、ミリアリアも、顔を見合わせて肩の力を抜いている。
無理もないことだった。ヘリオポリスが襲撃されたあの日から、彼らは常に死と隣り合わせの地球軍の軍艦に乗り込み、己の意志とは無関係に血生臭い戦線をたらい回しにされてきたのだ。
母国オーブの艦影は、彼らにとって長く苦しい悪夢の終わりを告げる、間違いのない「救済」の象徴であった。
だが、モニターに映るそのシルエットを冷静に見つめていたキラ・ヤマトの瞳に、微かな、しかし決定的な違和感がよぎった。
(……イズモ級なのは間違いない。だけど──)
本来、ウズミ・ナラ・アスハ前代表が手配し、彼らを迎えに来るはずだったのは、ヘリオポリスとの連絡船としても運用されていた白と青の鮮やかなツートンカラーを持つイズモ級『クサナギ』であると事前に知らされていた。
しかし、彼らの眼前で圧倒的な威容を誇りながら接近してくるその巨大な戦艦は、宇宙の闇に溶け込むような深い漆黒の装甲を纏い、警戒色を思わせる鋭い黄色のラインが全身に走っていた。
イズモ級1番艦、ネームシップ『イズモ』。
その名と所属を脳内で照合した瞬間、キラの背筋に冷たいものが走った。
イズモは、オーブが所有する軌道ステーション『アメノミハシラ』を事実上の母港として運用されている艦だ。そして何より、アメノミハシラとこの艦を管轄しているのは、国家の影で独自の野心を燃やすサハク家である。
大西洋連邦のG兵器開発計画を裏で手引きし、モルゲンレーテの施設を密かに提供することで、結果的にヘリオポリスを戦火の渦に巻き込んだ最大の元凶。
ウズミが、自分たちをサハク家の息がかかった艦にわざわざ引き渡すような手配をするはずがない。
(何かの手違い……? いや、それともオーブ本国で、ウズミ様とサハク家の間で何か政治的な暗闘があったのか?)
キラの思考が高速で回転し、最悪のシチュエーションをいくつも演算していく。しかし、出せる結論は一つしかなかった。
ここは大気の存在しない、逃げ場のない宇宙空間である。彼らが乗っているのは、7機ものモビルスーツを詰め込んだ、武装を持たないただの輸送シャトルに過ぎない。
迎えの時間は分秒の狂いもなくピッタリと合致しており、相手から送られてくる識別信号も紛れもないオーブ国軍の正規コードである。クサナギではないという一点を除けば、移乗を拒否する正当な理由はどこにもなく、踵を返して逃げ出す推力も手段も残されてはいなかった。
キラはサイたちの手前、自身の内に渦巻く警戒と不穏な予感を腹の底へと沈め込み、移乗の為にシャトルの格納庫へと向かった。
漆黒の戦艦イズモの格納庫ハッチが開放され、シャトルの貨物区画から大掛かりな搬入作業が開始された。
合計7機にも及ぶ異形のモビルスーツ群が、次々とイズモの広大な格納庫へと下ろされていく。その光景は、一介の技術士官が持ち帰るにはあまりにも過剰で、凶悪な戦力であった。
イズモの冷たい金属甲板へと降り立ったキラを待っていたのは、安堵や歓迎の空気ではなかった。
整然と立ち並ぶサハク家配下の兵士たちと、彼らが向けてくる値踏みするような鋭い視線。
ここは間違いなくオーブの艦の中であるにもかかわらず、キラは敵地に単身で乗り込んだかのような、息の詰まるような圧倒的なアウェイ感を感じ取っていた。