キラ・ヤマトになってしまった…   作:星乃 望夢

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PHASE-45 空の答え

 

「なんだよおおお!! またかよぉぉぉ!! もおおおおお!!!!」

 

 アメノミハシラに用意された、王族すら滞在できそうなほどの豪奢なVIPルーム。

 

 アンティーク調の高級な調度品にも、間接照明が照らし出す上品な空間にも一切目もくれず、キラは最高級のシルクが使われたふかふかのベッドへ顔面からダイブし、二度目となる魂からの悲鳴を炸裂させた。

 

 アズラエルとの会談を終え、アークエンジェルの自室でベッドに突っ伏したのがつい先日のこと。

 

 そこから輸送シャトルに揺られ、ついに安全なオーブの艦で一息つけると思いきや、待ち受けていたのは「オーブの影の支配者」とのサシの会談と、悪魔の盟約の締結である。

 

「無理! もう本当に無理! アズラエルの次はミナ様!? なんで僕、この世界の裏ボスみたいな人たちとばっかりエンカウントしてサシで立ち回んないとならないの!? 致死量! ストレスの致死量超えてるよぉ!!」

 

 キラは極上のシーツに顔を押し付けたまま、手足をバタバタとジタバタさせて芋虫のようにベッドの上をのたうち回った。

 

 先ほどまでロンド・ミナ・サハクに一切の怯えも見せず、国家の命運を懸けた大望を語ってのけた『冷徹な技術将校』の仮面は、今や木っ端微塵に砕け散っていた。

 

 彼の本音は、極めてシンプルかつ切実だった。

 

(どうして……どうしてこうなったの……っ! 僕はただ、平和に、ぐうたら、のんびりと暮らしたいだけなのに!!)

 

 そう。彼が欲しているのは、世界を統治する覇権でもなければ、歴史に名を残す英雄の座でもない。

 

 戦争が終わった後、安全な場所で誰にも脅かされることなく、三食昼寝付きの平和なぐうたらライフを愛する友人達と満喫すること、ただそれだけなのだ。

 

 しかしその為にこんなにも様々な過酷な状況に放り込まれるとは露にも思わなかった。

 

 できることを、できる範囲でやろうとしただけなのだ。

 

(なのに、なんで次から次へと綱渡りの極限交渉しなくちゃならないんだよぉぉ!)

 

 涙目になりながら、キラは脳内で本来の『キラ・ヤマト』の歩んだ軌跡と、現在の自分の歩んでいる軌跡を比較して絶叫した。

 

 原作のキラは、泣きながら戦って、OS作って、親友と殺し合って、フリーダムに乗って大立ち回りをした。

 

 確かに肉体的・精神的なハードさは尋常ではなかったが、基本的には『パイロット』としての苦労である。

 

 それに比べて今の自分はどうだ。

 

 なんで戦場でMSのパイロットをしながら皆が生き残れるように兵器開発を並行する傍ら、裏では軍産複合体のトップや影の軍神との寿命が縮む舌戦をしなければならないのか。

 

 ジャンルが違う。ロボットアニメではなく、命懸けの政治・経済・企業買収シミュレーションに迷い込んでいる。

 

 扱いの理不尽さに、声を大にして叫びたい衝動に駆られる。

 

 自分が『ただの学生』から、いつの間にか『世界の命運を握る軍産複合体の黒幕』のような立ち位置にスライドしている事実に、キラは頭を抱えた。

 

「ああああ……もうやだ……明日はアメノミハシラの技術部とアストレイの仕様調整のミーティングだ……休めない……全然ぐうたらできない……」

 

 最高級のベッドの上で完全に力尽き、シーツにくるまって丸くなったキラ。

 

 最高級のシーツに顔を埋めながら、その脳裏を占めていたのは、遠く離れたプラントにいる一人の少女──ラクス・クラインの姿だった。

 

 キラがそもそも『TC-OS』を開発した最大の動機。

 

 それはひとえに、水面下でクライン派を纏め上げ、やがて来るべき大戦に備えて巨大な秘密ネットワーク組織『ターミナル』を構築しようとしている彼女を、莫大な「資金面」で支えるためであった。

 

 平和を望む彼女が独自の軍事拠点や情報網を維持するためには、綺麗事だけでは済まない。当然として金が必要となる。

 

 それを、地球連合にもザフトにも属さない『第三の立場』から合法かつ安全に調達する手段。それが、民間への技術供与という形をとったOS開発の始まりだった。

 

 同時に、そのOSの恩恵を最も受ける機体としてキラが設計に携わった『ティエレン』も、本来は戦争のための兵器ではなかった。

 

 あれはあくまで、ロウ・ギュールたちジャンク屋組合の仲間が、無法地帯の宇宙で海賊や盗賊から「身を守るためだけ」に開発されたMSである。

 

 だからこそキラは、MSとしては致命的とも言える『鈍重な機動性』という弱点を抱えるティエレンを選んだ。

 

 機動性がなければ、他国へ攻め入るための侵攻兵器としては到底使い物にならない。しかし、陣地に留まって味方を庇うための『堅牢な重装甲』と、素人でも扱える『TC-OS』の組み合わせは、自衛という一点においてのみ、他の追随を許さない絶対的な防衛力を発揮する。

 

 絶対に戦争の主役にはなれない、鈍亀の盾。

 

 ……そのはずだった。

 

 それが、ザフトの猛攻に喘いでいたユーラシア連邦の目に留まり、あろうことか『主力機』としてライセンス生産され、重力戦線を支える要として大量配備されるに至ったのは、キラにとっても完全に想定外のバグであった。

 

 そして、アラスカでアズラエルから引き抜きを受け、逆に大西洋連邦の首根っこを掴んでライセンス契約をもぎ取ることになるとは。

 

 結果として、オーブの国庫とキラの個人口座には一生かかっても使い切れないほどのアガリが転がり込んだ。

 

 資金面での目標は、これ以上ないほど完璧に、そして過剰に達成されたのである。

 

 ならば、なぜキラはサハク家のミナと手を組む必要があったのか。

 

 資金が潤沢にあるのなら、そのままウズミの庇護下で技術支援に徹していればよかったはずだ。

 

 その答えは、彼が知る『本来の歴史』における、あの地獄のような第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の記憶にある。

 

 あの時、三隻同盟は確かに、地球軍とザフトという狂気に満ちた二大勢力の横っ面を殴りつけ、核攻撃を阻止し、最終的にジェネシスを破壊するという奇跡を成し遂げた。

 

 だが、それはあまりにもギリギリの、薄氷を踏むような勝利だったのだ。

 

 たった三隻の艦。

 

 戦力となるMSの数は絶望的なまでの少数。

 

 ミーティアという圧倒的な戦術兵装があったとはいえ、キラのフリーダムとアスランのジャスティスは、地球軍の放つ無数の核ミサイル群の迎撃と、ジェネシスという巨大すぎる標的の破壊にそのリソースのすべてを割り振らなければならなかった。

 

 結果として、母艦の直掩に残されたのは、ストライク、バスター、そしてクサナギのM1アストレイのみ。

 

 彼らは、押し寄せる地球軍とザフトの無数のMS群を相手に、文字通り血反吐を吐きながら踏ん張り続けた。

 

 機体はボロボロに破壊され、致命的なダメージを負い、そして……多くの尊い命が、あの暗黒の宇宙で理不尽に散っていった。

 

(突出した個の力があっても守りきれない。絶対に取りこぼしが出る)

 

 キラはシーツを強く握りしめた。

 

 あの悲劇を、あの絶望的なリソース不足の戦場を、二度と繰り返すわけにはいかない。

 

 狂気に満ちた世界を力ずくで止めるための「抑止力」となるには、強大なバックアップ体制、自前の生産ライン、情報網、『組織力』が絶対に必要となる。

 

 だからこそ、キラはロンド・ミナ・サハクという劇薬を飲み込んだのだ。

 

 もし、あの場に現れたのが、ミナの双子の弟であるロンド・ギナ・サハクであったなら。

 

 キラは「我が軍門に下れ」という誘いを受けたとしても、首を縦には振らなかっただろう。

 

 同じ『オーブによる世界統治』という覇権主義の思想を共有してはいるものの、この時期のギナはあまりにも極端すぎた。己の野望と『ゴールドフレーム天』の力に溺れ、残虐性と傲慢さの塊と化していく男。

 

 そんな破滅型の独裁者に、キラが与する道理はない。

 

 だが、ロンド・ミナ・サハクは違った。

 

 彼女は、ギナと同じ苛烈な思想を口にしながらも、決して『人としての理性』を失ってはいない。

 

 オーブ本国が戦火に焼かれた際、彼女はサハク家の持つリソースを割いてまで避難民をアメノミハシラへと受け入れ、保護する。

 

 自国民に対する「為政者としての責任と愛」を、その冷たい美貌の奥に確かに持っている相手なのだ。

 

 だからこそキラは、一世一代の大博打を打った。

 

 彼女の愛国心と合理性に賭け、自身の奥底にある『世界の横っ面を殴るための抑止力』という狂気の大望を、腹を割ってすべて曝け出した。

 

 ミナの抱く覇道と己の目的を強引にリンクさせ、なし崩し的に『一蓮托生』のもつれ合いへと引きずり込んだのである。

 

「はぁぁぁ…………」

 

 ベッドの上で、キラは肺の中の空気をすべて吐き出すような、特大の溜め息を漏らした。

 

 ひとまずは成功だ。これで、アメノミハシラの強大な軍事プラントとサハク家のネットワークは、キラのビジョンを実現するための最大のバックアップ組織として機能するだろう。

 

 ターミナルとサハク家という裏の二大巨頭を繋ぐ要石として、立ち回る準備は整った。

 

「あとは……ミナ様の『オーブによる世界の武力統治』っていう、物騒すぎる思想をどうにかしてソフトランディングさせなきゃならないんだけど……」

 

 オーブが覇権国家になれば、当然世界中から袋叩きにされる。

 

 あくまでオーブは「手を出せば破滅を約束されるハリネズミ」であり、「喧嘩を止めるための用心棒」でなければならない。

 

 その認識のズレを、彼女のプライドを傷つけないように、時間をかけて少しずつ、気づかれないように修正していく必要がある。

 

「アズラエルの手綱を握りながら、ミナ様の思想改造って……僕、本当にただの学生だったはずなんだけどなぁ……」

 

 ぐうたらで平穏な日常への道程は、天文学的に遠のいた。

 

 しかし、あの悲劇のヤキン・ドゥーエで誰も死なせないための、そして遠い未来に立ちはだかるアコードたちを万全の態勢で迎え撃つための強固な盤面を構築する為には、やはりやれる事をやって行くしかないのだと、キラは己を取り巻いていく運命に両手を上げて降参する他なかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 重厚な扉を背に、ムルタ・アズラエルは深い溜息と共に首をゴキリと鳴らした。

 

「やれやれ。ようやく肩の荷が降りた気分ですよ。狂人の相手というのは、想像以上に肩が凝る」

 

 先程まで行われていた、軍需産業複合体『ロゴス』の最高幹部会議。

 

 大西洋連邦の威信を賭けた新造艦アークエンジェルにおいて、あろうことかコーディネイターの少年がパイロットとして戦闘を行っていたという事実確認。それ自体は軍部の査問委員会という大袈裟な政治パフォーマンスに任せておけば済む些事であった。

 

 だが、問題はその後だ。

 

 現在、大西洋連邦軍の主力量産機『ダガー』シリーズを一斉に稼働させ、戦局を劇的に塗り替える奇跡のソフトウェア『TC-OS』。

 

 その開発者本人が、他ならぬ件のアークエンジェルに乗艦していたコーディネイターの子供であるという情報を、一体どこから嗅ぎつけてきたのか。

 

 ロード・ジブリールは、さながら中世の異端審問官か、魔女狩りに熱狂する狂信者のような顔つきで、アズラエルを声高に糾弾したのだ。

 

『青き清浄なる世界を汚す化物と手を結ぶなど、言語道断! 貴様は我らナチュラルに対する裏切り者だ!』

 

 顔を真っ赤にし、飛沫を飛ばしながらヒステリックに机を叩くジブリールの姿を思い出し、アズラエルは鼻で笑った。

 

 確かに、アズラエル自身もコーディネイターという存在は毛嫌いしている。だが、彼はそれ以前に、絶大な利益と勝利を齎す手段を正確に秤にかけることができる、極めて冷徹な「ビジネスマン」である。

 

 しかし、ジブリールを筆頭とする一部の連中の思想は、もはやイデオロギーや狂気を通り越して、治療不可能な『病気』の域に達していた。

 

 人間というのは面白い生き物で、自分がどれほどパニックに陥っていても、目の前で「自分以上に狂乱し、喚き散らすヤバい奴」を見ると、スッと憑き物が落ちたように冷静になるものである。

 

 自身の感情の暴走を客観視させられ、逆に相手の異常なパニック状態を理路整然と分析し始めてしまう、あの心理現象だ。

 

 唾を飛ばして自分を弾劾するジブリールの醜態を冷ややかに眺めながら、アズラエルはあっさりと、そして極めてスマートにこう告げたのだった。

 

「──そこまで仰るのなら、どうぞ。こんな面倒な椅子、貴方方に差し上げますよ」

 

 あっけにとられる幹部たちを尻目に、アズラエルは『ブルーコスモス盟主』という、一部の狂信者たちにとっては神聖不可侵な王座を、まるで使い古したティッシュでも捨てるかのようにジブリールへと明け渡してみせたのだ。

 

 今頃、あの豪奢な会議室で念願の椅子に座り、その座り心地と手に入れた権力の感触に悦に入っているのだろう。

 

「だから君は、一生三流の小物なんですよ、ジブリール」

 

 アズラエルは部屋に響き渡るほどの失笑を漏らした。

 

 ジブリールは今、大西洋連邦のMS部隊を文字通り『動かしている』、あのTC-OSの権利の所在がどこにあるのかを完全に忘れている。

 

 もし本当に忘れているのなら底無しのバカであり、わかっていてあんな三文芝居の糾弾をやっているのなら、突き抜けたアホとしか言いようがない。

 

 あのオーブの食えない少年、キラ・ヤマトが提示してきたライセンス契約。

 

 その絶対的な権利書に署名し、所有しているのは、大西洋連邦政府でも地球連合軍でもない。ましてやアズラエル財団ですらない。

 

 『ムルタ・アズラエルという一個人の名義』なのだ。

 

 アズラエル個人がキラ・ヤマトと契約を結び、その強大な権利を『アズラエル財団』を通じて大西洋連邦軍へ『貸し出している』という、極めて迂遠で、しかし法的に完璧なプロセスを経て、ダガーシリーズにTC-OSは実装されている。

 

 アズラエルが指先一つで契約の更新を停止すれば、明日から大西洋連邦のダガー部隊は、ただの鉄屑の案山子と化す。

 

 高い金を払って莫大な権利を運用する以上、自身を守るための防壁としてこれほどの悪知恵を働かせ、システムに首輪をつけておくのも、出来るビジネスマンとしての当然の鉄則である。

 

 結果としてどうなったか。

 

 アズラエルからTC-OSの供給を止められれば戦争に負ける軍部は、絶対にアズラエルを裏切れない。

 

 よって、『大西洋連邦・国防産業連合理事』としての地位は岩盤のように盤石。さらに、軍需産業に莫大な利益をもたらし続ける以上、『ロゴス代表』としての王座も揺らぐことはない。

 

 世界を動かす軍需産業複合体のトップという椅子は、どれほど声高に「青き清浄なる世界」などというイデオロギーやスローガンを叫んだところで、帳簿の上の『数字』と『実権』を持たぬ者には、絶対に座ることのできない冷酷な席なのだ。

 

 つまるところ、アズラエルはこの一連の騒動を利用して、完璧な『損切り』を行ったのである。

 

 かつては民衆の支持を集め、戦争を推し進めるための方便として利用価値のあったブルーコスモス。

 

 だが今や彼らは、損得勘定を完全に無視し、現場の暴走を引き起こしてプラントへ核攻撃さえ行う、ただの危険な火薬庫へと成り下がっている。

 

 アズラエルにとって、もはや邪魔な負債でしかなかったのだ。

 

 その発火大爆発が約束されている『ブルーコスモス盟主の地位』を、ジブリールという見栄っ張りの馬鹿に喜んで押し付け、自身は『軍需産業複合体ロゴス代表の地位』と『軍の実権』だけを綺麗に切り離して手元に残す。

 

「これだから、ビジネスは辞められない」

 

 アズラエルは上機嫌で座った椅子の背もたれに身を預けた。

 

 狂信者たちが泥沼の思想戦に溺れていくのを高みの見物と決め込みながら、自分はあのオーブの少年が用意してくれた『最高のシステム』を使って、より実益と戦後経済を求めて算盤を弾く。

 

 大西洋連邦の真の支配者は誰なのか、それを理解していない哀れなピエロを会議室に置き去りにして、アズラエルは次なるビジネスへと思考を巡らせた。

 

 

◇◇◇

 

 

「サハクめ。流石に手が早い」

 

 オノゴロ島の行政府庁舎、その執務室のバルコニーから、どこまでも高く澄み渡るオーブの蒼穹を見上げながら、ウズミ・ナラ・アスハは忌々しさと感嘆の入り混じった重い息を吐き出した。

 

 海風が彼の白髪を揺らすが、その胸の内に渦巻く焦燥と政治的な暗雲が晴れることはない。

 

 アラスカという大西洋連邦の最深部から、苛烈な戦火を生き延びたオーブの子らを無事に祖国へと迎え入れる。

 

 その最重要任務を帯びて手配されたのは、ヘリオポリスとの連絡船としての実績を持つイズモ級戦艦『クサナギ』であった。ウズミの息がかかった、最も信頼のおける艦とクルーたちである。

 

 しかし、いよいよ軌道上へ向けてマスドライバーから発進しようというその直前、まるで計ったかのようなタイミングで「主機電装系のトラブル」が報告されたのだ。

 

 無論、すぐに技術班が投入されたが、完全な復旧と安全確認には数日を要するという絶望的な報告が上がってきた。

 

 衛星軌道上で待つ輸送シャトルとのランデブーには、厳密なタイムスケジュールが組まれており、分秒の遅延すら許されない。ましてや、真空と極低温に支配された宇宙空間という過酷な環境において、些細な電装系の異常を「この程度ならば」と無視して発進すれば、艦の喪失という取り返しのつかない大事故に直結する。

 

 それは、宇宙航行における絶対的な鉄則であり、だからこそ「これ以上追及のしようがない、完璧に仕組まれた足止め」であった。

 

 となれば、オーブが取り得る選択肢は一つしかない。

 

 スケジュールに穴を開けず、確実に宇宙でMS群と人員を収容できる艦艇。必然的にお鉢が回ってくるのは、クサナギと同型艦であるイズモ級1番艦『イズモ』であり、それを管轄しているのは軌道ステーション『アメノミハシラ』――つまりは、オーブ五大氏族の中でも軍政の暗部を握るサハク家ということになる。

 

 ウズミは背に腹は代えられないという苦渋の決断を下した。今は一刻も早く、オーブの未来を担う彼らを大西洋連邦の監視下からオーブの手の中へと迎え入れることが最優先である。

 

 ウズミは直ちにアメノミハシラへとイズモの出港を打診した。

 

 結果として、キラたちは本来の迎えである温かなクサナギではなく、冷酷なる覇道を歩む漆黒のイズモに迎え入れられ、そのままウズミの管轄外であるアメノミハシラへと入港してしまった。

 

 そして、事態はウズミの懸念した通り、いや、それ以上の速度で政治的な動きを見せた。

 

 翌日。オーブ議会の水面下で紛糾していた一つの議題があった。

 

「緊急避難的な措置であったとはいえ、中立国オーブの軍人が地球軍の軍艦に乗艦し、あろうことかMSのパイロットとしてザフト軍の正規部隊と交戦した事実」を、国家としてどう処遇するかという問題である。

 

 表向きは厳しく糾弾せざるを得ないこの事案に対し、驚くべきことに、日頃から強硬な軍事路線を主張し、規律に厳しいはずのサハク家が率先して「その是非を認め、一切のお咎めは無しとする」という方向で議会をまとめ上げ、強引に決着させてしまったのだ。

 

 キラ・ヤマトという少年の立ち位置は、ここ数ヶ月で劇的な変貌を遂げていた。

 

 当初、彼がウズミへとTC-OSを売り込み、M1アストレイを完成に導いた際は、あくまで「コーディネイターの少年が祖国の脆弱な軍備を憂い、自らの知能を以て国防の柱を用立ててくれた」という、涙ぐましい愛国的な美談として処理されていた。

 

 その上、彼がウズミ・ナラ・アスハというオーブの絶対的な精神的支柱の厳重な保護・管理下にあったため、他の氏族たちもおいそれと彼に手を出そうとはしなかった。

 

 だが、状況は一変した。

 

 ウズミがヘリオポリス襲撃の全責任を負って代表首長を辞任したこと。そして何より、キラ自身がアラスカにおいて、あの軍産複合体の怪物、大西洋連邦国防産業連合理事ムルタ・アズラエルと『TC-OSのライセンス契約』を個人名義で結んで帰ってきたという報告書が、オーブ議会の一部に漏れ出してからだ。

 

 依然としてウズミの政治的影響力は絶大であり、実弟であるホムラに代表首長の座を譲ろうとも、オーブという国家の根幹の舵取りは間違いなくウズミが行っていた。

 

 それでも、「前代表首長」という一段下がった肩書きとなった今のウズミの隙を突き、キラ・ヤマトという規格外の才能へ直接的な接触を図ろうと蠢く他の氏族たちは、日増しにその勢いを増していたのだ。

 

 クサナギの電装系トラブルですら、単なる偶然や自然発生的なものではなく、他氏族あるいはサハク家による人為的なサボタージュではないかと疑心暗鬼に陥らざるを得ない。

 

 それほどまでに、キラ・ヤマトという存在は、もはや「一介の優秀な技術士官」という個人の枠組みや価値観には到底収まらない、国家の命運すら左右する特大の『政治的・経済的価値』を持つ怪物へと成長してしまっていた。

 

(今回、あの冷徹なサハク家が率先して彼の処分を不問とし、庇護する姿勢を見せたということは……)

 

 サハク家が、見返りもなく他者の罪を帳消しにするはずがない。キラとサハクの間で、何らかの取引が成立したと見て間違いないだろう。或いは、すでにあの少年は、サハク家の強大な暗部ネットワークへと完全に取り込まれてしまっている事すら想定しなければならない。

 

「……だが」 

 

 ウズミは再び窓の外へと目を向け、固く握りしめていた拳の力をふっと緩めた。

 

 サハク家のやり方は、独断専行で血生臭く、ウズミの掲げる理念とは真っ向から対立する修羅の道である。しかし、その根底にある「どのような手段を用いてでも、このオーブという国を外敵から防衛する」という最終的な理想に対する執念は、自分たちアスハと同じものだと理解している。

 

 政治的な綱引きや、サハクという猛毒に少年が触れてしまうことへの親心に似た懸念はある。

 

 しかし、現実問題として、世界経済の命綱を握ってしまったキラの身の安全は、もはやウズミのアスハ家単独で保護するよりも、軍政と暗部を掌握するサハク家の強力な後ろ盾まで得た現状の方が、遥かに盤石に保障されたとも言えるのだ。

 

「私が歩めぬ影の道を、そなたは行くというのか。キラ・ヤマト……」

 

 為政者としての冷徹な計算と、一人の若者を争いの渦中へと完全に沈めてしまったことへの苦い自責。

 

 ウズミの呟きは、波の音に掻き消され、オーブの空へと静かに溶けていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 オーブ連合首長国。美しい海に囲まれたこの群島国家における国防の要は、有史以来、長らく洋上を駆ける護衛艦隊と、空を制する戦闘機部隊が主役であった。

 

 しかし、歴史の歯車はモビルスーツという人型兵器の登場によって劇的に回転し、オーブもまたそのうねりの中で自国専用の量産機『M1アストレイ』の制式配備を決定した。

 

 プラントから流用した技術者たちの手によってザフトの量産型MS『ジン』の極めて高い汎用性を基礎骨格とし、さらにヘリオポリスで極秘裏に開発された『G兵器』の開発データを融合させて組み上げられたこの機体は、まさにオーブの技術力の結晶と言えた。

 

 特筆すべきは、背部に搭載されたフライトユニットである。これにより、M1アストレイは重力下においても短時間の飛行を可能とし、輸送機や揚陸艦の手を借りずとも、自国の領土である島から島へと飛び移るという、群島国家に特化した独自の機動力を獲得していた。

 

 だが、それでもなお、欠けているものがあった。

 

 高い汎用性と優秀な白兵戦能力を有してはいるものの、短時間の跳躍ではなく、長大な航続距離を持ち、有事の際に一瞬で国土の端まで駆けつける『緊急展開能力』──すなわち、長時間の連続飛行能力を持つMSを、オーブ軍部は喉から手が出るほど欲していたのだ。

 

 キラ・ヤマトは、その要求を完璧に満たす機体の存在を、自身の記憶の奥底にある「本来の歴史」として知っている。

 

 数年後にオーブが開発することになる、戦闘機への可変機構を備えた新型量産機『ムラサメ』。そして、M1アストレイ自体にもマイナーチェンジが施され、背部に安定翼と回転翼を追加装備した『M1アストレイ シュライク装備』が、二年後のオーブの空を飛ぶことになるという未来を。

 

 だが、二年後では遅すぎるのだ。

 

 それを座して待つわけにはいかない。

 

 故にキラは、アメノミハシラの主ロンド・ミナ・サハクの端末へ、「三つの設計図」を転送した。

 

 一つ目は、二年後に完成するはずだった追加フライトローター『シュライク』の設計図。既存のバックパックに接続するだけで即座に滞空能力を付与できる、最も安価で堅実なアップデート案である。

 

 だが、キラの真骨頂はそれに続く二つの設計図にあった。

 

「……これは?」

 

 モニターに映し出された二つ目の設計図を見て、ミナが微かに眉を動かした。

 

 それは、『グリーンフレーム』に装備され、圧倒的な有用性を示した『アリュゼウスユニット』のコンセプトを、量産機向けに再構築したものであった。

 

 アリュゼウスは、機体本体を強固な装甲で覆い尽くし、過剰なまでのアンチビームコーティングを施した上で、機体周囲に特殊な波形のビームの膜を纏わせる対ビームバリア『ビームコート』まで搭載していた。

 

 汎用MSを単機で戦局を覆す「一騎当千の化け物」へと仕立て上げるには最高の装備だが、量産化には全く向いていないコストが掛かる。

 

 故に、キラがそのHWS構想を引き継ぎ、M1アストレイ用として再設計したのが『イカロスユニット』であった。

 

 アリュゼウスと同様に、MSへ鎧を着せるように装着する外装ユニット。

 

 MAへの変形機構という複雑な構造をオミットし、MS形態のまま大気圏内を連続飛行する装備である。

 

 機体前面ユニット、肩部増加ユニット、リアスラスターユニットの三つの複合装甲から構成され、腰部前面と両肩のアーマーユニット内部には巨大な大容量バッテリーが内蔵されている。

 

 このバッテリー電力を惜しみなく注ぎ込むことで、大推力を生み出し、MSを空へと押し上げるコンセプトだ。

 

 M1のフライトユニットと併用するリアスラスターユニットをメインの推進器としつつ、胸部左右には微細な機体制御を行うためのジェットノズルを配置。

 

 飛行姿勢を安定させるため、スタビライザーが設置された両肩にはロケットエンジンがバッテリーと直結されている。

 

 さらに、胸部装甲には『ビームリフレクター』が装備されており、これから世界の戦場に溢れかえるであろうビーム兵器に対する防御力も飛躍的に向上させている。

 

 ローターで飛ぶシュライク装備と比べれば当然コストは跳ね上がるが、M1の防御力を重装甲化によって底上げしつつ、圧倒的な推力で空戦をも可能とするプランだった。

 

 そして、ミナの視線が三つ目の設計図へと移る。

 

 それもまた、M1の機能を全く別次元へと拡張する方向性の装備であった。

 

 モニターに映し出されたのは、背中に大型の翼と機首ユニットを有する、巨大なバックパックを背負ったM1アストレイの姿。

 

 それは『BWS(バック・ウェポン・システム)』と呼ばれる、M1アストレイを「簡易可変機」へと劇的に強化するプランだった。

 

 背中に、ビームキャノンを備えた機首ユニットと折り畳み式の大型翼を背負う。

 

 可変時、M1アストレイの機体はうつ伏せに寝そべるような姿勢を取り、左腕のシールドを機体下部に配置して腹部の防御を担う底面装甲とする。そして、背中に折り畳まれていた機首が頭部を覆うように迫り上がり、両翼を左右に展開する。

 

 ただそれだけの極めて単純なプロセスで、人型のMSはビームキャノンによる高火力を有する戦闘機型MAへとその姿を変えるのだ。

 

 空戦用MSとして、ザフトはすでに『ディン』という機体を量産配備し、地球の空を席巻している。しかし、ディンはその卓越した飛行能力を得るための代償として、装甲を削り落とすという致命的な軽量化を強いられていた。

 

 だが、このイカロスユニットとBWSはどうだ。

 

 元々M1アストレイが軽量なフレームであるという利点を加味しても、本体の装甲を一切削る必要がない。

 

 既存の本体フレームに一切の手を加えず、あろうことか追加装備によって機体装甲を「重装化」させながら、バックパックの換装というワンアクションのみで、汎用MSを完全な空戦用機へと作り変えてしまうのだ。

 

 現在、キラが齎したTC-OSのライセンス契約により、ユーラシア連邦と大西洋連邦からオーブの国庫には莫大な資本が雪崩のように流れ込んでいる。

 

 しかし、いかに資金が潤沢であろうとも、量産配備が本格化したばかりのM1アストレイの生産ラインを根底から一新し、ムラサメのような完全新規の可変MSを一から造り直すには、あまりにも時間が足りなすぎる。

 

 だからこその、この三つの設計図である。

 

 既存のラインを一切止めることなく、完成したM1アストレイに「後付け」するだけで、機体の戦術構想を無限に拡大し、来るべき大戦へのアップデートを即座に完了させる。

 

 一人の少年の頭脳から生み出された、あまりにも合理的で、狂気的なまでに完成された国防の設計図。

 

 それを前にして、オーブの影の女王は、ただ静かに、そして歓喜に打ち震えるように口元を歪め──。

 

「……ふっ、ふふふ……あはははははっ!!」

 

 普段の彼女であれば決して見せることのない、腹の底から湧き上がるような、しかしどこか戦慄を帯びた歓喜の笑い声。それが、静寂に包まれた部屋に反響した。

 

 モニターに並ぶ、三つの設計図。

 

 その概要と構造データを一通り読み解いたミナの胸中に去来したのは、一人の少年に対する底知れぬ恐怖と、それを遥かに上回るドス黒いまでの愛おしさだった。

 

(何という……何という恐ろしい頭脳か。あの少年は、本物の『怪物』だ)

 

 ミナの白く細い指先が端末を滑るようにスライドし、一つ目のデータ『シュライク』を拡大する。

 

 現在のM1アストレイの生産ラインを一切止めることなく、極めて低コストで、明日からでもすぐに組み上げて配備できる「即効薬」。

 

 凡庸な技術者であれば見向きもしないような泥臭いローター装備だが、兵器の運用において「数が揃えられ、今すぐ使える」という事実がどれほど強大な意味を持つか、あの少年は完璧に理解している。なによりこれは、オーブ軍でこれから先、埃を被ることになるだろう航空機のラインを転用させられる。

 

 次いで、指先が『イカロスユニット』のデータをなぞる。

 

 シュライクの安価さとは対極にある、過剰なまでの重装甲化と対ビーム兵器への備え。そして強引なまでの大推力による空戦能力の付与。

 

 これは、彼自身の口から語られた『オーブの民の血をいたずらに流させない』という決意の具現化だ。

 

 兵士の生存率を極限まで高め、これから訪れるであろうビーム兵器が乱れ飛ぶ戦場を確実に生きて帰らせるための『執念の鎧』。

 

 そして最後。三つ目の『BWS』の設計図を見た時、ミナは自らの目を疑ったほどだ。

 

 MSを飛行させるために装甲を削るという常識を根底から覆し、あろうことか「重装化」させながら、バックパックを換装するだけでMSを空飛ぶ可変機へと生まれ変わらせてしまう。

 

 フレーム本体には一切手を加えないという、まさに魔法か狂気の錬金術。

 

(単に強力な兵器を夢想するだけの阿呆ではない。コスト、既存の生産ライン、兵站、そして次世代の戦術ドクトリン。……そのすべてを、あの年齢で完璧に掌握して盤面を構築しているというのか)

 

 ウズミが彼を「一介の技術士官」として扱っていたことが、今更ながら信じられなかった。

 

 あるいは、ウズミも彼の異常性に気づきながら、そのあまりに強大な才能を持て余し、無意識のうちに目を逸らしていたのかもしれない。

 

 それとも、自らの大望を口にしたこのロンド・ミナ・サハクの存在と、彼自身がもぎ取った莫大な資本が実現可能だと判断を下したのか。

 

「素晴らしい……。本当に素晴らしいぞ、キラ・ヤマト」

 

 ミナはディスプレイに映る設計図へ向けて、まるで愛しい恋人に触れるようにそっと手を伸ばした。

 

 彼が持ち込んだのは、単なる『新型機の設計図』ではない。

 

 ユーラシアと大西洋連邦から巻き上げた莫大な資金という「血液」を、オーブという国家の隅々にまで巡らせ、その軍事力を一瞬にして世界最強のレベルにまでアップデートさせるための『完全なる処方箋』なのだ。

 

 この三つのプランが実装されれば、オーブ軍は「短時間しか飛べない」という最大の弱点を完全に克服する。

 

 安価なシュライクで空を埋め尽くし、イカロスユニットの重装甲部隊で敵陣を強行突破し、BWSの可変機動部隊で高高度からの一撃離脱と制空権の掌握を行う。

 

 ザフトのディンも、もはやオーブの空ではただの的に過ぎなくなる。

 

 ミナは己の胸の奥底で、かつてないほど激しく、熱く燃え盛る覇業への炎を感じていた。

 

 自身と大望を共有し、共に世界の横っ面を張り飛ばすことを誓った若き怪物。

 

 彼を手に入れたこの瞬間こそが、サハク家が、そしてオーブという国家が、真の意味で世界の頂点へと歩み始めた歴史的な特異点であると、ミナは確信を持って微笑んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 アメノミハシラから暗号化された極秘回線を通じて、地上のモルゲンレーテに送信された三つのデータファイル。

 

 その解析を終えたモニターの青白い光に照らされながら、モルゲンレーテにより行政府から呼び出しを受けたウズミは微動だにせず、ただ画面に映し出された三種の設計図を見つめていた。

 

「……見事と言う他ないな。あの少年には、世界がどう見えているのだ」

 

 絞り出すようなウズミの声には、深い嘆息と、畏怖にも似た震えが混じっていた。

 

 画面に並ぶのは、既存のM1アストレイを劇的に進化させる三つの拡張装備。

 

 安価で即座に空を制する『シュライク』。

 

 圧倒的な防御力と推力でパイロットの命を守り抜く『イカロス』。

 

 そして、機体の基礎フレームに手を加えることなく、汎用機を一瞬にして長距離対応の可変機動兵器へと作り変える『BWS』。

 

 国家の長として国防へも注力してきたウズミには、一目見ただけでこの三つの設計図が持つ「真の恐ろしさ」が痛いほどに理解できた。

 

 小国オーブが抱える絶対的な弱点。それは、大国に比べて圧倒的に少ない『資金』と『人員』、そして点在する島々を防衛するための『緊急展開能力』の不足である。

 

 キラ・ヤマトが提示したこの三つの回答は、そのすべてを完璧に、しかも今すぐ実現可能な形で補い、オーブを地球圏でも比類なき『軍事大国』へと押し上げるための完全なプランだった。

 

 ウズミの脳裏に、現在進行形で世界を覆いつつある恐るべき「首輪」の存在が過ぎる。

 

(すでにあの少年は、ユーラシア連邦と大西洋連邦の主力量産機の心臓部たる『TC-OS』の生殺与奪を完全に握っている)

 

 連合軍がオーブに攻め入ろうとすれば、ライセンスを盾に、機体のOSを一斉にブラックアウトさせるだけで事足りる。それによって齎されるのはTC-OSのアップデートの途絶。

 

 既にナチュラルでも安易にMSを動かせるレベルであるが、その開発者たるキラが属するオーブのTC-OSに画期的なアップデートが施されたとしても、更新を切られたTC-OSはその恩恵を受けられなくなる。

 

 連合にとって、もはやオーブは軍事的に「絶対に手を出せない聖域」と化しつつあった。

 

 ならば、なぜここまで過剰とも言える圧倒的な物理的武装が必要なのか?

 

 ウズミの慧眼は、キラが構築したこの恐るべき力が、一体『どこ』に向けられているのかを正確に射抜いていた。

 

(……仮想敵は、連合ではない。TC-OSというアキレス腱が存在しない、プラントの『ザフト』か……!)

 

 プラントは自前のOSで兵器を稼働させている。TC-OSによる政治的・経済的な抑止力は、彼らには一切通用しない。

 

 だからこそ、キラは物理的な絶対防衛線を構築したのだ。

 

 シュライクで空を埋め尽くし、イカロスという堅牢な盾でオーブの貴重な兵士の命を絶対に守り抜き、BWSの機動力で敵の艦隊が接近する前に長距離から叩き潰す。

 

『流れる血とコストに見合うだけの戦果は絶対に得られない。手を出せば、間違いなくお前たちも再起不能の致命傷を負うぞ』

 

 この三つの設計図は、世界へ向けた狂気的なまでに冷徹な『威嚇』そのものであった。

 

「……他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない」

 

 ウズミは、自身が掲げ、オーブという国家の背骨としてきた尊き理念を静かに口にした。

 

 戦場を生き抜き、世界の悪意と憎悪をその肌で知って帰ってきた少年は、その理念を冷酷に、しかし誰よりも深く再解釈してみせたのだ。

 

「オーブの理念の内……あの少年が何よりも重要視し、最優先で守り抜こうとしているのは、『他国の侵略を許さず』という一点……。その為ならば、自らが血に塗れた剣を鍛える悪鬼に堕ちることも辞さないというのか」

 

 他国を侵略する気はない。他国の争いに介入する気もない。

 

 しかし、オーブの民を脅かす火の粉が降りかかるのならば、その火の粉を撒き散らす元凶ごと、圧倒的な暴力で叩き潰す。

 

 それは、非武装や話し合いによる中立などという甘い幻想を完全に切り捨てた、極限の『武装中立』の姿だった。

 

「キラ・ヤマト。……君は、私が背負うべきだった泥を、その細い肩にすべて背負うつもりか」

 

 ウズミの目頭が熱く焼けた。

 

 サハクという猛毒と手を結んでまで、彼がアメノミハシラから送りつけてきたこの設計図。

 

 それは、ウズミの理想論に対する強烈なアンチテーゼであり、同時に、祖国オーブとそこに生きる人々を何としても守り抜きたいという、不器用で、しかしあまりにも深すぎる『愛』の証明に他ならなかった。

 

「……わかった。お前の覚悟、このウズミ・ナラ・アスハが確かに受け取った」

 

 ウズミは力強く頷くと、端末のコンソールを叩き、直通の秘匿回線を開いた。

 

「モルゲンレーテ開発局の全主任を直ちに招集しろ。……アメノミハシラのサハクと歩調を合わせる。オーブ本国でも、新型拡張装備の生産ラインを最優先で構築する。一切の遅延は許さん」

 

 オーブの獅子が、ついに牙を剥く。

 

 一人の少年がもたらした三つの設計図が、オーブという国家の形を決定的に変えた瞬間であった。

 

 

 




ご意見板に寄せられる皆様の声から鑑みて多分大丈夫何じゃないかなぁというラインで、オーブに必要な物をお出ししてみましたけども、大丈夫そうですかねぇ。

シュライクは2年後に出来るし、イカロスユニットはあれスラスターで飛んでるからMSが普通に空飛んでるコズミック・イラなら行けそうですだし、BWSはそれこそストライカーや変形プロセスはライフリとかの最新鋭機で出来てるから多分大丈夫だと信じたい。

多方面で好感度上がっていくのが書いている私にもわからない。

キャラが勝手に動いている結果こうなってるから説明してと言われても、そのキャラの今の立ち位置と性格で考えたらならそうなるのではないかというフワッとした感覚で書いていますので、上手く説明することが出来ません。
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