やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-49 砂漠の虎

 

 猛烈な砂塵を巻き上げてタッシルの町へと辿り着いたキラがコックピットから目にしたのは、無惨に業火に包まれ、黒煙を上げる煉瓦の残骸であった。

 

 だが、奇妙なことに──あるいは不幸中の幸いと言うべきか、血の匂いも、無惨な死体の山もそこには無かった。

 

 ザフト軍アフリカ方面軍の指揮官、『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルド。

 

 彼は町を焼き払う直前、タッシルの住人たちに向けて事前の避難勧告を出し、彼らが町から逃れ去るための十分な時間的猶予を与えていたのだ。

 

 ティエレンを町の外れに待機させ、遅れて息を切らして駆けつけてきたカガリやレジスタンスの面々と共に焼け跡を見つめながら、キラはその戦術の『真の冷酷さ』に戦慄を覚えていた。

 

 虎が焼き払ったのは、居住区画だけではない。

 

 レジスタンス『明けの砂漠』が血の滲むような思いで隠し集めていた火器、弾薬、車両を動かすための貴重な燃料。

 

 そして何より──備蓄していた『食料』と『水源』の全てが、念入りに灰へと変えられていた。

 

 直接的な虐殺を行えば民衆の恨みを買い、更なる反乱の火種を無尽蔵に生み出すことになる。だからこそバルトフェルドは命までは奪わなかった。

 

 しかし、「明日からどう生きれば良いのか」という容赦のない現実を、暴力的なまでに彼らの眼前に突きつけたのである。

 

 キラは即座にティエレンの通信コンソールを叩き、後方で待機させていた輸送機へ緊急連絡を入れ、近隣の町からの水と食料の買い出しを要請した。

 

 だが、それも所詮は一時しのぎに過ぎないことを、キラ自身が一番よく理解していた。

 

 命はある。しかし、明日を生きるための家も、ザフトに抗うための力も、そして子供たちに与えるパンすらもすべて灰にされた。

 

 バルトフェルドがタッシルの人々に突きつけたのは、あまりにも残酷な二択だ。

 

 ──このまま不毛の砂漠で飢えと渇きに苦しみながら死滅するか。

 

 ──それとも、プライドを捨てて『砂漠の虎』の庇護下に入り、完全な従属を誓うか。

 

「……クソッ!! バルトフェルドめ……ッ!!」

 

 キラの隣で、カガリが血が滲むほどに強く唇を噛み締め、灰の混じった砂を力一杯蹴り上げた。

 

 命を助けられたからといって、ザフトの温情に感謝する者などこの場には一人もいない。

 

 タッシルの住人たち、そして『明けの砂漠』の戦士たちの胸の中にドロドロと渦巻いているものは、決して「諦観」や「絶望」などではなかった。

 

「ふざけやがって……! 俺たちの町を、故郷を……ッ!」

 

「餌を待つ犬のように尻尾を振るとでも思っているのか……!」

 

 自分たちの生まれ育った故郷を蹂躙された悲しみ。

 

 そして、命を天秤に掛けられ、誇りを捨てるか野垂れ死ぬかの二択を強要されたことに対する、身を灼くような屈辱と怒り。

 

 涙すら蒸発するような熱気の中、レジスタンスの男たちは固く拳を握り締め、燃え落ちる町を睨みつけている。

 

 その瞳の奥には、町を焼き尽くす業火よりもさらに熱く、どす黒い『反逆の炎』が煌々と燃え上がっていた。

 

 大気を切り裂くような音が、黒煙の上がる空から降ってきた。

 

 キラが咄嗟にその音の方向へと振り返ると、上空から『エールストライカー』を装備したストライクが、スラスターを吹かしながらこちらへと降下してくるのが見えた。

 

 アークエンジェルが、現地の状況確認と情報収集、そして先行したキラのバックアップのために寄越したのだろう。

 

 着地したストライクのコックピットからワイヤーで降りてきたパイロットは、ヘルメットを小脇に抱え、キラを見つけるなり嫌味のない笑みを浮かべて軽く片手を挙げた。

 

「よっ。とんだ再会になっちまったな、キラ」

 

「ムウさん」

 

 アラスカでの別れ以来となる、地球連合軍の『エンデュミオンの鷹』ことムウ・ラ・フラガ少佐。

 

 彼がストライクの専任パイロットを務めているという事実は、あの機体が今もアークエンジェルの主戦力として機能していることの証明でもあった。

 

 ムウは焼け落ちたタッシルの惨状と、殺気立つレジスタンスの人々を素早く見渡し、キラの耳元へスッと顔を寄せた。

 

「んで? どういう状況だ、今」

 

「見ての通り、爆発寸前ですよ」

 

 キラが小声で答えているその僅かな間にも、レジスタンスたちの抑えきれない怒りの熱量は、ついに臨界点を突破していた。

 

「追うぞ、虎を!」

 

「ああ! 奴ら、町を焼くために弾薬を使ったあとだ。やるなら今しかねぇ、行くぞ!」

 

「ま、待てお前たち! 早まるな!」

 

 冷静な判断力を残しているリーダーのサイーブが必死に腕を広げて制止するが、故郷を焼かれ、誇りを傷つけられた男たちにその声はもう届かない。

 

 彼らは次々に無骨な武装ジープへと飛び乗り、エンジンを唸らせてザフトの部隊が去った方角──広大な砂漠へと向けて、次々と砂埃を上げて発進し始めてしまった。

 

 そして。

 

 キラの視界の端で、見覚えのある金髪の少女――カガリ・ユラ・アスハまでもが、制止を振り切るようにしてジープの荷台へと飛び乗り、反撃の狼煙を上げる男たちと共に戦場へと走り去っていくのが見えた。

 

「……」

 

「どうする?」

 

 遠ざかるジープの砂煙を見つめながら、ムウが隣で肩をすくめる。

 

「どうするもこうするも。戦いに来たわけじゃないですよ、僕。あくまで私用の人探しに来ただけですし」

 

「そりゃ、そうだけどさぁ。あんなバズーカとジープだけでバクゥに喧嘩売るなんざ、自殺志願者のやることだ。放っておいたら全滅だぞ」

 

「わかってますよ。わかってますから。はぁぁ……」

 

 キラは今日一番の、心の底からの重い溜め息を吐き出した。

 

 ムウに指摘されるまでもない。バクゥの圧倒的な機動力と火力を前に、あの軽武装のジープ部隊など、文字通り一瞬でスクラップと肉塊に変わる。

 

 そして何より、先程『ちょっとは自分の立場を考えなよ』と散々説教して大人しくさせたはずのカガリが、よりにもよって一番危険な先陣を切って突っ込んでいってしまったのだ。

 

 つまり、キラにとって『放っておく』という選択肢は、始めから存在しないということだった。

 

「……最悪だ。せっかく穏便に済ませようと思ったのに」

 

 キラは乱暴に頭を掻きむしると、踵を返して自身の乗機──サンドカラーのティエレン高機動B指揮官型へと向かって歩き出した。

 

「ムウさん、アークエンジェルに『これから砂漠の虎と交戦する』って伝えておいてください。僕はあのバカ騒ぎを止めに行きます」

 

「おいおい、一人でバクゥの群れに突っ込む気か? 俺もストライクで出るぜ」

 

「助かります。けど、良いんですか?」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ。良いのか?」

 

 アラスカで別れてから1週間程。

 

 オーブに帰ったはずの技術士官が、こんなアフリカの砂漠に人探しに来るなんて、私用と言っても何か裏があると思わずには居られず。そして国外で再びザフトと事を交えようとしている。

 

 だからこそ、ムウはキラへと確認する様に問うた。

 

「良いも悪いも、仕方がないですよ、もう」

 

 キラは最早諦めの境地でティエレンへと乗り込んでいった。

 

「あんな若い内から、苦労を背負う貧乏役は辛いよなぁ」

 

 そう哀愁漂うキラの背中を横目に、ムウもストライクへと乗り込み、レジスタンスたちのあとを追うように機体を飛翔させた。

 

 

◇◇◇

 

 

 夜が明け、灼熱の太陽の照りつける空の下。3機の獣型モビルスーツ『バクゥ』が進んでいく。四足歩行で砂を踏み締めながら進むその先頭を走るジープの乾いたエンジン音が響いていた。

 

「隊長、このままでは追いつかれますよ?」

 

 ジープのハンドルを握る副官のマーチン・ダコスタが、焦燥を滲ませた声で隣の席へと問いかけた。

 

 対する部隊指揮官、アンドリュー・バルトフェルドは、そんな副官へと言葉を返した。

 

「自走砲とバズーカじゃ、バクゥと喧嘩にもなりゃしない」

 

「は……?」

 

「命は奪わなかった。プライドを捨てて砂に頭を擦りつけ、生きようと思えばいくらでも生きていけるさ。でも、それをわかっていて向かって来るなら……いっそ誇りを抱いたまま死んだ方がマシとはよく聞くけど、連中にとってはどうなのかねぇ」

 

「はぁ……」

 

 タッシルの町を焼き払ったのは、彼らに『絶望』という名の現実を突きつけ、無駄な血を流させないための、虎なりの残酷な温情であった。

 

 生存の道を提示された以上、理性的であれば屈服を選ぶはずだ。しかし、人間という生き物は時として、論理や生存本能よりも感情や矜持を優先する。

 

『隊長。後方から接近する複数の反応が。レジスタンスの車両部隊と思われます』

 

 随伴するバクゥのパイロットからの冷徹な報告が、ジープの無線機から響く。ダコスタの顔が引き攣った。

 

「──やっぱり、死んだ方がマシだったか」

 

 バルトフェルドは目を細め、やれやれと肩をすくめた。

 

 バルトフェルド自身には、コーディネイターが優れていてナチュラルが劣っているといった、プラント本国に蔓延るような選民意識も偏見も無い。

 

 だからこそ、彼はあくまでザフトの指揮官として与えられた『統治』という仕事をこなしているだけであり、力に任せて無用な血の雨を降らせる狂気的な殺戮者になることなど到底御免だった。

 

 しかし、上に立つ者として、必要とあらば強硬な姿勢を見せ、圧倒的な暴力で支配し、恐怖を刻み込まなければならない時がある。そうでなければ、この広大で複雑なアフリカという支配地域の秩序など、一瞬で崩壊してしまうからだ。

 

 特に、アフリカ共同体が政治的・国家的に親プラント寄りであったとしても、現場で生きる民衆の感情は全く違う。

 

 先祖代々の土地を土足で踏み荒らす侵略者に対して、彼らは地球連合だろうがザフトだろうが関係ない。

 

 「自分たちの土地を奪う外敵」としか考えていないのだ。

 

 長きにわたる紛争続きの歴史的背景と、慢性的な資源不足による治安の悪さに喘いできた過酷な土地。

 

 バルトフェルドはその荒れた土地のインフラを強権的に整え、厳格な治安を維持し、食料やエネルギー資源を融通することで、一先ずの統治と安定をもたらしてきた自負がある。

 

 それでも蜂起するレジスタンスが出てくるのは、侵略者である自分たちには、彼らの魂の根底にある『誇り』まではどうすることもできないという証明でもあった。

 

 だからこそ、余程のことがなければレジスタンスに対する『お仕置き』は命を奪う一歩手前で留め、現実というものをわからせてきた。

 

 だが、今回ばかりは話が別だ。彼らが地球軍の正規部隊と結託し、ザフトの軍事行動に対して明確な牙を剥くというのならば、反乱の芽は徹底的に叩き潰すしか道はない。

 

 特に、今このアフリカの地に降り立っている地球軍の部隊は、決して侮れる相手ではなかった。

 

 クルーゼ隊の執拗な追撃を幾度も振り切ったという地球軍の新型特装艦アークエンジェル──通称『足付き』。

 

 その艦には、クルーゼ隊がヘリオポリスで唯一取り逃がした最後のG兵器『ストライク』が搭載されている。

 

 バルトフェルドの持つ情報によれば、パイロットが変わっていなければ、あの厄介な機体に乗っているのはメビウス・ゼロで名を馳せた連合の英雄『エンデュミオンの鷹』ことムウ・ラ・フラガである可能性が高い。

 

 それに加え、あの『足付き』には、これまでの軍事の常識を覆すような未知の兵装や、何をしでかすか分からない玉手箱のように厄介な隠し玉が粒揃いで積まれているという不気味な報告も上がっていた。

 

「あの『足付き』との戦闘に、横から茶々を入れられて戦場を引っ掻き回されたんじゃ、堪ったもんじゃないからね……」

 

 バルトフェルドはジープのシートに深く背中を預けながら、これから始まるであろう砂漠のゲリラたちとの凄惨な蹂躙劇と、その背後にちらつく厄介な地球連合軍の影を見据えた。

 

 相手が死を覚悟して襲い掛かってくる以上、手加減などできるはずもない。

 

 砂漠の虎は、迫り来る砂塵の向こう側に血の匂いを感じ取りながら、冷酷な戦術家としての顔へとその表情を引き締めた。

 

「追え! 虎を絶対に逃がすなッ!!」

 

 血走った目を剥き出しにしたレジスタンスの男たちが、喉が裂けんばかりの絶叫と共に砂漠を駆ける。

 

 土煙を激しく巻き上げて逃走するバギーに向け、彼らはバズーカを構え、次々とトリガーを引き絞った。

 

 轟音と共に放たれた複数のロケット弾頭が、空気を切り裂いてバギーへと殺到する。

 

「ええいっ」

 

 運転席のダコスタが悲鳴のような声を上げながら、ハンドルを限界まで乱暴に切り返した。車輪が砂を抉り、車体が横転ギリギリの角度で傾く。

 

 直後、彼らがほんのコンマ数秒前まで走っていた空間を弾頭が通過し、後方の砂丘に着弾して凄まじい爆炎と砂の柱を噴き上げた。

 

「……仕方がない。応戦する!」

 

 横転しかけた車内で座席にしがみつきながら、バルトフェルドが苦渋と冷徹さの入り混じった声で号令を下した。

 

 命を救ってやった温情を理解せず、あくまで牙を剥くというのなら、容赦なくその四肢を切り落とす。それが砂漠の絶対的な支配者たる『虎』の掟であった。

 

 地響きを立てて追従していた3機のバクゥが、主の命令に応えて即座に戦闘態勢へと移行する。

 

 巨大な無限軌道が砂を噛み、背部の武装がレジスタンスの脆弱なジープ群へと照準を定めた、その瞬間だった。

 

 戦場の誰一人として予想だにしなかった方向から、目にも留まらぬ速度の質量弾が飛来した。

 

 それは、一機のバクゥの背部に懸架されたミサイルポッドを正確無比に撃ち抜いた。

 

「なんだと!?」

 

 直撃を受けたバクゥのパイロットは、誘爆の危険性を瞬時に悟り、火を噴くミサイルポッドを強制パージした。ポッドは砂漠へ転がり落ちた直後に大爆発を起こし、戦場に巨大なクレーターを穿つ。

 

 バクゥのパイロットたちが、センサーを最大出力にして攻撃の飛来した方角を睨みつける。

 

 そこで彼らが見たのは、猛烈な砂塵の嵐を後方に巻き上げ、地を這うようにして猛スピードで滑走しながら突っ込んでくる、巨大な鋼鉄の塊だった。

 

「ティエレン、だと!?」

 

「ユーラシア連邦の部隊か! だが、あの速度はなんだ!」

 

 ザフトのパイロットたちは、メインモニターに映し出されたその機体を見て戦慄した。

 

 アフリカ戦線において、彼らは幾度となくユーラシア軍の『ティエレン地上型』と交戦してきた。

 

 バクゥの圧倒的な機動力に翻弄されるだけの「鈍亀」。

 

 ティエレンとはそういう機体であった。

 

 しかし、その鈍亀は同時に、悪夢のような鉄壁でもあった。

 

 分厚い重装甲はバクゥのミサイルもレールガンも容易く弾き返し、1機のティエレンを完全に沈黙させるためには、3機から5機のバクゥで包囲し、ひたすらに死角から関節部へ集中砲火を浴びせるしかなかったのだ。

 

 彼ら『砂漠の虎』の部隊は、洗練された連携戦術と地形の利用によって、なんとかその堅牢な重装甲MSを撃破してきたという苦い歴史がある。

 

 だが、目の前に現れたサンドカラーのティエレンは、彼らの知る「鈍亀」とは次元が違った。

 

「おいおい……なんだい、あの出鱈目なスピードは」

 

 バギーを安全圏まで退避させ、双眼鏡で戦場を観測していたバルトフェルドは、現れた機体の異常な機動性に驚愕の声を漏らした。

 

 100トンを優に超えるであろう超重量の鉄塊が、巨大な脚部ホバーユニットの推力によって砂地を滑るように……いや、まるで氷上を舞うように滑走しているのだ。

 

「頭部のセンサー型ユニット、両肩のセンサーカメラ内蔵シールド……それに、腕の火器は宇宙用が装備する放熱板付きの滑腔砲か。砂漠に馴染む塗装をしているが、あれは『指揮官機仕様の陸戦高機動型タイプ』か。やれやれ、ユーラシアの技術局も頑張るねぇ」

 

 バルトフェルドの優れた分析眼は、一瞬でティエレンのカスタマイズの全貌を看破した。

 

 これまで「鈍亀」と揶揄されていた鉄壁の装甲を持つ厄介者。MSとしてはあって当然だが、ティエレンという機体設計においては切り捨てられていたはずの『機動性』を、遂に手に入れてしまったのだ。

 

「コイツは厄介だ。本国がビーム兵器を量産配備し始めたからといって、敵があんなバケモノを投入してくるなら、一筋縄じゃいかなくなるな」

 

 バクゥの履帯移動と並走、あるいはそれ以上の速度でホバー移動するティエレン。

 

 さらに、2機のバクゥから放たれる牽制の射撃を、その質量からは信じられないほどの滑らかな推力偏向で回避してみせる。

 

 指揮官機仕様というだけでなく、中に乗っているパイロットの腕が尋常ではないのは明白だった。 

 

 それに、彼らを驚愕させる要素はそれだけではなかった。

 

 青白いビームの閃光が砂漠を切り裂き、バクゥの足元を激しく焦がした。

 

「ストライク!? 救援に来たのか?」

 

 その姿を認めたダコスタが声を上げる。

 

 空から舞い降り、ティエレンを的確に援護するようにビームライフルを構え、バクゥを牽制する白亜の機体。

 

「……なるほど。大気圏内では、あの有線式ガンバレルを使えないとは思っていたが。背中のアレは、装備を換装することで局地戦に即座に対応する、マルチロール型のシステムだったというわけか」

 

 赤い主翼を備えた高機動ユニット『エールストライカー』を背負うストライクを、バルトフェルドは戦場の恐怖を忘れたかのように興味深げに観察していた。

 

 戦況は完全に膠着した。

 

 レジスタンスの奇襲を受けた1機のバクゥは、脚部にダメージを受け擱座状態。

 

 残る2機のうち、1機は先ほどのティエレンの急襲でミサイルポッドを喪失している。

 

 稼働戦力としては2対2。数は互角だ。

 

 だが、条件が最悪だった。

 

 陸の王者であるはずのバクゥを相手に、一切引けを取らない異常な機動性を見せるティエレン。

 

 そして、実体弾を完全に無効化するフェイズシフト装甲を持つストライク。

 

 対して、バルトフェルドが現在この場に連れてきているバクゥには、まだ本国で開発されたばかりの『口部ビームサーベル』が配備されていない。

 

 実弾と爆発物しか持たない彼らには、フェイズシフト装甲のストライクはおろか、重装甲の上に機動力まで得たあのティエレンに対してすら、決定的な有効打を与える手段が存在しないのだ。

 

「カークウッド!」

 

『はっ!』

 

「バクゥを私と代われ」

 

「隊長!? ご自身が前線に出られると!?」

 

 擱座状態から辛うじて復帰したバクゥへ通信を入れたバルトフェルドの言葉に、ダコスタが素頓狂な声を上げた。

 

 指揮官自らが、あのバケモノのような機体群を相手に直接前に出るというのだ。

 

「撃ち合ってみないと、分からん事もあるのでね。……あのティエレン、一つ手合わせ願うとしよう」

 

 バルトフェルドの唇の端が、凶猛な弧を描いて吊り上がった。

 

 装備の貧弱なレジスタンスの掃討や、ただ的になるだけのユーラシアの鈍亀ばかりを相手にする戦いには、とうに飽きが来ていたところなのだ。

 

 絶対的な不利を悟りながらも、バルトフェルドの内で眠っていた『戦士としての血』が、圧倒的な強敵の出現に対する高揚と興奮を抑えきれずに沸騰し始めていた。

 

 

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