やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
アークエンジェルの白亜の巨体を背に、トール・ケーニヒの駆る『ティエレン高機動B指揮官型』は、猛烈な砂塵を巻き上げながらホバー機動で直掩の任に就いていた。
「そこっ!」
迫り来るザフトの戦闘ヘリ部隊に対し、右腕の200mm滑腔砲と同軸に装備された12.7mm機銃、そして胸部の30mm機銃が一斉に火を噴き、濃密な弾幕を空へと張り巡らせる。
艦のイーゲルシュテルンが放つ弾幕と、地上で散開する『明けの砂漠』のレジスタンスたちが放つバズーカが交差する中、被弾した敵ヘリが次々と黒煙を噴き上げて砂海へと墜ちていく。
しかし、アークエンジェルの主武装たるゴットフリートやバリアントは、遠方に陣取る巨大陸上戦艦レセップスとピートリー級との苛烈な艦隊戦に全て振り向けられており、艦の足元や死角を狙う航空兵力への迎撃は、トールの双肩に重くのしかかっていた。
焦燥と熱気が立ち込めるコックピットの中で、トールの脳裏に鮮明に蘇るのは、以前宇宙でムウから掛けられた言葉だった。
「……やってやるさ。キラと少佐に、後を任されたんだからな!」
自分が艦を守っているから、自分達は前で後ろを気にせず全力で戦えると、以前ムウがトールへと伝えた言葉。
操縦桿を握り込むトールの手に、ぐっと力がこもる。
陸戦特化の重装甲機兵であるティエレンが、空の敵には手出しが出来ないなどというのは、素人の浅知恵に過ぎない。
主砲である200mm×25口径滑腔砲の照準補正にも用いられる同軸の12.7mm機銃は、有効射程2000メートルを誇る。
下手な対空砲よりも遥かに鋭く真っ直ぐに飛ぶその徹甲弾は、近距離からバラ撒く胸部の30mm機銃と連携させることで、接近する戦闘ヘリや機体へ向かって放たれる空対地ミサイルを容易く叩き落とすだけの、凶悪な対空網を形成できた。
何より、トール自身が絶対の信頼を置くこの『鋼鉄の巨人』の頼もしさが、彼の中にある死への恐怖を塗り潰し、一端のモビルスーツパイロットとしてこの激戦区を駆けさせていた。
圧倒的な機動力を持つ厄介なバクゥの群れは、一番前でキラが全て引き受けている。
ムウの駆るエールストライクは、敵艦隊の懐へと鋭く切り込み、戦場を掻き乱している。
(なら、皆の帰るこの艦を守れるのは俺だけだ!)
その強烈な自負と責任感が、トールの胸の内で熱く燃え上がり、恐怖すらも凌駕するある種の高揚感となって彼を突き動かしていた。
無骨なサンドカラーの巨人は、空から降り注ぐ銃弾を分厚い装甲で弾き返しながら、友の帰還を信じて、砂漠を嵐となって駆け抜けていた。
◇◇◇
「ランチャーで出なくて大正解だったな……!」
エールストライカーの大推力で熱砂の空へと舞い上がりながら、ムウ・ラ・フラガは舌打ち交じりにそう嘯いた。
レセップスの巨大な甲板から砂漠へと飛び降りてきた局地戦用MS『ジン・オーカー』へ向け、ストライクのビームライフルが容赦のない閃光を放つ。高熱のビームが装甲を易々と撃ち抜き、敵機を一瞬にして爆炎の華へと変えた。
巨大な陸上戦艦レセップスを沈める対艦戦闘を想定するならば、本来は超高インパルス砲『アグニ』を備えたランチャーストライカーでの出撃がセオリーだ。だが、敵の主力がバクゥであることを考慮すれば、砲戦特化で足の止まるランチャーでは機動性で圧倒され、逆に翻弄されてしまう危険性が高かった。
何より、複数のMS部隊を相手に単機で立ち回ることを念頭に置けば、圧倒的な推力で空へ跳躍し、短時間ながら重力下での滑空と三次元機動を可能とする『エールストライカー』の方が、戦術として取れる選択肢が圧倒的に広い。そのムウの判断は、この乱戦において見事に功を奏していた。
「とはいえ、あちらさんも必死だこって!」
急旋回で宙を滑ったストライクのすぐ真横を、太い実体弾の雨が猛烈な勢いで掠めていく。
見下ろせば、レセップスの広大な甲板上にどっしりと陣取った砲戦型モビルスーツ『ザウート』の群れが、ストライクの空戦軌道を潰すように、両肩の4連装砲から次々と濃密な弾幕を張り巡らせていた。
苛烈な戦艦同士の撃ち合いが続く中、バルトフェルドがザウートに与えた任務は、艦を死守するための『近接防空砲台』だった。機動力は鈍亀と揶揄されるザウートだが、砲戦型として一端の火力と装甲を有していることに変わりはない。
彼らを甲板上に固定して対空・近接防御を丸投げすることで、レセップスは自身の主砲火力のすべてを、対峙するアークエンジェルへと集中させることができるのだ。
(馬鹿と鋏は使いよう、ってやつか。……大した指揮官だぜ、本当に)
ムウはエールストライカーの推力を細かく調整して砲弾の網目を掻き潜りながら、敵将の采配に内心で舌を巻いた。
要請したバクゥの補給が受けられず、代わりに送られてきた鈍重なザウート。並の指揮官ならば砂漠の戦場で持て余すであろうその機体すらも、バルトフェルドは適材適所で組み込み、この決戦の盤上において無駄のない戦術として機能させていた。
◇◇◇
「まさか、バクゥを持ち出してくるとはね……」
出撃の最終準備を進めるバルトフェルドのコックピットには、刻一刻と激化する前線の戦況データが逐一届けられていた。
『足付き』の戦力は、あのストライクと陸戦高機動型ティエレンの二機だけだと思っていた。まさかこの決戦の盤上に、自軍の主力機であるはずの『バクゥ』をぶつけてくるとは。
規律と体面を重んじる頭の固い地球軍の指揮官が、敵機の鹵獲運用などという異端な判断を下したとは到底思えない。
そして何より、バルトフェルドの目を惹きつけたのは、その蒼いバクゥに施された常軌を逸した『改造』だった。
本来のバクゥの主力武装であるミサイルポッドや連装レールガンといった火砲を一切合切降ろし、代わりに機動性を極限にまで引き上げる大型のブースターを背負わせ、近接戦闘に特化したブレードを備え付けている。
現在、プラント本国でようやく実用化され生産ラインに乗り始めたばかりの新型バクゥには、口部にビームサーベルが装備されている。それまでは高速移動しながらの射撃戦を主体としていた獣に、装甲を焼き切る『強力な一撃離脱の格闘戦』という新たな選択肢を持たせるに至った最新鋭の戦術コンセプト。
敵の技術者は、まさかそれを極端なまでに先鋭化させ、単機で部隊を蹂躙するための刃として研ぎ澄ませてきたのだ。
バルトフェルドの脳裏に、数日前に応接室で相対していた、あの不器用で泣き虫な少年の顔が過った。
『どうにかしなくちゃって、必死になって……自分に出来ることを、精一杯やっているだけなのにっ!』
あの血を吐くような悲痛な叫び。
その『出来ることを精一杯やった』結実が、あの蒼と白のバクゥなのだとすれば、その中に乗っているパイロットが誰なのかなど、考えるまでもなかった。
虎の群れには、虎の牙を以て対抗する。それは彼なりの意趣返しなのか、あるいは皆を守り抜くために選び取った狂気の沙汰か。
いずれにせよ、報告によれば既に手練れの部下が駆るバクゥが三機も、あの蒼い獣に喰い殺されているというのだ。同じバクゥだと思って油断して相手にすれば、手酷い致命傷を負わされるのはこちらの方だ。
「……アンドリュー・バルトフェルド、ラゴゥ、出る!」
咆哮と共に、巨大な陸上戦艦レセップスの甲板から、バクゥよりもさらに一回り大型の獣型モビルスーツが跳躍した。
背部に二連装ビームキャノンを備え、口部に強力なビームサーベルを搭載した、これからの地上戦線で指揮官機として駆け抜けるべく開発された最新鋭機──四脚獣『ラゴゥ』。
『砂漠の虎』という己の異名にこれ以上なく相応しい、猛々しいオレンジ色の装甲を纏ったその機体のガンナー席に、最愛の恋人であるアイシャを乗せ。
百戦錬磨の戦術家は、己のすべてを懸けてあの哀しい少年の覚悟を迎え撃つべく、爆炎と砂塵の舞う戦場へと躍り出た。
◇◇◇
「バクゥとは違う? この速さは……!」
5機のバクゥを沈め、息をつく暇さえ与えられなかったキラの網膜に、コックピットの明滅するアラートが突き刺さる。
メインレーダーが捉えた新たな機影。それは、熱砂の海を滑るように接近してくる他のバクゥとは明確に一線を画す、圧倒的なスピードを伴っていた。
陽炎を切り裂いて姿を現したのは、砂漠の虎を象徴する猛々しいオレンジ色の四脚獣──『ラゴゥ』だった。
開かれた通信回線から、酷く落ち着き払った、しかし確かな戦意を孕んだ大人の声が響く。
『覚悟を決めた、ということかな。……少年』
「バルトフェルドさん……」
バルトフェルドは、メインモニター越しに砂漠へ無残に転がるバクゥの残骸を冷徹に一瞥していた。
「人殺しなんて真っ平御免だ」と涙を流して絶叫していた心優しい少年が、自らの手を血で染め、己の命を削るほどのGに耐えながら敵を屠ったのだ。
それは、彼が自らの手で引き金を引き、他者の命を奪うという『罪』を背負ってでも、この狂った世界に立ち向かう覚悟を決めてきたという何よりの証左であった。
『さぁ、始めるぞ! どちらかが滅びるまで決して止まらない、これが戦争だ!』
「く……っ!」
咆哮と共に、ラゴゥの背部に搭載された二連装ビームキャノンが灼熱の閃光を放つ。
キラの蒼いバクゥは、強靭な四脚のサスペンションを限界まで軋ませながらの高速バックステップでそれを紙一重で躱した。
着地と同時、キラは操縦桿のトリガーを引き絞った。
機体底部──胸部の下に備えられていた連装リニアガンが火を噴き、鋭い実体弾の連撃がラゴゥへと牙を剥く。
しかし、バルトフェルドは慌てることなく機体を横へとスライドさせるサイドステップを踏み、いとも容易くその弾幕を回避してみせた。
(なるほど……大した機体だ)
ラゴゥのコックピットで、バルトフェルドは回避行動を取りながら、目前の蒼いバクゥの異様な設計思想を瞬時に読み解いていた。
背中のプラットフォームから広角を狙えるミサイルポッドやターレット式のレールガンを全て降ろし、代わりに巨大なスラスターを積むことで極限まで機動性を高めている。しかし、無防備になるわけではなく、牽制用の最低限の射撃兵装として機体底部にリニアガンを備えていた。
だが、その武装のレイアウトこそが、この機体の『異常性』を物語っている。
前にしか撃てない固定武装。それはつまり、周囲を広く見渡して多角的に射撃を行う用途を完全に捨て去り、ただ前方のみを指向していることを意味する。
この蒼いバクゥに想定されている戦術は、防御や牽制すらも投げ打った、その圧倒的なまでの推進力による『一点突破の吶喊』と『強襲格闘』のみ。
ただ前へ、前へと突撃し、擦れ違いざまに敵を両断する。
だからこそ、他を狙うような汎用性のある武装など最初から必要ないのだという、あまりにも割り切りの良すぎる、そしてパイロットの生存率を度外視した狂気の設計思想。
(横を向くことも、立ち止まることも許されない。ただ真っ直ぐに、地獄の底まで突っ走るためだけの機体……)
それはまるで、血を吐くような思いで己の退路を断ち、ただ大切な者を守るためだけに前だけを向いて修羅の道を駆け抜けようとする、あの少年の悲痛な心象風景そのものを体現したかのような刃だった。
「結構素早いわね、彼」
アイシャの声には、激戦の最中特有の緊迫感よりも、どこか優雅な感嘆の色が混じっていた。オレンジ色の装甲を震わせるラゴゥのガンナー席で、彼女はメインモニターを横切る蒼い残像を、流し目で見つめるように追う。
「だな。しかし……」
バルトフェルドは短く同意しながらも、戦術家としての鋭い疑念を浮かべていた。
彼は操縦桿のスイッチを切り替え、ラゴゥの脚部を折り畳む。強靭な四肢の代わりに無限軌道を展開し、機体を完全な高速移動態勢へと移行させた。
熱帯の砂漠を切り裂くような重低音が響き、ラゴゥの巨体が砂塵を巻き上げて猛然と加速する。
対するキラの駆るバクゥは、バルトフェルドの目を惹きつけて離さなかった。
最大の利点とも言える無限軌道機構を、あの蒼い機体は未だ一度も使用していない。代わりに、その強靭な四肢による跳躍と疾走のみで、灼熱の戦場を駆け回っているのだ。
あの少年の圧倒的な知行と分析力だ。バクゥの機動性を直線的に最大限引き出せる高速移動態勢の存在を知らぬわけがない。
だが、ラゴゥから牽制として放たれるビームを、蒼いバクゥは無限軌道のスライドではなく、四肢のバネを極限まで活かしたしなやかなサイドステップで完璧に躱し続けている。
回避運動のすべてを、あくまで『四足歩行』という基本挙動に徹底しているのだ。
「……成る程。そういうことか」
モニター越しにその細かな足捌きを観察していたバルトフェルドの口元に、深い理解と戦慄の入り混じった笑みが浮かんだ。
少年は、バクゥの特性を知らないのではない。──むしろ、完全に知り尽くしているのだ。
無限軌道による高速移動は、確かにバクゥの最高速度を叩き出し、姿勢を低くすることで被弾面積をも劇的に減らすことができる。広大な大地を移動するには最適の形態だ。
だが、その状態での急な方向転換や回避行動は、接地しているキャタピラや脚部の駆動系に強烈な負荷を掛ける。何より、直線的な『速さ』と引き換えに、近接格闘において最も重要となる『運動性』や『小回り』を大きく損なうという明確な弱点が存在した。
少年は、そのトレードオフを完璧に計算に入れている。
無限軌道を使わず、四足歩行ならではの柔軟性と、多角的な運動性を維持し、その上で、無限軌道に劣る絶対的なトップスピードを、背部の大型ブースター生み出す爆発的な推力で補っているのだ。
その結果生み出されたのは、ザフトの正規兵が駆るノーマルのバクゥ複数機を同時に手玉に取るほどの格闘能力であった。
そして何よりバルトフェルドを驚愕させたのは、その動きの『質』そのものだった。
ブースター点火時の重心の移動、脚部の深い沈み込み、着地時の完璧な衝撃吸収。そのすべてが、まるで生身の四肢を持つ本物の野獣の骨格や筋肉の連動を知り尽くしているかのように、あまりにも靭やかで柔らかい。
人間の二本足の動きをトレースする汎用モビルスーツとは根本的に異なる、獣型特有の異質な操縦感覚。
昨日今日、初めてバクゥのシートに座ったばかりのパイロットが、これほどまでに機体と自身の神経を同調させられるはずがない。
「……恐ろしい若者だよ、本当に」
天才などという陳腐な言葉では到底片付けられない。底知れぬ少年の闘争へのセンスと、機体のポテンシャルを限界突破させるその圧倒的な『適応力』を前にして、砂漠の虎の全身の血が、戦士としての歓喜と畏怖で熱く沸騰し始めていた。
◇◇◇
人型機動兵器と四脚獣型機動兵器とでは、パイロットに要求される空間認識能力も、機体の重心制御の感覚も根本から異なる。
通常ならば、二本足で歩く人体の感覚から、四本足で地を這い駆ける獣の感覚への適応には、少なくない訓練と時間を要する。
しかし、キラ・ヤマトがバクゥをまるで自身の肉体の延長のように靭やかに操り、その巨大なハードルを一切感じさせない動きを引き出している絡繰りは、あまりにも単純にして特異なものだった。
彼の脳裏には、遥かなる闘争の記憶──惑星Ziの大地を揺らし、空を引き裂き、海を泳ぎ回る、誇り高き金属生命体たちの躍動が鮮明に焼き付いていたのだ。
四足歩行の獣型ロボットがいかにして大地を力強く踏み締め、獲物の死角へと跳躍し、その強靭な四肢のサスペンションで着地の衝撃を柔らかく吸収するのか。鋼鉄の獣の「息遣い」と「骨格の連動」を、キラは単なるデータや知識としてではなく、憧れと魂の次元で深く理解していた。
故に、彼が自らの手で組み上げた『ブレードバクゥ』のコンセプトと兵装レイアウトは、惑星Ziの荒野を駆け抜けた伝説の蒼き獅子──『ブレードライガー』の姿を色濃く参照し、具現化したものとなっている。
視覚的な識別以上の意味を持つ、鮮やかなスカイブルーと白のラインは、その誇り高き獣への敬意でもあった。
背部に増設された大出力高機動ブースターによる、敵の網膜を置き去りにするほどの爆発的な直線加速。その圧倒的な突進力と慣性を乗せたまま機体側面から展開され、敵機の分厚い装甲をバターのように易々と両断する高周波レーザーブレード。そして、前面へと展開してビームを弾くEシールドによる強固な防御機構。
これら「加速・斬撃・防御」の三位一体の戦術を組み込んだのがこの蒼いバクゥなのである。
キラがこの戦場で、ノーマルのバクゥの最大の特徴である高速移動態勢を頑なに使わない理由はシンプルだった。
「使う必要が全くない」ほどの加速性能を、ブースターによってすでに機体へ持たせているからだ。
その上で、獣特有の野生的なステップ、予測不能なフェイント、そして対象の頭上へ飛び掛かる跳躍といった、キラ自身の思い描く『三次元的な一撃離脱の闘獣スタイル』を体現するためには、接地と直線的な機動に縛られ、脚部関節の自由度を極端に奪う高速移動態勢は、むしろ自身の牙を鈍らせる足枷にしかならなかった。
だが、キラは脚部に格納された無限軌道機構を取り外すことなく、デッドウェイトになることを承知の上で意図的に残している。
それは、万が一の事態に対する、彼の冷徹なまでの生存本能と計算だった。
敵の猛攻を受け、四肢のいずれかを喪失するような致命的な損傷を負ったとしても。もしそれが二本足の人型機体であれば、片脚を失った時点で機動力は完全に死に絶える。
しかし四脚のバクゥならば、残された三本の脚とその無限軌道機構さえ生きていれば、機体を沈み込ませてキャタピラを展開し、這い摺ってでも戦闘を継続し、アークエンジェルへの帰還を果たすことができる。
その保険を残しておくのは、今対峙するラゴゥが実際にそうして見せたのを知っているからだった。
◇◇◇
バルトフェルドは高速移動態勢を解除し、機体の制御を四足機動へと戻した。
口部にビームサーベルを展開しながらの吶喊も、あの四肢のバネを極限まで生かした跳躍で容易く躱される。直線的な軌道は最早、あの少年に対しては何の意味も成さない。
ならば、互いに獣としての本能と闘争で決着をつけよう。
バルトフェルドは、本来ならばダメージコントロールや大掛かりな整備時にのみ使用する強制コマンドを叩き、ラゴゥの脚部からキャタピラユニットを躊躇なくパージした。
「アンディ?」
突然のシステムパージに、ガンナー席のアイシャが不思議そうに声を上げた。
「すまんな、アイシャ。……馬鹿な男の意地に付き合ってくれ」
「……良いのよ。そんな貴方は、いつもよりずっとカッコ良く見えるわ」
バルトフェルドの自嘲気味な謝罪に、彼女はふっと柔らかく微笑んだ。
一方、ラゴゥが自らキャタピラを捨て去ったのを見たキラは、目を丸くした直後、己の生存性という保険を躊躇いなく擲った。
蒼いバクゥの脚部からも、重石となっていた無限軌道がパージされる。
「潔いな、君は。……だからこそ、戦場以外で会いたかったよ」
感傷を断ち切るように、バルトフェルドはラゴゥのメインスラスターに点火。ビームサーベルを煌めかせ、機体を疾走させた。
対するキラもまた、背部のブースターを火を噴かせ、左右のレーザーブレードを展開して猛然と突進する。
オレンジと蒼の獣が、熱砂の海で正面から激突する。
ビームの熱刃と高周波の刃が交差して凄まじい火花を散らし、互いの巨体が反発し合うように弾かれた。
着地と同時、素早く機体の体勢を立て直したのは、四足機動の操縦において一日の長があるバルトフェルドだった。
ラゴゥはその巨体を低く沈めると、バクゥの懐へと滑り込み、強靭な頭部で下顎を強烈にカチ上げる。バクゥよりも一回り巨大なラゴゥの『質量の差』を、完璧な武器として叩きつけたのだ。
「くっ!」
ひっくり返されそうになる機体をそのままバク宙させて着地し、致命傷を避ける。
しかし、バルトフェルドの追撃は容赦がなかった。着地の硬直を狙い、ラゴゥの背部から二連装ビームキャノンの閃光が放たれる。
だが、蒼いバクゥを貫くはずだったその閃光は、機体前面に展開されたビームコートによって弾かれ、空しく霧散した。
「成る程、バリアまであるのか。万が一の備えも用意しておく……その抜け目のなさは見事だよ」
バルトフェルドは敵ながら純粋に感心する。だが、守勢に回るキラではない。
「イオンブースター、オンッ!!」
キラの絶叫と共に、背部の大型ブースターが鼓膜を破るような激しい唸りを上げ、バクゥを爆発的に加速させる。
「くぅっ!」
光を纏った蒼い獣の異常な速度に、バルトフェルドは咄嗟に回避行動を取った。しかし機体を伏せても完全には避けきれず、ラゴゥの背部にマウントされていたビームキャノンがレーザーブレードによって根本から切り裂かれ、背上で大爆発を起こす。
「なんのっ!」
だが、バルトフェルドは歴戦の猛者だ。その爆発の衝撃と立ち上る黒煙を瞬時にブラインドとして利用し、直ぐ様にラゴゥの体勢を立て直すと、スラスターを吹かして砂漠を駆け出した。
その背を、旋回を終えたキラのバクゥが猛然と追う。
「頼む、もう少しだけ保ってくれ……!」
コックピットの中で、キラは赤く明滅する機体のステータス画面を横目に、祈るように言葉を叩きつけた。
規格外の加速性能を生み出すイオンブースターを背負わせた代償として、本体のフレームや関節駆動系には殆ど手を加えられていないベース機のバクゥは、その四肢に多大な負担を強いられていた。
これが、最初からバルトフェルドのラゴゥとの一騎打ちであったなら、まだ良かったかもしれない。
しかし、キラはすでに手練れのザフト兵が駆るバクゥ5機との死闘を終えた後なのだ。
限界を訴え、悲鳴のような警告音を鳴らし続ける機体。
それでもキラは、緋色の虎の背中を追って、傷だらけの蒼き獅子を熱砂の戦場へと駆けさせた。
おそらく毎週土曜日の夕方に目をキラキラさせてテレビの前に陣取っていた三十代の仲間たちが多いのだと感想欄から読み取れました。
あの挙動を文章に落とし込むのは一苦労ですが、そこは皆さん容易く脳内補完してくださると思います。
そして相変わらずティエレンの出番がなくならないことはおそらく確定しています。
ティエレン「仕方ないだろ!君らがモノアイじゃないから
っ」
リアルド&ヘリオン「」
無骨なモノアイ機体ってだけで他の世界でも需要見込めるんですよ。
ましてや平成のファーストガンダムを目指したSEEDなら尚更ねぇ。