やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-60 世界の実情

 

 ヘルメットのロックを外し、ゆっくりと頭部から引き抜く。

 

 無重力の空間へと解き放たれたラクス・クラインの桜色の髪が、まるで水中で花開くようにふわりと美しく広がった。

 

 秘密裏に建造された小惑星内部の秘匿ドック。冷たい静寂に包まれた空間で、小さく安堵の息を吐いた彼女が見上げる視線の先には、圧倒的な質量を誇る鋼鉄の巨人──彼女のパーソナルカラーである鮮やかなピンク色に塗装された『ティエレン』が、静かに聳え立っていた。

 

「ラクス様! お加減の方は」

 

 隣接する足場から、無重力遊泳で滑るように近づいてきたのは、ヒルダ・ハーケンだった。歴戦の凄みを感じさせる彼女の気遣いに満ちた声に、ラクスは柔らかな微笑みを返す。

 

「ええ。わたくしは大丈夫ですわ、ヒルダさん。……ヒルダさんのお加減はどうでしょうか?」

 

「ええ、こちらも全く問題ありません。というより……本当に大したMSですよ、このティエレンという機体は」

 

 ヒルダは感嘆の息を漏らしながら、自身の背後に佇むもう一機のティエレンを見上げた。

 

 ラクスの機体とは対照的に、漆黒と深紫に彩られたそのティエレンは、無骨でありながらも、パイロットの生存性を極限まで高めた頼もしい相棒としての風格を漂わせていた。

 

 一見すれば、宇宙空間には不釣り合いなほどの鈍重なシルエット。しかし、実際に操縦桿を握ったヒルダは、その見た目を裏切る異常なまでのレスポンスの良さと、堅牢無比な安定感に舌を巻いていたのだ。

 

 現在、プラントの正規軍であるザフト内部のモビルスーツ運用思想は、かつてないほどの大きな転換期、あるいは妥協の只中にあった。

 

 本来の兵器開発計画であれば、ビーム兵器を標準搭載した次期主力新型機『ゲイツ』への全面的な機種転換が行われているはずだった。しかし現実のザフト軍は、ゲイツの量産計画を大幅に縮小・取り下げ、既存の『ジン』を高機動化させ、旧来の生産ラインをそのまま転用できる『ジンハイマニューバ2型』を次期主力として順次改修・生産する方針へと大きく舵を切っていた。

 

 この歪な実情を齎した要因は、主に二つの「計算外の脅威」にあった。

 

 第一の要因は、地球連合宇宙軍が前線へ投入し始めた新型モビルアーマーの存在である。

 

 高度な空間認識能力を持つ一部のパイロットにしか扱えないはずの『ガンバレル』。

 

 その無数の砲塔から全方位に向けて放たれる強力なビーム砲と、装甲を容易く切り裂くビームエッジによるオールレンジ攻撃は、単一の戦術に依存していたザフトのMS部隊を赤子の手を捻るように翻弄し、多大な犠牲を強いていた。

 

 この苛烈な宇宙戦線を生き抜くためには、一刻も早く全部隊にビーム兵器と、それを防ぐ対ビームシールドを行き渡らせる必要があった。

 

 ジンハイマニューバ2型は、ビームカービンと対ビームシールド、そして重斬刀に加え、オプションとしてビームサーベルを装備するという近代化改修を受けている。

 

 クセの強い一部の専用武装を持つゲイツを一から量産し、整備兵やパイロットに新たな教育を施すよりも、既存のジンの生産ラインと操縦系をそのまま転用できる「コストパフォーマンス」と「即効性」が、何よりも求められたのである。

 

 第二の要因にして最大の決定打となったのが、地球上のカオシュン宇宙港攻略戦における「ティエレン・ショック」である。

 

 当初、ザフトの首脳部はカオシュンを「1週間も掛からず攻略できる」と高を括っていた。しかし、ユーラシア連邦が大量投入した『ティエレン』という規格外の重装甲機兵が、その楽観論を完全に粉砕した。

 

 実体弾の嵐を耐え抜き、強引に戦線を維持するティエレンの泥臭い耐久戦の前に、ザフトの進軍は完全に膠着。結果として、ヘリオポリスで奪取したG兵器からのリバースエンジニアリングで量産を間に合わせたビームカービンやビームクロー内蔵シールドを既存のジンやシグーへと緊急配備することで、ザフトは1ヶ月にも及ぶ凄惨な消耗戦の末に、多大な犠牲を払って辛くも勝利をもぎ取った。

 

 この地獄のような消耗戦は、プラントの生産能力の限界を露呈させた。

 

 両腰のアンカーを射出し、ビーム刃を形成して敵を捕縛・貫く『エクステンショナルアレスター』。

 

 ゲイツに採用されたそのような実戦で極めて使い辛いトリッキーな武装を評価・訓練している余裕など、今のザフトの前線にはなかった。

 

 ジンハイマニューバ2型の最大の特徴は、「機種転換訓練がほぼ不要」という点に尽きる。ベースが乗り慣れたジンであることは、現場の兵士と整備班の負担を劇的に軽減させる物だった。

 

 生産ラインを潰して新型を量産するよりも、ジンをアップデートしながらビーム兵器を持たせなければ、地球軍の圧倒的な「数」の暴力に押し潰される。

 

 資源も人口も限られているプラントにとって、それは苦渋に満ちた、しかし絶対的な現実的選択であった。

 

 一方、ザフトの正規軍すら苦しめた『ティエレン』という機体は、ラクス・クラインが密かに作り上げている地下組織『ターミナル』において、主力機として制式採用されていた。

 

 一見して地下組織には不釣り合いなほどの巨体だが、その設計思想は非正規戦においてこそ真の牙を剥く。

 

 共通のフレームを持ちながら、外装とスラスター類のモジュール換装だけで「地上型」から「宇宙型」へと容易に対応可能。

 

 堅牢な重装甲と、耐ビームコーティングによる優れたビーム耐性。

 

 元々ジャンク屋組合が自衛目的で開発した機体であるため、精密なプラントの工場設備がなくとも、小さな町工場や隠しドック程度の設備で十分に組み上げが可能。

 

 壊れてもその辺の汎用パーツで修理可能、破損した機体の無事なモジュールブロックを取り外し、掛け合わせることで、即座に1機の完動品を錬成できるという、MSの常識を覆す整備性。

 

 MSを「超高級な戦闘機」として扱うC.E.の軍事常識において、ティエレンは「泥に塗れても弾を撃ち出せるアサルトライフル」のような存在だった。

 

「調達が容易で、壊れ難く、壊れても直しやすく……そして何より、『どこの所属なのか、誰の出資で動いているのか調べ切るのが極めて困難な民生用MS』。これほど地下組織にとって都合の良く、打って付けの傑作機はありませんわ」

 

 ラクスはピンク色の装甲にそっと触れながら、静かに微笑んだ。

 

 地下組織であるターミナルが、これほどの大部隊を維持し、多数のティエレンを運用できている背景には、莫大な資金力と技術的パイプラインが必要不可欠である。

 

 その屋台骨を支えているのが、他でもない『キラ・ヤマト』の後ろ盾であった。

 

 ティエレンの創造主たる彼が、ジャンク屋組合や中立国のダミー会社を複雑に経由し、莫大な資金をターミナルへと流し込んでいる。その圧倒的な支援のおかげで、彼らはザフトの監視網を掻い潜りながら、来るべき「第三の道」を切り拓くための強大な牙を密かに研ぎ澄ますことができていた。

 

「ええ。この機体と、私達を信じて託してくれた『彼』のためにも……。私達は私達の戦いを、最後まで生き抜きましょう、ラクス様」

 

 ヒルダの力強い言葉に、ラクスは深く頷いた。

 

 血塗られたプラントの野望と、青き清浄なる世界を狂信的に掲げる地球連合。

 

 そのどちらにも属さない、平和を求める者たちの剣にして盾として。無骨な鋼鉄の巨人たちは、暗き宇宙の深淵で静かにその稼働の時を待っていた。

 

 

◇◇◇

 

 

『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドの敗北と、それに伴う部隊の完全撤退。

 

 熱砂の大地で起きたその事象は、単なる一戦線の局地的な敗北という枠に収まらず、ザフト軍が描いていたアフリカ大陸、ひいては地球全土における巨大な戦略構想の根底からの見直しを余儀なくさせる決定的な破綻であった。

 

 バルトフェルドは、重力下でのモビルスーツ運用や過酷な環境下でのゲリラ戦術において、ザフト全軍を見渡しても五指に入るであろう地上戦のエキスパートである。

 

 彼に与えられた権限と戦力は強大であり、長らく地球連合軍のアフリカ戦線を単独で膠着状態に陥らせてきた最大の障壁だった。

 

 その絶対的な強者が敗れ去り、精鋭揃いであったバクゥ部隊が壊滅の憂き目に遭い、部隊そのものが実質的な解体と再編を余儀なくされたという事実は、遠く離れた宇宙のプラント最高評議会を物理的に揺るがすほどの激震をもたらした。

 

 現在、ザフトが地球上に築き上げている主要な橋頭堡は三つ。

 

 欧州とアフリカを睨む『ジブラルタル』、オセアニアを制圧する『カーペンタリア』、そして多大な犠牲を払いながらも先般ようやく陥落させた東アジアの『カオシュン』である。

 

 特に、無傷のマスドライバーを有するカオシュン宇宙港の防衛は、宇宙への重要な物資打ち上げ施設として最優先の防衛力強化が進められている。

 

 しかし、カオシュンを手に入れたからといって、ジブラルタル基地の防衛網を縮小し、拠点を放棄するなどという選択肢はあり得なかった。

 

 ジブラルタルは、開戦初期から莫大な資源と人員を投じて要塞化を進めてきた巨大な投資の結晶である。だがそれ以上に、戦略的な意味合いが重すぎた。

 

 地中海から大西洋へと抜けるこの『ジブラルタル海峡』の制海権・制空権を手放すことは、すなわち地球連合軍に対して、ヨーロッパ方面からアフリカ東岸の『ビクトリア宇宙港』へと至る長大な海運輸送の補給路を完全に復活させてしまう愚策中の愚策に他ならないのだ。

 

 この致命的な地政学的リスクを前に、プラント最高評議会議長パトリック・ザラは、冷徹かつ野心的な決断を下した。

 

 元々、彼が主導して進めていたのは、地球連合軍の南米最大のマスドライバー施設『パナマ』に対する大規模な奇襲制圧作戦──『オペレーション・スピットブレイク』であった。

 

 だが、パトリックはこの巨大な作戦の矛先を変更し、未だ連合軍の強固な防衛網に守られているアフリカの要衝へ向けた『第二次ビクトリア降下作戦』の電撃的な発動を決定したのである。

 

 バルトフェルドを退けたことで、連合軍のアフリカ戦線、ひいては地球上のナチュラル共はかつてないほどの熱狂と自信に満ち、確実に浮き足立っている。その驕り昂ぶった首根っこを、最大級の戦力で上から押さえつけ、完膚なきまでに叩き潰す。

 

 そして何より、連合の手にあるビクトリア宇宙港のマスドライバー施設を無傷で奪取すること。これこそが、パトリックの描く真の『地球制圧のグランドデザイン』を完成させる最後のピースだった。

 

 ジブラルタル海峡で地中海を封鎖し、紅海を抜けて、新たに獲得したビクトリアでアフリカの資源を掌握する。そこからインド洋のシーレーンを越えてカーペンタリアと接続し、最終的には太平洋の最重要拠点であるカオシュンへと繋ぐ。

 

 それは、地中海から紅海、インド洋、そして太平洋に至るまで、地球の半分を完全にザフトの勢力圏として呑み込む、人類史上類を見ない超巨大な長大補給路の構築を意味していた。

 

 この完璧なラインが完成すれば、地球連合軍は地上で完全に分断・孤立化し、ザフトは地球上のありとあらゆる地下資源や食糧を安全かつ無尽蔵に複数のマスドライバーを用いて母国プラントへと恒久的に打ち上げ続けることが可能となる。

 

 停滞しつつあるプラントの資源問題を一挙に解決し、ナチュラルを地上で干上がらせる──その絶対的勝利の計画を実行に移すためには、アフリカ大陸の心臓であり、防衛の要である『ビクトリア宇宙港』は、いかなる犠牲を払ってでも必ず攻略しなければならない最重要目標へと変貌を遂げたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

「ザフトの艦隊が集結しつつある、か……」

 

 月の静寂に包まれた地球連合軍プトレマイオス基地。

 

 司令室の巨大なメインモニターに映し出された観測データを前にして、デュエイン・ハルバートン提督は低く重い声を零した。

 

 現在、地球圏における宇宙の趨勢は、表面上は危うい拮抗状態を保っていると言えた。

 

 その均衡を支えているのは、連合宇宙軍が急ピッチで進めている新型MA『エグザス』の性能評価試験と、それに伴うパイロットたちの機種転換および慣熟訓練の賜物である。

 

 しかし、ハルバートンの憂鬱の種は、眼前の敵であるザフト以上に、味方の中枢にこそ存在していた。

 

 アラスカの地下深くに潜り、安全な場所からふんぞり返っている『モグラ』ども──地球軍地上本部の首脳陣は、ここにきてMSの量産と配備に異様なまでに躍起になっている。その強硬な命令により、月基地が有する兵器生産ラインの実に八割が、新型MS用のラインへと強制的に置き換えられつつあった。

 

 確かに、兵器としてのMSの汎用性と絶対的なポテンシャルが、従来の主力MAであるメビウスを遥かに凌駕していることは事実だ。

 

 ハルバートン自身が「これからの戦場の主役は間違いなくMSになる」という確固たる先見性のもと、極秘裏に『G兵器開発計画』を打ち立てた発起人なのだから。

 

 だが、それはあくまで大局的な、あるいは長期的な話である。

 

 現実の戦場において、新型MA『エグザス』は単機でザフトのMS複数を同時に相手取れるだけの、規格外の戦闘能力を有している。

 

 それに加えて、MSを軍の主力として正式に配備するということは、必然的に「MS規格で作られていない既存の地球軍宇宙艦艇すべてに、莫大な費用と時間をかけて大改修を施さなければならない」という兵站の悪夢を意味しているのだ。

 

 ならば、既存の艦艇のMA運用規格のまま十分な運用が可能であり、パイロットの再教育にかかる時間も短いエグザスを主力に据えた方が、現場の負担は遥かに軽く、余計な設備投資による国力の浪費も防ぐことができる。

 

 さらに言えば、旧来のメビウスの生産ラインをそのまま転用して量産できるエグザスは、一から真新しい生産ラインを構築しなければならない量産型MSに比べ、総合的に見ても極めて安価で生産性の高い機体であった。

 

(現場の空気を忘れた、地下のモグラどもにはそれが理解できんらしい)

 

 ハルバートンは胸中で毒づきながら、深い溜め息を吐いた。

 

 しかし、どれほど非効率的で無知な命令であろうと、月本部がアラスカ本部の指示に公然と異を唱えることは許されない。もしここで命令を拒絶すれば、それは軍内部における明確な『軍閥政治』の始まりを意味してしまう。

 

 ただでさえ大西洋連邦とユーラシア連邦の覇権争いで地球連合は一枚岩ではないのだ。その上で、大西洋連邦の内部で地上派閥と月派閥に分裂して相争うなどという愚行を犯すほどの余裕は、現在の連合軍には残されていない。

 

(ならば、大人しく従うまでだ。……表向きはな)

 

 月は地上本部の指示通り、莫大な予算を食いつぶしてでもMSの量産ラインを稼働させる。

 

 だがその傍らで、残された二割のラインと旧式化しつつある工場をフル稼働させ、MSよりも低コストで高い生産性を誇るエグザスを、水面下で生産し続ければ良い。

 

 塵も積もれば山となる。

 

 どんなに優秀な兵器も、圧倒的な物量と弾幕の前には等しく鉄屑へと変わる。ならば、次に来るであろうザフトとの宇宙における最終決戦へ向けて、配備できる機体の頭数を一機でも多く揃えること。

 

(それが、前線へ送られる若者たちの命を、一人でも多く救うことに繋がるのだからな)

 

 ハルバートンはモニターに映る無数の赤い光点を見据えながら、静かに、しかし強靭な覚悟と共に己の使命を噛み締めていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 オーブ連合首長国の資源衛星コロニー『ヘリオポリス』。

 

 かつてサハク家が大西洋連邦と結託し、秘密裏にモルゲンレーテ社でG兵器を開発していたその場所は、今も静かな宇宙の海に健在な姿を留めていた。

 

 ザフト軍クルーゼ隊の急襲を受けたあの日。

 

 ストライクではなく『ティエレン全領域対応型』を駆ったキラ・ヤマトの獅子奮迅の活躍により、コロニーの外壁がアグニによって撃ち抜かれるという最悪の事態は回避された。

 

 彼が戦闘を可能な限り外部へと誘導し、被害を最小限に抑え込んだおかげで、一部地域に損壊こそ出たものの、ヘリオポリスはコロニーとしての機能を完全に保ち、崩壊の危機を免れたのだ。

 

 現在では損傷したモルゲンレーテ工区も完全に修復され、日常の営みが戻ったコロニーの宙域を、本国でも量産配備が進むM1アストレイの空間戦闘仕様──『M1Aアストレイ』の部隊が静かに哨戒している。

 

 のみならず、現在のオーブは建国以来の空前の黄金期を迎えていた。

 

 キラ・ヤマトがもたらしたナチュラル用システム『TC-OS』。その莫大なパテント料が世界中から流入するという規格外の経済効果により、オーブの国家予算にはかつてないほど軍事費が湯水のように湧き出している。

 

 その潤沢すぎる資金を背景に、首脳陣は『イズモ級宇宙戦艦』の増産を決定。オーブは「中立」という気高い理念を守るための「武装」を、着実に、そして急ピッチで強固なものへと邁進させていた。

 

 そのヘリオポリスの地下深く、厳重なロックに守られたモルゲンレーテの極秘工区。

 

 そこには、新たに組み上げられた漆黒と黄金のモビルスーツ──『ゴールドフレーム天ミナ』が、荘厳な威容を誇って聳え立っていた。

 

 双子の弟であるロンド・ギナ・サハクが『ゴールドフレーム天』を己の象徴として所持している以上、姉であるロンド・ミナ・サハクもまた、己の力を示す絶対的な分身として、同じく「黄金の骨格」を選び取った。

 

 ギナの駆る『天』が、失われた右腕を補うためにブリッツの腕部を移植しているのに対し、この『天ミナ』の両腕は純粋なアストレイタイプのままである。

 

 しかし、その脚部は通常のアストレイとは大きく異なり、鋭く、そして優美なヒール形状へと改修されていた。それはベース機である『天』との明確な差異であり、同時にパイロットの性別と、彼女自身の気高さを体現するような洗練されたフォルムであった。

 

 先行して組まれた『天』というベース機が存在するが故に、『天ミナ』はその実戦データや挙動を余すことなくフィードバックして組み上げられている。

 

 そして今、国外で暗躍する弟の『天』に代わり、背部に巨大な翼のごとき特殊兵装『マガノイクタチ』を装備し、ついに完全な実戦仕様としての完成を迎えていた。

 

 漆黒の装甲の隙間から黄金のフレームが妖しく煌めく機体を見上げながら、ロンド・ミナ・サハクは艶やかな唇に微かな笑みを浮かべた。

 

 この国に、かつてないほどの巨大な力と富をもたらした規格外の少年。

 

「……一刻も早い帰還を待ち侘びているぞ。キラ・ヤマト」

 

 美しきオーブの影の支配者は、一人の少年との再会を心待ちにしながら、静かに自らの翼の羽ばたく時を見据えていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 カナード・パルスは、獲物を狙う飢えた獣のように、キラ・ヤマトの行く先々へ執拗に付き纏い、その一挙手一投足を物陰から見張っていた。

 

 それは単なる憎悪や衝動に駆られたストーキングではない。いつか必ず訪れる「打倒キラ・ヤマト」の決定的瞬間に向けて、怨敵の弱点や人間としての隙を洗い出すための、極めて冷徹な敵情視察であった。

 

『彼を知り己を知れば、百戦危うからず』

 

 どれほど己の圧倒的な力を信じ、勝利を豪語しようとも、敵の真の姿を知らなければ、ほんの些細な油断や不意を突かれて致命的な敗北を喫する可能性がある。死と隣り合わせの地獄を這いずり回ってきたカナードは、命のやり取りにおけるその絶対的な鉄則を、骨の髄まで理解していた。

 

 故に、カナードは「キラ・ヤマト」という存在の底の底までを知ろうとした。

 

 とはいえ、これまでカナードが握っていたキラの情報は、決して多くはなかった。

 

「オーブ連合首長国の若き技術士官」であり、ユーラシア軍に革命をもたらした「ティエレンとTC-OSの開発者」。

 

 その程度の経歴を知るだけだ。

 

 平和と中立を標榜する理想主義の国で、何不自由なく蝶よ花よと育てられた『完成品のスーパーコーディネイター』。

 

 ならば、どうせ己とは最初から住む世界が違う、無菌室で育ったひ弱な温室育ちの坊ちゃんなのだろう。それが、カナードの抱いていた確固たる先入観だった。

 

 だが──密かに観察を続けるカナードの目に映るキラ・ヤマトの姿は、その予想を悉く的外れなものとしていった。

 

 彼は技術士官という高い階級でありながら、ユーラシアの荒くれ者の整備士たちの中に自ら紛れ込み、彼らと共にモビルスーツの整備に没頭していた。

 

 油と煤で手を汚し、顔を黒く染めながら工具を握る姿。そして何より、整備の手を止め、ふと虚空を見つめるその『瞳』の奥にある色。

 

 それは、温室育ちの優等生が持つような、無垢で甘い光ではなかった。

 

 血と硝煙に塗れた過酷な戦場で、どれだけ泥水を啜ろうとも、這いつくばってでも明日へ命を繋ごうとする……極限状態を『生き抜く人間』の、痛切で、切実な瞳だったのだ。

 

「……なんだ、その目は」

 

 暗がりの中で、カナードは無意識のうちに奥歯を噛み締めていた。

 

 泥に塗れてでも、どれほど無様に抗ってでも、生きてさえいればそれが『勝ち』なのだとする。

 

 それは、失敗作として廃棄される運命を撥ね退け、ユーラシアの実験室という血の池地獄を生き延びてきたカナード自身の、魂の根底にある信条そのものではないか。

 

 絶対に相容れないはずの『成功作』。

 

 その油に塗れた背中に、自分と同じ泥臭い生存への執着と傷跡を見た瞬間。カナードの胸の内に、憎悪とは全く違う、奇妙で名状しがたい共鳴の感覚が静かに波打っていた。

 

 

 




ホントに何回も言ってしまうが、接着剤というかもう話の起点捏ねくり回すのにティエレンが便利過ぎる。

車に例えるならば、海外の輸入車で国産車よりちょい割高。

でもどんなに乱暴な運転しても中々壊れない。

壊れてもディーラーから海外工場のパーツを取り寄せるのではなく、そこら辺の国産車のパーツでも良いし、何なら中古車やスクラップ業者の持ってるジャンクパーツでもあればちょっとした専門技能はいるけれども、日曜大工感覚で自分で直せてしまう。

その上でどんな坂道でもパワーを失わない。

けれどもだからって海外の輸入車と比べでバカでかいわけでもなく日本の車幅で乗り回せる車。

そりゃ、民需品として腐る事ありませんことよ?

ああ、ちなみにそんな描写してないからわからなかったかもですが、コックピットは立ち乗りスタイルではなくちゃんと座席シートなので居住性も原作よりちゃんと整えられてます。
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