やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-62 洋上の再会

 

 ユーラシア連邦管轄であるビクトリア基地の全面的な支援を受け、アークエンジェルの修復作業はついに一段落を迎えた。装甲の張り替えや機関部の整備だけでなく、艦に搭載されたモビルスーツ群の綿密な調整とオーバーホールも無事に完了し、その巨体に再び戦うための息吹を取り戻していた。

 

 新たな戦力として配属されたモーガン・シュバリエとエドワード・ハレルソンには、戦時急造型のストライクダガーではなく、地球連合軍主力量産機である『105ダガー』がそれぞれ与えられていた。

 

 本来であれば、「切り裂きエド」の異名を持つエドワードが105ダガーを受領し搭乗する予定はない。

 

 しかし、アークエンジェルが元々GAT-Xシリーズの運用を前提とした専用母艦であり、現在戦力の中核を担っているのがムウ・ラ・フラガの駆る『ストライク』であるという事実が、この配備を後押しした。

 

 ストライクと共通の規格を持ち、各種ストライカーパックの換装によって戦況に応じた柔軟な運用が可能な105ダガーは、アークエンジェルの限られた艦載機枠において、まさにこれ以上ないパズルのピースとして合致したのである。

 

 一方、熟練の戦車兵上がりであるモーガンは、自身と部下たちの命を救った重装甲の傑作機『ティエレン』から乗り換えることに対し、当初は隠しきれない不満を漏らしていた。

 

 だが、アークエンジェルの今後の任務が重力下から宇宙も加わる事を見据えれば、その不満も呑み込まざるを得なかった。

 

 純粋な陸戦兵器として設計されたティエレン地上型に加え宇宙型を調達してアークエンジェルに積み込むよりも、最初から高い汎用性を誇り、ストライカーパックの換装一つであらゆる局地戦闘能力を付加できる105ダガーを運用する方が、部隊全体の戦術的対応力としては遥かに上回る。

 

 長年戦場を生き抜いてきたモーガンだからこそ、その戦術的合理性を理解し、渋々ながらも新たな愛機の手綱を握ることを受け入れたのだった。

 

 そして、アークエンジェルとは別の区画。

 

 ビクトリア基地の滑走路に駐機された巨大な輸送機のカーゴベイには、キラ・ヤマトの手によって徹底的にカスタマイズされた異形の機体たちが鎮座していた。

 

 一機は、過酷な砂漠環境に完璧に適応すべく防砂処理とホバー機能が施された『ティエレン高機動B指揮官型』。

 

 そしてもう一機は、鹵獲したザフト軍の四足獣型モビルスーツをベースに、キラ自身の卓越した技術で禍々しくも美しい蒼色に染め上げられ、独自の近接武装を施された『ブレードバクゥ』である。

 

 だが、輸送機の格納庫にはさらにもう一機、場違いなほどの圧倒的な威容を放つモビルスーツが固定されていた。

 

 ユーラシア連邦が総力を挙げて開発した最新鋭機にして、絶対的な光の盾を備えた最高機密──『ハイペリオン』。

 

 そして驚くべきことに、その専属パイロットであるカナード・パルスをはじめ、彼の運用を裏から支えるユーラシア連邦MS開発特務部隊『X』のチームメンバーが丸ごと、この輸送機に同乗していたのである。

 

 それは、ユーラシア連邦上層部から特務部隊Xに下された、絶対の特命故であった。

 

『オーブの技術士官にしてティエレンの開発者たるキラ・ヤマトを護衛し、無事祖国オーブへと送り届けよ』。

 

 雲の上の将官たちから下されたその命令に対し、カナードに逆らう権限などあろうはずもなかった。

 

 それは彼が模範的な軍人だからではない。失敗作として廃棄される運命にあった彼が、ユーラシアの地獄のような実験施設を生き抜くために骨の髄まで叩き込まれた、血みどろの処世術であった。

 

 どんなに理不尽な命令であろうと、結果を出せばひとまずは殺されることはない。逆に言えば、己の感情を優先して命令に背けば、その瞬間に自らの命は消滅する。

 

 故に、どれほど腹の底で憎悪の炎を燃やしていようとも、カナードは沈黙して従うしかなかった。

 

 しかし、この護衛任務には戦略的に致命的な問題が存在していた。

 

 ビクトリアから中立国オーブへと至るには、広大な『インド洋』をどうしても抜けなければならない。

 

 赤道連合こそ中立の立場をとっているものの、アラビア半島からパキスタンにかけて広がるイスラム諸国による連合国家『汎ムスリム会議』は、表向きは中立を標榜しつつも、過去の歴史的・宗教的背景から反連合──特に反大西洋連邦の色彩が極めて濃い地域である。

 

 さらに、その先に控える大洋州連合は、明確な親プラント勢力として牙を剥いている。

 

 すなわち、インド洋を抜けて太平洋のオーブへと渡るその航路は、言ってしまえば完全に『ザフトの制海権・制空権下』にある海域を突破することを意味していたのだ。

 

 行きは、キラたちの『ジャンク屋組合』という中立身分を隠れ蓑にしたことで、なんの疑いを持たれることもなく安全に通過できた。

 

 だが、帰路において、もしユーラシア連邦の正規軍の輸送機が護衛として堂々と付き従えばどうなるか。

 

 結果は火を見るよりも明らかだ。

 

 中立組織のジャンク屋だからこそ素通りできた網の目に、地球連合軍の機体という巨大な異物が引っかかれば、即座にザフトの哨戒部隊に捕捉され、大部隊による集中砲火を浴びて海の藻屑となるだろう。

 

 その最悪の事態を回避するため、護衛の責任者であるカナードは、プライドを擲つ決断を下した。

 

 ハイペリオンという最高機密機体と、特務部隊Xの全要員を、キラたちが乗る『ジャンク屋組合の輸送機』の内部へと隠匿し、密航者のように相乗りしていくというトロイの木馬作戦である。

 

「そっちの方が、無駄な戦闘や余計な面倒事を抱えなくて済むからね」

 

 キラがあっさりとその提案を了承したことで、輸送機の内部は、まるで寄り合い所帯の長距離バスのような異様な空間へと変貌した。

 

 歴戦の冷酷な空気と硝煙の匂いを纏うユーラシアの軍人たちと、ジャンク屋のIDをぶら下げたオーブの若き技術士官たちが、狭いカーゴベイの中で膝を突き合わせることになったのである。

 

 だが、輸送機が離陸し、安定航行に入った後。特務部隊Xの大人たちは、周囲の光景に酷く驚愕し、いや、驚きを通り越して若干引き気味の視線をキラたちへ向けていた。

 

 いくらザフトの目を欺くためとはいえ、オーブからやって来たこの『ジャンク屋チーム』の陣容が、あまりにも異常だったからだ。

 

 キラを含め、操縦桿を握るトールや、システムを管理するサイ、管制を担当するミリアリアたち。たった4人の、どう見てもまだあどけなさの残る少年少女たちだけで、この巨大な輸送機を単独で動かし、高度なモビルスーツの運用から調整、果てはザフト勢力圏の単独突破までをやってのけていたのである。

 

「オーブという国は、そこまで人手不足なのか……? それとも、子供を平気で最前線に送り込むような狂った軍隊なのか」

 

 特務部隊Xの隊員の一人が、思わず戦慄を交えた心配の声を漏らす。彼らからすれば、これほどの機密任務を少年兵まがいの子供たちに丸投げしているという状況は、常軌を逸しているとしか思えなかったのだ。

 

 そんなユーラシア軍人たちの疑念に満ちた視線に対し、キラは苦笑しながら淡々と答えた。

 

「今回は、ザフトの勢力圏ど真ん中へ潜入し、誰にも気付かれずに砂漠を抜ける必要がありました。大人数の正規軍人を動かせば必ず足がつく。だからこそ、少数精鋭による極秘任務上の都合として、最も怪しまれない『ジャンク屋の若者たち』という少人数の陣容を組んだんです」

 

 その理路整然とした説明に、大人たちは渋々ながらも納得の意を示し、口を噤んだ。

 

 しかし、彼らの胸中から粟立つような畏怖が消え去ることはなかった。高度な隠密作戦の都合とはいえ、このたった4人の少年少女たちが、ザフトの猛者である『砂漠の虎』の支配領域を無傷で掻き回し、結果として戦局そのものを根底から覆してしまったという事実。

 

 輸送機を包むエンジン音の中、カナードを筆頭とするユーラシアの軍人たちは、自分たちがとんでもない怪物たちと同じ箱舟に乗ってしまったのだという薄ら寒い確信を抱きながら、緊張の糸を張り詰めたままインド洋の上空へと向かっていった。

 

◇◇◇

 

 

「キラ。進行ルート上に大型の熱源反応だ」

 

 操縦席の計器類とレーダーモニターを険しい目つきで睨みつけていたサイが、視線を外さぬままインターコム越しに告げた。

 

「大型の熱源? なんかの船かな」

 

「待ってくれ、艦影のデータを照合する……間違いない、ザフトの『レセップス級』だ」

 

 レセップス級。それはザフトが誇る巨大な陸上戦艦であるが、その巨体が蹂躙できるのはなにも熱砂の砂漠だけではない。強力なスケイルモーターを用いれば、海の上を滑るように移動することも十分に可能なのだ。

 

 だが、いくらザフトの勢力圏とはいえ、こんなインド洋のど真ん中をレセップス級が進んでいるという予期せぬ事態に、後部キャビンに身を潜めているユーラシア連邦特務部隊のメンバーたちの間に、ビリッとした緊迫感が迸った。

 

「他に艦影はあるか? いくら自軍の勢力圏内とはいえ、あんな巨体が単艦で動くとは思えん。相手がザフトならば、海中に潜水艦部隊が潜んでいるとも限らんぞ」

 

 背後から響いたその声に、サイは思わず肩をビクンと揺らした。

 

 耳に届く声帯の響きは、長年聞き慣れた親友であるキラと全く同じものだ。しかし、そこに込められた血の匂いを感じさせる威圧的で冷酷な声音は、どうやっても隠しきれるものではない。

 

 サイは、その強烈な違和感に今一度調子が狂わされそうになりながらも、必死にレーダーの画面に食らいついた。

 

「ウチの輸送機に軍用のソナーなんて積んでないから、潜水艦がいるかどうかなんてわからないよ。ただ、レーダーと光学センサーを見る限り、水上にいるのはレセップス一隻だけだ」

 

(一隻だけならば、俺が出て今すぐ沈めてやる……!)

 

 カナードの脳裏に、極めて軍人的かつ暴力的な最適解が閃き、無意識にハイペリオンへの搭乗準備へと思考を切り替えようとした。しかし、その殺意の出鼻を挫くように、キラの落ち着いた声がコックピットに響いた。

 

「ミリアリア。そのレセップスとコンタクト取れる?」

 

「オープンチャンネルでの呼びかけになるけど、出来るわよ?」

 

「なら、繋いでくれるかな」

 

「おい……ッ」

 

 カナードは顔を顰め、忌々しげにキラを睨みつけた。敵艦に対して、のこのことこちらから通信を繋ぐなど正気の沙汰ではない。

 

 しかし、キラはカナードを振り返り、こともなげに言い放った。

 

「今の僕たちは『ジャンク屋』だよ? 下手に武力をチラつかせて刺激するより、中立組織として穏便にやり過ごすのが一番安全だ」

 

「チッ……」

 

 その身も蓋もない正論を前に、カナードは深く舌打ちをして口を噤んだ。

 

 確かにその通りなのだ。現在の彼らに課せられた最優先事項は敵艦の撃沈ではなく、あくまで『キラ・ヤマトの無事な護衛と帰還』である。

 

 ユーラシア軍の小間使いとして「目の前に現れた敵は先手を取って全て排除する」という血生臭い思考回路が骨の髄まで染み付いていたが、今はジャンク屋組合という中立組織の隠密性を最大限に利用するフェーズなのだ。

 

 ここで不用意に牙を剥けば、それこそザフトの警戒網をハチの巣をつつくように刺激し、本隊を呼び寄せてしまうことになる。

 

 己の反射的な思考がいかに短絡的であったか。それを、よりにもよって『温室育ちの成功作』から窘められたという事実はひどく癪に障ったが、カナードは冷徹な理性を総動員し、無理やりその場へ鉾を収めるしかなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「繋がったわよ。というか、向こう……知り合いよ?」

 

 スピーカーから流れてくる識別信号を確認したミリアリアが、ひどく拍子抜けしたような声を出した。

 

「知り合い?」

 

 キラが小さく首を傾げた直後、通信のノイズが晴れ、インカム越しにひどく聞き覚えのある落ち着いた声がコックピットへ響き渡った。

 

『こちらはジャンク屋組合所属、陸上艦レセップスです。……まさか、こんな海のど真ん中で君たちと出会えるとは思いませんでしたよ』

 

「リーアムさん?」

 

 聞こえてきたのは、紛れもなくジャンク屋組合の──キラにとっては竹馬の友とも言えるロウ・ギュールの仲間であるリーアム・ガーフィールドの声だった。

 

『ええ、お久しぶりですね、キラ君。こちらは丁度、オーブへと向かうところです』

 

「こっちもオーブへの帰りなんですけど……そのレセップス、一体どうしたんです?」

 

 武装を外しているとはいえ、いくらなんでもザフトの巨大陸上戦艦をジャンク屋が堂々と運用しているなど、異常事態である。

 

 キラの問いかけに対し、リーアムは通信越しに微かな苦笑を滲ませて答えた。

 

『ええ。砂漠で出会った方々に、色々とありまして譲り受けたのですよ。よろしければ、こちらへ着艦しますか?』

 

 その言葉を聞いた瞬間、キラの脳裏に『ASTRAY』という本来の歴史の裏側で紡がれていた物語が鮮明に過った。

 

(そうか……ロウさんたちは地球に降りていたんだ)

 

 本来の歴史であれば、ロウ達は軌道上でコロニーの外壁解体作業を行っていた際、ロンド・ギナ・サハクの『ゴールドフレーム』と交戦する。

 

 それを退けたものの、愛機であるレッドフレームと共に、母艦の『ホーム』ごとアフリカの砂漠へと不時着してしまうのだ。

 

 そしてその砂漠の地で、アークエンジェル隊との死闘に敗れ瀕死の重傷を負っていた『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドと、彼を匿い治療しようと奔走するダコスタを助けたことで、その礼として放棄されたレセップスを譲り受ける……という数奇な運命を辿るはずだった。

 

 

 だがこの世界線のバルトフェルドは五体満足で生き延びている。しかし、苛烈な艦隊戦の中で旗艦レセップスは完全に行動不能となるほどの深刻なダメージを負い、砂漠に放棄せざるを得なかったのだろう。

 

 それを砂漠に落ちてきたロウたちが譲り受けたか回収したかで、自らの手で修理し、陸の母艦として再利用している──リーアムの言葉の端々から、キラはその「似て非なる歴史の符合」を察していた。

 

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 キラが穏やかに通信を切ると、背後から腕を組んだカナードが怪訝そうな低い声を発した。

 

「……知り合いか?」

 

「うん。ジャンク屋組合の仲間だ。……トール、いける?」

 

「オッケー、任せろ。あのデカブツの甲板に降ろすぜ」

 

 トールが操縦桿を力強く握り直し、輸送機のスラスター出力を細かく調整し始める。

 

 相対速度さえ完璧に合わせれば、垂直離着陸機能を備えたこの輸送機ならば、レセップス級の広大な甲板に降りることは十分に可能だった。

 

 眼下の海面を滑るように進む、巨大な砂色の艦影が徐々に近づいてくる。

 

 その光景を見下ろしながら、キラはコックピットのシートで静かに息を吐いた。

 

(いくら歴史の大きな流れを知っていても……そこで生きる人々の『日常』までは、読み切れないな)

 

 世界は、ただの決められた筋書き通りに動く舞台ではない。

 

 無数の人々が泥臭く生き、選択し、繋がり合うことで、予想もつかない化学反応を起こしながら形を変えていく。

 

 まさかザフトの制海権のど真ん中で、旧知のジャンク屋仲間が操る敵軍の戦艦に救われることになるとは、どれほど先を読めるキラであっても想像の範疇を超えていた。

 

 ただ一つ確かなのは、その計算外の出会いが、今はとてつもなく心強いということだけだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 潮風が吹き抜ける巨大な甲板に、輸送機のハッチが重々しい駆動音を立てて開いた。

 

 インド洋の青い海原を滑るように進む、本来ならば熱砂の海を泳ぐはずのザフト製陸上戦艦レセップス。

 

 その広大な甲板で待っていたのは、ジャンク屋組合の熱血メカニック──ロウ・ギュールだった。

 

「ようキラ! なんだかスゲェ人数だな」

 

 屈託のない、太陽のように明るい笑みを浮かべて大きく手を振るロウ。

 

 輸送機から降り立ったキラは、これまで張り詰めていた肩の力をふっと抜いて、年相応の柔らかな笑みを返した。

 

「お久しぶりです、ロウさん。ええ、ちょっと色々あって……ご覧の通り、相乗りバスみたいになってまして」

 

 キラの背後から、警戒心を剥き出しにしたユーラシア連邦特務部隊Xの面々が、ぞろぞろと油断なく周囲を睥睨しながら降りてくる。本来ならば敵国の巨大戦艦の甲板に丸腰で降り立つなど、正規の軍人からすれば狂気の沙汰だ。

 

 しかし、ロウはそんな殺気立った軍人たちの視線など全く意に介する様子もなく、カラカラと笑い飛ばした。

 

「まぁ、コイツは元々ザフトの戦艦だからな。中はまだ戦闘で荒れた区画とか砂漠の砂埃やら何やらで少しごっちゃりしてるが、これくらいの人数ならゆっくり寛げる程度の広さはあるぜ?」

 

「はい。本当に助かります。こんな海域でどうやって誤魔化そうか、ずっと悩んでいたので」

 

「良いってもんさ。困った時には助け合うのがジャンク屋ってもんだろ?」

 

 ロウはニッと白い歯を見せ、気さくに親指を立てた。

 

 国家間の思惑や、正規軍とナチュラル、コーディネイターといった血生臭い対立構造すらも軽々と飛び越えてしまう、ジャンク屋という自由な気風。

 

 その空気に当てられたのか、ユーラシアの軍人たちの間から漂っていた刺々しい空気が、毒気を抜かれたようにほんの少しだけ和らいだ。

 

「……それより気になってんのは、輸送機の格納庫からさっきチラッと見えた、あの蒼いバクゥだ」

 

 挨拶もそこそこに、ロウの瞳が突如として獲物を見つけた子供のようにキラキラと輝き始めた。彼の視線の先は、輸送機の奥に鎮座する、禍々しくも美しい蒼色の四足獣に向けられていた。

 

「あ、わかっちゃいます?」

 

 キラの声のトーンが、一段階跳ね上がった。

 

 先程までの「護衛対象」や「技術士官」としての落ち着いた態度はどこへやら、自分と同じ『メカニックのマブダチ』を見つけた無邪気な少年の顔へと瞬時に切り替わる。

 

「あんだけハデならな。キャタピラも脚の重装甲もないのは、四足歩行の利点を最大限引き出す為か。背中の大推力ブースターで一気に加速して、すれ違いざまにブレードで切るってコンセプトだろ? ザフトのバクゥの長所を極限まで伸ばす、一点突破のアプローチか」

 

 ロウは興奮気味に身を乗り出し、空間に指で機体のシルエットを描きながら早口でまくしたてる。

 

「ええ、その通りです! 通常のバクゥは不整地走破性をキャタピラに依存していますが、あれは脚部関節のレスポンスを直接駆動系に直結させて、有機的な瞬発力を機体制御に落とし込んでいるんです。その代わり、乗り手へのGの負担は跳ね上がりますけどね。本体の防御に関しては──」

 

 二人の天才的なメカニックは、完全に周囲の人間を置き去りにして、専門用語と数式が入り乱れる極めて高度でマニアックなメカ談義に花を咲かせ始めた。

 

 その光景を後方で見ていたカナードは、完全に呆気に取られていた。

 

(……なんだ、あれは)

 

 先程まで、過酷な運命を背負い、果てしない憂いを帯びた表情を見せていたはずの『完成品』。

 

 それが今や、油と鉄の匂いを愛するただのジャンク屋の青年と肩を並べ、新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせて、キャタピラがどうだの、アンプの出力がどうだのと、無邪気にはしゃぎ回っているのだ。

 

 威厳も、悲壮感も、何もない。

 

 ただの、機械いじりが大好きな、等身大の少年の姿がそこにあった。

 

「……本当にお前は、底が知れんな。キラ・ヤマト」

 

 カナードは小さく毒づきながらも、その口元から険しいシワが消え去っていることには気付いていなかった。

 

 インド洋の潮風が、戦士たちの疲労を優しく撫でるように吹き抜けていく。

 

 巨大な陸上戦艦の甲板には、二人の弾むような笑い声と、それに呆れる仲間たちの穏やかな溜め息だけが、平和な旋律のように響き渡っていた。

 

 

 




一応全領域対応型の例を見るに、気密しっかりして浅瀬なら海底えっちらおっちら歩く事くらい出来んこともないかも?

あとは地上型は背面がロッドアンテナ付いてるけどガラ空きだから、そこにスケイルエンジンをポンポン付ければ泳げるかなぁ?

海に潜れるなら海底ケーブル敷設やメンテナンスに役立つな。

なんせザウートの4連装砲を至近距離で食らっても大丈夫な装甲だから水圧にもそれなりに耐えられる、ハズ!
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