やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-64 砲兵は戦場の女神也や

 

「そらそら、退いた退いたァ!!」

 

 怒号と金属が軋む音が交錯する戦場のど真ん中で、エドワード・ハレルソンは『ソードダガー』のコックピット内で野生の獣のように吠え猛った。

 

 彼の駆る105ダガーは、ソードストライカーの概念を突き詰めた近接特化形態。両腕に装備された小型ロケットシールド『パンツァーアイゼン』のアンカーを射出し、地形の起伏を利用して強引に飛び込んでくるバクゥの脚部に直撃させる。体勢を崩した四足獣の懐へ、スラスターを限界まで吹かして肉薄した。

 

「遅ぇんだよッ!」

 

 背部のマウントから引き抜かれた巨大な対艦刀『シュベルトゲベール』が、唸りを上げて振り下ろされる。ビーム刃が分厚い装甲をバターのように溶断し、バクゥは悲鳴を上げる間もなく真っ二つに両断されて爆散した。

 

 エドは一息つく間もなくシュベルトゲベールをバックパックへと戻し、即座に両肩のアーマーからビームブーメラン『マイダスメッサー』を引き抜いて連続投擲する。弧を描いて飛翔する二つの光の刃は、ザウートを両断し、そのままブーメランの軌道で手元へと戻る。

 

 さらに彼は、マイダスメッサーをキャッチすると同時に、バックパックに懸架されたままの二本のシュベルトゲベールを上方へ向けた。

 

「落ちろやァ!」

 

 柄の底から極太のビームキャノンが天へ向けて放たれる。

 

 この対艦刀は、ただ振り回して斬るだけが能ではない。マウント状態のまま高出力のビーム砲として運用できるのだ。

 

 空を支配していると錯覚していたディンや、グゥルに搭乗して上空から射撃姿勢に入っていたジンやシグーが、地上から放たれた予想外の閃光に次々と撃ち抜かれ、火だるまとなってビクトリアの大地へと墜落していく。

 

「このアグニは効くぜぇぇぇ!!」

 

 同じ頃、戦場を駆けるもう一機のトリコロール──『エンデュミオンの鷹』ムウ・ラ・フラガの駆るストライクガンダムもまた、猛威を振るっていた。

 

 背部にエール、ソード、ランチャーの三つの機能を統合した巨大な『マルチプルストライカー』を背負い、その重武装ゆえの劣悪な機体バランス、しかしそれはTC-OSのサポートによって完璧にコントロールされながら、ムウは自身の空間認識能力と天才的な操縦技術で揺れる機体を完全にねじ伏せていた。

 

「そこだッ!」

 

 ストライクは機体を沈み込ませて反動を殺すと、左腕に構えた超高インパルス砲『アグニ』のトリガーを容赦なく引き絞る。

 

 放たれた破壊の閃光は、大地を抉りながら直線上の空間を一瞬で消し飛ばし、群れを成して迫っていたバクゥの小隊や、キャタピラで後方から重火力を吐き出していたザウートの部隊を、まとめて蒸発させ、薙ぎ払った。

 

「……流石に、数は多いな。だが、的がデカくて助かる」

 

 二機の暴れ回る様を後方から支援しながら、モーガン・シュバリエは『ライトニングストライカー』を装備した105ダガーのコックピットで、冷徹に戦況を見つめていた。

 

 彼の機体は、大容量バッテリーポッドから莫大なエネルギーを供給され、展開した70-31式電磁加農砲を水平に構えている。

 

 老練な戦車乗りである彼にとって、敵機の軌道計算と射線管理は、自身の呼吸と同じくらい自然なものだった。

 

「第4中隊の死角、水陸両用機が来るぞ! 俺が潰す」

 

 冷静極まりない声と共にトリガーが引かれる。

 

 超高初速で射出されたレールガンの実体弾が、音速を超えた衝撃波を纏って空気を切り裂く。それは、ビクトリア基地の防波堤であるティエレン部隊にとって最も脅威となる、ゾノやグーンの重装甲を、アウトレンジからいとも容易く貫徹し、内部から爆散させた。

 

 さらに、戦場の反対側で対要塞攻略用D装備の大型ミサイルを構えようとしていたジンを、正確無比な偏差射撃で次々と撃ち抜いていく。

 

 ティエレン部隊の脅威となる「優先排除目標」だけを、モーガンは恐るべき精度で刈り取っていたのである。

 

 緑色に塗装されたユーラシア連邦のティエレン部隊が、大地に根を張る不落の城壁として防衛線を形成する戦場。

 

 その泥臭い鉄の色の海の中で、鮮やかなトリコロールカラーに塗装された三機の小隊は、あまりにも場違いなほど強烈な異彩を放っていた。

 

 だが、それは単なる見掛け倒しの派手さではない。

 

 戦場を俯瞰し、敵の急所を的確に突く老練な指揮官。

 

 空間を支配し、圧倒的な火力で敵陣を粉砕する空の鷹。

 

 そして、死地に飛び込み、刃の旋風で敵を斬り刻む狂気の刃。

 

 彼らが放つ異彩とは、MSが入り乱れる大戦場においても決して埋もれることのない、文字通りの『エースパイロット』としての圧倒的な存在感と暴力の証明であった。

 

 

◇◇◇

 

 

 この戦場に投入されたザフトの将兵たちを襲った最大の不運は、プラント最高評議会議長パトリック・ザラが、本来の歴史で計画されていた『オペレーション・スピットブレイク』をそのままの形で発動せず、戦略的に最も重要であると判断したこの『ビクトリア基地』へと、戦力を素直に振り向けてしまったことに尽きるだろう。

 

 もしこれが、プラント本国から発した「パナマのマスドライバー基地を目標にする」という情報で地球連合軍の防衛網を南米に引きつけ、直前で電撃的にその矛先をアラスカの地球連合軍最高司令部JOSH-Aへと振り向けるという、あの奇襲作戦であったならば、戦局は全く違う様相を呈していただろう。

 

 なぜなら、アラスカ本部の防衛を担当しているのは大部分が大西洋連邦の戦力であり、彼らが誇る次期主力量産機『ダガーシリーズ』のほとんどは、地球軍の宇宙への生命線となっているパナマ基地の防衛へと優先的に配備されてしまっているからだ。

 

 その結果、アラスカの守りは未だに戦闘機『スピアヘッド』や『リニアガンタンク』といった、モビルスーツ戦においては完全に時代遅れとなった通常兵器群が主力を担っているのが実情である。

 

 確かに、アラスカにも一部ユーラシア連邦の駐留部隊がおり、彼らには『ティエレン』が配備されている。だが、アラスカという広大な基地全体を網羅して防衛陣地を構築するには、到底その絶対数が足りない。あのザフトの全戦力をもってアラスカを奇襲していれば、基地を陥落させることは十分に可能だったはずなのだ。

 

 しかし、アフリカ大陸の要衝であるこのビクトリア基地の現実は、アラスカのそれとは根本的に、そして決定的に異なっていた。

 

 ザフトの降下部隊が眼下の戦場を見渡しても、要所要所に据え付けられた巨大な要塞トーチカ砲や対空砲の砲座こそ確認できるものの、地球連合軍の陣地に「普通なら必ず存在しているはず」の兵器の姿がどこにもないのだ。

 

 戦線を面で支える牽引式の野戦砲兵部隊も、後方から支援射撃を行う自走榴弾砲も、主力戦車であるはずのリニアガンタンクも、空の護りを担う戦闘機も──この泥臭い戦場のどこを探しても、ただの一機たりとも存在していない。

 

 彼らの視界を埋め尽くしているのは、ただ果てしなく続く、緑色に塗装された鈍重な鋼鉄の巨人『ティエレン』の群れだけであった。

 

 それは、キラ・ヤマトが齎した「ティエレン」というMSの圧倒的な有用性に完全に頭を焼かれ、狂信的とも言えるほどにその存在へ傾倒したユーラシア連邦軍上層部が下した、極端かつ思い切った軍事の『戦略転換』の到達点であった。

 

 そもそも、ザフトは「モビルスーツ」という汎用人型兵器を生み出したことで、旧来の戦闘車両や航空機が担っていた役割のすべてを、MSのバリエーション機に集約させるという思想を持っていた。

 

 重装甲の戦車や自走砲の役割はキャタピラ駆動の『ザウート』に。

 

 不整地を高速で駆け抜け、一撃離脱を行う騎兵や装甲車の役割は四足獣の『バクゥ』に。

 

 そして、制空権を握る航空機や戦闘攻撃機の役割は空を舞う『ディン』に、といった具合である。

 

 ユーラシア連邦がビクトリアで行ったのは、そのザフトの思想を「ティエレン」という単一のプラットフォームを用いて、さらに暴力的なまでに突き詰め、同じことをやり返したに過ぎなかったのだ。

 

 紙のように薄い装甲しか持たず、ジンに容易く踏み潰される野戦砲や自走砲など、そもそも戦場に配備する必要がない。長距離からの面制圧射撃の役割は、200mm滑腔砲を装備したティエレンの小隊が密集陣形を組んで斉射を行えば、それ以上の破壊力と精度で十分に事足りるからだ。

 

 ディンやグゥルによって空から制空権を取られ、上空から一方的に爆撃を加えられたとしても、ティエレンの重装甲ならば直撃にすら耐えうる。その上で、腕部の同軸機銃、そして主砲を天に向けて放つ無数の弾幕による「地上からの対空防御」で、空の脅威を撃ち落とすことが可能である。

 

「旧来の兵器に乗せて、無駄に兵士の命を消費するくらいなら、すべてをこの鋼鉄の鎧の中に押し込めろ」

 

 その合理的な冷酷さこそが、ユーラシア連邦の出した答えだった。

 

 無駄に兵士を殺しかねない脆弱な旧式兵科をすべて刷新し、戦車兵、砲兵、さらには一部の航空部隊のパイロットまでもをティエレンの操縦席へと押し込み、国家の軍事リソースのすべてを『ティエレンの増産と運用』に注ぎ込んだのである。

 

 そうすることで、最前線に立つ兵士たちの生還率は劇的に向上し、部隊の士気はかつてないほどに高まった。さらに、兵站の面においても、複数の異なる兵器体系の弾薬や整備パーツを維持する負担が消滅し、生産ラインも整備ラインも「ティエレンを中心にした一本化」が図られ、後方支援の負担は信じられないほどに軽減された。

 

 確かに、ジャンク屋組合から『TC-OS』のパテントを含むライセンス生産権を買い取って生産しているため、大西洋連邦のダガーシリーズに比べて一機あたりの単価は少々割高となる。

 

 だが、その割高なコストは、兵站の単一化と、煩雑化する旧式兵器の種別をごっそりと切り捨てるという選択を取ることで、十分にお釣りがくるほどペイできる計算であった。

 

 そして、ユーラシア連邦のティエレン偏重主義は、単なる戦闘兵器の枠に留まらず、軍の『指揮系統の中枢』にまで及んでいた。

 

 戦場の各所に配置された、少しだけ頭部の形状が異なるティエレンの部隊。

 

 それは、本来キラ・ヤマトが宇宙用として設計した『ティエレン宇宙指揮官型』のデータとコンセプトを、重力下の地上戦向けにユーラシア連邦が再構築した『ティエレン地上指揮官型』であった。

 

 頭部には通常の機体を遥かに凌駕する強化型のセンサーブロックと通信モジュールが搭載されており、両肩にマウントされた専用のシールドには、電波妨害下であっても広範囲の味方機とリンクできる強化アンテナ、索敵用の追加センサーブロックが内蔵されている。

 

 ユーラシア連邦は、この指揮官型ティエレンの極めて無骨なコックピットを複座式に改修した。一人は機体を操る専任のパイロット。そしてもう一人は、部隊を率いる指揮官、あるいは通信を統括するオペレーターである。

 

 装甲の厚さとスペースの関係上、複座にするのが物理的な限界ではあるものの、その恩恵は絶大であった。

 

 戦場の後方で脆弱なテントや装甲指揮車両に立て籠もるのではなく、無数にある堅牢なティエレンの群れの中に、この指揮官型を紛れ込ませて「野戦指揮車両」として運用するのだ。

 

 周囲を通常のティエレンが護衛し、指揮官機自体も重装甲に守られている。どれほど激しい爆撃を受けようとも、どれほど敵の別動隊に裏をかかれようとも、余程のことでも受けない限り、この「歩く前線司令部」が壊滅することはあり得ない。

 

 指揮系統が寸断されない要塞指揮所が、常に戦場を移動しながら最前線で的確な命令を下し続けるのだ。

 

 これもやはり、ザフトの脅威に晒されながらも一ヶ月間を持ち堪えた、あの凄惨な『カオシュン宇宙港攻防戦』における血の滲むような戦訓が、ユーラシア連邦の将兵たちに生み出させた戦略的運用の極致であった。

 

「生き残るためには、装甲こそがすべてである」

 

 その教訓は、歩兵から将官に至るまで、全軍の思想として完全に定着していたのである。

 

 結果として、ユーラシア連邦の陸軍部隊は、その軍事戦略の根本から末端に至るすべてを、キラ・ヤマトが設計した「ティエレン」という歩く重装甲機兵にまるっと依存し、最適化することを選択した。

 

 ザフトの洗練された機動戦術を真っ向から受け止め、稼働率の圧倒的な高さと、損失の少なさを極限まで突き詰めた、泥臭くも決して折れることのない『鋼鉄の軍隊』。

 

 それが今のユーラシア連邦軍の姿だった。

 

 だが、ザフト側もただ無作為に一方的な被害を出し、蹂躙されているわけではなかった。

 

 彼らもまた、プラントの誇りを懸けて地球へ降り立った精鋭たちである。

 

 ユーラシア連邦がどれほど堅牢な防衛線を構築し、綿密な対策を練ろうとも、それを個人の卓越した技量と機動力で凌駕して見せる手練れのバクゥ乗りや、指揮官機であるラゴゥに翻弄され、陣形に穴を穿たれる陣地も確実に存在していた。

 

 そして何より、この第二次ビクトリア攻略戦は大規模な「基地攻略」である。

 

 ザフト上層部は、一ヶ月に及んだカオシュン宇宙港攻防戦の血みどろの戦訓から、「対ティエレンにはとにかく大火力が必要である」という解答を導き出していた。そのため、ジンが装備する対拠点攻略用の重兵装『D装備』を、本来の運用ドクトリンを無視して各部隊に持てるだけ用意させ、物量に任せた熾烈なミサイル爆撃を浴びせ続けることで、どうにかしてティエレンの分厚い防衛線を崩そうと躍起になっていた。

 

 戦場全体の兵力比で見れば、両陣営の数はほぼ五分と五分。

 

 しかし、いかにザフトがティエレンを撃破しようとも、ユーラシアの将兵たちが異常なまでの執念で「現場でのレストア」を行い、損傷機を即座に戦線へと復帰させてしまうため、純粋な戦力消耗の比率という面においては、ザフト側が圧倒的に不利な状況を強いられていた。

 

 このまま消耗戦が続けば、いずれ戦線は崩壊する。

 

 ──しかし、ザフト軍もただ手を拱いて絶望を待っていたわけではなかった。

 

 砲弾とミサイルが飛び交う泥沼の戦場において。

 

 突如として、ザフト陣営から放たれる『ビームの火線』の数が、目に見えて劇的に増え始めたのである。

 

「なんだ、あの機体は……ッ!? ザウートか!? いや、違う!」

 

 モニター越しにその異形のシルエットを確認したユーラシア兵たちが、驚愕の声を上げた。

 

 大地をタンクモードでキャタピラ駆動のまま高速前進してくるその機体は、確かにザフトの砲戦型MS『ザウート』の面影を残していた。

 

 だが、その武装は、彼らの知るザウートとは全く異なる威圧感を放っていた。

 

 ザウートの近代化改修機――『ガズウート』。

 

 それが、戦場に姿を現した新たな悪魔の名であった。

 

 本来の歴史であれば、この機体は戦後に旧式化したザウートの延命と火力増強を目的として近代化改修を受けた姿である。

 

 しかし、この世界線においては事情が違った。

 

 ザフトはゲイツに代わる次期主力量産MSの座を『ジンハイマニューバ2型』という既存機の改修モデルへと譲るという方針転換を強いられている。それと全く同じ背景と理由から、「一から新型を開発するのではなく、現状のザウートをマイナーチェンジし、低コストで戦力強化を図る」という計画が承認され、結果としてガズウートが、本来の歴史よりも2年も前倒しで最前線へと姿を現してしまったのだ。

 

「前列、構え! 敵新型へ集中砲火!」

 

 ティエレン部隊の放つ200mm滑腔砲の斉射が、接近してくるガズウートの群れを捉える。

 

 ──しかし。

 

 轟音と共に無数の徹甲弾が直撃したにも関わらず、爆炎を突き抜けてガズウートは止まることなく前進を続けていた。

 

 このガズウートは、単なるザウートの火力強化版ではない。分厚い装甲を誇るティエレンとの正面からの撃ち合いを想定した「対ティエレン用MS」として再設計を受けており、その正面装甲は元のザウートよりも堅牢に強化されていた。

 

 長距離からの砲撃は、空気抵抗による減衰で着弾時の運動量がどうしても低下する。ガズウートはその強固な正面装甲で、距離の開いたティエレンの滑腔砲の直撃を強引に弾き返し、耐え抜きながら、自機の射程距離へとじりじりと肉薄していった。

 

「距離に入った! 焼き払えッ!!」

 

 ザフト兵の怒号と共に、ガズウートの両肩に装備された強大な4門の指向性ビーム砲が、一斉に閃光を放った。

 

 大気による減衰を物ともしないほどの圧倒的な高出力ビームの束が、ティエレンの脚部シールドと正面装甲に叩きつけられる。

 

 いくら分厚い耐ビームコーティングが施されていようと、4門同時の大火力ビームを同一箇所に浴びせられ続ければ、コーティングは瞬く間に蒸発し、分厚い装甲板すらもドロドロに融解していく。

 

「装甲がっ、防ぎきれな──」

 

 悲鳴を上げるティエレンのパイロット。

 

 そこへ追い打ちをかけるように、ガズウートの両腕から無数の火線が放たれた。この機体の腕部には、モビルスーツとしての汎用性を示すマニピュレーターが存在しない。その代わり、両腕そのものが『機関砲』と『対艦ミサイルランチャー』の複合兵装プラットホームへと換装されているのだ。

 

 ビームによって装甲を剥がされ、赤熱化したティエレンの急所へ向けて、至近距離から対艦ミサイルが容赦なく叩き込まれる。

 

 さしもの鋼鉄の鉄人たちも、この計算し尽くされた二段構えの飽和火力の前には耐えきれず、次々と爆散して黒煙を上げ始めた。

 

 自機のビーム砲が確実に有効打となる距離まで、相手の砲撃を耐え抜いて踏み込む装甲。

 

 そして、ティエレンの防御力を上回る「ビームと対艦ミサイルによる同時制圧火力」。

 

 それは、ザフトの技術陣が血を吐くような思いで解析し、ユーラシア連邦の「歩く重戦車」を真正面から打ち砕くためだけに生み出した、執念の結晶であった。

 

 しかし、ザフトの技術陣が血を吐く思いで生み出したガズウートの威容に酔いしれる時間は、あまりにも短かった。

 

「……なにっ!?」

 

 最前線でティエレンを蹂躙し、意気揚々と前進を続けていた1機のガズウートが、突如として正面から不可視の衝撃波に貫かれ、轟音と共に爆散した。

 

 分厚い正面装甲を強引に引き裂き、完全に粉砕するほどの異常な破壊力。それは、これまで彼らが耐え凌いできた200mm滑腔砲の威力とは次元が違った。

 

 ユーラシア連邦軍の上層部とて、ただ現行のティエレンの有用性に満足し、あぐらをかいているだけの無能な組織ではない。

 

 キラ・ヤマトは、ティエレンをあくまで「ジャンク屋組合向けの民生用MS」として開発した。彼自身は、その設計思想の極致として最高スペックを誇る『全領域対応型』を個人的に私有しているが、その機密性の高い設計図面はジャンク屋組合にも、ユーラシア連邦にも一切渡していない。

 

 彼が世に放ったのは、あくまで基本となる『地上型』『宇宙型』、そして宇宙空間での作業安全性を高めるためにセンサー類を強化した『宇宙指揮官型』の図面のみであり、その後、軍事利用を前提とした新型をユーラシア連邦に対して自発的に提供したことは一度としてなかった。

 

 だが、ティエレンという汎用性の高いプラットフォームを軍事転用しているのは、なにもユーラシア連邦だけではない。

 

 実は、キラの祖国であるオーブ連合首長国においても、湾岸警備および市街地防衛用の機体として、少数ながら独自のティエレンが実戦配備されているのだ。

 

「祖国オーブの防衛と、そこに住む人々の命を守る為ならば」

 

 その決意のもと、キラはオーブ国防軍に対してのみ、ティエレンのバリエーション機のデータを一部解放していた。

 

 一つは、強力な対空兵装を複数搭載し、空からの脅威を完全に排除することに特化した対空防衛特化型『ティエレン・ツーウェイ』。

 

 そしてもう一つが、機体の頭部の上から覆い被さるように、巨大な『300mm×50口径長滑腔砲』を装備し、砲撃性能を極限まで向上させた『ティエレン長距離射撃型』であった。

 

 この長距離射撃型の設計思想は、もはやモビルスーツの枠を完全に逸脱している。

 

 発射時の莫大な反動を抑え込むため、両脚に装備された分厚い脚部シールドの重量をバラストとして利用し、さらに腰部からアンカーを地面へと打ち込んで機体全体を強固に固定する。そうして大地と完全に一体化することで初めて放つことのできるその大口径砲の最大射程は、仰角をかければ驚異の40km、水平射撃であっても実に20kmという、戦略兵器クラスのアウトレンジ攻撃を可能としていた。

 

 同じティエレンを主力として運用し、その戦術的価値に完全に頭を焼かれているユーラシア連邦が、オーブで運用されているこの「歩く戦略重砲」の存在に着目しないわけがなかった。

 

 ユーラシア連邦は莫大な国家予算と技術支援をカードにした熾烈な交渉──文字通りの『札束の殴り合い』の末に、このティエレン長距離射撃型のライセンス生産権を獲得したのだ。

 

 そして今、ビクトリア基地の防衛線のさらに奥。長砲身をずらりと並べた長距離射撃型ティエレンの砲兵大隊が、ザフトの新型機を静かに睨みつけていた。

 

「目標、敵新型ザウート部隊!」

 

「アンカー固定確認、照準よし!」

 

「ぶっ放せ!!」

 

 指揮官の号令と共に、大地を揺るがすほどの轟音が連続して鳴り響いた。

 

 300mmという規格外の大口径徹甲弾が、音速を遥かに超える絶大な運動エネルギーを維持したまま、水平射線を描いて戦場を切り裂く。

 

 ガズウートの正面装甲は、確かに「200mm滑腔砲」の直撃には耐え得るよう再設計されていた。しかし、最大射程20kmを誇る300mm砲の水平射撃を、わずか10kmから5kmという至近距離(それでも通常のMS戦から見れば十分なアウトレンジ)で直撃されればどうなるか。

 

 結果は、惨憺たるものであった。

 

 強固なはずのガズウートの装甲は、紙屑のようにいとも容易くぶち破られ、機体は内部の至る所まで完全にミンチにされ、一瞬にして鉄屑へと変わる。

 

 まさに『歩ける要塞砲』。圧倒的な射程と火力を前にしては、いかにガズウートが対ティエレン想定の新型であろうとも、純粋な砲戦特化型として組み上げられたこの巨神の群れの前に、為す術もなく粉砕されていくしかなかった。

 

「……バケモノめ! あの砲弾の雨の中をどうやって進めと言うんだッ!」

 

 ザフト兵の悲鳴が通信回線に響き渡る。

 

 前線を押し上げるための切り札であったガズウートは、長距離射撃型の圧倒的な火力によって完全に足を止められ、そこへ通常のティエレン部隊の200mm滑腔砲が容赦なく降り注ぐ。

 

 ユーラシア連邦軍は、もはやティエレンという兵器をモビルスーツとして扱っていなかった。彼らはティエレンを「歩兵」「戦車」「野戦砲」、そして「要塞砲」という、陸戦におけるすべての階層に当てはめ、完璧なまでにシステム化された『鋼鉄の防衛線』を完成させていたのである。

 

 最新のビーム兵器と機動力を過信したザフト軍は、このビクトリアの地で、泥と鉄と火薬の匂いに塗れた、あまりにも旧時代的で、あまりにも暴力的で、そして完璧に計算され尽くした『圧倒的物量と大火力』という名の絶望の壁に、幾度となく叩きつけられ、その血を流し続けることとなるのだった。

 

 

 

 




最初はね、ガズウートが頑張ってティエレンを突破しながらその装甲を盾にジンやシグーが防衛線を崩す為に暴れ回る。

そう思ってたんですよ。

ティエレンに対抗できるMS、ZAFTにあるっけなぁと頭捻って見つけたのがガズウートなんですけどね?

ビーム砲持ってるし、対艦ミサイルもってるからイケるやん!

そう思ったのにさぁ。

気付いたらザフト兵諸君を上げて落とすみたいな構図になってしまっていたよ!?

仕方ないだろ!開発者がオーブの人間なんだからっ!!

ユーラシア連邦贔屓にするつもりなくても、ティエレンという共通プラットホームを改造したらそれに目を付けるのはやるでしょ。

もうふざけて付けた筈のティエレン大活躍大躍進ユーラシア連邦のタグが現実味としてあの世界席巻してるよ確実に。

ここにまだやろうと思えば時速300kmで空を飛ぶティエレン高機動型やホバー移動で滑走するティエレン高機動B型、そして全領域対応型まで控えてるんだぜ?

なんなんだティエレンは、なんなんだこの鋼鉄の鉄人は!!

最初はストライク小隊大活躍!って方向にしようとしたらなんかいつの間にかまたティエレン主役の話になっちゃったし!!

オリジナルは4機しかないのに、その後にあっちこっちでポコポコ作られてて物語の主役とか脇役に使うのに便利過ぎるクロスボーン枠かお前はっ!!


ぜってぇ初期構想段階で出す予定だったジェニスだったらこんな事になってない。

あっちもザクオマージュの機体だからそれなりのバリエーション機はいるけれども、多分こんな大活躍出来ない。あっちは普通に戦闘用MSだし。

自衛用民生MSとして防御極振り、見た目カクカクしてるからモジュールブロック構造してそうだとか、本家設定時点でリニアライフルのフルチャージを至近距離で撃ち込まないと致命打にならない機体だし、実弾ばっかな初期ザフト製のMS相手なら大丈夫、ビーム飛んでくるの知ってるから耐ビームコーティングはガッツリするね?ってしただけなのに。

コンセプト的にクラウダが近いけど、もうちょっと大人しい性能してそうなのに、なんでこんな無法な強さになってしまったんだティエレン君?
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