やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-66 オペレーション・スピットブレイク

 

 現場の兵士がどれほど悲壮な叫びを上げ、泥と血に塗れて散っていこうとも。

 

 プラント最高評議会の広大な円卓や、作戦司令本部の冷たいモニター越しに戦局を見下ろす「数字を管理する側の人間」には、その熱量も痛みも往々にして届かないものだ。

 

 自らの身内が理不尽な不幸に遭い、その亡骸を抱きしめるような経験でもしなければ、人は「死」を本当の意味で実感として捉えることはできないのかもしれない。

 

 そもそも、最前線の兵士一人一人の生き死にまで心を砕き、立ち止まってしまうような者に、国家の命運を握る最高指導者という席は務まらない。

 

 だが、パトリック・ザラの抱くそれは、単なる指導者としての冷徹な大局観という枠をとうに逸脱し、狂気とも呼べる憎悪に裏打ちされていた。

 

「ビクトリア攻略部隊、損害拡大。ユーラシア連邦の『ティエレン』部隊による強固な防衛線を突破できず、戦況は著しく我が軍に不利です……」

 

 作戦本部にもたらされた悲観的な報告。しかし、パトリックの顔に焦りはなく、むしろその双眸には氷のように冷酷な光が宿っていた。

 

「構わん。ビクトリアの攻撃はそのまま継続させろ」

 

 敵の主力は、宇宙への生命線であるマスドライバーを有するパナマと、このビクトリアに集中している。連合軍の関心も、視線も、そして最大の戦力も、すべてその二カ所に完全に釘付けになっているのだ。

 

 ならば、それこそが彼にとって最大の『好都合』であった。

 

 『第二次ビクトリア攻略戦』──それは、パトリック・ザラが描く真の絶望の序曲、巨大な陽動作戦に過ぎなかった。

 

 その裏で密かに全軍規模での牙を研いでいた真の計画。それこそが、目標を巧妙に秘匿し続けてきた『オペレーション・スピットブレイク』の真の姿である。

 

「これより、アラスカの地球軍最高司令部JOSH-Aへの直接的攻撃を敢行する」

 

 パトリックの放った決断に、ザフトの将官たちでさえ息を呑んだ。

 

 その戦術は、あまりにも巨大で、あまりにも暴力的であった。

 

 宇宙空間のデブリベルトを漂流する、砕け散ったコロニーの残骸群。

 

 それらを密かに牽引し、大質量兵器としてアラスカ基地の頭上へと直接落下させるのだ。

 

 絶大な運動エネルギーを伴う質量爆撃によって、アラスカの強固な要塞砲と厄介な対空陣地を地形ごと跡形もなく壊滅させる。

 

 その直後、防空網が消滅し混乱の極致にある大地へ向けて、衛星軌道上からの大規模な降下部隊を投下。

 

 さらに、カオシュン宇宙港やカーペンタリア基地から抽出した精鋭部隊を電撃的に突入させ、一気に地球軍の指揮統制中枢を制圧する。

 

「上の命令がなければ動けぬ愚かなナチュラル共の軍隊など、指揮統制中枢を潰してしまえばただの烏合の衆と化す」

 

 ビクトリアで地べたを這いずる鉄案山子どもがどれほど強固な陣地を築こうとも、大元であるアラスカ司令本部が消滅すれば、全地球規模の指揮系統は麻痺し、補給線は機能不全に陥る。

 

 その後は、ジブラルタルからカーペンタリアへと続く広大な『親プラント圏』を構築し、地球の豊かな資源を宇宙へと吸い上げる絶対的な支配体制を敷く。

 

 この戦争の趨勢を、一気にザフト側へと持ち込む完璧な一手だ。

 

 司令本部が落とされても、なお残存勢力が抵抗を続けるというのであれば。

 

 地上の鉄案山子では到底手出しができない、モビルスーツの本領が発揮される宇宙空間──連合の月面基地プトレマイオスを叩き潰せば、この戦争は完全に終わる。

 

 パトリックの頭脳は、その完璧な勝利のロードマップを冷徹に描き出していた。

 

 しかし、その狂信的な瞳の奥底で燃え盛る黒い炎は、さらにその先の『究極の答え』をも見据えている。

 

(それでもなお終わらぬと言うのなら……ナチュラルという野蛮で劣等な種族そのものを、この宇宙から一人残らず滅ぼし尽くすまでだ)

 

 身内を奪われた底知れぬ憎悪と、コーディネイターこそが選ばれた新人類であるという強烈な選民思想。

 

 ビクトリアの地で流れる両軍の血すらも巨大な盤上の捨て駒とし、パトリック・ザラは世界を決定的な破滅へと導くサイコロを、冷酷に振り下ろしたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

 ザフトによるビクトリア基地への大規模な降下作戦。

 

 その凶報を受けたブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールの内心は、到底許容できるものではない底なしの憤怒で煮え滾っていた。

 

 遺伝子を弄った宇宙の化け物どもが、我ら生粋の人類が住まう『青き清浄なる世界』たるこの地球の土地を土足で踏みにじり、我が物としようと企むこと自体が万死に値する。

 

 だが、今のジブリールを何よりも苛立たせ、その腸を煮えくり返らせているのは、ビクトリア基地の防衛戦を支えている『要』の存在であった。

 

 よりにもよって、あのユーラシア連邦が採用した異形のモビルスーツ『ティエレン』である。

 

「忌々しい……ッ!」

 

 ジブリールは、執務室の机を怒りに任せて叩きつけた。

 

 あのティエレンという機体を動かしているのは、忌まわしきコーディネイターが組み上げたという『TC-OS』だ。

 

 そんな汚れた紛い物のシステムを積んだ機体が、ザフトの精鋭たちの猛攻を完璧なまでに食い止め、鉄壁の防衛線を築き上げている。

 

 それなのに、純粋なるナチュラルの技術者たちだけで組み上げたOSを搭載した『ストライクダガー』は、カオシュンの地であれほど無様にも鉄屑へと変えられ、敗走を余儀なくされなければならなかったのか。

 

 コーディネイターの技術が、自らの信奉する純血のナチュラルの技術を凌駕しているという現実。

 

 それが、ジブリールの歪んだ選民思想と自尊心をこの上なく酷く傷つけていた。

 

 一方、ユーラシア連邦にとっての生命線にして最優先防衛拠点であるビクトリア基地が急襲されたことで、地球軍の勢力図にも急激な変化が訪れていた。

 

 アラスカの地球軍最高司令本部JOSH-Aに駐留していたユーラシアの防衛部隊までもが、血相を変えて基地を出立し、増援として全速力で太平洋を南下し始めたのである。

 

 その報告を聞いても、ジブリールはただ冷酷に鼻で嗤い、興味もなさそうに彼らを見送った。

 

「好きにさせろ。宇宙の化け物どもが造った玩具に喜ぶ裏切り者だ。勝手に潰し合って数を減らすと言うのなら、手数が省けて好都合というもの」

 

 ジブリールにとって、ユーラシア連邦──ティエレンを採用した連中など最早人類への裏切り者でしかない。

 

 それが自ら最前線へと赴き、宇宙の化け物と互いに削りあってくれるのであれば、これほど都合の良いことはないと考えていた。

 

 彼らの離脱によってアラスカ本部の防衛力が多少低下することなど、残ったアラスカ本部の戦力と堅牢な地下要塞を過信している彼にとっては、些末な問題でしかなかったのだ。むしろコーディネイターの作り上げたTC-OSを載せた鉄案山子を見なくて清々するというもの。

 

 だが、その傲慢な油断と、ユーラシア部隊の離脱によって生じた防衛網の『致命的な空白』は、最悪のタイミングで地球軍に牙を剥くこととなる。

 

 ビクトリア基地への熾烈な攻撃が開始され、世界の耳目がアフリカへと釘付けになった、その翌日のことである。

 

「──っ!? な、何だこれはッ!」

 

 アラスカ最高司令本部の地下深く、薄暗いCICに突如としてけたたましい第一種警戒警報のサイレンが鳴り響いた。

 

 対空監視レーダーを凝視していたオペレーターが、恐怖に顔を引き攣らせて悲痛な叫び声を上げる。

 

「上空、熱源多数! だ、大気圏外からです! 降下してきます!」

 

「数を確認しろ! ザフトの降下部隊か!?」

 

「違います、この質量と熱量はMSのダイブシェルじゃありません! コ、コロニーが落ちて来る!!」

 

 オペレーターの絶望的な報告と共に、メインスクリーンに映し出されたレーダーの予測軌道。

 

 それらが示す着弾点は、パナマでもビクトリアでもなく、間違いなくこのアラスカの地──『JOSH-A』の頭上であった。

 

 パトリック・ザラが放った、戦争の趨勢を決定づける狂気の鉄槌。

 

 『青き清浄なる世界』を護るべき大西洋連邦の首魁たちは、天から降り注ぐ巨大なデブリの雨という名の、真の絶望を見上げる事しか出来なかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「いやはや。これはちょっとシャレになりませんね、どうにも」

 

 赤道直下、大西洋連邦が誇る宇宙への最大の玄関口であるパナマ基地。

 

 その地下深くに構築された堅牢な司令部の中枢で、国防産業連合理事にして実質的な地球連合軍の最高権力者の一人であるムルタ・アズラエルは、壁面を覆う巨大なメインスクリーンを見上げながら、ひどく場違いなほどに軽薄な溜め息を零した。

 

 スクリーンの向こう側に映し出されているのは、地球連合軍の心臓部であるはずのアラスカ最高司令本部JOSH-Aが、天から降り注ぐ無数の火球――デブリ帯から牽引された巨大なコロニーの残骸による質量爆撃によってめちゃくちゃにされているという絶望的な光景であった。

 

 司令部のオペレーターたちが悲鳴を上げ、将校たちが顔面を蒼白にして震え上がる中、アズラエルだけは手元のコーヒーカップを揺らすことすらなく、まるで遠い異国の対岸の火事でも眺めるかのように、酷薄な笑みを浮かべていた。

 

 彼にとって、この破滅的な光景すらも、自身が密かに描き続けてきた「盤面の整理」の一部に過ぎなかったからだ。

 

 アズラエルは国防産業連合理事という強大な資金力と政治的立場を最大限に悪用し、地球軍の勢力図を自らの意のままに切り分け、再構築する作業に驀進してきた。

 

 まず、大西洋連邦とユーラシア連邦という二大巨頭が元々分かれていることは、むしろ都合が良かった。

 

 ユーラシアがティエレンという前時代的な鉄塊に頭を焼かれ、勝手に独自の防衛線を構築して泥臭く戦ってくれるのなら、それは大西洋連邦の戦力を温存するための極めて優秀な「防波堤」となるからだ。

 

 さらにアズラエルは、自国である大西洋連邦軍の内部において、徹底的な『人員整理』を断行していた。

 

 狂信的で融通の利かないブルーコスモス・シンパの司令官や将校たちは、「地球軍の中枢たるアラスカ本部の防衛」という甘美で名誉ある名目を与え、体よくアラスカへと押し込めた。

 

 その一方で、狂信的な思想を持たない、いわゆる『真っ当で優秀な指揮官』や『話の通じる現実主義者』を見繕っては、様々な理由をつけてアラスカから引っこ抜き、自らの膝元であるこのパナマ基地へと集中的に配置転換させていたのだ。

 

 アズラエルにとっての絶対的な戦略的価値基準とは、「宇宙への玄関口であるマスドライバーが手元にあるかどうか」のみである。

 

 アラスカ本部には確かに強固な地下要塞という魅力はあるが、マスドライバーを持たないそんなただのモグラの巣窟に、アズラエルは微塵も魅力を感じていなかった。

 

 また、理屈っぽく融通の利かないハルバートン提督をはじめとする『穏健派』の将校たちも、「宇宙戦力の再建」という大義名分を与えて、月面のプトレマイオス基地へと栄転という形で追い払った。

 

 あちらはあちらで、ハルバートンが勝手に裏でコソコソと新型MAを量産していることは知っていたが、それは巡り巡って地球軍全体の『戦力の底上げ』という明確なメリットを生むため、あえて黙認し泳がせていた。

 

 穏健派という手合いは、余程の理不尽でも突きつけられない限り、自らクーデターを起こすような真似は絶対にしない。それならば、ブルーコスモス・シンパばかりのアラスカ本部が、暴走して変な弾け方をするリスクの方が余程不安であった。

 

 話の通じない狂人連中よりも、主義主張の違いから対立したとしても、互いの利益のために交渉の余地があり、必要とあらば共同歩調を取ることができるユーラシア連邦や、月基地に集めた穏健派の方が、ビジネスパートナーとしては余程安心できる。

 

 軍という巨大な組織に巣食う狂信者たちは、アズラエルにとって『不良債務』でしかなかった。

 

 不良債務として切り捨てるのならば、徹底的に、かつ一箇所に集めて損切りをしなければならない。自分が多額の投資と労力をかけてせっせと整え、洗練させている軍閥に、余計な思想のゴミが混入して取り返しのつかない損失を出された日には、それこそ堪ったものではないのだ。

 

「まぁ、多少の出費は仕方がないとして……『ストライクダガー』は、あのジブリールにくれてやったんですが。ちょっとアレだと勿体なく感じますね」

 

 アズラエルはスクリーンの爆炎を眺めながら、独りごちた。

 

 ストライクダガー。

 

 それは、ナチュラル用OSの完成を急ぐあまり、本来の仕様からストライカーパックシステムすらもオミットした『戦時急造量産型』である。

 

 制式量産型である『105ダガー』と比べて拡張性も汎用性も皆無に等しいその機体は、数だけを揃えるための安価な消耗品だ。

 

 今すぐ使える使い捨ての戦力をジブリールにくれてやることで、彼らの不満を逸らし、こちらが心血を注いでいる『制式ダガーシリーズ』へのちょっかいを辞めさせるという、アズラエル流の牽制であり、政治的な手切れ金でもあった。

 

 彼の背後、パナマの地下深くには、真の決戦兵器たちが着々とロールアウトの時を待っている。

 

 105ダガーを筆頭に、ロングダガー、デュエルダガー、バスターダガーといった、本来のGAT-Xシリーズの直系とも言える高性能量産機群が順調に数を揃えている。

 

 さらに、フォビドゥン、レイダー、カラミティという、新型も出撃の時を虎視眈々と窺っていた。

 

 いわば、あのアラスカ本部は、アズラエルにとってザフトの眼を引きつけるための、極めて巨大で豪華な『撒き餌』に過ぎなかったのだ。

 

 月基地からの暗号通信で「ザフトの艦隊が地球衛星軌道上に不自然に集結している」という報告を受けた時、アズラエルの直感は嫌な予感を告げていた。

 

 パナマは手持ちの戦力で完全に守り切れる自信がある。ユーラシアが血眼になって守っているビクトリアも、そう簡単には落ちないだろう。

 

 ただ、まさかビクトリア基地への大規模降下が『陽動』であり、本命がアラスカ本部への奇襲だとは。

 

 しかも、大気圏外からの質量爆撃による、対空防衛網の完全な物理的粉砕という力技。

 

「パトリック・ザラも、中々の狸ですねぇ」

 

 アズラエルは感心したように口の端を歪めた。

 

 宇宙から質量爆撃をやられたら、どんな最新鋭の対空網であろうとも壊滅は免れない。

 

 だが、裏を返せば、パトリック・ザラもまた『戦略的価値』という呪縛に囚われている証拠であった。

 

 アラスカには、絶対に壊してはならないマスドライバーが存在しない。ただの司令部だからこそ、質量兵器による絨毯爆撃という荒業が使えたのだ。

 

 もしパナマやビクトリアに同じことをすれば、最も欲しているマスドライバーそのものが塵と化してしまう。

 

 パトリック・ザラが戦略的合理性を持っている限り、その行動は予測でき、出し抜くことができる。

 

「よし、決まりですね」

 

 アズラエルはくるりと踵を返し、青ざめきっているパナマ基地の司令官と幕僚たちに向かって、涼やかな声で矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。

 

「ヘブンズベースから、直ちにアラスカへ増援を出してください。ああ、もちろん、向かわせるのは『ストライクダガー』だけで結構ですよ。あんな燃え盛るゴミ箱に、僕たちが手塩にかけた制式のダガーシリーズを突っ込んで無駄に消耗させるのは御免ですからね」

 

 決して安い出費ではないが、ビーム兵器を標準装備したストライクダガーであれば、ザフトのMS相手に十分に立ち向かい、相応の損害を与えることができるだろう。

 

 あとは、ジブリールの狂信的な息がかかったアラスカの守備隊たちが、その命を燃やし尽くしてどれだけザフトの地上戦力を道連れにしてくれるか。

 

「ま、あとは高みの見物とさせてもらいますか。……それと、重要なことがもう一つ」

 

 アズラエルの瞳の奥に、計算高い商人の光が鋭く瞬いた。

 

「現在太平洋を全速力で南下しているユーラシア連邦の増援部隊。彼らには『そのまま南下を継続し、パナマを通過して当初の予定通りビクトリア基地の防衛へと向かうように』と伝達してください。アラスカはもう手遅れだとね」

 

「し、しかし理事! アラスカ本部を見捨てろと仰るのですか!?」

 

 幕僚の一人が悲鳴のように声を上げたが、アズラエルは氷のように冷たい視線でそれを一蹴した。

 

「ええ、見捨てます。今更あんな穴倉に戻ったところで、上空から降ってくるザフトの精鋭部隊と挟み撃ちにされて、貴重なティエレン部隊が犬死にするだけでしょう? 本部が焼け落ちたとしても、司令部なんてものは机と通信機さえあればどこにでも再建できます。ですがね……」

 

 アズラエルは薄い唇を吊り上げ、パナマの地下深くから天へと伸びるレールを指差した。

 

「宇宙への架け橋であるマスドライバーだけは、何としてでも死守しなければならない。これが失われれば、我々地球軍は完全に首を絞められるんですよ? ビクトリアのマスドライバーを護るためならば、アラスカのモグラ共などいくら死んでも構いません。さぁ、迅速に手配を。戦争という名のビジネスは、ここからが本番ですから」

 

 極めて冷徹な合理性が同居した笑みを浮かべ、ムルタ・アズラエルは燃え盛るアラスカの惨状を見下ろし続けた。

 

 

◇◇◇

 

 

 頭上の分厚い岩盤を揺るがした、世界が終わるかのような絶望的な轟音と激震が過ぎ去った後。地球連合軍最高司令本部アラスカ基地JOSH-Aの地下深くは、不気味なほどの静寂と、非常用電源が放つ血塗られたような赤い警告灯の瞬きに支配されていた。

 

 『地下要塞』という地球軍が誇る堅牢な設計思想が、皮肉にも最大の幸いをもたらした。数十メートルに及ぶ特殊コンクリートと永久凍土の層が、天から降り注いだコロニー残骸による「質量爆撃」の直撃エネルギーを辛うじて耐え抜き、司令部中枢や広大なMSハンガーが完全に圧殺・物理的消滅の憂き目に遭うことだけは避けられたのである。

 

 だが、それはあくまで「即死を免れた」というだけの事実に過ぎない。

 

 現在、彼らを取り巻く戦術的状況は、最悪という言葉すら生温いほどの完全な詰みに等しかった。

 

 地表は原形を留めないほどに抉り取られ、大小無数のクレーターが連なる赤熱した荒野へと変貌している。外の空気を吸うための通風孔はひしゃげ、部隊を展開させるための巨大な幾つもの偽装ゲートは、崩落した岩盤と融解した装甲板によって完全に塞がれ、溶接されたように密閉されていた。

 

 事実上の『生き埋め』状態である。

 

 アラスカの広大な地下施設には、地球軍の莫大な戦力が、ほぼ無傷のまま残されている。

 

 ロールアウトしたばかりの無数のストライクダガー、長大な砲身を並べるリニアガンタンクの車列、そして出撃の時を待つスピアヘッド戦闘機の編隊。

 

 燃料も弾薬も満載された大軍勢が、ただ暗い地下空間でアイドリング音を虚しく響かせている。

 

 だが、どれほどの戦力を抱えていようと、外へ出られなければそれはただの鉄屑であり、巨大な棺桶の陪葬品に過ぎない。

 

 もしこのまま上空からザフトの精鋭降下部隊が悠然と舞い降り、崩落したゲートの隙間から、あるいは新たなボーリングによって内部へと侵入してくれば、この閉鎖空間は一溜まりもない。機動力を活かせない極小の閉所戦闘となれば、ただでさえ練度に劣る連合のパイロットたちは、ザフトのエースたちによる一方的な虐殺を待つだけのマトと化す。

 

 それどころか、地下に立て籠もる地球軍首脳陣の精神を最も削り取っているのは、完全なる『情報遮断』の恐怖であった。

 

 地表に設置されていた超高性能な対空監視レーダー網、広域熱源探知システム、そして光学カメラ群は、最初の一撃で文字通り吹き飛ばされ、完全に沈黙している。

 

 司令部の壁一面を覆う巨大なメインスクリーンに映し出されているのは、無数の『NO SIGNAL』という赤いアラートと、砂嵐のようなノイズのみ。通信ケーブルも切断され、彼らは自らの頭上で今、どれほどの数の敵が降り立ち、どこに陣形を敷き、何を企んでいるのかを把握する術を完全に奪われてしまったのだ。

 

「外を見ろ! どんな手を使ってでも、地表の状況を確認するんだッ!」

 

「無理です! 全天周センサー、完全沈黙! 有線ケーブルもすべて断線しています!」

 

「馬鹿な……我々が、何も見えない暗闇のモグラになったと言うのか……!」

 

 阿鼻叫喚と化すCICの喧騒の中、指揮官たちは血を吐くような焦燥に駆られていた。

 

 反撃の狼煙を上げるにせよ、あるいは最悪の事態に備えて脱出を図るにせよ、まずはこの瓦礫と岩盤に埋まった地下の墓標から、外の光を拝むための『出口』を意地でも抉り開けなければならない。

 

 彼らはストライクダガーのビームライフルやサーベル、果てはリニアガンタンクの主砲すらも発破作業の代用として投入し、崩落したメインゲートの瓦礫を内側から強引に吹き飛ばし始めた。

 

 だが、それは同時に、ザフト軍に対して「我々はここにいる」と居場所を教える自殺行為でもある。

 

 瓦礫の向こう側──光が差し込んだ瞬間に待っているのは、救援の空か、それともザフトのモビルスーツ部隊が構える無数の重火器の砲列か。

 

 兵士たちは窒息しそうなほどの閉塞感と死の恐怖に震えながら、泥と埃に塗れてひたすらに出口を掘り進めることしかできなかった。

 

 

 




残骸とはいえやってしまったださぁ、コロニー落とし()。

まぁ、L4の廃棄されたコロニー郡の残骸から引っ張って来た外壁とかのデブリ使ってるからそこまでじゃないかも知らん。

頑張れジブリール!青き清浄なる世界を穢すどころかゴミを落として焼き払った宇宙の化け物どもを一人残らず滅ぼすんだーーー!!

一応ヘブンズベースから増援出してますけど、アズにゃんの心境的に「フッ、間に合うものか」と思ってる。

ストライクダガーがまともに動けるのかって?

一応アレから時間経ったんで、大西洋連邦製OSでも原作でのパナマくらいには動けるんじゃないか?

でも逃げそうだなジブリール。潜水艦とかなら地下出入り口生きてそうだし。

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